確証バイアスの一種「共変錯誤」から考える経営の意思決定とPCR検査

ビジネスと心理学

ここ1,2ヶ月の世の中の報道や意見を見ていると、確証バイアスの一種である「共変錯誤」に陥っている人を大勢見かけます。
大勢に影響を与えないことならば良いのですが、社会的インパクトを与える事象での共変錯誤は重大な実害をまき散らします。
今回は経営の意思決定においても見られる共変錯誤について解説していきます。

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忙しい人向けまとめ

  • 「自分が求める情報ばかりを収集すること」を確証バイアスと言い、確証バイアスは人間の思考の性質である
  • 「共に変化するものの間の関係を誤ること」を共変錯誤と言い、共変錯誤は確証バイアスの一種である
  • 共変錯誤の例としては「PCR検査の全数検査」主張があげられ、ウイルス検査で「感染していないが陽性とでる方や、逆に感染しているのに陰性とでる方が発生する」という事実に目を向けずに意見を述べる方が見受けられる
  • 共変錯誤は経営の意思決定の場面でも多く見られ、自分がやりたいことを支持する情報にばかり目を向ける経営者は実際に多い
  • 共変錯誤から脱するには、メリット・デメリットの検証や、「自分の考えは間違っている」という前提に一度立つことが重要
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共変錯誤とは~確証バイアスの一種~

確証バイアスとは

確証バイアスを一言で表現すると、「自分が求める情報ばかりを収集すること」です。

人は、自分の考えが正しいのか、それとも間違っているのかを考える時に、自分の考えが正しいことを証明する情報、つまり証拠ばかりを探してしまう傾向があります。
間違っているという情報、つまり反証には目を向けない傾向があるのです。

そのため、「自分の考えは正しい」という気持ちに固執しやすくなってしまうのです。

なお、私は周囲の人間から「否定的な意見が多い」という言葉を投げかけられたことがありますが、これは私の確証バイアスに対する防衛機構です。
何か物事を考える時に、自動的に「自分の考えは間違っている可能性がある」という思考回路を作動させ、反証を求めるようにしています。
これはもう完全に習慣化された思考の癖で、思考の正確性を担保するための機能なので、ご容赦ください。

共変錯誤とは

それでは共変錯誤という小難しそうな言葉の解説に移ります。

錯誤とは誤りのことです。
つまり共変錯誤とは、「共に変化するものの間の関係を誤ること」を意味します。

これは事例を交えながらの方がわかりやすいと思いますので、昨今話題に上がっているPCR検査を例に共変錯誤を考えていきます。

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PCR検査から考える共変錯誤

PCR検査とは、微量のDNA(もしくはRNA検体)検体を高感度で検出する方法です。
新型コロナウイルスのような病原体の有無を調べることができ、昨今、非常に話題にあがっています。
文脈としては、「全数検査をしろ」であったり「PCR検査に重きを置くのは意味がない」であったりです。

さて、PCR検査は高感度の検査技法ではありますが、100%の感度があるわけではありません。
確定的なことは不明なのですが、新型コロナウイルスの検査においては70%位の感度、とされているようです。
(また、特異度、というパラメータもあるのですが、小難しさが増すので省略します。)
そのため新型コロナウイルスには感染していないが陽性とでる方や、逆に感染しているのに陰性とでる方が発生します。
この状況を図式で示すと次のようになります。
(PCR検査を感度70%・特異度99%、感染者総数を5千人とし、10万人を対象に検査した場合)

この図を見ればわかる通り、PCR検査を行うと、1,500人の感染しているのに陰性と出た方、逆に950人の感染していないのに陽性と出た方、つまりエラーが発生するのです。
こういった事実を見ずに「PCR検査の全数実施をしよう」とジャッジする、つまり共に変化するものの間の関係を誤ってジャッジしてしまうことを共変錯誤と呼びます。
PCR検査に対して、確証バイアスにとらわれてしまっているのですね。

なお、メディアの報道を見ていると、「そうならば、複数回実施すればよいのでは?例えば一人の検査対象者に10検体とって、まとめて検査すれば。」というコメンテーターがいらっしゃいました。
一見もっともらしく聞こえます。
確かに、感染の確率が高い検査対象者に絞って複数回検査を行えば、確度高く検査を行うことができます。
しかし、検査対象者全体に対して、複数回の検査を行うとどうなるか。
上の図の比率で、検査のたびに感染していないが陽性とでる方や、逆に感染しているのに陰性とでる方が発生します。
一回一回の検査は、独立した事象なので、複数回検査をまとめて行うと、もう何が何だかわからない状態になってしまいます。

(どうでも良いですが、私は理系出身でPCR検査は演習でやったことがあるので、こんな世間的にマイナーなはずの用語が広く知れ渡るような状況をなんとも言えない感情で見ています。)

経営の意思決定から考える共変錯誤

共変錯誤は経営の現場における意思決定においても見受けられます。

ビジネスにおいては他社の成功事例を参考にして、自社に取り入れる、ということがよくあります。
この成功事例導入において、非常に多くの共変錯誤が見受けられます。
どういうことでしょうか。

例えば、「急成長しているベンチャー企業ではフラット組織を採用している(意思決定の速度が速いから)」という事例を考えてみます。

とあるベンチャー企業経営者は、急成長している5社を参考とし、自社に有用な施策を取り入れようと考えました。
その5社はいずれもフラット組織を採用していました。
フラット組織は一般的に、意思決定の速度が速いから、急成長を志向するベンチャー企業に向いている、と言われています。
では、この会社でフラット組織を採用したら、本当に急成長できるのでしょうか?

PCR検査の時と同様に、図で考えてみます。

もし仮に、組織形態と成長速度に関係が無かったとしたら、上のような図になるはずです。
でも、この経営者は、たまたまフラット組織を採用して急成長している5社を参考にしてしまったのです。
より正確に言うと、この経営者の場合はフラット組織を採用したくて確証バイアスにとらわれてしまったのです。
そのため、世の中には会社がたくさんあるにも関わらず、フラット組織を採用して急成長している会社の情報を(無意識で)選択して収集してしまった
のです。
もう少し冷静に考えれば、フラット組織のデメリットや、階層組織でも成功している事例に目を向けられたはずですが、完全な共変錯誤を起こしてしまっていたため、確証バイアスから逃げられなかったのです。

なお、組織形態と成長速度には、実際に大して関係が無いです。

こういった共変錯誤は別に組織形態に限らず、様々な場面で起きています。
1on1やOKRの採用であったり、洒落乙なオフィスだったり、他諸々のベンチャー界隈で流行っている様々な施策が大体そうです。
経営者がエゴで、自分がやりたいことをやっている、というパターンを非常に多く見受けられます。

見たくないものにも目を向けよう

共変錯誤から脱する方法はシンプルで、ある選択を考えた場合に、相対する別の選択も検証することです。

上のフラット組織の採用の例ですと図の通りで、フラット組織=階層組織、成長速度高=成長速度低、というような図式で検証するのです。
縦軸横軸をどう置くかは状況によりきりなのですが、1つの軸を成功・失敗軸、もしくはメリット・デメリット軸でおいて、もう1つの軸を検証対象軸として置くのが一般的でしょう。

上述した思考法、確証バイアスに対する防衛機構も有効です。
何か物事を考える時に、自動的に「自分の考えは間違っている可能性がある」という思考回路を作動させ、反証を求めるようにするのです。
つまり、見たくないものにも目を向ける癖を身に着ける、ということですね。

これはもしかしたらネガティブなマインドのように受け止められるかもしれませんが、決してそのようなことはありません。
あくまでも自分の人生や、会社の経営を成功させる、ポジティブなマインドが前提にあって、あえてネガティブな方向で検証を行う、成功確率を高めるプロセスなのです。

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