土日祝日や就業時間後にメールを送り、また返信を期待する人は多いでしょう。
もしくは、返信を期待されているような状況に立っている人も多いのではないでしょうか。
オンラインでの待機は、仕事に対するプロフェッショナル意識の高さの現れという考えもありますが、多くの弊害があります。
(メールに限らず、チャットツールでの連絡等、オンラインでのコミュニケーション手段全般を含みます。)
勤務時間外のメールは従業員の身心に悪影響を及ぼす
仕事熱心な方で、土日祝日や就業時間後に仕事のメールを送る人は珍しくないでしょう。
また同時に、送ったメールに関して、なるべく早い返信を期待する人も珍しくないでしょう。
そして、そのような方がいるということは、土日祝日や就業時間後に仕事のメールを受け取り、なるべく早い返信を期待されている人もいる、ということです。
迅速なレスポンスは、仕事に対するプロフェッショナル意識の高さの現れだとして、一般的には好意的に評価されます。
軽快なコミュニケーションが成立することは、一見、高い生産性があるかのようにも見えます。
しかし、果たして、本当に高い生産性があるのでしょうか?
何か弊害はないのでしょうか?
オーストラリアでの大規模な研究
オーストラリアで大規模な研究が行われました。
内容としては、デジタル・コミュニケーションの状況について調べると共に、従業員(研究では大学職員が対象)の身心の健康について調べられました(他にも関連する研究がプロジェクトとして行われている)。
その結果、勤務時間外のメールは従業員の身心に悪影響を及ぼすということが明らかになりました。
研究では、従業員がグループ分けされています。
- 回答者の21%が、仕事に関連したメール、電話、電子メールに仕事後に対応することを期待する上司がいた
- 55%が夕方に仕事に関するデジタルコミュニケーションを同僚に送っていた
- 30%が週末に、同日中の返信を期待しながら、仕事に関するデジタルコミュニケーションを同僚に送った
これらのグループの内、上司から仕事のメッセージへの返信を期待されている従業員は、されていないグループと比較して、心理的苦痛(45.2%に対して70.4%)と精神的疲労(35.2%に対して63.5%)のレベルが高いこと、また、頭痛や腰痛などの身体的な症状も報告されました(11.5%に対し22.1%)。
さらに上司だけでなく、同僚とのコミュニケーションでも同様の傾向が見られました。
就業時間外に同僚からの業務連絡に対応しなければならないと感じている従業員は、そうでない従業員に比べて、心理的苦痛の度合いが高いこと(39.3%に対して75.9%)、また、精神的疲労(35.7%に対して65.9%)や身体的な健康症状(12.5%に対して22.1%)も高いことが示されました。
この結果は、一般的に想像されるであろう影響よりも甚大な悪影響があると考えられます。
従業員が休職すると人件費の3倍のコストがかかる
上述の結果は、生産性の高さ 対 従業員の負担、という構図に見えるかもしれません。
ハイパフォーマー達にとって、迅速で軽快なコミュニケーションは望ましいものであり、生産性を高くするために必要なことと捉えられています。
「そんな大げさな。」であったり、場合によっては「必要な犠牲だ。」と考えられていることもあるでしょう。
しかし、従業員の負担という事実は、あまり軽視して良いようには思いません。
一部の試算(厚労省試算)によると、従業員1人が仮に休職した場合、人件費の3倍のコストがかかるとしています。
この試算も大げさなポジション・トークのように感じるかもしれませんが、休職に至るまでのパフォーマンスが落ちている期間の人件費、休職中の休業手当、休職明け後のリハビリ出勤期間、上司のフォローコスト、代替要員の手配コスト、代替要員の教育コスト、代替要員をフォローする同僚の人件費、といった費用が発生することを考えると、試算の正しさはともかくとして、イメージする以上のコストがかかることは容易に想像できます。
つまり、ハイパフォーマー個人の生産性の高さではなく、組織全体の生産性の高さの追求のためにも、勤務時間外のメール(デジタル・コミュニケーション)は取らない方が吉の可能性が高いのです。
つながらない権利
このような知見が少しずつ広まり、つながらない権利、という言葉も誕生しています。
つながらない権利とは、労働者が勤務時間外には仕事のメールや電話などへの対応を拒否できる権利のことです。
日本では一般的ではないですが、欧州諸国等では従業員の権利として法律で定めている所が増えています。
この“つながらない権利”は、単純な(企業と対立する)従業員の権利として考えて良いようには思いません。
何故ならば、上述の通り、従業員に負担がかかり休職等が発生した場合に、そのコスト負担を被るのは企業だからです(従業員の人生にも当然に影響を与えますが。)。
技術が進歩し、デジタル上のコミュニケーションが容易になった現代だからこそ、高い生産性を出したいと望むならば、企業は率先して、この“つながらない権利”を推し進めた方が良いと言えるでしょう。
これは、企業が永続的に発展・成長するために必要な価値観の切り替えです。
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