離職率を下げるにはどうしたらよいのか?という悩みは多くの企業が抱えています。
そして、離職兆候が出た従業員に対して、色々とアプローチをする企業が多いのですが、効果が出ないのが実際でしょう。
それでは、離職率低下のためには何をしたら良いのでしょうか?
離職兆候の例
離職兆候の例として、次のようなものがあげられます。
- 挨拶をしていた人が、挨拶をしないようになった
- 逆に、挨拶をしない人が、清々しい挨拶をするようになった
- 愚痴や不満が少なかった人が、愚痴や不満ばかりを言うようになった
- 逆に、愚痴や不満ばかりを言っていた人が、途端に愚痴や不満を言わなくなった
- これまで複数人でランチに行っていた人が、一人でランチに行くようになった
- 休憩中に業務とは関係のない勉強をするようになった
- 業務や自社の業界とは違う話をするようになった
- 服装が変わった(スーツ等がしっかりするようになった)
- 遅刻や早退が増えるなど、時間の使い方が変化した
- スマートフォンを持って離籍する頻度が増えた
- 会議での発言が明らかに減った
- 以前より、机や身の回りの物を整理整頓されている
- 引き継ぎマニュアルを唐突に作り始める
ようは、既に会社を見限り、転職のための行動をはじめているか、転職先が決まったが故にその準備をしている、ということです。
この時点で、何かしらのアプローチをすれば間に合うのでしょうか?
それとも時すでに遅しなのでしょうか?
離職理由
ここでよく言及されるのが、厚労省が出している雇用動向調査のような資料です。
離職理由ランキングを明らかな会社要因(定年等を含む)を除いて考えると男女別に次のようになります。
男性の離職理由
- 給料等収入が少なかった:9.4
- 職場の人間関係が好ましくなかった:8.8
- 労働時間、休日等の労働条件が悪かった:8.3
- 会社の将来が不安だった:7.1
- 能力・個性・資格を活かせなかった:4.9
- 仕事の内容に興味を持てなかった:4.7
女性の離職理由
- 職場の人間関係が好ましくなかった:13.3
- 労働時間、休日等の労働条件が悪かった:11.6
- 給料等収入が少なかった:8.8
- 仕事の内容に興味を持てなかった:5.2
- 能力・個性・資格を活かせなかった:5.0
- 会社の将来が不安だった:3.4
ランキングの並び順はともかくとして、概ねこの6要素が離職理由を占めていることがわかります。
では、この6要素を改善するアクションをとれば離職率を下げられるのでしょうか?
従業員が離職行動に出るメカニズム
少し古い(1994年)研究ですが、従業員が離職行動に出るメカニズムが研究されています。
この研究では次のようなフローチャーを提示した上で、従業員の離職行動について解説しています。
まず論文では、「個人が認識しているシステムに対するショックによって、自己認識=現状ギャップが生まれ、離職行動ないしは定着行動が模索される。」ことを前提に、心理的要素に着目してフローチャートが描かれています。
ここで言う自己認識とは、従業員に何かしらの影響を与え、自分自身の仕事について熟考し、その結果として離職行動にでるような出来事のことです。
上述のような6つの離職理由が例としてあげられます。
会社都合や自分自身の変化は、この自己認識には該当しないとしています。
離職モデル
フローチャートでは、4つの離職モデルが提示されています。
①良い所が見つかったパターン
このパターンでは、個人が認識しているシステムに対してショックがあった際に、今の会社とは別の自分自身の認識しているシステムに合致する会社が見つかったら離職行動に出る、というものです。
ようは、離職理由を起因に転職行動に出て、良い所が見つかったら転職する、というパターンです。
②良い所が見つからなかったパターン
このパターンは、個人が認識しているシステムに対してショックがあった際に、今の会社とは別の自分自身の認識しているシステムに合致する会社が見つからなかった、というものになります。
ようは、離職理由を起因に転職行動に出たけれども、良い所が見つからなかったパターンです。
この場合、今の会社に居続けることを選択しますが、その後、改めて良い所が見つかり、その際に今の会社が自分自身の希望と合致していない場合に離職行動に出ます。
③会社側が改善のための代替案を持っているパターン
このパターンは、会社側に代替案があるものです(会社側が意識的もしくは自発的に代替案を提示していない状況で、従業員側が既にある代替策を選択できる状態も含む)。
つまり、何かしら改善のための代替案がある状況で、従業員が今の会社ではなく、別の会社の方が良いと判断し離職行動に出たパターンです。
このパターンでは、とりあえず会社を飛び出た者、業務を忌避し者、という形で玉石混交の性格が強くなります。
④会社都合や個人の環境変化等によるパターン
このパターンは、個人が認識しているシステムに対するショックが無いパターンです。
会社都合のものや、個人の環境変化(結婚・出産・介護等)のものであり、会社と従業員の間で致し方がなく乖離が生まれている状況です。
このパターンでは、会社側が代替案を提案し、従業員がそれを検討することにより一定分岐するものになりますが、これも一つの離職行動の一つとなります。
このフローやそれぞれのパターンを見ていくと、パターン②~④においては、きちんと何かしらの代替案を提示し、それについてきちんと検討をすることを促せば離職の決断に対して一定の制御が可能であることが示唆されます。
(パターン①については、離職行動の制御は無理と考えられます。)
つまり、そもそもとしての離職理由が発生しないことは重要ですが、何かしらの兆候が出た場合に、アクションを取っていくことも重要なのも確か、ということです。
離職したいと思う人と在職し続けたいと思う人の離職理由は異なるので、離職防止施策は別に考える必要がある
ここでの注意点が一つあります。
こちらの研究(研究途中の経過報告)では、次のように概要を説明しています。
より重要な点として、「在職者」と「離職者」を比較した場合、「組織に残り続ける理由」と「組織を辞める要因」は表裏一体ではないことが確認された。例えば、在職者が組織に残り続ける理由として「勤務地」や「仕事内容」を挙げる一方、離職者では「給与・待遇」、「パワハラの有無」、「会社の将来性」等が在職者よりも高い割合で挙げられていた。この結果は、在職者をより長く組織に留めるための施策と、離職者の退職防止施策は別々に考えなければならないことを示唆している。
つまり、離職したいと思う人と在職し続けたいと思う人の離職理由は異なるから、離職防止のためのアクションを一律に考えて実施してはいけない、ということです。
(一律のリテンション・マネジメント施策が効果的でない要因がここにあると考えられます。)
人事担当者にとっては、検討しなければならない事項が増えてしまうでしょうが、自社の離職率を下げたいと思うのであれば、離職理由が発生することの防止と、離職理由が発生した場合のアクション、それも従業員の離職行動のパターンに応じて施策をわけることが必要です。
コメント