バーチャル株主総会(オンライン株主総会)の考え方整理(経産省資料の要約)

株主総会

経済産業省より「ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイド」が公開されています。
コンパクトにまとまってはいるものの、言い回しとかが小難しく、ごちゃっているので整理しました。
バーチャル株主総会(オンライン株主総会)を検討する際のベースとなるので、ご参考に。

元資料はこちらです。

なお、下記については、Excelの表でもまとめてあり(サムネイル画像の物)、こちらからダウンロードできます。

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リアル株主総会

物理的に開催される一般的な株主総会。
会社法上の出席となる。

株主総会には、決議の取消事由(法第831条1項)があるため、慎重に運営されてきた、これまでの実績・判例、つまり「あるべき実務」がある。
リアル株主総会は、一般的に認められている「あるべき実務」と言え、リスクが少ない。

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ハイブリッド型バーチャル株主総会の種類について

リアル株主総会とインターネット等の手段によりリモートで参加・出席することの、両方が選択できる株主総会。

参加型と出席型がある。

参加型は会社法上の出席とはならない。
出席型が会社法上の出席となる。

ざっくりとまとめると下記のようになります。

総会形式	会社法上の出席	議決権行使	質問・動議	コメント	映像	形態
ハイブリッド出席型	〇	〇	〇	〇	〇	出席
ハイブリッド参加型	×	×	×	〇	〇	参加
映像配信(ライブ)	×	×	×	×	〇	傍聴

以下、「ハイブリッド型」は省略し、参加型は「参加型バーチャル株主総会」、出席型は「出席型バーチャル株主総会」と表記。

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参加型バーチャル株主総会(会社法上は出席とならない)

概要

リアル株主総会の開催に加え、リモート開催を行う。
会社法上の「出席」とはせず、審議等を確認・傍聴することができる。

ポイント:コメントの取扱い

  • コメントの受け付け

    当日のコメント受け付けの他、事前にコメントを受け付け、一括回答する形など、工夫が可能。
  • リアル株主総会の開催中に紹介・回答

    コメント等について、リアル出席株主からの質疑を優先しつつ、可能な範囲で紹介、回答する。
  • 株主総会終了後に紹介・回答

    株主総会終了後に、株主懇談会等の場を活用することが考えられる。
  • 後日HPで紹介・回答

    後日、会社のHP等で動画公開と共に、紹介、回答する。

メリット

  • 遠方株主の傍聴が可能
  • 複数の株主総会を傍聴可能
  • 株主重視の姿勢をアピール
  • 透明性の向上
  • 情報開示の充実

留意事項

  • 円滑な参加に向けた環境整備が必要
  • 株主がインターネット等を活用可能であることが前提
  • 肖像権等への配慮が必要(株主への限定配信の場合には、問題が生じにくい。)

具体的な運用

ID・パスワード等による株主確認を行い、配信される中継動画を傍聴。
ID・パスワード等の通知方法は、招集通知に記載するか、同封するかなど。
中継動画等を公開するなら、ID・パスワード等による株主の本人確認は必要がない。

質問・動議

会社法上の「出席」ではないため、質問や動議はできないが、参加者から受け付けたコメント等を取り上げることは可能。

議決権の行使

バーチャル出席株主は、当日の決議に参加できないため、事前に招集通知等で事前行使を促すことが必要。

出席型バーチャル株主総会(会社法上の出席となる)

概要

リアル株主総会の開催に加え、会社法上の「出席」となるリモート開催を行う。

「開催場所と株主との間で情報伝達の双方向性と即時性が確保されている」ことを前提に、出席型による開催が許容。
会社側の通信障害について対策が必要。
株主が容易にアクセスできるための情報提供等も必要。

株主側の問題に起因する不具合については、交通機関の障害等と同様、総会決議の瑕疵とはならない。

ポイント

  • 前提となる環境整備(通信障害についての考え方)、経済合理的な範囲において導入可能なサイバーセキュリティ対策
  • バーチャル株主総会にアクセスするために必要となる環境(通信速度、OSやアプリケーション等)や、アクセスするための手順についての通知、通信障害リスクの告知
  • 株主総会の出席と事前の議決権行使の効力の関係
  • 質問・動議の取り扱い

メリット

参加型のメリットに加え、

  • 出席機会の拡大
  • 複数の株主総会に出席することが容易
  • 質疑等を踏まえた議決権の行使が可能
  • 株主総会における議論(対話)が深まる
  • 議決権行使の活性化

留意事項

参加型の留意事項に加え、

  • 議事の恣意的な運用可能性
  • 出席型の要件を満たす環境整備
  • どのような場合に決議取消事由にあたるかについての経験則の不足
  • 濫用的な質問が増加
  • 事前行使インセンティブが低下し、当日の議決権行使もされず、議決権行使率が下がる可能性

具体的な運用

1)本人確認:バーチャル出席株主の本人確認は、事前通知する固有のID・パスワード等で実施。

2)代理人:代理人の出席はリアル株主総会に限るとすることも、妥当な判断。事前通知が必要。
代理人を受け付けるならば、リアル株主総会と同様、定款をベースとし、委任者から委任状・委任者の本人確認書類を受領し、代理人による委任者の議決権行使を可能とする必要がある。

3)なりすまし対策:二段階認証やID・パスワードの記載面を再貼付不可なシールで覆う等の工夫が考えられる。

4)株主総会の出席と事前の議決権行使の効力の関係:審議中、ログイン時点では事前の議決権行使の効力を取り消さずに維持する。
採決のタイミングで新たな議決権行使があった場合に限り、事前の議決権行使の効力を破棄する。
ログインしたものの、採決に出席しなかった場合には、事前の議決権行使の効力が維持。
議決権行使判断の変更意思がない株主のために、出席型ログイン画面の他に、参加(傍聴)型のライブ配信等を準備するといった工夫も考えられる。

5)招集通知の場所の案内:「株主総会の(中略)場所」の記載に当たっては、法施行規則72条3項1号の規定を準用し、リアル株主総会の開催場所と共に、サイトアドレスを明記し、参加マニュアルを明記すればよいものと考えられる。

6)お土産の取扱い:お土産は、リアル出席へのお礼であり、バーチャル出席株主にお土産を配布せずとも不公平ではない。

質問・動議

【質問】

  • 質問回数や文字数、送信期限(質疑終了予定時刻より早く設定)、質問を取り上げる際の考え方(個人情報の取扱いなど含め)ついて、運営ルールを定め、招集通知やweb上で通知する 。
  • バーチャル出席株主は、所定のフォームを使用し、会社側は運営ルールに従い取り扱う。
    後日、回答できなかった質問の公開などが考えられる。

【動議】

事前通知を前提に、

  • 動議の提出:動議提出はリアル出席株主からのみ受け付ける。
  • 動議の採決:バーチャル出席株主は、実質的動議は棄権、手続的動議は欠席として取扱う。
  • 仮にシステム的に動議の提出・採決が可能な場合:濫用した場合は、取り上げないことが許容。
    濫用の程度によっては、リアル株主総会同様、退場権限が議長にある(通信を強制的に切る)。

議決権の行使

バーチャル出席株主による、総会当日の議決権行使ができるよう、システムを整える必要がある。
事前に議決権行使を行った場合の、当日バーチャル出席については、「株主総会の出席と事前の議決権行使の効力の関係」を留意する必要がある。

臨時報告書には、事前行使分、当日出席大株主分で可決要件を満たし、決議が成立したならば、バーチャル出席株主含めて、集計しなくてもよい(理由の開示でよい)。

バーチャルオンリー型株主総会

リアル株主総会の開催は無し(オンラインのみ)。
インターネット等の手段のみで会社法上の「出席」をする株主総会。

現行の会社法では解釈が難しく、バーチャルオンリー型株主総会は開催できない。

「・・・実際に開催する株主総会の場所がなく、バーチャル空間のみで行う方式での株主総会、いわゆるバーチャルオンリー型の株主総会を許容するかどうかにつきましては、会社法上、株主総会の招集に際しては株主総会の場所を定めなければならないとされていることなどに照らしますと、解釈上難しい面があるものと考えております」

(第197回国会法務委員会第2号 平成30年11月13日 小野瀬厚政府参考人 法務省民事局長(当時))

所感

現状、バーチャルオンリー型株主総会は開催が不可能です。

出席型バーチャル株主総会も世の中的に知見がたまっておらず、加えて追加コストを会社側が負担せねばならない状況です。
そのような中、株主総会の成立可否に関するリスクだけを背負う形になってしまいます。

会社法の改正が進むまで、現実的にはリアル株主総会となり、やるにしても精々が参加型のバーチャル株主総会になるでしょう。

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