一般的に運動は脳の老化防止、認知症リスクの低減につながるといわれています。
一方で、負荷の高い肉体労働は却って認知症リスクを高めてしまう可能性があることについては、あまり知られていません。
今回は、運動と認知症リスクの関係について見ていきます。
適度な運動は認知症リスクを低減させる
運動は認知症予防につながる可能性が
アルツハイマーは認知症の代名詞とも受け止められる脳の疾患です。
これまで、アルツハイマー型認知症は不可逆的な進行性のものと考えられていましたが、一部では運動が治療的効果をもたらす、という説もありました。
こちらの研究では、マウスベースの実験ですが、運動をさせたアルツハイマーマウスにおいて記憶の改善が見られたことが示されています。
また、神経細胞の成長の機能があるタンパク質の増加も見られました。
この知見はそのまま人間に適用できるものではありませんが、人を対象にした研究も当然にあります。
1週間に12Km以上の散歩を
こちらで紹介されている研究では、どの程度の運動が認知症予防の効能を示すのかが調査されています。
299人の被験者を対象に、13年に渡る追跡が行われ、運動と認知症の関係が調査されました。
調査の方法としては、被験者が1週間に歩く距離と脳の灰白質の量の関係を見るものです。
被験者が1週間に歩く距離は0Kmから約50Kmという分布になっており、1週間に約12Km以上歩くグループと、それよりも短い距離のグループで、明らかに9年後灰白質の量が異なっていたとのことです。
当然、1週間に12Km以上歩くグループの方が多い結果でした(なお、12Km以上~50Kmの範囲で差は見られなかった)。
灰白質の量は記憶力に関係があることは知られており、研究者達は「全ての年代の人たちに、運動を推奨することは、公衆衛生上の重要な課題となるはずだ。」としています。
1週間に12Km以上、というと会社に出勤をしている人であれば、比較的容易に達成できそうな距離感です。
一方で、リモートワークで自宅にこもりがちな方は意識して外出しなければ達成が難しいでしょう。
日常的な肉体労働は却って認知症リスクを高める可能性
上述の通り運動が認知症予防に効果があることはわかりました。
また、運動強度が高いと、その効果も高いことも一定程度示されています。
それでは、運動負荷は高ければ高いほど良いのでしょうか?
どうやらそうではなさそうです。
こちらの研究では、肉体労働を行っている人と認知症の関係について調査を行っています。
つまり、慢性的に高負荷の運動を行っている状態だと、どのような結果になるのか?ということです。
調査では数千名の労働者を対象に、仕事中の肉体労働の状況の他、様々な健康(喫煙や飲酒の状況等々)・社会的状況(社会的な地位や結婚の有無)・経済的状況等々の各種の情報について調べられました。
そして、約45年間に渡る追跡調査が行われ、認知症との関係に大きな示唆を与えました(約4,700人が対象で認知症にかかったのが約700人)。
調査の結果、高負荷の肉体労働に従事していた人は、オフィスワーカーに比較して認知症のリスクが約55%高いことが示されました。
一方で、一般的にイメージされる運動をしている人(可処分時間の中で適度な運動をしている人)は、運動をあまりしないオフィスワーカーに比較して、認知症のリスクが低いことも示されました。
この結果が何を示すのかは不明な点がまだ多くあります。
高負荷の肉体労働は、脳に何かしらの負担をかけてしまう可能性は当然に考えられますが、オフィスワーカーの方が高度に脳を使う業務が多く、一方で高負荷の肉体労働を行う労働者は、仕事中に脳をあまり使わないが故の結果かもしれません。
可処分時間(余暇)に運動を行おう、という意識がある人は、統計的に裕福である傾向があり、また裕福である人は脳を使う仕事が多い傾向もあり、そういった別の要素が認知症リスクに影響を与えている可能性もあります。
少なくとも言えることは、単純に身体に負荷をかければ良いというわけではない、ということです。
現代社会は、オフィスワーカーの割合が増えていますし、ここ最近はリモートワークも増加しています。
そういった方々は、意識的に適度な運動を行うよう、心がけることが重要と考えられます。
一方で、日常的に負荷の高い肉体労働を行っている方は、別のアプローチ(余暇の時間は難しい本を読むなどの脳を使う別の何か)が必要かもしれません。
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