表情フィードバック仮説というものがあります(「表情がフィードバックされて、その表情の感情を引き起こす」という仮説)。
これを受けて、何はともあれ笑おう、笑えば楽しくなる、というアドバイスを見聞きすることがあります。
果たして、これは正しいのでしょうか?
表情フィードバック仮説は正しいのか?
「楽しいから笑う」のではなく「笑うから楽しい」、「悲しいから泣く」のではなく「泣くから悲しい」と言われることがあります。
いわゆる“表情フィードバック仮説”というものです。
実際、これを受けて、メンタルコントロールの方法論として「無理にでも笑顔を作ろう」というアドバイスを見聞きすることがあります。
果たして、これは正しいのでしょうか?
結論から言うと「わからない」なのですが、現時点では懐疑的な証拠の方が多いようです。
内向的な性格の人は無理に外向的に振舞おうとしない方が良い、という知見
例えば、こちらの記事では、内向的な性格の人は無理に外向的に振舞おうとしない方が良い、という内容の知見について記載をしました。
一般的に外向的であることは良しとされており、また、外向的に振舞うことによりポジティブな感情を高め、また幸福感も高める、とされています。
一方、性格(気質)別にこの知見が検証されていませんでした。
研究の結果、外向的な気質の人は、外向的に振舞うことにより、確かに従来確認されていた通りの結果が出たものの(ポジティブな感情を高め、幸福感も高まった)、内向的な性格(気質)の人の場合は逆で、却ってネガティブな感情を高めてしまう、という結論が示されました。
この知見を踏まえると、「無理にでも笑顔を作ろう」というアドバイスがどこまで適切か疑わしくなります。
大規模なメタ研究では
もちろん、この領域における大規模なメタ研究も行われています。
研究者たちは、138の研究から得られた286の結果についてメタ分析を行いました。
その結果、表情フィードバック仮説のポジティブ効果は統計的に有意ではあるが、その効果は非常に小さい、ということがわかりました。
つまり、「楽しいから笑う」のではなく「笑うから楽しい」、「悲しいから泣く」のではなく「泣くから悲しい」は正しくはありつつも、その効果は限定的だ、ということです。
ただ気になる点として、上述の気質と態度の研究のような観点での知見が少ないことが指摘できます。
別の研究では、いわゆる「感情労働」を行っている労働者はストレス地が高く、飲酒量が多い、という知見もあります。
(感情労働とは、感情が労働内容の不可欠な要素であり、かつ適切・不適切な感情がルール化されている労働のこと。肉体や頭脳だけでなく「感情の抑制や鈍麻、緊張、忍耐などが絶対的に必要」である労働を意味する。 )
この点を踏まえると、本来感じていない表情を無理して装うことは、メンタルに負担をかけて、疲弊してしまう可能性を払拭できません。
もちろん仕事で必要であるならば、表情を装う場面は多々あるでしょう。
しかし、長期的な身心の健康を考えた時に、必要もないのに無理して表情を装うことは避けた方が良いと言えるでしょう。
これらの知見は、組織を設計する経営者や人事部門の方たちも認識しておいた良いと言える内容です。
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