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会計基礎講座まとめ

こちらは会計を学習する上での当サイト記事のまとめ集となります。

会計基礎講座導入編

会計の基礎的な話を簡単にまとめています。
B/S、P/L、C/Fの存在の認識、基礎的な意味合い、数字のつながりについて学習します。

番外編

管理会計基礎講座~個別論点編~

こちらは個別論点に関してです。

管理会計の基礎の1つである、限界利益と損益分岐点について解説しています。

サブスクリプション/SaaS系ビジネスの管理会計に関しては、こちらの記事群を参照ください。

今後は、マーケティング系の管理会計の考え方や、原価管理等々について、コンテンツを拡充する予定です。

決算書の読み方

こちらは、報道で話題が出た会社を事例に、決算書の読み方、それも専門的な見方では無く、企業内部の非専門家が見れるような見方について解説しています。

決算書の読み方解説

シミュレーション付き

下記は、会社が開示している資料を元に、シミュレーションまで行っているものです。
ある程度、決算書を見れる前提になるので、気持ち、難易度は高めになります。

M&A等の高専門性がテーマの話

こちらは、主にTOBネタを中心に、専門性が高いテーマの話を、なるべくわかりやすく解説しています。

大戸屋 VS コロワイド編

その他の会社

事業計画を作るための基礎テクニック~フェルミ推定~

こちらは事業計画を作るための基礎的な思考テクニックである、フェルミ推定について、その考え方を解説しています。

Q&A

質問・疑問等については、こちらのQ&Aまとめ集で回答をしています。

会計基礎講座Q&A
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7億円赤字の鳥貴族、経営は大丈夫なのか?

鳥貴族が2014年の上場以来最大となる7億6千万円の赤字を計上したとの報が出ていました。
飲食店はコロナ影響を大きく受けている業界の1つです。
鳥貴族の経営は大丈夫なのでしょうか?

鳥貴族7億円の赤字報道

まずは報道を見てみましょう。

鳥貴族が11日発表した2020年7月期の単独決算は、最終損益が7億6300万円の赤字(前の期は2億8600万円の赤字)だった。新型コロナウイルスの感染拡大で4月初旬から約1カ月半、直営全店が休業したことに加え、自治体による営業時間の短縮要請などが響いた。店舗の臨時休業による損失や収益性低下に伴う減損などで約27億円の特別損失を計上した。

日本経済新聞 2020年9月11日 「鳥貴族が7億円の赤字、20年7月期最終 コロナで不振」より

なるほど、飲食店の例に漏れず、コロナ影響による大損害を被っていた、という事ですね。

なお、2014年の上場以来の最大の赤字幅でもあります。

果たして鳥貴族の経営は大丈夫なのでしょうか?

直近の決算短信を見てみる

鳥貴族は9月11日時点で2020年7月期の決算短信を公表しています(リンク先は同社IR)。

これをベースに数字を見てみましょう。

まずは、PL概要です。

売上高は前期比▲23.2%の275億円、経常利益は同▲16.5%の9億円、そして最終損益が報道の通り7億6千万円の赤字となっています。

このような状況でも(7月決算なのでコロナ影響を2月から7月まで、約半年まともに受けている)、しっかり営業利益・経常利益を出しているのは凄いですね。

赤字の原因はほぼほぼ特別損失によります。

休業損失が約19億円、おそらく撤退するであろう店舗の減損損失が8億円と、ここで合計約27億円の特別損失を出しており、これが最終損益にヒットした形です。

それでは現預金残高は、というと次の通りになります。

87億円の現預金を確保しており、十分な額が存在します。

財務CFが約50億円あり、この内65億円が新規の長期借入となっており、有利子負債は増大しつつも、当面の資金は問題無い事がわかります。

このように自己資本比率も、まだ28.4%と決して高い数字では無いものの、飲食店の平均ライン前後の数字を維持しています。

コロナ影響を早々に脱し、元の成長軌道に乗せられれば、鳥貴族の経営は問題が無いと言えるでしょう。


鳥貴族のコロナ影響については、次の記事も参照ください。

成長軌道に改めて乗せられるか?

実は鳥貴族はある懸念が存在していました。

https://business.nikkei.com/atcl/report/15/278209/012400183/

上記の記事(外部サイト)にもあるように、そうは言っても格安業態であるが故に利益率が高くなく(営業利益率3%台)、値上げを実施しています。

それにより、2018年7月期と2019年7月期は既存店前年比割れを起こしています。
(これは値上げ影響だけでなく、店舗急拡大の影響もある。)

鳥貴族既存店前年比年度推移

幸い、元々の顧客支持が高かったこともあり、上場時の水準(2014年7月期)から比較すると、まだ既存店売上高の売上指標は100を超えています(コロナ影響は除く)。

鳥貴族は、withコロナ環境においても、比較的相性が良い業態ではあり、他居酒屋に比較して回復が早い方でした。
まだ回復途上ですし、8月は第二波の影響か再び下落してしまっているものの、優位な状況にはあります。

既存店前年比割れは飲食店経営における宿命のような物です。

withコロナ環境において、顧客に支持される価値提供を続けられるか否か。

これが今後の鳥貴族の成長にかかっているでしょう(鳥貴族に関わらず、の話ではあるんですけれどね)。

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レオパレス21は大丈夫なのか?倒産間近?

㈱レオパレス21が2020年9月9日、決算発表の再延期をリリースしました。
希望退職募集により、決算要員が想定以上に退職したことが影響しているとの事ですが。
一般的には「経理が逃げ出す会社はヤバイ」と言われます。
果たして、レオパレス21は大丈夫なのでしょうか?

決算発表の再延期リリース

㈱レオパレス21は2020年9月9日、2021年3月期第1四半期決算発表の再延期をリリースしました。

理由としては、下記を提示しています。

当社が先般実施しました希望退職募集により、決算業務に従事する従業員が想定以上に退職したことによって、決算プロセスに更なる時間を要する見込みであり、2020年9月11日に予定しておりました決算発表を再延期せざるを得ない状況となりました。

㈱レオパレス21「2021年3月期第1四半期決算発表の再延期に関するお知らせ」より

この理由を単純にそのまま受け取ると、「あら、大変なのね」で済む話ではあるのですが。

決算業務に従事する従業員、とは一般的に会社の情報、実情を深く知っている、把握できる環境にいる人達がほとんどです。

そのため、ゴシップ的に「経理が逃げ出す会社はヤバイ」と言われたりします。

それでは、レオパレス21の経営は果たして大丈夫なのでしょうか?
倒産の危険が迫っているのでしょうか?

レオパレス21の業績

さて、レオパレス21と言えば、建設した物件の約4分の3で何かしらの施工不備があったとして、その評判を大きく落とした事は記憶に新しいかと思います。

この影響により、決算が公表されている2020年3月期の業績は経常損失363億円、最終損失802億円を出すに至りました。
(そして、決算発表がされていない第1四半期決算に関しては、コロナ影響も大きく受けているはずです。主力の法人向け事業、得にかき入れ時の4月と重なり、リモートワーク影響等により、大ダメージを被っているはずなので。)

㈱レオパレス21 2020年3月期 有価証券報告書より

さて、会社という物はいくら赤字を出していても、お金が尽きなければ倒産はしません。

その最後の綱であるお金ですが、2020年3月末の現預金残高は605億円です。

㈱レオパレス21 2020年3月期 有価証券報告書より

この605億円を何かしらの手段で厚くするか、業績を改善させてキャッシュ・フローがまわるようにすればOKなわけです。

いよいよジ・エンドが迫っているか?

まず借入はできそうか?という話ですが。

㈱レオパレス21 2020年3月期 有価証券報告書より

この右端の0.66が2020年3月期の自己資本比率なのですが、1%を切っています。

結論、銀行からの融資は、ほぼほぼ不可能と言って良い状況でしょう。

(なお、金融機関からの借入と社債に関しては、財務制限条項がついていて、既に抵触している状況のようです。一方、期限の利益の喪失に関しては、権利行使が行われない旨の承諾を得ているとの事です。ようは、「いいから金返せ」とはなっていない、という事ですね。)

そして、施工不備のあった物件に対して改修工事が行われているようですが、完了しているのは10%にも満たず、半分弱が着手中、残りのほとんどは未着手という状況で残っています。

2020年8月31日時点 レオパレス21 「当社施工物件 改修進捗状況」より

補修工事関連損失引当金が479億円、積まれていることを考えると、500憶円程のCashOutは今後発生することが見込まれます。

純粋な営業損失に加えて、上記の補修工事、そして希望退職者へ退職金(30億円程)が発生するので、手持ちのCash約600億円では全く足りません。
さらに、リース債務、社債を含む有利子負債も361憶円存在する事も指摘できます。

IRニュースを見ていると、物件の売却や投資有価証券の売却を行っており、100億円規模のCashを工面しているようですが、やはりこれだけでは全く足りないように思います。

じゃあ、エクイティでの調達(新規の株式の発行等)ではどうでしょう?

現在の時価総額は400憶円弱です。

Google市場概説より

必要なCash額を鑑みるに、生半可な増資では対応できません。
どこかのファンドの支援を得た上でのMBOが必要でしょう。
(資本提携をしてくれるスポンサー探しも難航しているようですし。)

全株式を買い取った上で非上場化、更に追加資金を投入して全部をキレイにして再上場、というような大手術が必要と考えます。

問題は株主です。

㈱レオパレス21 2020年3月期 有価証券報告書より

大株主上位3社が、アクティビスト系(モノ言う株主)であり、投資の理由が明らかに利ザヤ抜き、それも会社の事情に配慮しないものである事が予想されます。
(2位と3位は、いわゆる「旧村上ファンド系」です。)

つまり、単純にMBOするにも、アクティビストの投資分に上乗せするだけの金額が要求されるはずで、それに応えようという姿勢を示すファンドが果たして出てくるでしょうか?
(時価総額400億円+αに加えて、立て直しに必要な1,000億円規模の投入が必要。)

(なお、上記で提示したアクティビスト3社は、口は出しますが、改善のノウハウは一切持っていないので、業績改善支援を期待する事は、全くできません。)

民事再生法適用申請の可能性があるか?

国交省的には、これだけの規模の会社を潰したくは無いでしょうから、生かさず殺さずで置いておきたいはずです。

民事再生法適用申請の可能性が十分にあります。
(債務超過になると、会社更生が一般的。一応、2020年3月期はギリギリ債務超過手前。)

ただ、過去の業績推移を見てみると、今の状況程酷くは無かったにせよ、入居率が低かった時期はありました。

㈱レオパレス21 月次業績推移より作成

そして過去のPLを見るに、必ずしもかつてあった90%超の入居率に満たなくても、100億円規模の利益を出すことは可能なように思います。
(下表は2011年3月期から2015年3月期の業績推移。酷い時を乗り越えた後に、安定的に100億円超の利益を出している。)

㈱レオパレス21 2015年3月期 有価証券報告書より

今進めている早期退職も決着させ、不採算物件の整理(改修工事込みでしょうが)を行い、全体として経営をスリムにしていけば、まだまだ復活できるだけのポテンシャルはあるようにも思います。

明確に先行きが読めない状況ですが、早急に経営改革を進めれば、可能性は存在します。
支援してくれるファンドを見つけられる可能性もあります(例えばLBOスキームならファンドのリターン目線があう可能性もある)。

(一応、2020年3月期時点ではゴーイングコンサーン、つまり「継続企業の前提」はついていません。決算延期は、これについて監査法人ともめているのもあるんでしょうね。)


引き続き、状況をウォッチしていきたいと思います。

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コロワイドによる大戸屋へのTOB、成立との事

2020年9月8日、各誌よりコロワイドによる大戸屋TOBが成立したとの報が出ました。
併せて、コロワイドからもリリースが出て、47%程の着地で成立する事が確実となりました。
とりあえず、現時点でのまとめです。

(注)本日の中で一定の動きがあったので、一番下の方で追記をしています。

当ブログでの過去記事

とりあえず、過去記事です。
経緯等を把握したい方は、下記もご参照ください。

コロワイドのTOB成立リリース

各誌より、コロワイドによる、大戸屋TOBが成立したとの報道が流れ、併せて㈱コロワイドより、次のようにリリースが出ていました。

第2ラウンドにて、とりあえずの決着、という形になりました。
ほぼほぼ既定路線ではありましたが。

状況の解説

筆者のツイートをベースに、状況の解説をしていきます。

結果47%で着地

大戸屋ですが、個人投資家からの支持が非常に強い会社で、既報の通り下限45%では成立がしませんでした。

この点については多くの外部投資家も一定読んでいたようで、様子見スタンスをとっていました。

仮に手を出して、結論として不成立で着地してしまったら、手元に残る株式の処分に困るわけです(TOBで上がっている株価が、不成立だとまた下がるリスクも大きいですし)。

これが下限40%に条件変更があった事で、成立の可能性が一気に高まったので、利ザヤを取るだけのリスクが大きく下がりました。
結果、トータル47%程での着地となったわけです。
躊躇していたのが問題無いと見込まれたのですね。

なお、投資家の躊躇は上限に関しても存在していました。

仮に上限を超えて成立した場合に、抽選に外れたら、処分に困る株式がこれもまた手元に残るからです。

まぁ、株価を見ていると、下限40%に下げても不成立の可能性がありそうだ、という着地にはなっています。

どれだけ投資家から、大戸屋株主による大戸屋への支持が厚いか、逆にコロワイドに対する支持が弱いか、と受け止められていたのかが読み取れます。

上場廃止とスクイーズアウトは無い

さて、本件は入り口から上場廃止を目的としていなかったので、上場廃止は無く、スクイーズアウト(少数株主の排除)は無いです。

持株比率が47%でも、議決権行使比率を考えると実質過半数であり、支配力を得ているから、無理して100%子会社化する必要が無いのですね。

このまま行けば、経営陣の刷新、経営方針の転換は必至でしょう。

今後の重要事項~PMI~

さて、今後のイベントはPMIです。

PMIとは、買収後の経営統合プロセスの事です。
ポスト・マージャー・インテグレーションの略で、経営面、業務面、意識面において、統合を図ります。

株式を買い、おたくを子会社化しました、これで決着、後は我々の指示に従ってください。
とは当然ですがなりません。
(これをすると、ただの株式投資になってしまいますね。)

買収する側の会社が、買収した会社に入り込んで、様々な面で影響力を発揮しなければいけないのです。
(これにより、買収した会社の価値をあげるなり、買収する側の会社とシナジーを出して、トータルとして投資に対してリターンを得る必要があるからです。)

ただ、このPMIが難航しそうです。

従業員側の反発は結構強かったという報道をチラホラ散見します。

会見で三上氏は「コロワイドは大戸屋の経営理念を軽んじ、あるいは否定している。(コロワイド傘下になれば)店内調理を守れないのではないかという不安がある」と主張。コロワイド傘下となった場合には退社する意向を示している社員がいると明かし「私もコロワイド傘下となれば退社する意思だ。店内調理や『おいしい料理を提供する』という経営理念が薄まるのなら(大戸屋で)仕事をする意味はない」と話した。

日経ビジネス「大戸屋社員がTOBに反対表明「コロワイド傘下なら辞める」」より

入り口として反発の強い方々とどのようにコミュニケーションをとっていくのか。

上でのツイートにもある通り、飲食店の成否は従業員の存在が強く影響します。

これまでの大戸屋に対する強圧的態度を続けていては、PMIが難航する事は確実でしょう。

大戸屋側はどう動くのか?

経営の独立性を主張する大戸屋は提携先への第三者割当増資などを検討しており、両社の対立は長期化しそうだ。
(中略)
これに対し、大戸屋側はコロワイドによる臨時株主総会の招集請求に備える一方、新たな外部資本を模索。8月には食材宅配オイシックス・ラ・大地と業務提携しており、買収阻止に向け対抗措置の検討を続ける。

時事ドットコムニュース「コロワイド、敵対的TOB成立 大戸屋と対立長期化も」より

さて、大戸屋側の動きですが、今後、どのように出るでしょうか?

報道では、臨時株主総会の招集請求に備えるのと、第三者割当を模索、とあります。

招集請求は当然そうですね。
ここで経営陣の刷新が行われるのですから。

対抗策として第三者割当増資があるそうですが、果たしてどうなるでしょうか。
有利発行でなければ、公開会社の場合、取締役会決議で第三者割当増資を行えますが、果たして逆転の一手を打てるでしょうか。

(追記)9月9日中の動き

さて、9月9日中の動きですが、次のように、コロワイドからリリースが出ていました。
コロワイドから大戸屋に対する、臨時株主総会の開催請求ですね(上で言及した通りです)。

コロワイドからは、現在の大戸屋の取締役11名の解任と、コロワイド側が推薦する7名の取締役の選任を目的事項とした、臨時株主総会の開催を請求しています。

これに関しては、大戸屋側からもリリースが出ています(当然ですが、内容に相違はありません)。

一方、コロワイドは次のようにも記載しています。

同上

ようは、会社側(大戸屋側)が協力姿勢を示すなら、少なくとも目の前において、一部の取締役の留任は飲み込んでも良いよ、と言っているわけです。

このコロワイド側の柔軟姿勢には、いきなり現取締役を解任したらPMIがリアルに難航する、大戸屋株主のコロワイドに対する感情の氷解意図などが考えられます。

さて、これから大戸屋側をどのように出るでしょうか?


引き続き、状況を見ていきたいと思います。

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大戸屋VSコロワイド、第1回戦は大戸屋の勝利の模様(TOB期間延長へ)

昨日8月25日、コロワイドよりTOBの期間延長と下限引き下げのリリースがありました。
大戸屋VSコロワイドの敵対的TOBは、第1回戦は大戸屋の勝利の模様です。
とは言え、期間延長ですので大戸屋側にとって厳しい状況であるのは変わりません。
状況を見ていきましょう。

こちらも参考にしてください。

TOB期間が延長を条件変更 ⇒ 9月8日に&下限引き下げ

コロワイド側のリリースはリンク先の通りです。

目的として「当初の買付予定数の下限に達しないことが明らかになったことから、本公開買付けの成立可能性を高めることを目的として、買付予定数の下限を上記のとおり引き下げることといたしました。」と明確な記載がありましたので、結論、当初条件では失敗し、延長と下限引き下げを行う必要があった、という事ですね。

内容としては、大きく下記の2点の変更です。

TOB期間の終了日 2020年8月25日(火) ⇒ 2020年9月8日(火)(10営業日の延長)

買付予定数の下限 1,872,392株(元々ホールドしてい19%とあわせて45%) ⇒ 1,510,138株(同40%)

その他、諸々テキストを追加し、次のようなことを主張しています。

  • IFRS(コロワイド採用会計基準)だと、過半数に満たなくても実質的に支配していれば連結子会社にできる
  • 大戸屋の業績が非常に悪いから、早急に関与して業績回復を優先させないといけない
  • 大戸屋の議決権行使割合が低いから、40%の確保でも、取締役の入れ替えができる
  • オイシックスと提携するとのことだが、効果が全く示されていない

書いてあることは、現実としてそうだよね、という内容なのですが、状況を踏まえると書き方、もう少しどうかならんかったのかなー、と思います。
この点は後述しますね。

敵対的TOBは成功確率が低い

私はドラマが苦手なので半沢直樹は視聴していないのですが、どうやら敵対的TOBとかが話題にされているようですね。
そのため、ストーリーは全く知らないので、もしかしたら頓珍漢な取扱い方かもですが。

敵対的TOBと聞いて、どのようなイメージを抱きますか?

おそらく日本人の多くの方は、ネガティブなイメージを抱くのではないでしょうか。

そして、人間という生き物は(経済学的に)非合理的な生き物ですので、(経済学的に)ロジカルに自分達が儲かるか?という観点では無く、何か気に入らなければ感情で(経済学的に)非合理的な判断を下しがちです。
(別に、これを悪いとは言っていないですよ。)

では、この話を続ける前に、こちらの資料を。

M&A Online「M&A市場を席捲する敵対的TOB 高まる成功率」より

これは敵対的TOBの成否の一覧です。
実に、成功率は50%未満です。

敵対的TOBは仕掛けられた側が抵抗するから、という点もあるのですが、上述した人間の非合理性も影響します。

ようは、機関投資家はロジカルに意思決定をしますが、個人投資家は感情での意思決定要素が非常に大きくなるのです。
(何度も言いますが、別にこれを悪いとか、そのような話はしていないですよ。そういうものだ、という事です。)

過去にも記事にしましたが、今回のコロワイド側のTOBの仕掛け方は、正直な感想、礼節に欠けるものです。
コロワイド側に対して、快く思っていない個人投資家は多いでしょう。

では、どれくらいの個人投資家がいるのか?というとこちらの資料をご覧ください。
大戸屋の2020年3月期有価証券報告書からの抜粋です。

株式会社大戸屋ホールディングス_2020年3月期有価証券報告書より

そうです。
個人投資家の割合が64.58%もいらっしゃいます。
一般の方に愛されている会社という事ですね。

法人投資家、外国人投資家は、かなりの割合がTOBに応じるはずなので、今回の8月25日期限TOBにおいて、個人投資家がほとんど応じなかった、と推測されます。
全くと言って良いほど、コロワイド側は支持されていないのです。

こちらの大戸屋株価推移もご覧ください。

Googleより 大戸屋ホールディングスの株価推移

19年程前に3,000円を一瞬超える時期があったにせよ、そこから19年間に渡り、今回のTOB価格(3,081円)に到達した時期が全くありません。
このような状況を冷静に考えれば、大戸屋株式で利益を得る最大のチャンスが今回のTOBなのですが、それに大戸屋株主が賛同していないのです。

今後どうなるか?

ここで、改めてコロワイド側のリリースを読んでみて下さい(リンク先はコロワイドのリリースPDFです)。

リリース①

リリース②

上で、もう少し書き方どうにかならんもんか、と書きましたが、コロワイド側は大戸屋株主から前提として支持されていない、ということを、もう少し真摯に捉えた方が良いように思います。
大戸屋の株主の約65%が個人投資家がであり、そして一般論として個人投資家の多くが高齢者であることは既知の事実です。

もし、コロワイド側が正しく歓迎される形で今回のTOBを成立させたいのであれば、個人投資家達の心を軟化させ、賛同をいただけるようなメッセージを発信した方が良いでしょう。
第1回戦は大戸屋側に軍配が上がったものの、依然としてコロワイド側が極めて有利な状況であることには変わり有りません。
どうせなら、貫禄のある成立をして欲しいものです。

一方、大戸屋側ですが、個人投資家の方々の心に訴えるような作戦は、とりあえず奏功したわけですが、感情に訴える作戦だけでは正直、買収防衛策としては弱いと言わざるを得ません。
今回の、期間延長と下限引き下げで、いよいよ本格的に、敵対的TOBが成立する方向で進んでいくでしょう(再延長ができることも、当然に指摘できます)。

短い時間ですが確保できたのですから、とれる選択肢はほとんど無いにせよ、追加の対策が必要です。

このまま行けば、TOBが成立する、という流れのままなのは変わりがありません。


引き続き、状況を見ていきたいと思います。

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いまだに出る「内部留保」悪者扱いの話~管理会計基礎講座番外編~

何年も前から企業の「内部留保」を悪者扱いする話は、政治界隈でチラホラ出ており、その度に各種観点(主に会計的)で論じられてきたのですが。
いまだに、「内部留保」を悪者扱いする論調が消えません。
管理会計基礎講座の番外編的な位置づけで、この内部留保について解説していきます。

なお、内部留保課税を仮に実行した場合の各種節税策の問題や、二重課税のそもそも論的問題に関しては、話がとっちらかるので、ここでは取り扱いません。

内部留保って何?

正直な所、政治界隈で語られる「内部留保」が一体全体何を指しているのか、正確には不明なのですが(主張者も多分正確にイメージできていない)、おそらく貸借対照表(BS)上の「繰越利益剰余金」のことを指しているものと考えられます。

会社は、銀行や株主からお金を集め、そのお金を何かしらの投資に回し、事業活動を行い利益を出します。
この出した利益は、毎年会社内に留保され、次年度の事業活動に再投資されていきます。

この「毎年会社内に留保」されていく利益を「繰越利益剰余金」と呼びます。

さて、もう一度繰り返しますが、「繰越利益剰余金」は、次年度以降の事業活動に再投資されていきます。

貸借対照表(BS)の右側は「お金をどのようにあつめているか」、左側は「お金を何に投資しているか」を表している表でしたね(覚えていますか?)。

「繰越利益剰余金」は、事業活動の結果として利益という形で集められたお金です。
この利益(当期純利益)は、何かしらの形で使用し、また事業活動が行われ利益を出し、再度、次年度以降のために使われていく。
会社は、このサイクルをまわしながら成長してきます。

ここで認識しておきたいのが、「利益(当期純利益)=その期に獲得したCash(現金)」というわけでは無いということです。

損益計算書(PL)、貸借対照表(BS)、キャッシュ・フロー計算書(CF)のつながりですが、覚えていますか?

Cashは、営業活動の結果として獲得できた「営業キャッシュフロー」と、事業活動を行うための投資である「投資キャッシュフロー」、そして事業活動を行うためのお金を獲得していく(もしくは返済)「財務キャッシュフロー」の3つの形でグルグル回っていきます。

「内部留保」と呼ばれる「繰越利益剰余金」は、Cashだけでなく、別の何かに形を変えてしまっているのですね。

貸借対照表(BS)をスコープする形で、念押し確認してみましょう。

「内部留保」と呼ばれる「繰越利益剰余金」は、Cashだけでなく、まだ未回収の売掛金の形をしている場合もあれば、本業資産(在庫、各種固定資産など)に投資されたり、余剰投資として新規事業(子会社株式など)に使われたりします。
単純に使うだけでなく、信用創造(買掛金、未払費用など)や有利子負債(借入金)の返済に充てられたりすることも当然にあります。
さらには株式会社ですので、配当(利益剰余金の控除になる)や自己株式の買い取りという形で株主還元されたりします。

ようは、「内部留保」を企業が使いもしない大量の現預金として会社内に溜め込んでいる、というイメージは全くの間違いなのです。

それ以前に、企業が現預金を溜め込んで、何が悪いの?

企業は、社会への貢献のため、人々の幸福価値の向上のため、そのような理念・ビジョンに基づいて存在している、存在すべきだ、という基本的価値観は共感できる話で、是非にもそうあるべきだと私も考えます。

それを受けてか、論調として「お金を溜め込んでいるならば、社会のために使うべきだ!」という話がどうしても出てきます。

まぁ、この主張自体は理解・共感できるのですが、一方で現預金を溜め込む意義も同様に存在します。

「黒字倒産」という言葉が存在します。

結論を言ってしますと、どんなに利益を出していても、Cashが尽きた段階で会社は倒産します。

逆に言うと、どんなに赤字を出していても、Cashを抱えている限り会社は倒産しません。

今回の新型コロナウイルス影響を見て下さい。

Cashが尽きた会社・事業所から倒産・廃業していっています。

銀行も基本的には、「晴れの日に傘を貸し、雨の日に傘を取り上げる」性質を持っています(銀行も利益を出さなければいけない株式会社なので、当然のことであり、批判されるいわれはない)。
そのため、事業が厳しい環境におかれ、返済の目途が見えない会社にはお金を貸しようがありません。
(今回の新型コロナウイルス影響では、公的支援が多くついた融資があり、ハードルは大きく下がりはしましたが。)

この緊急時において、事業を維持しているのは、やはりベースの経営体力、ようは資金力が強い会社です。

Cash、もしくは即座にCashに変換できる何か(売却できる何かや、借入ができるだけの厚い自己資本など)を持っている事は正義なのです。
それが無ければ、何か世が傾いた時にあっさり倒産し、働いている人たち、商品・サービスを利用していたお客様、会社に事業用の諸々を提供していた取引先、投資していた株主、の全てがネガティブな影響を受けます。

もう一度繰り返しますが、Cashを確保しておくのは事業活動上、正義なのです。


別観点で言うと、今が投資のタイミングでは無く、時勢を見ている状況の場合、投資用のCashを溜め込んでおくのは、これもまた正義ですよね?
上述の「内部留保」は守りの用途でしたが、この「内部留保」は攻めの用途ですね。

ちなみに内部留保を減らしたいのならば、利益を出さないか、配当を過剰に多くする(将来への投資を減らす)、という方法があります。
これって本質的ですかね?

ようはバランスの問題

ここからは「内部留保」の話ですら、微妙に無くなっていくのですが。

Cashの確保は正義である、という話をした上で、若干話をひっくり返すのですが、Cashの溜め込み過ぎは当然によくありません。

使途の全く見えない(安全資産としてのCash確保や将来投資を超えた分)Cashを抱えているのならば、従業員にボーナス出しましょうよ、配当にまわして株主還元しましょうよ、という話に当然なります。

実際、企業の「内部留保」の増加にあわせて、Cashの留保額は確かに増加しています。

なお、この種の話は色んな人が書いていて、諸々資料もまとめています。
この資料は財務省の「法人企業統計調査」が出典のようです。
下記の「労働分配率」もそうですね。

溜め込み過ぎは良くないですので、適切に使いましょう、ということでこれまた良く出る指標として「労働分配率」「配当性向」というものがあります。
詳細は省略しますのでググって頂きたいですが、簡単に説明するとそれぞれ、どれだけ従業員や株主にお金を還元しているか?という指標です。

それでは、「労働分配率」の推移を見てみましょう。

これを見て「なんだと!下がっているじゃないか!けしからん!」となるのは短絡的です。

労働分配率は引用記事内にもありますが、「人件費 ÷ 付加価値額 = 労働分配率(%)」で表現されるためです。
労働分配率は、人件費が下がるか、付加価値額が上がるか、のどちらかで下がるのです。

この通り、人件費が上がっている状況で、それ以上に付加価値額も上がれば、労働分配率は下がるのですね。
(なお、当方は別に政治的主張をしたいわけでは無く、あくまでも会計・財務的な話をしたいだけですので、ご留意ください。)

同様に配当性向も見ていきます。
配当性向は「配当金支払額 ÷ 当期純利益 = 配当性向(%)」で計算されます。

2018年7月14日 日本経済新聞「配当性向 3割どまり」より

この通り、配当性向は30%超で安定推移しています。
(配当性向があがったのは、企業の純利益が下がったリーマンショック、東日本大震災の時です。ようは利益が下がる中、配当金は可能な限り維持している、という状況においてです。)

こうして見ると、よく語られる指標においては、バランス良くお金が使われているようには見えますね。
(本当に、日本全体マクロ感で、お金がバランス良く使われているのかどうかは、流石に知りません。)


以上、「内部留保」に関して、解説してきました。

これらを踏まえた上で、「内部留保」課税の話が論じられるならば、それはそれで良いかと思います。
「内部留保」課税は、理論的には可能ですし。
「内部留保」課税の問題点に関しては、別の場所で気が向いたら書いて見たいと思います。

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ニチイ学館によるMBOの解説

5月からニチイ学館によるMBOの話題がチラホラ飛び交う状況が続いていました。
そして、8月18日にMBOの完了が公表され、ニチイ学館は上場廃止になることが決定しました。
今回は、㈱ニチイ学館によるMBOについて解説していきます。

構造自体はシンプルなのですが、まあまあ大きな話となってしまっています。

なお、当方も全ての資料を収集しきり、また完全な理解をもって記載したものではありませんので(当然の話)、内容に認識の誤りや、数字の相違があるかもしれないことはご留意ください。
また、基本的に、当事者たちを批判したい話でも無いこともご留意ください。

スキーム概要

全体のスキーム概要は下記の通りです。

  • ベインキャピタルにより買付会社設立(株式会社BCJ-44):資本金270億円
  • LBOスキームによりメガバンク3行と野村キャピタルから986億円(上限)を調達
  • TOB実施(TOBに応じた対価で創業家は相続税を支払う)
  • TOB取得株、創業家資産管理会社株、新株予約権を株式併合
  • スクイーズアウト実施、㈱ニチイ学館を㈱BCJ-44が100%子会社化(今回のMBO一連が完了)
  • ⇒ 再度の上場を目指す

大枠としては、ファンドも創業家も資金を出す銀行も、そして株価が低い時期に買った多くの株主も、公平性観点で偏りはあるにせよ、大多数の登場人物が利益を得られる物となっています(そのはず)。
(悲哀を見るのは従業員と、株価が相当高かった時期からの株主でしょうか。。。)

前提条件の解説

いくつか、前提条件を提示し、簡単に解説をしていきます。

まず入り口の大前提ですが、事の発端は創業者である寺田明彦氏が2019年9月28日に死去(83歳)されたことに発します。
ようは、莫大な財産の相続対策、ということですね。

MBOの条件概要

公開買付者:株式会社BCJ-44(ベインキャピタル系列)

買い付け期間:2020年5月11日~2020年6月22日

⇒ 幾度かの条件変更を経て、最終的に2020年8月17日までに延長される

買い付け価格:1株1,500円

⇒ 最終的に1,670円に変更される

買付予定数の下限:27,586,100株(ここを下回るとMBOは実行されず成立しない)

⇒ 約67.2%の確保をMBOによる目標と設定している

(参考)※新株予約権を含めると煩雑になるのと本筋でないので省略
発行済株式数 73,017,952株
自己株式数 7,682,005株
差引 65,335,947株

買付予定数の下限 27,586,100株
買付対象外の創業家資産管理会社「㈱明和」の所有株数 16,303,849株

(27,586,100株 + 16,303,849株) ÷ 65,335,947株 = 約67.2%

この通り、MBOにより67.2%を確保することを目標としている

大株主の状況

2020年3月期有価証券報告書より

㈱明和は創業家の資産管理会社です(24.95%)。
寺田姓は創業家です(大株主の状況内にあるもので16.86%:他にもあるかもしれない)。

下の方に、「EffissimoCapitalManagementPte.Ltd.」(以下、エフィッシモ)(11.40%)とあります。
これは、大株主の状況内には記載されていないものの、「大量保有報告書」というオフィシャルな公開書類により判明されている株主の情報になります。
創業家資産管理会社に次ぐ、大株主に該当することになります。

今回のMBOは、下記の構成により進行する形となります。

  • 買い手グループ 42%超
  • エフィッシモ 11%超(最終的に、個別の優遇条件で取り込まれた)
  • その他(個人投資家含む) 47%弱

MBOは67.2%で成立しますので、入り口の段階では、約25%の株式を確保できれば、MBOは達成、という状況でした。
(最終的にエフィッシモは買い手グループに取り込まれたので、約14%の確保がゴールラインとなる。)

取締役

㈱ニチイ学館 第48回定時株主総会招集ご通知 より

ここでご確認いただきたいのは、候補者番号8にある杉本勇次氏です。

経歴にある通り、ベインキャピタルの方になります(日本の代表者です)

さて、今回のMBOの公開買付者ですが、再度確認すると次の通りです。

公開買付者:株式会社BCJ-44(ベインキャピタル系列)

過去業績の推移(セグメント別)

こちらは㈱ニチイ学館のセグメント別の業績推移です(単位は全て百万円)。

教育事業を見て下さい。
黒字だった時期があったものの、ここ8年程、ずっと多額の赤字を出しています。
この10年合計で約350億円の赤字です。

冷静に考えれば、「もう教育事業は辞めよう。」となるはずで、実際、株主からは事業撤退の意見・要望が長年出ていました。

そして、2019年になってようやく教育事業から撤退するという話になり、2020年3月期の株主総会で定款からも教育事業の文言が削除される運びとなりました。

㈱ニチイ学館 第48回定時株主総会招集ご通知 より

これで、ようやく膨大な赤字事業が無くなり、会社としての価値もあがっていくぞ、と期待された矢先でのMBO、というのが今回の状況です。

株価の推移

ヤフーファイナンスより ㈱ニチイ学館のここ10年の株価推移

さて、上述の通り、赤字事業が無くなる期待の元、株価が上昇しました。
(この10年、鳴かず飛ばずの状況が続いていたことがわかります。)

しかし、もう痛いほど世界で認識されている通り、新型コロナウイルス影響を受け、株価が急落してしまいます。

今回のMBOの提案価格(買い付け価格)は、新型コロナウイルス影響を受けて下落した株価が前提となって、提示されたものとなっています。

状況の説明

発生していた問題

MBOは、簡単に言うと会社の経営陣が会社の株式を買い取って、経営権(会社の所有権)をグリップしよう、というものです。

それで、㈱ニチイ学館の経営陣は「私達MBOをするので、株主の皆様、是非応募してくださいね。上場も廃止する形になりますからね。」と言っています。

なお、MBO自体は決しておかしな話では無く、株式市場・資本市場が認めている手法、選択肢の一つです。
ですので、上記の経営陣のメッセージ自体は悪いことでは何も無いです。

では、何が問題になったのでしょうか?

それは次の3点です。

  1. 利益相反の問題
  2. TOB価格の設定の問題(安すぎる)
  3. 株主の権利としての公平性の問題

利益相反の問題

上記で記載した通り、社外取締役にベインキャピタルの杉本勇次氏が入っています。
その中で、今回のMBOの登場人物としてベインキャピタル傘下にある今回設立された会社が買付者として立っています。

これは、利益相反なのでは?手続の公平性に欠けるのでは?という指摘があって当然の内容で、実際に指摘されているわけです。
入札があって、決定されたのでは無いのですから、然るべき指摘と言えますね。
(まあ、プロフェッショナルの業務を入札で決めて良いのか?という別の疑問はありますが。実際、この状況下でMBOをまとめたベインは、やはり流石という印象ですし。)

加えて、取締役として独立性のある役員は2名だけです。
(独立役員は3名だが、杉本氏は特別利害関係者になるため2名となる。)

他の取締役の方々は、報酬や地位を盾にされたら、今回の案件に対して疑義を出すことは難しいでしょう。
意思決定が株主の利益のために行われる、ことが全く期待できない状況なわけです。
(そもそも、今回のMBO自体が創業家の相続問題があるわけですし。ついでに言うと、公開買付に応じた創業家の方は、相続税の支払いの後、残ったお金で再投資して大株主の座を取り戻すことも可能です。)

香港ファンドのリム・アドバイザーズは次のようなコメントを出しています(質問状参照)。
中々、強烈な正論です。

ただでさえMBOには利益相反が内在しますが、資金提供者が取締役の座にある本件は異例です。
取締役10名のうち8名を買い手グループと上席経営陣が占めており、独立取締役は2名だけ。
公正性を担保することで、買い手グループが取締役会に影響を与えているのではないか?という疑いを払拭するべきですが、本指針が推奨するマジョリティ・オブ・マイノリティ条件は設定されず、マーケット・チェックもありません、特別委員会に資する独立したアドバイザーも不在で、フェアネス・オピニオンを取得しておりません。

TOB価格の設定の問題(安すぎるのでは?)

当初の買付価格は1,500円です(最終的に1,670円になる)。

それでは、MBOの公表後(5月8日)、株価がどうなったのか?というと次の通りです。

ヤフーファイナンスより ㈱ニチイ学館のここ10年の株価推移

5月8日以降、1,500円の応募に対して株価が高く推移していますね。

これは、ちょっとTOB価格安すぎるんじゃないの?という疑問や、
他の会社がTOBに名乗りをあげるんじゃないの?という期待感が、株式市場からは持たれた形になります。

TOB価格が安すぎるのでは?というのは当然の話で、2点程指摘できます。

上述のセグメント別利益を思い出して欲しいのですが、教育事業はここ10年で約350億円の赤字を出しています。
この教育事業から撤退し、ようやくこれからだ、という状況だったのが1点。

もう1点が、新型コロナウイルス影響を受けて株価が下がっている状況をベースにTOB価格が決められている風だったという点です。

ようは、もっと会社の潜在価値は高いでしょ?というのが株式市場、投資家達の考えだったわけです。
(TOB価格より上の価格で推移することは、通常はあまり見られない、比較的珍しい現象です。)

先述のリム・アドバイザーズは次のようにコメントを出しています(質問状参照:上述質問状と同リンク)。

リム・アドバイザーズが算定したニチイ学館株の公正価格は本通知の公開買付価格1500円を60%上回る2400円ですが、
(中略)
MBOで用いたレバレッジド・バイアウトによる分析も確認できませんでした。
同手法で分析すると、公開買付者の内部収益率(IRR)は4-5年間で46% – 57%。
経営陣の保守的な予測を前提としてもです。
これは、少数株主も享受すべき利益であると考えます。
市場分析手法では、新型コロナウイルスに伴う不安感が引き金を引いた相場暴落という特殊事情が反映されておりませんし、類似会社比較法に引用したサンプルの適格性にも疑問があります。
ディスカウンテッド・キャッシュ・フローでは、経営陣の保守的な予測が算定の発射台です。

株主の権利としての公平性の問題

さらに加えて、エフィッシモの動きの問題があります。
冒頭の方で示した通り、エフィッシモは11%超(正確には変動しているの株を保有し、資産管理会社に次ぐ2番目の大株主の立場となっていました。

結論として、エフィッシモは買い手グループに取り込まれた形になります。

ニチイ学館の出した適時開示では次のようにあります(関係の無い括弧書きは筆者が削除した)。

2020年7月31日付で、エフィッシモ(所有株式数:8,321,700株、所有割合:12.64%)から、エフィッシモが自ら又はECMMaster Fundを通じて所有する対象者株式の全部(8,321,700株、当該応募株式の所有割合:12.64%。)について本公開買付けに応募し又は応募させた上で、ECMMasterFundをして、本公開買付けに係る公開買付期間の末日の翌営業日前までに、本公開買付けの成立を条件として、株式会社BCJ-43の発行する無議決権株式を引き受けさせる旨の確約書の差入れを受けており、また同日付で株式会社BCJ-43及びエフィッシモは、当該無議決権株式の引受けに係る引受契約書を締結しています。

(まあ、資本市場では当然の話ではあるのですが)大口優遇と批判されても仕方が無いでしょう。

リム・アドバイザーズは、上のエフィッシモ優遇を受け、次のようにコメントを出しています。
(太字網掛は筆者が付した。中々見ないワードが使われています。)

リム・アドバイザーズは、エフィッシモ・キャピタル・マネジメント(「エフィッシモ」)が公開買付けに応じる見返りに特別な取引条件を与えられていることに驚いています。
公開買付者は、エフィッシモとの間で、非上場化後のニチイ学館への再投資を目的とした契約を別途締結することにより、一部の投資家に対して、他の投資家とは異なる取引条件を提供することになります。
公開買付者が他の少数株主に対しても同様の投資機会を提供していない理由は不明です。
しかし、明らかなのは、非上場化後のニチイ学館への再投資を選択することで、エフィッシモは、ニチイ学館の長期的な価値が修正公開買付価格を大幅に上回っているというリム・アドバイザーズの評価に同意しているように見えることです。

一連の流れの中で

何度も登場しているリム・アドバイザーズは、次のような要望をニチイ学館に書簡として出しています。
まぁ、ド正論です。

  • 公開買付期間の延長を要求する
  • 買収の条件を変更し、マジョリティ・オブ・マイノリティ条件に設定するように要求する
  • 助言を提供し、かつ、フェアネス・オピニオンを述べるため、特別委員会が独自の財務及び法務アドバイザーを採用することを認めること
  • デロイトの評価の背景にある前提条件を見直すこと、特に、合理的な組織再編の前提を考慮に入れるため、経営陣の予測について見直しを求める
  • 当社が合理的かつ公正だと計算した1株当たり2,400円を考慮し、提示価格について、より公正な価格を交渉する

ベアリング・プライベート・エクイティ・アジア(BPEA)も、MBO期間中、TOB価格2,000円の提案を出したとのことです。
(複数回に渡って、書簡の形で出したとのことですが、ニチイ学館はベインとの契約上、無視した形になります。)

なお、BPEAの流れがスクープされたのは、創業家のひとりが疑義を抱いたからだ、という話もあります。
現代ビジネスの記事では次の通りの記述があります。
義憤に駆られてスクープしたのか、それとも、相続争いの中で不利益な扱いを受けた親族が嫉妬の感情で申し立てたのかは流石にわかりませんが。

この水面下のアプローチが表面化したのは、創業家のひとりが、「MBO決定プロセスや低過ぎる公開買付価格に不信感を持っています」として、文書を作成のうえ、BPEAの「2000円でのアプローチ」を日経ビジネス記者に伝えたからだ。
冒頭のように、それが17日早朝、スクープ配信された。

株価の動きや、諸々のごたごたの結果として、MBO期間は何度も延長され、買付価格も1,670円に落ち着く形となりました。

結果、そしてこの後に何がおきるか?

8月17日にMBOの期間が終了し、成立ラインである67.2%を大きく上回り、82%をとった形で終了となりました。
(個人投資家にとって、応じる以外の選択肢は無かったでしょう。ここで頑なになっても意味はあまりありません。)

ファンドと㈱ニチイ学館の創業家(と資金を出す銀行)にとっては、おめでとうございます、という感じです。

この後に起きる事ですが。

これはMBO実施の公表の段階で示されていた話ではあるのですが、10月予定の臨時株主総会で次の2点が上程・決議されます。

  1. 株式併合(おそらくですが、株式50,000,000株以上が1株にまとめられる)
  2. 単元株の廃止(MBOに賛同しなかった株主の株を強制的に買い取る措置)

これにより、MBOに応じなかった株主の株式は、全て1単元未満の「端株」という扱いになります。
そして、この「端株」は裁判所に申し立てて(端株相当株式任意売却許可申立事件)、強制的に買い取られてしまう形になります。
(財産権というものがありますので、通常は強制的に他人の物を買い取ることはできないのですが、上記の場合は、裁判所の許可を得ることにより、合法的に実行することができます。これが会社法上の決まりです。)

これは、スクイーズアウトと呼ばれる手法で、MBOを実施した側がトータルで100%の株式を保有することができます。
何年後かに、㈱ニチイ学館は再度上場を目指し、ベインや創業家、エフィッシモは利益を取る事を計画しているのでしょう。

(参考)時系列

2019年9月28日 保育総合学院(現ニチイ学館)創業者である寺田明彦氏(83歳)が死去する(相続上の問題の発生)

2020年5月8日 ㈱ニチイ学館によるMBOの公表(TOB期間 5月11日~6月22日)

2020年6月11日 香港リムアドバイザーズが質問状を公開

2020年6月16日 香港リムアドバイザーズがTOB期間延長と公開討論を求める意見を公表

2020年6月22日 ㈱ニチイ学館がTOB期間を延長修正(価格変更は無し) ~7月9日まで(リム社はこれを歓迎)

2020年7月9日 ㈱ニチイ学館がTOB期間を延長修正(価格変更は無し) ~8月3日まで

2020年7月22日 リム・アドバイザーズがニチイ学館に新たな書簡を送付

2020年7月31日 ㈱ニチイ学館がTOB期間を延長(価格変更は無し) ~8月17日まで
TOB価格を1,670円に引き上げ、エフィッシモに優遇条件、の一連を公表

2020年8月3日 リム・アドバイザーズが条件変更に対して遺憾を表明

2020年8月17日 「ベアリング・プライベート・エクイティ・アジア」の報道否定、MBO期間の終了

2020年8月18日 MBO完了公表

2020年10月頃 臨時株主総会(予定)


今回の起きた諸々のことは、大前提としてルールに則った話であり、筆者もニュートラルな立場です。

大枠のスキームは冒頭の通りで、大多数の登場人物にとって得をする話ではあります(偏りはありますが)。

今回のMBOは株式市場を軽んじる行為のようにも見えますが、仮に異議があるにしても、より高い価格でTOBを仕掛ければ良いだけの話です。
また、莫大な財産を持っていた創業者がお亡くなりになった段階で、このようなことが起き得ることは投資家としても視野にいれておかねばならない話ではあります(あるある話なので)。

ようは、相続問題の中、MBOという合法的なインサイダー取引が行われており、それに対してアクティビストがこれも正当な形で文句をつけていた、というシンプルな構図です。

なお、参考までですが、こちらも。
これは経産省が出している、「公正なM&Aの在り方に関する指針」です。
香港リム・アドバイザーズが指摘していた諸々の問題点に関して、指針としてまとめている資料になります。
ここに書かれている内容を、まあキレイに無視・スルーを決めているので、その意味では面白いな、と感じます。

結構なボリュームになりましたが、これで以上です。

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鳥貴族の回復が他居酒屋より早い理由

当サイトでも触れていますが、外食産業が新型コロナウイルス影響は甚大なものです。
特に、居酒屋系業態のダメージは著しく、直近2020年7月でも前年比50%前後の所が多いです。
一方、鳥貴族は回復が早く、既に前年比約77%にまで回復しています。
そのポイントは何なのでしょうか?

~参考~

居酒屋売上高前年比

まず、居酒屋3社の既存店売上高前年比推移をご覧ください。

この3社は例ですが、他の会社も概ね3月~5月は大きく落ち込んで、6月7月で少しずつ回復している、という推移です。

その中で、鳥貴族の回復は著しく、2020年7月では76.8%の着地となりました。
これは、非常に凄い事だと感じます。
(それでもまだ76.8%なのですが。。。)


参考までに、居酒屋、ディナー系レストランを含む多業態系の会社の既存店売上高前年比推移も示しておきます。
やはり、多業態系はリスクヘッジの観点では良いのですね。

鳥貴族は顧客満足度が高い

鳥貴族は元々、顧客からの支持が強い会社でした。

こちらは「居酒屋チェーンの総合満足度評価」です(2020年8月公表)。

こちらは「低価格が魅力的な居酒屋チェーンランキング」です。

FNN gooオンライン調査 「1位は均一価格にこだわった「鳥貴族」! gooランキングが「低価格が魅力的な居酒屋チェーンランキング」を発表」より

このように、複数のアンケート調査で高評価を得ているのが鳥貴族です。

(なお、別に回し者では無いです。)

付け加えると、㈱鳥貴族は、早々に全店休業を行うなど、誠実性の高い対応を行っています。
(臨時休業対応は、結局、緊急事態宣言が明けるまで継続されました。)

㈱鳥貴族 リリースより

何が支持されている?

それでは、どのような点が顧客から支持されているのでしょうか?

前述のアンケート調査の本文を引用してみましょう。(強調は筆者)

1位には、創業以来「均一価格」にこだわり、焼き鳥はもちろんドリンクも含めて298円(税抜)で食べられる「鳥貴族」が輝きました。
2017年に「280円均一」から「298円均一」へと値上げが行われましたが、国産鶏肉を使用した大ぶりな焼き鳥やつくね、手羽先がお財布に優しい価格で食べられるのは居酒屋好きには何ともうれしいですよね。
すぐに出てくる「スピードメニュー」の枝豆やキャベツもとことん品質にこだわるなど、手抜きをしないところに人気の秘密がありそうです。

低価格が魅力的な居酒屋チェーンランキング

なるほど、低価格、均一価格、加えて国産鶏肉を使用、という所がポイントなのだそうです。
確かに、コロナ不況の今、お財布に優しい、明瞭会計なのは消費者心理的にありがたいでしょう。

別の記事では「コスパ最強」というようなタイトルもつけられています。

さらに別の記事では、店舗で肉をカットし、手打ちで串を準備している様子も掲載されています。

NHK 鳥貴族 “驚き”で逆風に立ち向かう より

さらに付け加えると、「串モノ」という点もあげられると考えられます。
普通の居酒屋では、料理が一つの皿に盛り付けられており、取り分けて食べるのが一般的です。
一方、串料理は取り分けが必要ないので、ウイルス感染のリスクが低いことが指摘できます。

これらをまとめると、次の3点がポイントかと考えられます。

  • 低価格で298円均一でコロナ不況でも財布に優しい
  • 高品質で高コスパ(国産鶏肉を手打ち)
  • 串単位で食べられるので感染リスクも低い(とりわけ不要)

ようは、長年、真面目に営業をされてきており、元々支持されていると。
そのような状況で、時世にあった商品をたまたまだけれども提供できている、という点が今回の回復の早さにつながっているものと考えられます。


2020年8月24日の日経新聞記事(外食の客足、復活の3条件 全国1万店データ分析)によると、下記の3条件が客足が戻るのが早いということです。
確かに鳥貴族は、ビジネス街だけでなく住宅街にも展開していますし、少人数対応していますね。
(原則、ランチは実施していないようですが。)

  • ランチ
    住宅街立地
    少人数

一方、店舗休業を小出しにしたりしてきたチムニーは、むしろ直近の数字の方が落ちています(冒頭のグラフをご参照ください)。
(なお、チムニーは、過去に株式市場を混乱させた案件があったりします。)

悪く言うのは忍びないのですが、経営における誠実性が数字に表れた結果なのだと、両社を眺めていて感じます。

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UberEats買収検討報道(事実無根?)を受け出前館について考えてみる

出前館によるUberEatsの買収検討報道がありました。
出前館からは「事実無根」とのリリースがあり、言葉の使い方からして、無いのだろうな、と思います。
それはそれとして、報道を受け、出前館の状況について考えてみました。

出前館によるウーバーイーツ買収報道

まず最初に、出前館によるウーバーイーツ買収報道を見てみましょう。

(ブルームバーグ): 19日の東京株式市場で、コロナ禍で急成長するデリバリー大手の出前館が人気化している。ウーバーイーツに対し買収案を検討しているとの報道がきっかけで、出前館が圧倒的な国内シェアを獲得し事業規模をさらに拡大するとの期待が先行している。
(中略)
テレビ東京のワールドビジネスサテライトが18日深夜にウェブサイトで報じていた。

8月19日(水)ブルームバーグ「話題株:出前館が人気、ウーバーイーツ買収報道で規模拡大の期待」より

ふむ。なるほど感のある書きっぷりです。

一方、出前館は8月19日付けで当該報道を次のように否定しています。

㈱出前館 適時開示より

この文章ですが、「実は話が出ているけれど」という状態の場合は、例えば「検討の事実はない」、ある程度検討が進んでいて一定の実現性があるものは「当社が公表したものではありません。」だけになったりします。

「事実無根」という強いワードを使うからには、本当に無いのだろうな、という印象を受けます。
(実はありました、とかだったら面白いですけれどね。)

ただ、WBSが出している図式を踏まえると、そのような話がでても納得できると言えばできますね。

出前館の業績

さて、出前館の業績を見ていきます。

2020年8月期の第3四半期決算の決算短信です。
まさに新型コロナウイルス影響下にある状況での数字です。

デリバリー需要があるはずなのに、16億円の営業赤字を出しています!
これはどういうことでしょう。

これは上で出したWBSの図式が影響しています。

実は出前館は2020年4月にLINEの子会社になっています(出資&役員派遣)。
ニュースリリースでは直接・間接含め、約61%の株式を保有していることになります。

ようは何が言いたいか、というと、上場会社らしい安定したオーガニックな成長ではなく、ベンチャーっぽいガンガン攻めた投資&成長を行っていこう、という戦略に切り替わったわけです。

これは、コロナ影響を受けていない2020年8月期2Qの決算説明会資料からもうかがえます。
(下記の通り、明確に「営業利益は戦略的投資により989百万円の赤字」と記載があります。下の方の(参考)も参照ください。)

次の図は、いわゆるサブスクリプション・モデルにおける成長ラインの図なのですが、これはサブスクリプションに限らず、ベンチャービジネスにおいて、よく描く曲線です。
赤字を出しても構わずガンガン積極的に投資して、早々にとれるマーケットをとってしまおう、という考えです。
獲得しているマーケットが大きければ大きいほど、損益分岐点的に有利な状態であり、その状態で投資を抑制すれば、後は利益を圧倒的に出せるビジネスにすることができます。
これが、ベンチャービジネスの基本的な考え方ですね。

「サブスクリプション」より

出前館は、それこそウーバーイーツと競合しており、そして今回のコロナ影響もあり、デリバリービジネスのマーケットは急拡大しています。
今この状況は、赤字など気にせず、可能な限りの投資を行い、成長に振り切ることが最適なのです。

(その意味で、ウーバーイーツを買収し、マーケットを一気に抑えよう、という発想自体は決して間違ってはいないです。)


(参考)㈱出前館 2019年8月期 有価証券報告書より 5期業績推移

下記の通り、過去は安定して利益を出して行くスタイルでオーガニックに成長してきた。
アグレッシブな投資スタイルは、2019年8月期から。
このタイミングから売上高成長率が急激に伸びている(20%超)。

それでは、出前館VSウーバーイーツの構図は?

それではここで、ウーバーイーツと状況を比較してみましょう。

ユーザー数

出前館は、4月からこの直近8月までで、ユーザー数を次のように伸ばしています。

約46万 ⇒ 約103万(223%成長)

一方、ウーバーイーツは4月からこの直近8月まででのユーザーは以下の通りです。

約92万 ⇒ 約113万(122%成長)

ユーザー数はまだウーバーイーツが多いものの、成長率は出前館が圧倒的ですね。
(出典は、前述ブルームバーグ記事「話題株:出前館が人気、ウーバーイーツ買収報道で規模拡大の期待」より)

この伸び率を考えると、無理してウーバーイーツの確保しているマーケットを無理して取らなくても良いようには思えます。

加盟飲食店数

次は加盟飲食店数です。

出前館は2.4万店に対し、ウーバーイーツは3万店となっており、まだまだウーバーイーツが上です。

出典:2020年8月14日日経産業新聞「コロナで苦境、外食の救世主、フードデリバリー腕競う、高級有名店に的、配達員の質向上。」より

ただこれも、出前館の成長率を考えれば、すぐに追いつき、追い越せそうな数字ではあります。

消費者の利用動向

こちらは、MMD研究所×スマートアンサー調査による、「最も利用しているフードデリバリーサービス」のアンケート調査です。

デリバリーと言えばウーバーイーツというような印象がどうしてもあります。
これまでデリバリーサービスを頻繁に利用してこなかった消費者が、今回の新型コロナウイルス影響下において、どのサービスを利用したかというと、ウーバーイーツだった、という状況なのでしょう。

出前館もアプリもあり、Webからの注文もできるので、後はマーケティング活動次第です。
これは、広告宣伝費投資を予定しているから、一定、時間の問題と言っても良いかもしれません。

ただ、こちらの画像を比較してください。
両社のWebサイトです。

こちらが出前館。

こちらがウーバーイーツ。

(好みの問題もあるでしょうが)どうしても、ウーバーイーツの方が垢抜けている感があります。
まだ、諸々、改定中なのでしょうが、パッと見の印象からしても、ウーバーイーツの方が良い感を持ってしまうので、もっと洗練化を行った方が良いようには思います。

ウーバーイーツのレピュテーション的なもの(ビジネスモデルの差)

これまで見てきた通り、現状は先行しているウーバーイーツを、出前館が急速に追い上げている状況、と言えます。

一方、先行のウーバーイーツは様々なレピュテーション的な問題を抱えています。

  • 配達員の事故や事件
  • 商品配達自体の質のバラつき
  • 業務委託というグレー寄りの雇用形態
  • 本社問い合わせの対応の悪さ

出前館は配達拠点を設けて、一定の質の担保を行って配送しており、上記のようなレピュテーション的話題は出てきません。

その意味からも、店舗と配送網を取れるから、と言っても無理して買収する旨味は、見方によっては無いと判断しても差し支えはないでしょう。


以上、簡単ですが、出前館の状況を見てきました。

成長率や直近のウーバーイーツのレピュテーション的なものを考慮すると、本当に近い内に出前館がウーバーイーツを追い越しても、全く不思議ではない印象です。

継続して高関心事項としてウォッチしていきたいと思います。

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経営企画

クイズの解答、そして管理会計上のポイント抽出~管理会計基礎講座⑩~

前回のクイズ、いかがでしょうか?
今回は、クイズの解答と解説と共に、ここから管理会計上のポイント抽出に関して話をしていきます。

前回はこちらです。

クイズの解答

まず、PLを見てみましょう。

ここから言えることは、例えば次のようなことをあげられます。

  • 売上高約5,000億円規模の大企業
  • 原価率が高い(60%超)
  • 「給料・手当」と「業務委託費」を別掲している、ということは「人」が重要?
  • 収益性が高い(安定的な経営をしている)

次はBSです。

ここからは、次のことを言えますね。

  • 現金が約3,000億円規模であり潤沢
  • 受取手形・売掛金の規模が売上高に対して小さい ⇒ BtoCっぽいぞ
  • 棚卸資産の割合が原価率から比較できる金額に近しい ⇒ 物を売っているのは間違いない
  • 建物・構築物の方が機械装置・運搬具より圧倒的に大きい ⇒ 製造業では無さそう???
  • 土地を、それも結構な広さの規模で持っているっぽい
  • 無形固定資産は小さいからデジタルサービスはやっていても規模が小さそう
  • 負債サイドは資産に比較して小さく安定的、自己資本比率も高い

最後にCFです。

ここからは、次の2点を例えばですが、あげられるでしょうか。

  • 有形固定資産、おそらく建物・構築物への投資をガンガンやっている様子
  • キャッシュ・フロー全体像から見て高安定性の大企業

これらを整理すると、この会社の特徴は次のようになります。

  • (ヒントの)日本人ならほぼ知っている
  • BtoC
  • 物販はやっている
  • デジタル・サービスは比率が小さそう
  • 「人」が重要
  • 製造業ではなさそう
  • 建物・構築物のウェイトが圧倒的、投資も積極的
  • 広い土地を持っている
  • 売上高5,000億円規模の大企業で経営も安定的

さぁ、ここまで見てどうでしょうか?

結論を言いますね。

株式会社オリエンタルランド、つまりディズニーランドです。

解答を聞いて、改めて上記の特徴を見てみて下さい。
「なるほど」と思いませんか?

管理会計上のポイント抽出

それでは、会社の名前と会社の特徴をあげられた所で管理会計上の㈱オリエンタルランドはどのような点について重視して見ていけばよいのか、考えてみてみましょう。

売上面について考えてみる

まずは売上面、つまりPL面について考えてみましょう。

最初にビジネスの全体像を考えてみます。
ディズニーランドでは、どのようなサービスを提供していますか?

  • テーマパーク
  • ホテル
  • 物販
  • 飲食

ざっくりとこの4つの事業があるとイメージできます。

この内、テーマパークに絞って深掘り思考してみます。

テーマパークにおける売上高は、ざっくりとですが「客単価 × 客数」で表現できます。

この点は㈱オリエンタルランドの決算説明会資料でも確認できます。

㈱オリエンタルランド 2020年3月期決算説明会資料より

資料上は「入園者数 × ゲスト1人当たり売上高」で表現されていますね。
(ゲスト1人当たり売上高の中に、商品販売収入と飲食販売収入が含まれているので、上であげた4つの事業の内、物販と飲食は、テーマパーク事業としてカウントされているようです。)

つまり、ディズニーランドというビジネスを運営していく上では、如何に1人でも多くのお客様に来場いただくか、そして、如何に1円でも多くお客様にお買い物をしてもらえるか、が重要になるわけです(後はチケット料金の値上げ)。

そして、例えばですが、如何に1円でも多く、の部分に関しては「一回の来園で長く滞在してもらえれば、使うお金も増えるはず」という仮説が考えられます。
そこから、滞在時間、という管理会計上のKPIが候補として考えられます。
実際、㈱オリエンタルランドでは、「平均滞留時間」という指標をトラッキングしているようです。

(ファクトブック本体では、結構な過去から直近年度まで集計されていますが、横尺が長いので、一部だけの貼り付けにしています。)

㈱オリエンタルランド 2020年3月期ファクトブックより

チケット収入に関しては、基本的に据え置きになり、後はお客様との需要と供給の関係で、計画的に値上げをできるか、というようなイメージになるかと思います。
実際、チケット料金に関して、年次別に如何に値上げを行ってきたのか、の推移が示されています。

㈱オリエンタルランド 2020年3月期ファクトブックより

これらは、ほんの一部ですが、事業の特徴から管理会計上、「こう言う所を見れば良いはずだよね」という点を抽出することができるのです。

施設面について考えてみる

次に施設面、つまりBS面について考えてみましょう。

テーマパークビジネスをやっている以上、いつまでも同じ施設のままではお客様は飽きてしまいます。
施設は常に増やすか、更新するかをしていかなければならないはずですね。
(加えて、BS上、「建物及び付属設備」の科目が非常に大きいウェイトを占めていることを忘れてはいけません。)

実際、次のようにアトラクション数、商品施設数、飲食施設数を指標として持っていることがわかります。

㈱オリエンタルランド 2020年3月期ファクトブックより

そして、投資の計画に関して、次のような計画をもって進行していることもわかります。

㈱オリエンタルランド 2020年3月期決算説明会資料より
㈱オリエンタルランド 2020年3月期決算説明会資料より

実際のビジネスの現場では、開発のマイルストン、開発計画の進捗、投資に対してのリターン(集客効果等)などを設定して管理している事が想像できます。

その他的まとめ

上記のポイント抽出は、ほんの一例です。

ここで言いたいのは、PLやBS、そしてCFから、会社の絵姿をイメージでき、そこから管理会計上、「こう言う所を見れば良いはずだよね」という点を抽出できる、ということです。

この点を踏まえて、決算資料を見てみると、違った見え方があるかもしれません。

決算資料として、決算説明会資料のリンクはこちら。

ファクトブックのリンクはこちらです。

なお、これだけ多額の投資を行うビジネスである以上、財務面の管理も行わなければいけません。
財務面の管理に関しては、どのような面で見ればよいか、考えてみて、その上で上記2つの資料内でどのような指標を持って見ているか、探してみて下さい。


繰り返しますが、財務3表は非常に重要な資料で、PLやBS、そしてCFから、会社の絵姿をイメージでき、そこから管理会計上、「こう言う所を見れば良いはずだよね」という点を抽出することができます。

次回以降は、いくつかのテーマを設定し、テーマ毎に管理会計上の指標やポイントについて見ていきます。
なお、更新は9月以降を予定しています。

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