新型ウイルス影響で支払いができない!支払ってもらえない!~非常事態の法務~

リーガル・法務

とんでもない経済不況が訪れようとしています。
現実的に資金繰りに苦しみ、支払いができない、支払いが受けられない、という状況もあるでしょう。
今回は、新型ウイルス影響を受けての支払いに関して、法的な取扱いを見てみます。

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売上が減少し取引先に支払うお金が無いパターン

事例

感染症の蔓延により、世間は外出自粛モード。
売上が激減し、資金繰りが厳しくなっています。
そのため、取引先や銀行に対する支払が困難な状況です。
つまり、金銭債務の履行ができない状況ですね。

このような状況における法的な取扱いはどのようになるのでしょうか?
損害賠償責任を負うのでしょうか?

法的取扱い

金銭債務が履行できない、という状況については、明確に法の定めがあります。

民法

(金銭債務の特則)

第四百十九条 金銭の給付を目的とする債務の不履行については、その損害賠償の額は、債務者が遅滞の責任を負った最初の時点における法定利率によって定める。ただし、約定利率が法定利率を超えるときは、約定利率による。

2 前項の損害賠償については、債権者は、損害の証明をすることを要しない。

3 第一項の損害賠償については、債務者は、不可抗力をもって抗弁とすることができない。

ようは、感染症が蔓延していようと、支払うものは支払わなければいけないし、支払いが遅延すれば損害賠償賠償責任も負う、ってことです。

不可抗力による抗弁もできないです。
実際に、契約書などでも金銭債務に関しては免責条項が無い(ことが一般的な)はずです。

現実的な対応

無い袖は振れないのも確かです。

取引先に対しては支払期限の猶予や、減額交渉をしてみましょう。
銀行の返済についても、返済期限の猶予交渉はやってみるべきです。
特に銀行に対しては、追加の融資を受けられないか、資金調達の交渉はするべきでしょう。

将来の見通しが全く立たないのであれば、相手も損切りをしてくるでしょうが、倒産してしまったら回収できるものも回収できなくなってしまいます。
また、世の中の状況も状況です。

交渉の余地はゼロでは無いと考えて、最大限の交渉努力は頑張りましょう。

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取引先がお金を払ってくれず、自社も取引先に支払うお金が無くなったパターン

事例

上記は売上が減ったから、支払うお金が無くなったよ、というパターンです。

この項は、売上自体は立っていて請求はしているが、肝心の取引先がお金を支払ってくれない、というパターンです。
その影響を受けて、自社も、取引先や銀行に支払うお金がありません。

このような状況における法的な取扱いはどのようになるのでしょうか?
損害賠償責任を負うのでしょうか?

法的取扱い

この状況でも、可哀想ではありますが、最初のパターンと同様です。

自社に直接の責は無くても、支払うものは支払わなければいけないし、支払いが遅延すれば損害賠償賠償責任も負います。

民法上では、金銭債権における不可抗力は、免責事由とならないのです。

現実的な対応

最初のパターンと同様です。
取引先・銀行との交渉努力を最大限行いましょう。

加えて、支払ってくれない取引先に対して、取り急ぎいくらなら払えるのか?(分割支払いの提案)など、少しでも回収するよう努めましょう。
ただ、状況が状況ですので、あまり先方を追いつめすぎると、無事にことが収束したときに恨まれて、取引が切られてしまうリスクもあります。
苦しいのはお互い様、の精神で、協力して乗り越えていく姿勢を示すべきでしょう。

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支払うお金が無いからと、商品の受け取りを拒否されたパターン

事例

最後がちょっと複雑なパターンです。

商品を用意して相手に納入しようとした段階。
ここで取引先が、商品を受け取れないと言ってきました。
つまり、受領の拒否です。

このような状況は、どのように考えたら良いでしょうか?

法的取扱い

このようなパターンにおいては、状況によりけり、という回答になってしまいます。

民法

まず、民法上の取扱としては受領遅滞というものが該当します。

民法

(受領遅滞)

第四百十三条 債権者が債務の履行を受けることを拒み、又は受けることができない場合において、その債務の目的が特定物の引渡しであるときは、債務者は、履行の提供をした時からその引渡しをするまで、自己の財産に対するのと同一の注意をもって、その物を保存すれば足りる。

2 債権者が債務の履行を受けることを拒み、又は受けることができないことによって、その履行の費用が増加したときは、その増加額は、債権者の負担とする。

上記、民法での規定の他、各種過去の判例にもとづき、次のことを言っています。
ただ、状況により(契約や、そもそもとしての債権の発生原因など)、商品を受け取る側に、受領義務や協力義務というものがある場合もあるので、個別ケースはしっかりと顧問弁護士の確認をとった方が良いです。

  • 商品を提供する側は債務不履行にはならないよ、債務不履行に伴う損害賠償責任も発生しないよ
  • いざ、商品を受領できると受け取る側が言い出した時に、その商品を提供できない状態になっていても提供する側の責任にはならないよ
  • 商品の管理に関しては、顧客の商品の取扱いではなく、自分の物としての管理水準で良いよ
  • 商品を管理している間の費用、つまり保管費用や弁済費用を、商品を受領する側に請求できるよ
  • その他、商品を提要する側は、受領する側に、損害賠償を請求できる可能性があるよ
  • 商品を提供する側は、契約を一方的に解除できる可能性があるよ

この民法の解釈に加え、下請法も考慮する必要があります。

下請法

下請法上では、親事業者による受領拒否や返品、支払い遅延、代金の減額などを禁止しています。

下請代金支払遅延等防止法

(親事業者の遵守事項)

第四条 親事業者は、下請事業者に対し製造委託等をした場合は、次の各号(役務提供委託をした場合にあつては、第一号及び第四号を除く。)に掲げる行為をしてはならない。
一 下請事業者の責に帰すべき理由がないのに、下請事業者の給付の受領を拒むこと。
二 下請代金をその支払期日の経過後なお支払わないこと。
三 下請事業者の責に帰すべき理由がないのに、下請代金の額を減ずること。
四 下請事業者の責に帰すべき理由がないのに、下請事業者の給付を受領した後、下請事業者にその給付に係る物を引き取らせること。
五 下請事業者の給付の内容と同種又は類似の内容の給付に対し通常支払われる対価に比し著しく低い下請代金の額を不当に定めること。
六 下請事業者の給付の内容を均質にし又はその改善を図るため必要がある場合その他正当な理由がある場合を除き、自己の指定する物を強制して購入させ、又は役務を強制して利用させること。
七 親事業者が第一号若しくは第二号に掲げる行為をしている場合若しくは第三号から前号までに掲げる行為をした場合又は親事業者について次項各号の一に該当する事実があると認められる場合に下請事業者が公正取引委員会又は中小企業庁長官に対しその事実を知らせたことを理由として、取引の数量を減じ、取引を停止し、その他不利益な取扱いをすること。

2 親事業者は、下請事業者に対し製造委託等をした場合は、次の各号(役務提供委託をした場合にあつては、第一号を除く。)に掲げる行為をすることによつて、下請事業者の利益を不当に害してはならない。
一 自己に対する給付に必要な半製品、部品、附属品又は原材料(以下「原材料等」という。)を自己から購入させた場合に、下請事業者の責めに帰すべき理由がないのに、当該原材料等を用いる給付に対する下請代金の支払期日より早い時期に、支払うべき下請代金の額から当該原材料等の対価の全部若しくは一部を控除し、又は当該原材料等の対価の全部若しくは一部を支払わせること。
二 下請代金の支払につき、当該下請代金の支払期日までに一般の金融機関(預金又は貯金の受入れ及び資金の融通を業とする者をいう。)による割引を受けることが困難であると認められる手形を交付すること。
三 自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること。
四 下請事業者の責めに帰すべき理由がないのに、下請事業者の給付の内容を変更させ、又は下請事業者の給付を受領した後に(役務提供委託の場合は、下請事業者がその委託を受けた役務の提供をした後に)給付をやり直させること。

加えて、公正取引委員会により、独禁法と下請法の考え方が整理されており、受領拒否は、商品を提供する側に責任がない場合は下請法違反になるとされています。
外出自粛の影響などを受け、親事業者側が工場などの事業所を閉鎖していて、商品の受領ができない、という場合も考えられます。
この場合においても、両者十分な協議の上、代替的な受領場所を用意するなど、受領側は受領の努力をしなければいけません。

ただ、これは下請法の整理ですので、そもそもとして下請法の適用対象でなければいけないです。
下請法の適用に関しては、公正取引委員会のHPを参照ください。

現実的な対応

これまで見てきた通り、商品受領拒否の場合は、商品を提供する側の責任を減ずる程度の法的取扱いになっているのが現状です。
下請法の適用対象であっても、じゃあ、いざ事態が正常化した時に(独禁法と下請法が禁じている)不利益な扱いを被らないとも限りません。
(訴訟を実行できるだけの体力やノウハウが無い会社も多いでしょう。)

現実的には、商品をいつになったら受領できるのか、代金はどれだけ負担いただけるのか、などの交渉を冷静に行っていくしか無いでしょう。
先方担当者も内心は心苦しいはずなので(中には人間的にダメな場合もありますが)、交渉の余地はあるはずです。

資金繰りに関しては上2つのパターンに従い、不足がある場合には個別に手当をしましょう。

(参考)新型インフルエンザ等対策特別措置法

一応、新型インフルエンザ等対策特別措置法上では、国として支払い猶予に関して速やかに検討する、としています。
銀行への返済に関しては、この件もあるので、交渉はしやすいでしょう。
民・民においては、なかなか厳しい所があるでしょうが。

新型インフルエンザ等対策特別措置法

(金銭債務の支払猶予等)

第五十八条 内閣は、新型インフルエンザ等緊急事態において、新型インフルエンザ等の急速かつ広範囲なまん延により経済活動が著しく停滞し、かつ、国の経済の秩序を維持し及び公共の福祉を確保するため緊急の必要がある場合において、国会が閉会中又は衆議院が解散中であり、かつ、臨時会の召集を決定し、又は参議院の緊急集会を求めてその措置を待ついとまがないときは、金銭債務の支払(賃金その他の労働関係に基づく金銭債務の支払及びその支払のためにする銀行その他の金融機関の預金等の支払を除く。)の延期及び権利の保存期間の延長について必要な措置を講ずるため、政令を制定することができる。

2 災害対策基本法第百九条第三項から第七項までの規定は、前項の場合について準用する。

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