デジタル文化の浸透に伴いリモートワークが進む兆しが見える中、最近のコロナウイルスの影響により、リモートワークの話題が急激に増えました。
リモートワークに関しては各所で議論がされていますが、ここでは改めて主に生産性のプロコン(メリットデメリット)を整理をしてみます。
導入時の注意点等々他の論点は、ここではおおむね言及しません。
サマリー:「とりあえずやってみては?」
- リモートワークが企業の生産性向上につながるか否かは、結論「わからない」。
- 企業にとってはブランド価値の向上やコスト削減をはじめメリットがある反面、マネジメントコストの増大やリモートワークのための仕組みの構築など、一定飲み込まなければいけない負担がある。
- 個人にとっては自由度の観点をはじめ、明確にわかりやすいメリットがある反面、確かな成果を示さなければいけないという負担感がある(パフォーマンスが高い人にとってはメリット)
企業にとってのメリット
リモートワークが先行して浸透したアメリカを中心に、生産性が実際に向上し、離職率も低下した、という報告がでています。アンケートベースでの自己申告ではあるのですが、生産性向上が報告された研究が多数でている状況です。
働く人のニーズとしても、自由度高く働きたい、という声があり、人材難の昨今においては、採用施策として取り入れる事も考えられます。加えて、コロナウイルス問題への対応について、(実際の所は不明ですが)リモートワークを迅速に取り入れている企業に対して「ホワイト企業」であるという評価も出始めています。採用面だけでなく、ブランド面においても企業経営者・管理部門は検討を行った方が良いでしょう。
そして、当たり前ではあるのですが、働く場所が分散すれば、オフィス投資やオフィスにおける福利厚生、移動交通費の抑制、つまりコスト削減につなげられます。トップライン(売上高)が下がっている、伸び悩んでいる、利益率を向上させたい、という企業にとっては、この面においても要検討事項です。
個人にとってのメリット
- 対人ストレスが少ない
- 時間の自由度が向上する
- 服装・身だしなみに気をつかわなくてよい
出社すれば、良くも悪くも、多くの人と接することになります。対人コミュニケーションが苦にならない人にとっては大きなメリットにはならないでしょうが、苦手としている人や、自分自身の仕事に集中したい人にとって、自分自身の好きな場所で一人で働けるのは大きなメリットになるでしょう。
子育てや介護などの事情がある人にとっても、制約を大きく取り払えます。
この制約は時間面においても言え、朝早くから働いて、夜はビジネススクールで勉強する、というような時間の自由度の向上を得られるメリットがあります。
おまけではあるのですが、服装・身だしなみに気をつかわなくても良くなる、というメリットもあります。特に女性にとっては、お化粧という社会的な文化や圧力の観点から、そのメリットをより大きく感じる人も多いでしょう。
企業にとってのデメリット
- 生産性が下がった、もしくはあがったけれども元に戻った
- ソフトウェア開発をはじめ、イノベーティブな場面においては、膝を突き合わせた方が良いものができる
- システム投資や業務フローの整備等、リモートワーク用の仕組みを構築する必要がある
- 会社側が仕組みを整えてもリモートワークの経験者が少なく、マネジメントコストが高くなる可能性がある
生産性について、上述の通り「あがった」という報告もある反面、効果が無かった、下がった、もしくはあがったけれども一過性であり元に戻った、という報告もあります。
また、イノベーティブな局面、例えばソフトウェア開発や、アイデア発想においては、普段のちょっとしたコミュニケーションから産まれるブレークスルー効果が指摘されており、リモートワークの効率の悪さを言及する声もあります。
実際、米ヤフーや米IBMはリモートワークを廃止しています。
ただ、これらがリモートワークのデメリット部分(生産的で無いという意見)かは不明で、リモートワークを導入するにあたり、コミュニケーションの方法や、今までの紙のフロー、対面でおこなっていた業務等々をどう解決するのか?という仕組み面の構築がどこまで進んでいたのか、どこまで進めればよいのか、を検証する必要はあるでしょう。
また、リモートワーク自体の歴史が短いこともあり、人の面においても十分なノウハウが蓄積されていません。経験値がマネジメントする側、される側双方で少ないため、具体部分でのHowがわからず、マネジメントコストが高くつくであろうことも指摘できます。
個人にとってのデメリット
個人にとってのデメリットは、上述のマネジメントコストの部分にも関連する要素があるのですが、成果のアピールのしづらさ(評価のしづらさ)があげられます。
もっとストレートに言うと、明確に成果を示すことができないパフォーマンスが高くない人にとっては、非常にやりづらい部分が発生するでしょう。
今までは会社にいて、長く働く「頑張っている」アピールをすることによって、一定求められる成果はだしつつも、意欲面でもアピールをしやすかった、という現実があったと考えられます。
現実に、リモートワークを導入した場合、明確に成果をアピールするために働きすぎる傾向があることが指摘されています。
筆者の所感
これらを整理すると、リモートワークの良し悪しは、結論「わからない」となると言えます。
また、こちらでも指摘されていますが、現状の報告や研究における不備がある点も見逃せません。
- 生産性が定義されていない(アンケートによる自己申告が多い)
- 研究の蓄積が十分でない
- リモートワークに対してバイアスがかかっている
3つめの「バイアス」に関しては、非常に示唆に富む意見だと感じます。
そのバイアスというのは、「リモートワーカーは自らリモートで働くことを選択しているため、その結果を証明しようと無意識的に熱心に働いてしまう」というものです。結果的に生産性が高まれば良いのではないかと思う方もいるかもしれません。しかし、確かに現在においては生産性が高まっていますが、それは今現在リモートワークをしている人が少数派であるため、リモートワーカーは自らがある種の特権的な立場にいると感じ、それがモチベーションとなって熱心に働いているからかもしれません。
チームハッカーズ:オフィスワークとリモートワーク、どちらのほうが生産的なのか?
そのため、今後、リモートで働く人が増えていくなかで人々の生産性がどのように変化するのかということを検討するには、やはりこれまでの研究では頼りないと言わざるを得ないでしょう。
筆者は、リモートワークに対しては賛成であり、生産性が向上する、という立場ではあるのですが、一個人の話では無く、マクロ的な是非については、上記引用にもある通り、まだまだ研究と検証が必要であると考えています。現状では、企業にとっても、個人にとっても、わかりやすいメリットがあるのと同時に、わかりやすいデメリットが存在するという点しか言えません。
組織の仕組みや文化、そこで働く人の属性にも左右される要素が大きいのも確かでしょう。
これらを踏まえて意見をまとめると、「とりあえずやってみては?」と考えます。
生産性が実際にあがるかもしれませんし、仮に下がったとしてもそれは実際に下がったのでは無く、元々低かった生産性が見える化しただけかもしれません。
トライアンドエラーは組織も人も成長させるでしょうから、失敗しても良いから、まずはやってみるという姿勢の方が、物事を吉に進めるのでは、というのが最終的な結論です。
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