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サブスクリプションの管理会計各論~インサイドセールスとは?~

これまでTHE MODELにおける4つの役割として、インサイドセールスという言葉を使ってきました。
今回は、外勤型のフィールドセールスに対して、内勤型営業と理解されがちな、このインサイドセールスという役割について概説します。

インサイドセールスとは?

一般的に営業というと、どのような仕事の仕方をイメージするでしょうか?

おそらく大多数の方は、外回り、見込顧客や取引先の所へいくつもまわって商談を行い、成約を取り付ける。
そのような、いわゆる“外勤型営業”を思い浮かべるのではないかと思います。

この外勤型営業、THE MODELロールにおいてはフィールドセールスと呼ばれる営業形態ですが、良い所も多数ある一方、効率面においては大きな弱点を抱えています。
一人のフィールドセールス担当者が対応できる顧客の数には、当然に制限がある中、仮に見込顧客の発掘からクロージングに至るまでの全ての活動を行う事は、非常に非効率と言えますね。
(この非効率には、情報共有の観点でもそうですし、顧客の購買・意思決定プロセスの長期化・複雑化による、セールス活動そのものの非効率化も指摘できます。)

この非効率を解消したい、というニーズがある中、営業の分業化は進んできたわけですが、近年、インサイドセールスという形で新たな営業の形が誕生しました。
インサイドセールスは、電話をはじめとした、内勤にて対応できるツールを活用して行う営業の形態です。
(ITの発展により膨大な数の見込顧客に容易にアプローチできるようになった事や、企業間の競争が激化すると共に、ありとあらゆる分野で人手不足が発生している事が、この非効率の解消ニーズを高めました。)

近年は、インサイドセールスとフィールドセールスの得意分野の異なる営業形態を組み合わせて営業を行う事が増えてきました。

(参考)インサイドセールスのメリット

・効率的な営業活動を行いたい、というニーズのもとインサイドセールスという役割が誕生した
・面談の時間や移動時間が無い事や、ITの活用により、圧倒的に多い数の顧客にアプローチを行う事ができる
・フィールドセールスの成約率向上(確度の高い見込顧客のパス)が可能となる
・リードのリサイクルをはじめとした、ターゲット顧客の枯渇にも対応できる

インサイドセールスの役割

インサイドセールスの役割は、商談、つまりセールス部門としての役割もあるのですが、一方、マーケティング部門としての性格も帯びています。

リードナーチャリング

まず一つ、インサイドセールスの重要な役割として指摘できるのがリードナーチャリングです。

リードナーチャリングとは、潜在的にはニーズを抱えている見込顧客に対して、各種のマーケティング・セールス手法により、その潜在的ニーズを顕在化させ、購買意欲を高めていくプロセスの事です。
見込顧客の興味関心を育てる、という意味でナーチャリング(育成)という言葉が使われています。
なお、この見込顧客の事を、一般的にはリードと呼びます。

ナーチャリングの手法としては、展示会やメルマガ、セミナー、ホワイトペーパー、フォロー架電など、上述の通り各種のマーケティング・セールス手法が活用されます。

商談につなげられていないリードの掘り起こしや、失注案件・休眠顧客・解約顧客のリサイクルなども、このリードナーチャリングの内数と言えるでしょう。

(参考)ナーチャリングの手法

ナーチャリングの手法には、例えば次のようなものがあります。
マーケティングの手法ともだいぶ被りますね。

・展示会
・オウンドメディア/SNS
・メールマガジン
・ホワイトペーパー
・セミナー/ウェビナー
・フォロー架電

展示会への出展や、オウンドメディア/SNSでの露出により、顧客の自社理解・商品理解を進めつつ、メールマガジンなどで興味・関心を醸成する。
その後、ランディング・ページ経由でホワイトペーパーのDLやセミナー/ウェビナーへ誘導していき、確度の高い顧客に育てていく。
最後に、フォロー架電によりヒアリング等を通じながら、顧客との関係性を構築し商談化、クロージング担当にパスをする。

この流れが、基本的なインサイドセールスのナーチャリングの流れになります。

会社によっては、インサイドセールスが担当するナーチャリングの範囲を、フォロー架電に限定し、そこに特化している、というパターンも良く見かけます。

リードクオリフィケーション

もう一つ重要な役割がリードクオリフィケーションです。

インサイドセールスは、実際にクロージングを行う前の、いわばプレ商談を行う部署です。

つまりリードの興味関心・ナーチャリングの度合いを見極める役割をになっています。
この、ナーチャリングの度合いの見極めがリードクオリフィケーションです。

成約確度が高そうな案件は、すぐにでもクロージング担当に渡す事が求められます。
一方、そもそもとしてナーチャリングができるステータスに来ていないリードは、マーケティング部門に戻す事も同時に求められます。
ようは、優先順位付けです。

このように、マーケティング/セールス活動の分業化によって起きた、役割間をつなぐ仕事もインサイドセールスの役割という事ですね。

(参考)クオリフィケーションの考え方

リードの状態は大きく次の4つの状態にあると整理できます。

1)対象外:自社に対して明らかに興味関心が無い、予算やニーズなどが明らかにマッチしていない
2)潜在層:担当者レベルの情報収集段階、組織としては導入意志が無い
3)準潜在層:何かしらの課題があり情報収集を行っているが、組織課題や最適なソリューションが明確化されていない
4)顕在層:明確な意思に基づいてアクションを行っており、商品選定を進めている

この内、1)対象外の顧客に関しては、ナーチャリングの活動を行っても意味がありません。
リード未満であると判断して、マーケティング担当に戻すのが適切です。
逆に4)顕在層の場合は、即座にクロージング担当に引き渡すのが良いでしょう。
すぐにでも商品を導入したい、と考えている顧客かもしれません。

さて、この大枠の整理指針で考えるのも良いですが、担当者による属人化が進むというデメリットもあります。
このデメリットの解消法として、スコアリングを導入する方法もあります。

スコアリングは、例えば、メルマガを開封したら10点、リンクを踏んで資料DLしたら30点、問い合わせフォームで「説明希望」としたら50点、というような形で、リードの状態を定量化する、という方法です。

このスコアリングが適切か否かは組織によるのですが、膨大な数のリードが存在する場合は、機械的に対処する事も検討した方が良いでしょう。

インサイドセールスの2つのタイプ

なお、インサイドセールスの役割は、その切り口によってはSDRとBDRという2つのタイプで捉える事もできます。

SDR
(Sales Development Representative)
BDR
(Business Development Representative)
反響型新規開拓型
インバウンドアウトバウンド
SMB向けエンタープライズ向け
インサイドセールスの2つのタイプ

SDR(Sales Development Representative)

SDRは、一般的には「反響型営業」と訳されるインサイドセールスのタイプで、顧客側から商品/サービスを提供している企業に対して接触してきた案件に対して営業を行う形態です。
問い合わせフォームへの問い合わせ、ホワイトペーパーのダウンロード等が代表的な接点です。

基本的にはSMB(スモールビジネス:中小企業)向けです。

BDR(Business Development Representative)

BDRは、「新規開拓型営業」と訳されるもので、SDRとは逆に、企業側から顧客に対してアプローチし、案件化(商談化)に繋げていく営業の形態です。
新規架電、(物理的な)手紙の送付、(デジタルな)ダイレクト・メールの送信、等が代表的なアプローチ手法です。

基本的にはエンタープライズ(中・大企業)向けです。

会社によって、SDRとBDRを分けたり、一つのチームで実施したり、片方(主にSDR)しか実施しなかったりと、その方針はまちまちです。

インサイドセールスのKPI

インサイドセールスのKPI

サブスクリプション/SaaSのKPIの回でも説明したのですが、インサイドセールスの基本的KPIは有効商談化率です。

有効商談化率 = (案件化数)商談化数 ÷ リード数(見込顧客数)

後は、この有効商談化率を高めるためのナーチャリング手法やクオリフィケーションの考え方に基づいて、細かいKPIを会社毎に設計していく形になります。

オウンドメディア/SNSであれば、流入数やそこからのコンバージョン・レート
メルマガであれば、開封率クリック率
ホワイトペーパーDLであれば、DL率(コンバージョン・レート)。
セミナー/ウェビナーであれば、フォロー架電の継続率

こういったものです。

とは言え、一つ、確実に設定できる共通的なKPIがあります。

それは、行動量です。

インサイドセールスの役割は、大量のリードに対して、ナーチャリングなりクオリフィケーションなりで、マーケティングに戻したり、クロージング担当にパスしたりする事です。
このプロセスに必要な重要な事は、圧倒的な行動量です。
この行動量を施策毎に最大化・最適化していく事は、どのような形でインサイドセールス体制を構築しようが、避けてはいけない目標となります。

マーケティングとクロージング担当をつなぐ、という事への意識

さて、KPIを考える上で、もう一つ絶対に避けなければいけない事があります。

その絶対に避けなければいけない事は、部分最適化です。

非常にあるある話なのですが。
商談(や成約)というKPIを最大化したがために、「燃えた」案件をクロージング担当や、その先、カスタマーサクセスのプロセスに渡すという事が、サブスクリプション/SaaSビジネスでは良く見かける光景です。
はっきりと言って、これでは意味がありません。

これはインサイドセールスに限らず、の話なのですが、相互に連携し、情報交換を行い、会社全体としてのKPIの最適化を行う事が重要です。

THE MODELロールでのマーケティング/セールス体制を構築する際には、この点を従業員全員に認識いただく事は必須です。
特に、インサイドセールスに関しては、マーケティングとクロージング担当をつなぐポジションにいる、という事から、ある意味において最もこの役割を求められると言えるかもしれません。

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サブスクリプション/SaaSビジネス管理会計まとめ

こちらはサブスクリプション/SaaSビジネスの管理会計の記事まとめ集となります。

サブスクリプションの管理会計

こちらは概論となります。

サブスクリプションの管理会計各論

こちらは個別テーマごとに取り上げた各論になります。

演習問題

会計基礎講座

会計基礎講座のまとめ集はこちらです。

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サブスクリプションの管理会計⑤~KPIの開示例~

ここではサブスクリプション系の上場会社の開示資料を参照しながら、KPIの具体例を見ていきます。
サブスクリプション/SaaS系ビジネスのKPIは、だいぶ一般的になってきたのか、開示資料内においても掲載される例が増えていきました。

本稿では、これまでの説明を踏まえて、具体の開示例を見ながらKPIに対するイメージを掴んでいただければと考えています。

前回はこちら↓

収益性:ARR,ARPA

マネーフォワードは、次の通り年次単位でのARRを開示しています。

成長率も併せて示しており、伸び具合が明確にわかります。

株式会社マネーフォワード 2019年11月期通期決算説明会資料より

freeeはIPO時の成長可能性資料の中で、CAGRを示し、中長期での成長について説明しています。

freee㈱成長可能性に関する説明資料

チャットワークは、無料プランの数も多い事から、ID数について重要視して開示しています。

具体的にはDAU(※)と課金ID数の数字と併せて、登録ID数全体を示しています。
DAUと課金ID数の伸びは、確かに単独だと鈍い要素があるので、登録ID数と併せて示す事により、アップセル余地が大きい事を説明しています。

Chartwork㈱成長可能性に関する説明資料

※ DAU(Daily Active User)は1日に1度以上「Chatwork」を利用したユーザーID数のことであり、対象期間内での最大値

マネーフォワードはARPAの開示も行っています。

クロスセル/アップセルでの増加と、新規プランのリリースによるARPA拡大を示し、ARR(MRR)への貢献を説明しています。

株式会社マネーフォワード 2019年11月期通期決算説明会資料より

一方、freeeはARPAではなく、ARPUでの開示を行っています。

freee㈱成長可能性に関する説明資料

生産性:セールス効率

生産性指標について開示している所は少なく、カオナビがコンバージョン・レートとリード数推移について開示していました。

これは成長の源泉でもあるので、明確に示せるのであれば、直近短期での成長見通しがわかりやすくなります。

㈱カオナビ 2020年3月期決算説明資料より

その他、セールス効率を示しているのがfreeeです。

推移と、明示はしていないものの他社比較の中で、自社のセールス効率が向上している事と他社と比較し優位性が一定あることを説明しています。

freee㈱成長可能性に関する説明資料

継続性:Churn Rate,プロダクト・エンゲージメント

解約率ですが、スマレジがMRRベースの Gross Churn Rate を開示しています。

開示例で多いのはGrossですね(数字が良く見えるので)。

㈱スマレジ 第15期決算説明資料FY2020 より

一方、Sansanは、同じMRRベースの解約率でも Net Churn Rate を開示しています。

Netで1%を大きく切る解約率ですので、驚異的な数字です。
確かに自信をもって開示したくなります。

Sansan㈱成長可能性に関する説明資料より

Negative Churn についての開示は、指標としての説明より成長可能性に関する説明資料の中で、自社の成長度合いをコホート推移で示している例が一般的です。

こちらはチャットワークの Negative Churn の説明例です。

Chartwork㈱成長可能性に関する説明資料

プロダクト・エンゲージメントについては、開示例がほとんどありませんでしたが、freeeが独自の指標を開示しています。

具体的には、手作業工数について「マジ価値KPI」と称し、カスタマーサクセスの成功度合に関して説明しています。

freee㈱成長可能性に関する説明資料

事業性:ユニットエコノミクス

ユニットエコノミクスも開示例が少ない指標です。

カオナビがマーケティング関連費用の推移と併せて、ユニットエコノミクスの開示を行っています。

㈱カオナビ 2020年3月期決算説明資料より

「サブスクリプションの管理会計」の本編については、これで以上とし、次回からは各論・補足という形でサブスクリプション/SaaS系ビジネスに関連する話に触れていきます。

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サブスクリプションの管理会計④~KPIの重要性~

今回はサブスクリプション/SaaS系ビジネスにおけるKPIの重要性について解説していきます。
前回のサブスクリプションの管理会計③~KPIの解説~とセットで見て下さい。

前回は↓

KGI、KPI、KAIについて

KPI(Key Performance Indicator:重要業績指標)とは、ビジネスを行う上でのキーとなる、重要な経営指標のことです。
経営の現場では、目標(KGI:Key Goal Indicator)を達成するための、その進捗、達成度合いを測る指標となります。

適切なKPIが設定させる事により、成長や改善のための企画や施策が練られ、そしてそこから具体的な活動を導き出す事につながり得ます。
この具体的な活動をKAI(Key Action Indicator)と呼びます。

構造としては次のようなイメージですね。

プレジャーサポート㈱「明確な指標をつくり、成果をあげるKIマネジメント。」より

サブスクリプション/SaaS系ビジネスでなぜKPIが重要か?

これまで見てきた通り、サブスクリプション/SaaS系ビジネスは、事業モデル的に従来のBS・PL・CFといった財務諸表だけでは業績を見通すのがやり辛く、一方、KPIにより将来の収益シミュレーションを立てやすい、という性質があります。
また、成長のためのプロセスがマーケティング→インサイドセールス→フィールドセールス→カスタマーサクセスと、明確なフローになっておりKPI管理をしやすい点も指摘できます。

ようは、サブスクリプション/SaaS系ビジネスとKPIの親和性が極めて高いのです。

自分たちなりのKPIを設定する事が重要

さて、前回でも示した通り、サブスクリプション/SaaS系ビジネスにおけるKPIはある程度、ノウハウが蓄積されており、一般化されています。

しかし、一口に同じサブスクリプション系だと言っても、会社ごとに取り組んでいる事業もターゲットとしている顧客も異なります。

BtoBなのかBtoCなのか。
デジタルベースで完結する物なのか、それとも実物の商品や人を介在するサービスがあるのか。

ようは、自分たちなりのKPIを設定し、模索し続ける事が重要です。

ここで「続ける」と表現したのは、会社の成長フェーズによっても変わるからです。

例えば、CACという指標は、一般的に会社の成長フェーズがあがればあがるほど、悪化していくのが一般的です。
とすると、ブランディングにかけていた経費に関してはCACの算出前提から取り除き、マーケティング経費とは別管理する(別のKPIを設定する)という判断もありうるでしょうし、CACの目安(目標とする予算)自体を調整し、追いかける数字を変える、という判断も考えられます。

KPIの設定を誤ったり、見直しを怠ったりすると、事業の成長にマイナスの影響が起きる可能性が高いです。

  1. 事業内容とKPIの整合性・親和性
  2. 自分達の成長フェーズ

この2点に関しては、十分に認識の上、KPIを考えていく事が肝要です。

(参考)

ベンチャー企業が良く使う指標として、TAM/SAM/SOMという物があります。
これについては、次の記事を参考にしてください。

KPIに関連して「OKR」という物も良く使われます。

これに関しては次の記事も参考にしてください。


今回は、前回のサブスクリプションの管理会計③~KPIの解説~が、気持ち長めだったので、一旦これで切ります。

次回は、サブスクリプション/SaaS系の上場企業の開示資料を参照しながら、KPIの具体例を眺めていきます。

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サブスクリプションの管理会計③~KPIの解説~

サブスクリプションとは?THE MODELとは?の2つの前提を踏まえ、今回はサブスクリプション/SaaS系ビジネスのKPIについて解説します。
用語の話に限定し、そもそものKPI云々については、別の場所で触れます。

前回は↓

ここではKPIを5つに区分して話をします。

サブスクリプション/SaaS系のKPI区分については、明確に分けられているものではなく、分類する人によって変わるのですが、私は便宜的に「収益性」「生産性」「継続性」「事業性」「安全性」の5つで考えています。

前回の「THE MODEL」の所でも書いたのですが、「自分たちなりのTHE MODELを構築するのが良い」という通り、分類についても自社に適した形で自分たちなりに考えるのが良いと思います。

収益性(全社)

MRR(Monthly Recurring Revenue:月次収益,月間定額収益)

月ごとの売上高(収益)です。

MRRの成長率はサブスクリプション/SaaS系ビジネスにおける最重要指標となります。
また、この金額が事業計画における大前提となるため、正確な把握を行ったうえで、売上の計画、投資(費用)の計画を組んでいく必要があります。

なお、複数月に渡る契約の場合、その契約期間で割った金額をMRRとして換算します。
(年額の場合、年額金額を12で割る。)

MRR = 全顧客(全ID)のサブスクリプション月間売上高
= 平均単価(ARPA) × ID総数

※ IDとは顧客の数、もしくは契約単位の数の事です。

ARR(Annual Recurring Revenue:年次収益,年間定額収益)

1年間に入ってくる売上高,収益です。

MRRを12倍(12か月分)し算出します。

ARR = MRR × 12

スポット(単発)の売上高に関しては、ARRには含めません。
(同様に、MRRにも単発売上は含めない。)

急成長中のサブスクリプション/SaaS系ビジネスでは、年単位ではなく、月単位でMRRが激変していきます。
そのため「今この瞬間の事業の規模はどうなのか?」という意味で、ARRも企業価値を考える上で重要な指標となります。

ARPA(Average Revenue Per Account:顧客ごとの平均収益)

1IDあたりの平均収益(月間平均単価)です。

ARPA = MRR ÷ 全ID数

契約プランが1種類しか無いのであれば、基本的にARPAは同じ数字が横ばいになります。

一般的なサブスクリプション/SaaS系ビジネスでは契約プランが複数あるのが通常で、この場合ARPAをあげていく(より上位のプランを顧客に利用してもらう)事が重要な活動となります。

なお、ARPU(Average Revenue per User)という類似の指標も存在します。
ARPUはユーザーあたり、ですのでID数の考え方、単位の持ち方次第ではARPUが重要となる場合もあります(1つのユーザーが複数アカウントを持つ、というような利用形態が想定される場合)。

Quick ratio(MRR成長率)

ある一定期間内におけるMRR成長率の事を指します。

後述するのですが、新規契約があればMRRが増え、解約があればMRRが減少します。
また、複数プランにより上位プランへの以降(アップセル)やオプション等の追加(クロスセル)によりMRRは増加し、同様に下位プランへの以降(ダウンセル)やオプションの解約(ダウン・クロスセル)によりMRRは減少します。

これらを全て考慮したMRRの成長率です。

Quick ratio = (新規MRR + 増加MRR) ÷ (解約MRR + 減少MRR)

サブスクリプション/SaaS系ビジネスは、新規契約を獲得するだけではダメで、解約も抑制しなければいけません。
その意味で、Quick ratioはビジネスが健全に、迅速に成長をしているか否かを判断する指標となります。

明確な目安というものが存在するわけでは無いですが、投資家の経験則的に年間でのQuick ratioは4以上が望ましいとされています。

生産性(マーケティング/セールス)

CPL(Cost Per Lead:リード獲得単価)

1件あたりのリードを獲得するために要した費用単価です。

売上を実際に生む顧客(ID)の獲得だけでなく、見込顧客、つまりリードの獲得のためにもコストをかけなければいけません。
いわゆるマーケティング活動ですね。

CPL = リード獲得のために必要となった全てのコスト ÷ リード獲得数

基本的にはCPLの抑制が重要となるのですが、お金をかけなければ良いか?というと必ずしもそうではありません。

全体平均としてのCPLを認識しつつ、マーケティング・チャネル別(プロセス別)にCPLを個別に認識し、どのマーケティング手法が効率的なのかを探る活動が必要です。

加えて、単純にリードを次工程に渡すのがマーケティングの役割というわけでもありません。

有効商談化率、成約率、ARPA、継続率(から来るLTV)。

これらが高い、良質なリードを生むためのマーケティング手法は何か?を探るのがマーケティング部門における重要な活動となります。

有効商談化率

セールス部門(インサイドセールス、SDR)は、マーケティング部門から渡されたリードに対してナーチャリング活動を行い、実際の案件化(商談化)を図ります。

この際のリードに対する商談化の割合が有効商談化率です。

有効商談化率 = (案件化数)商談化数 ÷ リード数(見込顧客数)

ここにおいて重要な観点が2つあります。

1つが、ナーチャリング担当者の育成観点。

2つが、商談化につながりやすい良質なリードについてです。

ナーチャリング手法は(リード獲得にも使える)メルマガやホワイトペーパーのような手法もありますが、ヒアリングのような人対人のコミュニケーションでも行います。
ようは、ナーチャリング担当者の力量差が出てくるわけです。

優秀なナーチャリング担当者の方法論は、他の担当者とも共有し、チーム全体として有効商談化率を高めていく事が重要です。

また、全体として商談化しやすい属性のリード、しにくい属性のリードがあるはずです。
この種の情報をマーケティング部門にフィードバックすることが重要です。
商談につながらない質の悪いリードに対して、いくら頑張ってナーチャリングを行っても、無駄な労力がかかるだけです。

成約率

基本的な考え方は有効商談化率と同じです。

インサイドセールスやSDRから渡された商談に対して、実際に成約(契約)につなげるクロージング活動を行う際の、成約率です。

成約率 = 成約数 ÷ 商談数

これも有効商談化率と同じで、セールス担当者毎の差とチーム内でのノウハウ共有。
そして、インサイドセールス/SDR、マーケティング部門へのフィードバックが重要となります。

サブスクリプション/SaaS系ビジネスにおけるTHE MODELは縦割り組織ではあるのですが、お互いに情報を交換し合う、フィードバックが重要な活動となります。

CAC(Customer Acquisition Cost:顧客獲得単価)

CPLと基本的な考え方は同じですが、こちらはリードではなく、顧客(ID)を獲得するに要する費用の単価になります。

CAC = 1顧客(1ID)を獲得するためにかかった営業及びマーケティングの全費用 ÷ 成約数

マーケティング部門とセールス部門は一体となって、このCACを可能な限り抑制するための活動が必要となります。

なお、成長に伴い、CACは悪化し続けるのが一般的です(急成長は続かず、広告宣伝費投下額は増大していく、組織も拡大し固定費が増大する)。
つまり、いたずらに低減しようとする事には本質的な意味は無く、適切なCACのラインを成長ステージに併せて探る事が肝要です。

CAC Payback Periods(投資回収期間)

CACを回収できるまでに必要な期間です。

当たり前ですが、コストをかければかけるほど顧客を獲得するのが容易となり、またかけたコスト(投資)の回収は困難になります。

CAC Payback Period = CAC ÷ (ARPA × 利益率)

CAC Payback Periodが短ければ短いほど、投資回収は容易である事、逆に長ければ長いほど困難になります。
この数値が顧客の継続期間より長い場合は、ビジネスそもそもを見直す必要が出てきます。

なお、この利益率はビジネスにより設定するものが大きく変わります。
何か具体の商材(実物の商材)があるのであれば売上総利益が該当するでしょうし、SaaS系ですと事業に直接関わる必須の人件費や各種サーバー費用、ソフトウェア償却額等を差し引いた事業利益率を設定する形になります。

会社毎に設定する利益率をよく吟味する必要があります。

継続性(カスタマーサクセス)

解約率(Churn Rate)

解約(Churn)は、文字通り解約の事です。

どんなに優れたサービスであっても、解約をゼロにすることは不可能です。
しかし、Churn Rateを低減する事は可能です。

Churn Rateには、IDベースなのか、MRRベースなのか、異なった切り口があります。
その他のChurn Rate関連指標と併せて解説します。

Customer Churn Rate(カスタマーチャーンレート:IDベースのチャーンレート)

IDベースのChurn Rate、顧客レベルでの解約率の事です。

Customer Churn Rate = ある月の解約ID数 ÷ 月初ID数

Revenue Churn Rate(レベニューチャーンレート)

MRRベースのChurn Rate、MRRの損失割合の事です。

なお、この場合のChurnには、ダウンセルなどによるMRR損失も含む場合が一般的です。

IDベースで見るか、MRRベースで見るか、それは会社により異なります。

上位プランを契約していただいている顧客のChurn Rateが低く、下位プランでChurnが多いならば、IDベースChurn Rateの方が高く出るはずで、この場合はIDベースを重視してカスタマーサクセス活動を行う必要があるでしょう。

逆にMRRベースのChurn Rateが高いならば、重要顧客への重点的ケアが必要なはずです。

さて、Revenue Churn RateにはGross ChurnとNet Churnがあります。

Gross Churn

ある月の解約やダウンセル等によって発生した、MRR損失の比率です。

Revenue Churn Rate = ある月の解約によるMRR損失 ÷ 月初MRR

Net Churn

上記のGross部分(ある月の解約やダウンセル等によって発生したMRR損失)に、アップセルやクロスセルによって増加したMRRを加味したChurn Rateの比率です。

Net Churn = (ある月の解約によるMRR損失 - ある月のアップセルやクロスセルによる増加MRR) ÷ 月初MRR

なお、Net ChurnがマイナスになることをNegative Churn(ネガティブ・チャーン)と言います。
これはアップセルやクロスセルによって増加したMRRが、解約によって失ったMRRよりも大きい場合に発生します。
通常、中々発生しない事象で、起きている場合には、サービスの値上げ等が行われている事が多いです。

Gross Churnはあまり使われず、Net ChurnをMRRベースのChurn Rateとして採用するのが一般的です。
(ただし、数字を良く見せられる、という観点でGrossの方が開示例は多いです。)

アップセル

顧客の単価を向上させる事、またその手法の事です。

サブスクリプション・モデルのビジネスですと、プランが複数あり、またプラン毎に価格が異なるのが一般的です。

そのため、サブスクリプション/SaaS系ビジネスの場合、アップセルは、高いプランへのアップグレードにより顧客単価があがる事をさします。

逆に、下位のプランへのダウングレード(顧客単価の減少)に対しては、ダウンセル、と表現します。

クロスセル

顧客に別の商品を購入してもらい、トータルとして顧客あたりの単価を向上させる事、またその手法の事です。

サブスクリプション・モデルのビジネスですと、「オプション」による追加課金や、同じサービス提供会社による別サービスの提供などが該当します。

カスタマーサクセスにおいては、アップセルと併せて、このクロスセルを取るための活動が重要で、マーケティングやセールス部門と連携していく形になります。

NRR(Net Retention Rate:売上継続率)

参考程度に触れておきます。

あるタイミングで獲得した契約のMRRが、その翌年にどの程度増減するのかを示す指標です。

NRR = 1年前に獲得した顧客グループのMRR ÷ 同じ顧客グループのMRR

この数字により、あるタイミングで獲得したMRRが、その1年後にどれくらい増減をしたのか、大まかに判断する事ができます。

なお、Quick ratioやChurn Rateでも、ある意味において、同じ内容の事を把握する事ができるので、重要な指標ではあるのですが、別にこの指標をマストで見なければいけないか?というと微妙です。
また、計算方法も、解約分の反映をどこまでやるのか、顧客グループの起点を今に持つのか、過去に持つのか、で変わってきて、目安的な所も取りづらいです。
さらに、一般的に、計算が煩雑であり、他のKPIに比べて容易に算出できない点も指摘できます。
そのため、参考程度、としています。

プロダクト・エンゲージメント

ある意味において、最も本質的に重要な指標です。

カスタマーサクセス活動においては、如何にChurn Rateを下げるか?という目線で活動を行うのですが、ではそのChurn Rateはどのような性質をもつ指標なのかと言うと、結局の所、後追い指標であるにすぎません。

そのため、今、顧客が自社のサービスに対して、どのように感じているのか?という目線でヘルススコア(満足度)やNPS(Net Promoter Score:推奨度)という指標が重要になってきます。

このプロダクト・エンゲージメントは、それだけで本が1冊書ける位のテーマになってしまうので、ここではNPSについて簡単に説明します。
プロダクト・エンゲージメントについては、別の機会で触れようと思います。

NPSは、顧客満足度とロイヤリティを数値に表した指標の事です。
実際に顧客の声を聞いて、取得したデータを数値化することが必要となってきます。

よくあるNPSの数値化方法として、顧客に「このサービスを知り合いにすすめたいと思うか?」という質問をし、それに対して0から10のレンジで点数付けをしてもらう方法です。

NPS = プロモーター比率(高い点数をつけた人の数 ÷ 全回答者数) - 非プロモーター比率(低い点数をつけた人の数 ÷ 全回答者数)

この「高い点数」は9や10など、「低い点数」は6以下などをいれるのが一般的ですが、基本的には会社毎・商品毎に顧客の受け取り方も違いますので参考程度です。

他にも、プロダクト・エンゲージメントを測る方法はあり、自社にとって最適な手法を探る事が重要です。

事業性(全社)

LTV(Life Time Value:顧客生涯収益,顧客生涯価値)

一顧客が、取引期間を通じて企業にもたらす利益の総額です。

高い単価で、長きにわたりサービスを利用してくれる顧客ほど、LTVが高いという事になります。

LTVはサブスクリプション/SaaS系ビジネスにおいて、長期的な利益を見ていくうえで重要な指標となります。

LTV = (ARPA × 利益率) ÷ Churn Rate

また、見方を変えれば、新規顧客の獲得やChurn Rate低減のために、どれだけのコストをかけて良いのか?を測る目安ともなります。

LTV/CAC(ユニットエコノミクス)

ユニットエコノミクスは事業の経済性(収益性)をユニット単位で測定する考え方の元、編み出された計算です。

これは、従来型のPLやCFでは、サブスクリプション/SaaS系ビジネスの経済性を理解するのが困難である事、またサブスクリプション・モデルの活況により、投資判断や経営判断を行う上でのわかりやすい指標として開発されました。

ユニットエコノミクス = LTV ÷ CAC

ID数は順調に増加しているが、中々利益につながらない、というような場合に、ユニットエコノミクスを見て経営判断を行う事ができます。
いつまで、そしてどれだけ赤字を許容していくのか、を判断できるのです。
過去の投資判断の成否を測る事も可能です。

数値の目安としては、経験則でしか無いのですが、ユニットエコノミクス > 3」が望ましいとされています。

安全性(全社)

Burn Rate(資本燃焼率)

1ヶ月で溶かすお金の額です。

明確な計算式は無く、事業計画を元に算出をします(Cashが尽きるまでの平均Cash流出額)。

サブスクリプション/SaaS系ビジネスに限らず、スタートアップやベンチャーは、多額の投資により、お金をどんどん使っていくものです。

そのため会社を経営していくために1ヶ月でいくらの資金が必要になるのか?を正確に把握しておく事が重要になります。
それにより、今ある資金とBurn Rateから算出した、「後、何か月、会社を経営していく事ができるのか?」というスケジュール感を元に資金調達活動(銀行からの借入や、投資家からの出資)の計画を立てていく形となります。

なお、従来より、投資家から受けた出資については、ガンガン投下して(燃やして)、ガンガン成長させていく、という姿勢が望ましいとされてきました。
つまりBurn Rateを高く設定し、そして成長した分、企業価値をあげて次の調達につなげていくのがベンチャーの成長の王道でした。

直近は新型コロナウイルス感染拡大の影響もあり、IT系やヘルスケア系を除き、この投資熱も抑制されています。


次回は、サブスクリプション/SaaS系ビジネスにおけるKPIの重要性について解説し、続いてここで示したKPIについて、具体の開示例を見て行きます。

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サブスクリプションの管理会計②~THE MODEL~

さて、今回は、前回の「サブスクリプションとは?」に続いて「THE MODEL」についての解説です。
「THE MODEL」はサブスクリプションの管理会計を理解する上での基本的な考え方となります。

前回はこちら↓

参考書籍はこちら↓

THE MODELとは

近年、THE MODELという言葉を、サブスクリプション/SaaS界隈でよく聞くようになりました。

このTHE MODELは、営業プロセスモデルの一つで、日本の㈱セールスフォース・ドットコムが取り入れて、業績を拡大させた際の成長モデルの事をさしています。

(海外でTHE MODELの話をしても通じない。)

この成長モデル、特にSMB(スモールビジネス)向けのマーケティングからセールス、そしてカスタマーサクセスまでの一連の流れにおける、分業及び協業について、ビジネス成長の再現性を高めていこうというレベニューモデルが「THE MODEL」になります。
ようは、中小企業向けにインバウンドで効率的にビジネスを成長させていくのに適した成長モデルです。

インバウンドとは、顧客自らが商品を売る企業側に接触すること。お問い合わせフォームから問い合わせた、ホワイトペーパーをダウンロードした、展示会で名刺交換した。そういった顧客からのアクションを元にセールスを進めていく事を言う。アウトバウンドは、超絶簡単に言うと、企業側から顧客に働きかける従来型の営業スタイルの事。

THE MODEL、THE MODELと言われるのですが、万能な手法ではありません。
大企業向け(エンタープライズ向け)セールスや、toC向けのビジネスの場合、そのまま適用できません。
会社毎に行っているビジネス、取り扱っている商品、対象としている顧客が異なるので当然です。

ここで先にTHE MODELにおける重要な点を1つ述べると、自分たちなりの(自社独自の)THE MODELを構築する必要がある、という点です。

取り巻く環境の変化

それでは、じゃあなんでTHE MODELなのか?THE MODELは何故、うまく機能しているでしょうか?

その理由は、ビジネスと顧客を取り巻く環境の変化にあります。

  • 顧客の購買検討プロセスの変化
  • ビジネスの成長がもたらす変化
  • 分業による副作用の変化

説明するまでも無いですが、今現代はインターネット社会であり、欲しい情報は大体、検索すれば出てきます。
つまり、顧客は、企業側が顧客と接点を持つ前に、一定、購買の意思決定を行っているのです。
ようは「既に勝負はついてしまっている。」という事ですね。

勝負がつく前に顧客に対して何かしらのアクションを取りたいのであれば、オフライン(商談の履歴等)の情報では不足があり、オンライン(WEB,メール,モバイル)から顧客の情報を取得し、顧客の理解を行う必要があります。

これが、顧客の購買検討プロセスの変化です。

マーケティング・オートメーション(MA)という言葉が誕生して久しいですが、セールス効率はITの発展と共に著しく上昇しています。
そしてセールス効率を高め続けていけば、いずれは成長が頭打ちになります。
この成長の頭打ちを突破するには、「顧客のリサイクル」が必要となります。

これが、ビジネスの成長がもたらす変化です。

そして、MAの誕生を契機に、マーケティング、インサイドセールス、フィールドセールス(外勤営業)の各プロセスが分業をするようになってきました。
分業、縦割りで組織を分けることにより、共通の目標が追いにくくなります。
セールス効率を高めたが故に、分断が発生しやすい状況になり、これを打破する必要性が出てきました。

これが、分業による副作用の変化です。

このような、ビジネスと顧客を取り巻く環境の変化が起きているが故に、マーケティングからセールス、そしてカスタマーサクセスに至るまでの全てのプロセスについて、接続し、一気通貫させるレベニューモデルが機能する土壌が育まれることとなりました。

そして、このレベニューモデルが「THE MODEL」なわけです。

4つのプロセス

THE MODELでは、セールスのプロセスを、4つに分けて考えます。

  • マーケティング
  • インサイドセールス
  • フィールドセールス
  • カスタマーサクセス

そして、この4つのプロセスそれぞれに管理すべきKPIが存在します。

マーケティング

マーケティングは、文字通りマーケティング施策の企画・実行、そして顧客情報(見込顧客)などの収集を行います。

WEB・SNS広告、ホワイトペーパー、展示会などの実施が該当する活動です。

マーケティングの重要な役割は見込顧客(リード)の獲得であり、このリードをインサイドセールスに引き渡します。

マーケ施策(ターゲット母数) × 見込顧客得率 = 見込顧客数

インサイドセールス

インサイドセールスは、マーケティングが獲得した見込顧客に対して、様々な手段による案件化を行います。

メルマガによる情報提供、ヒアリングによる課題抽出とコミュニケーション、具体のソリューションの提案が該当する活動です。
(これらを、ナーチャリング、と呼びます。)

インサイドセールスの重要な役割は案件化、つまり商談数の獲得であり、この商談をフィールドセールスに引き渡します。

見込顧客数 × 有効商談化率 = 商談数

フィールドセールス

フィールドセールス(外勤営業)は、インサイドセールスが案件化した商談に対して、実際に成約につなげる活動を行います。
クロージングのための営業活動ですね。

フィールドセールスの重要な役割は成約、つまり契約の獲得です。

商談数 × 成約率 = 契約数

カスタマーサクセス

そして最後、カスタマーサクセスは、フィールドセールスが獲得した契約に対して、更新率をあげる(もしくは解約率を下げる)活動を行います。

オンボーディング(ようは初期サポート)、コンサルティング、カスタマーサポートなどの活動が該当します。

カスタマーサクセスの重要な役割は、文字通りカスタマーサクセス、顧客の“成功”にあります。
顧客が自社のサービスを利用する事により、抱えていた課題を解決していく。
それにより更新率が上がり、継続して自社サービスを利用してくれるようになります。

契約数 × 更新率(※) = 継続契約数
(※ 解約率:チャーンレートから計算する事も)


これら4つのプロセスを分業により、効率を最大化させていくという考えがTHE MODELの基本的なポイントとなります。

他にも管理会計以外の要素、分業・縦割りにより発生する分断をどうするのか、や各プロセス個別の深掘りについては別の機会に触れようと思います。

THE MODELのKPI

上記4つのプロセスで見た通り、THE MODELでは基本となるKPIが決まっています。
管理会計のやり方がある程度決まっているんですね。

サブスクリプションとは?に続き、今回でTHE MODELについて、基本的な所を抑える事ができました。
これでKPI、管理会計の話に移れます。

次回は、ここで登場したKPIに加えて、サブスクリプション/SaaS系のKPIについて、解説をしていきます。

なお、あらかじめ釘を刺しておくのですが、THE MODELの概念で重要な事は、KPIの達成やセールスの効率化にはありません。
本質的には「カスタマーサクセス(顧客の成功)」にある、という点は管理会計を行う上でも最重要の思想となりますので、この点は重々ご承知おきください。

次回はこちら↓

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サブスクリプションの管理会計①~サブスクリプションとは?~

前回は、㈱オリエンタルランドを例に、財務3表から管理会計上の接続について簡単に見てみました。
今回から個別のテーマに入っていきます。
最初は、ここ近年で話題にあがっているサブスクリプション・モデルの管理会計について考えていきます。

サブスクリプション・モデルの管理会計については、大枠として下記の構成で予定しています。

  1. サブスクリプションとは?
  2. 「ザ・モデル」について
  3. サブスクリプションの管理会計指標解説
  4. 具体例
  5. 他各論

なお、本稿自体は話をわかりやすくするため、主に「toC」をベースに話をしますが、「ザ・モデル」について、以降は「toB」をベースに話をします。
「toB」ベースの話で、管理会計のベーシックな部分は「toC」もカバーできるからです。

前回以前の会計基礎講座については、下記にまとめています。

サブスクリプション・モデルとは

サブスクリプションとは、本来は雑誌や新聞などを予約購読、つまり定期購読するという意味の言葉です。
それが転じて、サービスの利用に当たって毎月一定額を払えば、支払プランの範囲内で使い放題となるサービスのことをサブスクリプション・モデルと呼ぶようになりました。

ここで重要なのが、従来のビジネスにおいては、価値提供の軸が提供する商品やサービスそのものに焦点があてられていましたが(所有)、商品やサービスの量や期間、もっというと”利用”に焦点があてられている、という点です。

所有と利用の違い、そしてレンタルとサブスクリプションの違い

月額料金制度や定額利用サービス、と解説をされたりしますが、サブスクリプションはもっと奥の深い概念で、製品中心から顧客中心へと考え方が変わったビジネス・モデルと言えます。

以下、サブスクリプション・モデルのことを「サブスク」と略します。

なぜ、サブスクが近年話題となっているのか?

サブスクは、継続的に価値を提供し、収益化するビジネス・モデルです。

上述の通り、製品中心から顧客中心へと考え方が変わった、とある通り、重要な事は顧客を正しく理解して、固定的なサービスではなく、価値を継続的に提供し続ける事にあります。
ようは「長期的リレーションシップ」を構築する事が重要と言えます。
(繰り返しますが、サブスクリプションは課金形態の変更、ではなくて、新しいビジネス・モデルです。)
それでは、なぜ、サブスクが近年話題となり、急速に拡大しているのでしょうか?

顧客ニーズの変化

その大きな理由としては、顧客のニーズの変化にあります。

戦前から続いてきたプロタクト販売モデルは限界を迎えている、と言われて久しい通り、現代は「物が売れない時代」です。
必要な物は身の回りにあふれており、「モノ消費ではなく、コト消費」とも言われて久しいです。

つまり、顧客のニーズは、所有から利用へと変化しているのです。

このような背景があり、製品中心から顧客中心へと考え方を変えたサブスクが顧客のニーズとマッチし、近年台頭する形となりました。

企業のメリット

これは、顧客のメリットだけでなく、企業にとってもメリットがあります。

まず、顧客との関係性です。

サブスクは「売ってお終い」というビジネス・モデルでは無いため、顧客とダイレクトにつながり、また「長期的リレーションシップ」の構築を図る事が可能です。

次に、収益性の問題です。
「長期的リレーションシップ」を構築するが故に、長きにわたって収益・売上が約束された状態でビジネスを進められる事ができます。

このメリットを端的に表現すると本節冒頭の「サブスクは、継続的に価値を提供し、収益化するビジネス・モデル」となります。

サブスクの事例と考え方

さて、サブスクですが、ありとあらゆる領域で登場するようになってきました。

BtoCもそうですし、

BtoBもです。

BOXIL社資料より

いくつか具体の事例と共に、サブスクの考え方を深めてみます。

車の例から見る顧客ニーズの変化

従来ですと、車を運転する、という行為を考えた時に「買う」か「借りる(レンタル)」の2つの方法しか存在しませんでした。

サブスクのモデルでは、契約の期間中、契約プランの範囲内で様々な車種に自由に乗り換える事が可能です。
保険の手続もメンテナンスも不要で、利用者は面倒な雑事を気にする必要はありません。

㈱KDDI総合研究所作成資料より

さて、今までのプロダクト中心の時代では、ただ、より良い製品を効率的に生産すれば良く、顧客の事を深く知る必要はありませんでした。
しかし、これからの顧客の時代では、顧客は必要な時に、必要な情報やサービスを、状況に応じて適した形で提供されることを期待しています。

今の若い消費者世代は、「車への消費」に関して、あくまでも乗りたいのであって(移動手段や、場合によっては様々な車に乗ってみたいという体験)、所有をしたい(車の所有がステータス)、とは考えていないのです。

これから技術が更に発展し、自動運転の時代も到来するでしょう。

顧客のニーズは、まだ変化していく事が予想され、その時の勝者は変化し続ける顧客のニーズを捉えた企業になると考えられます。

Amazonの例から見る顧客との関係性、マーケティングの考え方の変化

Amazonは、顧客との継続的な関係性を構築した物販の会社としては代表的と言えるでしょう。

従前のECは、物を販売して終わり、でしたがAmazonは違います。
高度なロジックにより、顧客毎に異なるトップ画面が自動的に構成されます。

Amazonは顧客を、例えば30代独身女性というようなメッシュ感の荒い集団で傾向を分析するのではなく、一人一人、唯一の顧客としてリレーションを構築しようとしています。

例えばAmazonプライムは、単純に便利だから伸びている、という側面も前提としてありますが、それだけではありません。

顧客一人一人のことを詳しく知っている事によって、利用者に対して継続的な価値を提供でき、そしてそれがサブスクの収益の元となっているのです。

adobeから見る管理指標の変化

illustratorやPhotoshopで有名なadobeは、これまでパッケージ販売を行っていたデザイナー向けソフトについて、定額課金方式(サブスク)に移行しました。
2011年のことです。

数十万円をする高額商品を、定額課金方式に切り替える、という事は大きな挑戦です。

切替時の投資や、採算性があうまでの顧客数(ID数)。
初期には莫大な赤字を出します(必要な投資が大きい一方、収益が悪化する状態が続くため「フィッシュ」と呼ばれる成長曲線を描く事になる)。

ビジネスを成功させるには、顧客のニーズを捉えるだけでなく、投資家の理解も必要です。

adobeは年間経常収益(ARR:Annual Recurring Revenue)という考え方を取り入れ、投資家を説得しました。

結果、adobeの挑戦は成功し、株価はサブスク切り替え前の7倍になり、低迷していた売上の伸びも再度の成長曲線を描けるようになりました。

adobeの成功は、ソフトウェア業界における象徴的成功事例となり、近年はソフトウェア業界全体で一気にサブスクリプション化が進んでいます。
また、顧客も、クラウド、サブスクリプションじゃないと選ばない、という位の状況になっています。

サブスクは更に拡大していく

過去にも電車の定期券や新聞・雑誌、賃貸住宅など、サブスクのビジネス自体は存在していました。
ようは、インフラやライフラインの領域です。

しかし、近年はITの発展を背景に、様々な領域でサブスクが拡大しています。
ITは、IoTやAIなどの領域はまだまだ未成熟であり、更なる技術革新が期待されています。

そのため、ありとあらゆるビジネスは、サブスク化が行える、とされています。
中長期的に安定した売上を得られるサブスクに何とか移行し、顧客の支持を得ようと、各社が必死に競争を繰り広げています。
今後も、サブスクは更に拡大していく事でしょう。

(参考書籍)

次はこちら↓

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新潮の言う通りコロワイドは債務超過なのか?

少し古い話題なのですが、新潮社が記事(著者は細野祐二氏)にてコロワイドは債務超過なのでは無いか?と掲載し、コロワイドとバチバチやっていました。
今回は、コロワイドは本当に、新潮の言う通り債務超過なのか否かを考えてみます。

新潮社とコロワイドのやりとり経緯

新潮社は、大戸屋VSコロワイドとのやり取りに関連して、いくつかの切り口でコロワイドを批判する記事を掲載していました。

新潮社 VS コロワイド

その内の一つが「コロワイド、大戸屋プロキシーファイトに敗れて…前門の虎と後門の狼」(2020年7月6日)です。
記事の中では、ざっくり下記の通りを指摘しています。

  • コロワイドはM&Aをベースに成長し、700億円を超える「のれん」の他、200億円近い”疑似資産”を計上している
  • 「のれん」の評価(減損テスト)は適正ではなく、「のれん」の減損想定分を考慮するとコロワイドは債務超過状態になる(関連して監査法人の交代を行っている事を指摘)
  • 大戸屋株式についても、多額の「のれん」を計上するので、実質債務超過は膨らむ

一見、それっぽい内容となっており、会計に明るくない人なら、「そんな状態なのか、、、、、」とネガティブに受け止めてしまうかもしれません。

それに対して、コロワイドは自社IRにて反論(2020年7月6日)を行っています。
反論の内容は、下記のようなものです。

  • 新潮社は複数回に渡りコロワイドを誹謗中傷する記事を掲載している
  • 「のれん」の減損テストはIFRSベースの会計基準に則って行われており、記事の内容は「IFRSはもとより一般的会計知識を著しく欠く、全くもって虚偽のもの」
  • あずさ監査法人とは円満に監査契約を終了している
  • 記事筆者の細野氏は、「会計士界のレジェンド」と呼ばれているが、2004年に有価証券報告書虚偽記載事件により、最終的に執行猶予付き懲役刑が確定し、公認会計士登録が抹消されている

新潮社(細野氏)側は上記に対しても、再反論「コロワイドの反論に反論する…のれんと監査法人の変更について」(2020年7月17日)を行っています。
内容としては、ざっくり「コロワイド側の主張は、適切な根拠に基づいておらず、監査基準に基づく合理的な推論を自らの意に沿わないとして抑圧するのは、言論の自由を保障する日本国憲法違反であり、上場会社としてあってはならない。」という物です。

やり取りに関して、どちらに総合的な適正性があるかはここでは論じませんが、新潮社(細野氏)側の言い分は言いがかりに近いものがあるようには感じます。

(参考)議論の是非に関する補足

例えば、新潮記事では、下記のようにコロワイドを批判しています。

=====
「のれんの減損テストは、回収可能額としての公正価値と使用価値のいずれか高い金額と、対象事業に関する資産帳簿価額を比較し、帳簿価額が回収可能額を上回る場合に、のれんの減損を認識する」と言うばかりで、公正価値算定の基礎となった事業計画の内容を開示しない。これでは減損テストで使用した公正価値の妥当性を検証的に判断することはできない。自らは根拠を示すことなく、根拠の全てを示す論述を論難することはできない。
=====

ただ、会計基準に則って、会計処理を行うのは当然です。
また公正価値算定の基礎となった事業計画の内容自体を開示しないのも、上場企業であっても一般的であり、これを持って「自らは根拠を示すことなく」と批判するのは、流石に言い過ぎのように思います。

なお、他記事でもコロワイド側を擁護するものが出ています。

「著者も、デイリー新潮の記事に掲載されている、のれんの超過収益力を認めることができないとする「根拠」について、一般の会計基準に照らした会計処理から納得し難いと考える。
(中略)
投資家が独自の指標で企業価値を算定するのであれば構わないが、監査法人はこのような手法で減損テストは行わない。したがってROEが低いからのれんの超過収益力が認められないと判断することは、あまりに乱暴な判断だといわざるを得ない。」
ITmedia「減損テストから見る、コロワイドが新潮にブチ切れた理由(後編)」より

一方、下記の指摘も新潮社側は行っています。

=====
会社は連結株主持分250億円をはるかに上回る718億円もの「のれん」を資産として計上しているのだから、もとよりその資産性には強い根拠が求められることは言うまでもない。巨額ののれんを計上する上場企業が強い社会的批判の目にさらされるのは当然のことであり、それを《IAS第36号に則り「のれん」の減損テストを実施しています》というだけではお話にならない。
=====

これに関しては確かに一理ある部分はあります。

下記参考画像の通り、コロワイドの自己資本に対するのれんの金額比率は尋常じゃなく高く、その資産性や計算の合理性に対して、他社以上に丁寧に説明することは、IR的観点で必要なようには思います。

IFRSの肝は、比較可能性にもありますが、「自社にとって開示しなければいけない本質的な論点」の開示についてもあるはずです。
会計ルール・開示基準に記載されていないから、と言って、説明が基準内のものに留まっている事に関して、一定の批判をうけるのは致し方無い面はあります。

(参考画像)「のれん」の比率が高い居酒屋企業ランキング

もう少しシンプルに考えてみる

とりあえず、現状としてコロワイドが開示している資料は監査法人の適正意見をもって開示されているものであり、真に正しいかはともかくとして、ルールに則っているものと判断するのが適切です。

ここで会計処理の適正性等々に関して論じても致し方が無いと思うので、別の観点でシンプルに考えてみます。

日本基準だったとしたら「のれん」影響はどうなっていた?

まずは、コロワイドののれんの金額と、その内訳です。
(出典は㈱コロワイドの2020年3月期有価証券報告書からです。)

この通り、700億円超の「のれん」が計上されています。

さて、コロワイドは前段でも触れていましたが「IFRS(国際会計基準)」を適用しています。
このIFRSベースでは、のれんは償却をせず、その”価値”を算定し計上している金額との差額を損益処理する手続きが行われます(何度か触れている「減損テスト」とかですね)。

小難しいことは省略しますが、ようは、毎期一定額ずつ償却する日本基準に対して減損判断をするIFRSという違いがあります(これでも小難しいですけれどね。。。)。
で、この話の何がよく問題になるかというと、IFRSを適用し、減損に該当しないだけの業績が上がり続けているならば、日本基準より利益が高く見える(償却されないので)、逆に業績が傾いた時に一気に減損も入りダブルパンチを受ける、という点です。

ここがシンプルに考えるポイントです。

仮に、コロワイドが日本基準を採用していて、毎期「のれん償却額」を計上していたら、どのような業績になるでしょう?
(超厳密には、このシミュレーションも詮無いことなのですが、まぁ頭の体操だと思ってください。)

コロワイドがIFRSに移行したのが2017年3月期からで、開示資料としては2015年4月1日以降のものが、IFRSベースの数字になっています。

2016年3月期以前の有価証券報告書を見る限り、のれんの償却年数は20年を設定していたようです。

この20年をベースに考えると、ざっくり毎期の償却額は約3,500百万円(35億円)です。

過去5年間、56億円から100億円の事業利益が計上されていましたが、これがざっくり35億円ずつ小さくなる、という事がわかります。
事業利益ベースですと赤字では無いものの、黒字幅が大きく減少、事業利益率は0.9%~2.7%という状況になるとシミュレーションされます。
(当期純利益に関しては、税効果分があるので35億円ダイレクトにはヒットしない事に留意。)

経常利益ベースで考えると?

次に経常利益ベースで考えてみましょう。
営業利益もそうですが、経常利益で会社業績を見るのは一般的ですからね。

まずはPL全体像です。

ここで注目していただきたいのが金融収益と金融費用です。

営業外収益と営業外費用は、日本基準だと特別項目に入るものも混じっているのと(減損損失とか)、金額感、ニアリーイコールなので、金融部分に絞って考えます。

金融収益は銀行預金の利息や、他法人への貸付によるもので、
金融費用は銀行借入や社債、そしてリース(使用権資産)の支払利息です。

期によって計上額が異なるのですが、少なくとも2019年3月期は約13億円、2020年3月期は約42億円の利益アンダーインパクトがあることがわかります。

つまり、上記のれん分を含めて、2020年3月期は約21億円の経常赤字を計上していた(2019年3月期は約36億円の経常利益)、とシミュレーションできることになります。


繰り返しますが、コロワイドはIFRS適用会社なので、日本基準に換算してどうのこうの、というのは詮無いことではあります。
ですので上記の論考に対しては、別に是非を問いたいものでは無い、という事はご承知おきください。

いずれにせよ、コロナ影響もあり非常に厳しい経営環境にある事、そして大戸屋株式の買収に伴う「減損予備軍」のれんの多額の計上に関しては、事実ではあります。

今後、どのように経営を舵とっていくのか、継続して見ていきましょう。

最後、微妙に忘れていましたが、35億円×5年分で、約170億円がバーチャルなのれん償却額です。
2021年3月期第1四半期報告書ベースですと「親会社の所有に帰属する持分合計」は約200億円、資本合計が約325億円なので、ざっくりシミュレーションベースでも債務超過とは、まだ言えない感じです。
(ただし、2021年3月期も通期赤字の場合は税効果の話や、話題にあがっていた「のれん」の評価の話もあるので、一気に債務超過に転落するリスクは、結構高いとは感じています。)

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会計基礎講座まとめ

こちらは会計を学習する上での当サイト記事のまとめ集となります。

会計基礎講座導入編

会計の基礎的な話を簡単にまとめています。
B/S、P/L、C/Fの存在の認識、基礎的な意味合い、数字のつながりについて学習します。

番外編

管理会計基礎講座~個別論点編~

こちらは個別論点に関してです。

管理会計の基礎の1つである、限界利益と損益分岐点について解説しています。

サブスクリプション/SaaS系ビジネスの管理会計に関しては、こちらの記事群を参照ください。

今後は、マーケティング系の管理会計の考え方や、原価管理等々について、コンテンツを拡充する予定です。

決算書の読み方

こちらは、報道で話題が出た会社を事例に、決算書の読み方、それも専門的な見方では無く、企業内部の非専門家が見れるような見方について解説しています。

決算書の読み方解説

シミュレーション付き

下記は、会社が開示している資料を元に、シミュレーションまで行っているものです。
ある程度、決算書を見れる前提になるので、気持ち、難易度は高めになります。

M&A等の高専門性がテーマの話

こちらは、主にTOBネタを中心に、専門性が高いテーマの話を、なるべくわかりやすく解説しています。

大戸屋 VS コロワイド編

その他の会社

事業計画を作るための基礎テクニック~フェルミ推定~

こちらは事業計画を作るための基礎的な思考テクニックである、フェルミ推定について、その考え方を解説しています。

Q&A

質問・疑問等については、こちらのQ&Aまとめ集で回答をしています。

会計基礎講座Q&A
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いまだに出る「内部留保」悪者扱いの話~管理会計基礎講座番外編~

何年も前から企業の「内部留保」を悪者扱いする話は、政治界隈でチラホラ出ており、その度に各種観点(主に会計的)で論じられてきたのですが。
いまだに、「内部留保」を悪者扱いする論調が消えません。
管理会計基礎講座の番外編的な位置づけで、この内部留保について解説していきます。

なお、内部留保課税を仮に実行した場合の各種節税策の問題や、二重課税のそもそも論的問題に関しては、話がとっちらかるので、ここでは取り扱いません。

内部留保って何?

正直な所、政治界隈で語られる「内部留保」が一体全体何を指しているのか、正確には不明なのですが(主張者も多分正確にイメージできていない)、おそらく貸借対照表(BS)上の「繰越利益剰余金」のことを指しているものと考えられます。

会社は、銀行や株主からお金を集め、そのお金を何かしらの投資に回し、事業活動を行い利益を出します。
この出した利益は、毎年会社内に留保され、次年度の事業活動に再投資されていきます。

この「毎年会社内に留保」されていく利益を「繰越利益剰余金」と呼びます。

さて、もう一度繰り返しますが、「繰越利益剰余金」は、次年度以降の事業活動に再投資されていきます。

貸借対照表(BS)の右側は「お金をどのようにあつめているか」、左側は「お金を何に投資しているか」を表している表でしたね(覚えていますか?)。

「繰越利益剰余金」は、事業活動の結果として利益という形で集められたお金です。
この利益(当期純利益)は、何かしらの形で使用し、また事業活動が行われ利益を出し、再度、次年度以降のために使われていく。
会社は、このサイクルをまわしながら成長してきます。

ここで認識しておきたいのが、「利益(当期純利益)=その期に獲得したCash(現金)」というわけでは無いということです。

損益計算書(PL)、貸借対照表(BS)、キャッシュ・フロー計算書(CF)のつながりですが、覚えていますか?

Cashは、営業活動の結果として獲得できた「営業キャッシュフロー」と、事業活動を行うための投資である「投資キャッシュフロー」、そして事業活動を行うためのお金を獲得していく(もしくは返済)「財務キャッシュフロー」の3つの形でグルグル回っていきます。

「内部留保」と呼ばれる「繰越利益剰余金」は、Cashだけでなく、別の何かに形を変えてしまっているのですね。

貸借対照表(BS)をスコープする形で、念押し確認してみましょう。

「内部留保」と呼ばれる「繰越利益剰余金」は、Cashだけでなく、まだ未回収の売掛金の形をしている場合もあれば、本業資産(在庫、各種固定資産など)に投資されたり、余剰投資として新規事業(子会社株式など)に使われたりします。
単純に使うだけでなく、信用創造(買掛金、未払費用など)や有利子負債(借入金)の返済に充てられたりすることも当然にあります。
さらには株式会社ですので、配当(利益剰余金の控除になる)や自己株式の買い取りという形で株主還元されたりします。

ようは、「内部留保」を企業が使いもしない大量の現預金として会社内に溜め込んでいる、というイメージは全くの間違いなのです。

それ以前に、企業が現預金を溜め込んで、何が悪いの?

企業は、社会への貢献のため、人々の幸福価値の向上のため、そのような理念・ビジョンに基づいて存在している、存在すべきだ、という基本的価値観は共感できる話で、是非にもそうあるべきだと私も考えます。

それを受けてか、論調として「お金を溜め込んでいるならば、社会のために使うべきだ!」という話がどうしても出てきます。

まぁ、この主張自体は理解・共感できるのですが、一方で現預金を溜め込む意義も同様に存在します。

「黒字倒産」という言葉が存在します。

結論を言ってしますと、どんなに利益を出していても、Cashが尽きた段階で会社は倒産します。

逆に言うと、どんなに赤字を出していても、Cashを抱えている限り会社は倒産しません。

今回の新型コロナウイルス影響を見て下さい。

Cashが尽きた会社・事業所から倒産・廃業していっています。

銀行も基本的には、「晴れの日に傘を貸し、雨の日に傘を取り上げる」性質を持っています(銀行も利益を出さなければいけない株式会社なので、当然のことであり、批判されるいわれはない)。
そのため、事業が厳しい環境におかれ、返済の目途が見えない会社にはお金を貸しようがありません。
(今回の新型コロナウイルス影響では、公的支援が多くついた融資があり、ハードルは大きく下がりはしましたが。)

この緊急時において、事業を維持しているのは、やはりベースの経営体力、ようは資金力が強い会社です。

Cash、もしくは即座にCashに変換できる何か(売却できる何かや、借入ができるだけの厚い自己資本など)を持っている事は正義なのです。
それが無ければ、何か世が傾いた時にあっさり倒産し、働いている人たち、商品・サービスを利用していたお客様、会社に事業用の諸々を提供していた取引先、投資していた株主、の全てがネガティブな影響を受けます。

もう一度繰り返しますが、Cashを確保しておくのは事業活動上、正義なのです。


別観点で言うと、今が投資のタイミングでは無く、時勢を見ている状況の場合、投資用のCashを溜め込んでおくのは、これもまた正義ですよね?
上述の「内部留保」は守りの用途でしたが、この「内部留保」は攻めの用途ですね。

ちなみに内部留保を減らしたいのならば、利益を出さないか、配当を過剰に多くする(将来への投資を減らす)、という方法があります。
これって本質的ですかね?

ようはバランスの問題

ここからは「内部留保」の話ですら、微妙に無くなっていくのですが。

Cashの確保は正義である、という話をした上で、若干話をひっくり返すのですが、Cashの溜め込み過ぎは当然によくありません。

使途の全く見えない(安全資産としてのCash確保や将来投資を超えた分)Cashを抱えているのならば、従業員にボーナス出しましょうよ、配当にまわして株主還元しましょうよ、という話に当然なります。

実際、企業の「内部留保」の増加にあわせて、Cashの留保額は確かに増加しています。

なお、この種の話は色んな人が書いていて、諸々資料もまとめています。
この資料は財務省の「法人企業統計調査」が出典のようです。
下記の「労働分配率」もそうですね。

溜め込み過ぎは良くないですので、適切に使いましょう、ということでこれまた良く出る指標として「労働分配率」「配当性向」というものがあります。
詳細は省略しますのでググって頂きたいですが、簡単に説明するとそれぞれ、どれだけ従業員や株主にお金を還元しているか?という指標です。

それでは、「労働分配率」の推移を見てみましょう。

これを見て「なんだと!下がっているじゃないか!けしからん!」となるのは短絡的です。

労働分配率は引用記事内にもありますが、「人件費 ÷ 付加価値額 = 労働分配率(%)」で表現されるためです。
労働分配率は、人件費が下がるか、付加価値額が上がるか、のどちらかで下がるのです。

この通り、人件費が上がっている状況で、それ以上に付加価値額も上がれば、労働分配率は下がるのですね。
(なお、当方は別に政治的主張をしたいわけでは無く、あくまでも会計・財務的な話をしたいだけですので、ご留意ください。)

同様に配当性向も見ていきます。
配当性向は「配当金支払額 ÷ 当期純利益 = 配当性向(%)」で計算されます。

2018年7月14日 日本経済新聞「配当性向 3割どまり」より

この通り、配当性向は30%超で安定推移しています。
(配当性向があがったのは、企業の純利益が下がったリーマンショック、東日本大震災の時です。ようは利益が下がる中、配当金は可能な限り維持している、という状況においてです。)

こうして見ると、よく語られる指標においては、バランス良くお金が使われているようには見えますね。
(本当に、日本全体マクロ感で、お金がバランス良く使われているのかどうかは、流石に知りません。)


以上、「内部留保」に関して、解説してきました。

これらを踏まえた上で、「内部留保」課税の話が論じられるならば、それはそれで良いかと思います。
「内部留保」課税は、理論的には可能ですし。
「内部留保」課税の問題点に関しては、別の場所で気が向いたら書いて見たいと思います。

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