ストックオプションはスタートアップ/ベンチャー企業の経営者にとっては、非常に重要な経営のツールであると同時に、専門性が高く、あまり世の中に情報も無いため、悩みの種の一つでもあります。
ここでは、ストックオプションの配分の考え方について、解説していきます。
これを読めば、ストックオプションの配分の考え方について、少しでも「最適」に近づけるでしょう。
なお、ストックオプションについて、最低限の知識があることを前提に記載しています。
ストックオプションとスタートアップ/ベンチャーとの相性のよさ
ストックオプションの発行は、当然諸費用は生じるものの、大きなCashOutを伴いません。
そのため、資金が常に足りないスタートアップ/ベンチャーとは、非常に相性が良いツールです。
ただし、大きなCashOutを伴わないからといって、安易な発行は危険です。
まず、会計上の費用として計上されるので、バリュエーションに影響を与える可能性があります。
株式の希薄化懸念により、IPOの審査に影響を与える場合もあります。
また、株式の希薄化懸念がある、ということは既存株主からの反発を招く可能性も当然にあります。
ストックオプションの発行にあたっては、あくまでも人件費の内数であると認識して、適切に設計する必要があります。
思想が一番大事
ストックオプションの配分について考えるにあたって、最も大事な事はなんでしょうか?
それは、会社としての思想やポリシーです。
配分についての正解は存在せず、経営の方向性や社風などを考慮する必要もあります。
ストックオプションの配分は、給料以上にメッセージ性が強いです。
その設計に関して安易に考えず、あくまでも思想やポリシーを大前提において、慎重に経営者の意思を込めて検討すべきです。
なぜこんな話をするのかと言うと、ストックオプションの配分数(付与個数)は、隠しても上場時にオープンになるからです。
(目論見書、という書類に記載される。)
また、上場前でも、人の口は軽いものですから、存外に広まるものです。
日常の会話の中や、飲み会の場など、自然と話題にあがり、こぼれてしまうのです。
お金に関して表面的には出さなくても、嫉妬の温床になります。
人の心も荒むので、組織が乱れるリスクもあります。
IPO達成後の一斉行使による、大量退職も珍しくありません。
つまり、説明がしっかりとできるように思想やポリシーを明確にし、設計をしておかねばならない、ということです。
むしろ、オープンにする位のつもりで、制度設計を行うのが良いでしょう。
ストックオプションの総枠は10%前後
もう一つ抑えておかねばならない点が、ストックオプションの総枠は10%前後だ、という点です。
これは、ただの慣習で、理論的な話ではありません。
株式市場の投資家の感覚なのか、証券会社の希望感なのか、不明ですが、とりあえず10%前後、という感覚値が常識として横たわっています。
合理的では無いのですが、相場観になっているのです。
つまり、できあがりの発行済み株式数の15%を超えてくると、多い、と受け止められます。
ストックオプションは上記の通り、限りがあるので、今後の活躍が期待されるキーマン、特にCxOクラスを中心に、順に枠を確保していく考え方が定石です。
つまり、逆算して考えて、残りの枠から従業員に配分していく、という形とするのが良いです。
ここでも思想やポリシーの話が出てきます。
限りのある10%を、限られたキーマンに重点配分するのか、広く配分するのか、という点ですね。
この点を考えるにあたり、目的の整理を行う必要があります。
目的の整理
ストックオプションの目的は大きく3つあります。
- これまでの働きに報いる、過去の視点(感謝の気持ちの表現であったり、リテンションとしての機能)
- 採用やリテンションにつなげる、現在の視点(出せる給料と市場価値との乖離を埋める機能)
- これからの活躍に期待する、未来の視点(パフォーマンスのドライブとリテンションの機能)
ストックオプションを発行する場合は、どのような目的をもつのか、視点でいるのか、を明確にしておくとよいでしょう。
これのうち、どの視点に立つのか、で大きく設計の方向性が変わります。
なお、採用のツールとして使う場合は、安易な口約束はしないようにしましょう。
面接時に、口頭でストックオプションを出す、と言いつつ、実際に蓋をあけてみたら貰えなかった、もしくは想定以上に少なかった、として揉める話はよく聞きます。
あるある話です。
会社としての信頼性にも影響を与えますし、組織を乱すことにもつながるので、口約束をするくらいならば、明確に「言わない」かオファーレターに明記すべきでしょう。
明確な決定は怖いものですが、曖昧さが未来に与える悪影響よりかは怖くないはずです。
配分方法の例
過去の視点の場合
これまでの働きに報いる、感謝の表現であったり、今まで頑張ってくれた人たちへのリテンションを意識する、過去の視点の場合です。
(ジョイン時に、給料をダウンして入社してくれた人への、差額分の補填の意味合いを乗せる場合もあります。)
この場合、「在籍年数」と「グレード」、これに何かしらの「人事評価」でマトリクスを作り、傾斜配分をする方法が考えられます。
なお、一定の曖昧さを残しておきたい場合は、「ミッション・ビジョンへの共感度合い、体現度合い」など、定性的な評価項目も組み込んでおくと、鉛筆なめなめをできる余地が残ります。
この場合は、今後のコミットに関して期待を乗せるような設計は微妙です。
身も蓋もない話ではあるのですが、多くの場合、ストックオプションの価値がわかる方は少数派です。
ですので、変に行使条件をつけても、今後のパフォーマンスへのドライブ効果はほぼありません。
現在の視点の場合
会社が一定程度成長してくると、未来への成長のため、今この瞬間、CxOクラスやそれに準ずるキーマンを採用する必要性が出てきます。
ここでの採用ツールとして使う、という考え方です。
会社として出せる給料と、その人の現在給料や市場価値との差異、ここの乖離を埋めるだけのストックオプションを発行する、という計算になります。
(つまり、資本政策とバリュエーション想定はもって、一定レベル以上できちんと計算できる状況である必要があります。)
この場合は、独自の行使条件をつけるなど、コミットをしてもらえるような設計にすると良いでしょう。
場合によっては、出来上がりの金額感が、普通にサラリーマンをやっていたのでは得られない規模にすることも考えられます。
ただし、ストックオプションの価値をきちんと理解できる人に限られます。
(CxOクラスやそれに準ずるキーマンを対象とするはずなので、通常は心配が無いはずですが。)
なお、一般メンバークラスの採用で、給料ギャップを埋めるためのツールとして使う場合も考えられますが、これは微妙です。
というのも、何度も書きますが、ストックオプションの価値がわかる方は少ないので、いくら発行しても、結局のところ目の前の給料の額でモチベーションが影響されがちなので、あまり意味が無いのです。
リテンション機能もあまりありません。
「在職条件」をつける場合が一般的なので、辞めてもらっても影響がないのが幸いですが、、、。
未来の視点の場合
こちらのパターンでは、概ね「現在の視点」の考え方と同じになります。
違うのは、乖離を埋める、という考え方を持つ必要がない点です。
「これからの活躍が見込める」「代えられない存在なので絶対に頑張り続けて欲しい」という方に重点配分をする考え方です。
ですので、グレード間や報酬間での逆転現象も十分に考えられます。
なお、補足ですが、基本的にストックオプションは、生株を持ってない人に割り当てるのが定石です。
筆者の考え方
これまで、いくつかの視点で記述してきましたが、筆者は「未来の視点」で設計するのが最も合理的であると考えています。
絶対に残って欲しい代えられない人、圧倒的な活躍が見込まれる人、そういった方には多く偏りをもって付与するのが良いでしょう。
なぜならば、会社の成長にあわせて、その会社にとって必要な人物像は変わってくるからです。
そのため、過去の視点で設計したとしても、未来へのインパクトはほとんど見込めないからです。
感謝が不要とは決して思いませんが、経営においては、合理的にいられる領域に関しては、とことん合理的であるべきと考えます。
在籍年数は過去の話であり、未来の話は一切含まれていません。
情はどうしても湧いてしまうものですが、冷静に、合理的であるべきです。
また、未来の視点で設計する限り、今現在での採用ツール、リテンションツールとしての機能も内包できます。
つまり、非常に柔軟性高く、かつ強力にストックオプションの性質を活用できるのです。
抑えておくべき注意点としては、ストックオプションの価値を理解できる人に重点配分すべき、という点です。
誤解を招く言い方ではあるのですが、ストックオプションの価値を理解できない人に多めに配分しても無駄です。
ストックオプションは、大きな意味合いで給料の内数ではあるのですが、その性質は大いに異なります。
在籍し続けなければ行使ができないですし、業績が伸びなければ当然にその価値はあがりません。
通常の給与制度と同じ枠組みで考えては、ストックオプションの性質を活用しきることはできないでしょう。
最後に、できあがりのイメージに関して触れます。
- CxOクラスの方々で合計6%程度
- CxOクラスに準ずるキーマン上位約10人で合計3%程度
- 残りを他の従業員で配分
この形で大枠の配分を考えるのが良いでしょう。
発行のスケジュール感としては、CxOクラスの採用時には1%弱、それに準ずるキーマンの採用時に0.1%程度を発行、残りを活躍の想定などをみながら発行、という流れになります。
都度都度の発行では、無償なのか有償なのか、などなど、様々に設計も可能です。
これなら総枠10%の相場観にも合致しますし、未来の視点での配分もできるのです。
(補足)持株比率に関する懸念に対して
なお、経営者の中には、ダイリューションという、持株比率の低下を気にする方もいらっしゃいますが、本質的ではありません。
経営のコントロール権はあくまでも業績成果で示すべきものであり、持株比率でえるものではないからです。
持株比率の過半数や3分の1という考え方は、経営企画などの資本政策を実務で考える方たちに任せて、経営者自身は早々にその考え方を捨てるのが良いです。
ダイリューションに関しては、こちらの記事でも詳細を解説しています。
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