運動と認知症リスクの関係は比較的よく知られています。
一方で、お酒と認知症リスクの関係は、あまり知られていないのではないでしょうか。
適度な飲酒は健康に良い、という話もありますが、果たして科学的にはどのような知見が示唆されているのか、見ていきます。
お酒を飲まないと認知症リスクが高まる?
まず、お酒が認知症リスクを低減させる、という研究の紹介です。
この研究では、研究開始当初35歳~55歳だった約9,000人を対象にしたもので、その後約23年に渡り追跡調査が行われました。
そして、約9,000人の内、397人が認知症と診断された形となりました。
その結果、全くお酒を飲まなかった人は、適度な飲酒習慣がある人よりも、認知症リスクが約45%程高い、という結果が示されました。
ここで言う適度な飲酒量とは、週に500mlのビール6本分以内を示しております。
もちろん逆の結果を示す研究も
一方で、ネガティブな研究もいくつかあります。
(上述の研究も、週500mlのビール6本分を超えると認知症リスクが高まる、としています。具体的には、500ml3本分を超えるごとに約17%、認知症リスクが高まるとのことです。)
こちらの研究では、そもそもとして飲酒自体が認知機能を低下させる、としています。
約550人を対象にした研究で、研究当初平均約43歳の被験者を対象に、約30年に渡り追跡調査が行われました。
その結果、1週間に1回多く飲酒すると、脳の海馬の委縮率が約50%高まる、という知見が得られました。
ただ、この研究の「適度な飲酒量」の範囲が、上述の研究の2倍以上であり、「適度な」の定義にズレがあること、また脳の萎縮についても右脳と左脳で異なる結果が出て理由が全くの不明であることなど、疑問点は多く残ります。
とは言え、飲酒が身体に与える悪影響については各所で報告されています。
こちらの研究(外部PDF資料)では、脳の萎縮とあわせて、脳卒中リスクについて言及しています。
また、こちらの研究では、飲酒が人間のDNAにダメージを与える、としています。
この研究は、アルコールが分解される途中に出る毒物(アセトアルデヒド)に着目して、DNAへのダメージについて研究がされました(アセトアルデヒドはDNAやタンパク質に損傷を与えることが、実験室レベルで示されています)。
この研究はマウスベースでの研究であり、人への適用は難しいものの、人体への悪影響について一定の示唆が得られます。
研究では、アセトアルデヒドの毒性を防ぐ仕組み(アセトアルデヒドの分解、DNAの損傷の修復の2つ)を阻害した所、マウスの細胞が機能不全に陥ることが示されました。
これらの通り、お酒と認知症リスクの関係は、まだわかっていないことが多くあります。
飲酒習慣のある高齢者は健康である傾向があり、運動習慣以上に相関性が高い、という研究もあったりする程です。
いずれの研究も因果関係と相関関係の問題がありますし、「適度」の認識が定まり切っていない点など不明点だらけです。
現状では、常識の範囲内で「適度に」お酒を楽しむのが吉であろうというのが言える所だと考えられます。
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