ハイブリッド出席型バーチャル株主総会の開催事例(予定含む)

株主総会

バーチャル株主総会において、会社法上の出席となる形式がハイブリッド出席型となります。
参加型は、要件が厳しく、コスト上の問題や事例が少ないという意味で会社法的リスクも存在します。
ここでは、ハイブリッド出席型バーチャル株主総会の開催に関して、株主への案内の方法など、事例を見ていきます。

富士ソフト㈱とパイプドHD㈱(予定)の2社について、具体を掘り下げていきます。

バーチャル株主総会についての全体像はこちらの記事を、

バーチャルオンリー株主総会の開催がなぜできないのか?はこちらの記事を、

会社法上の出席とはならない参加型に関しては、こちらの記事をご参照ください。

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ポイント

  • 会社法上の取扱いを明言する
  • ID・パスワード方式による専用システムへのログインと本人確認を行う
  • 参加環境は多様な方法が選択可能で、システムは一つで完結するものが望ましい
  • 代理人は認めない
  • 事前の議決権行使と当日の議決権行使の関係を明確化する
  • 質問のポリシーを定める(濫用時の途絶を含めて)
  • 動議は認めない、加えて扱いを明確化する
  • 免責事項を明言する
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富士ソフト㈱の事例

概要

システム開発会社の富士ソフト㈱は2020年3月13日(金)に、出席型のハイブリッド型バーチャル株主総会を開催しました。
リアル株主総会への参加が約160名、バーチャル株主総会への参加が約10名とのこと。
おそらく招集通知上の修正は対応できなかったのでしょう。
招集通知と同封する形で「インターネット出席に関する株主通知事項」という案内を出しています。

招集通知上では、インターネットによる議決権行使の場合の案内欄末尾に
「インターネットによる議決権行使に際しては、同封のリーフレット記載の「インターネットによる議決権行使のご案内」もご確認ください。」
と一文を付しています。

バーチャル株主総会の案内について

バーチャル株主総会の案内については、冒頭で新型コロナウイルス対策について触れた後に、インターネット出席について
「(略)
感染予防の対策をいたします。
また今回、インターネット等の手段を用いて株主総会に「出席」いただく、「インターネット出席」の方法を導入することといたしました。」

と案内を出しています。

会社法上の取扱いの案内

会社法上の取扱いは、
「開催日当日に実際に株主総会の会場にお越しいただいてご出席いただく場合と同様、会社法上、株主総会に「出席」したものと取り扱われます。」
と、明確に会社法上の出席となる旨を記載しています。
※ 括弧書きは削除

ハイブリッド型バーチャル株主総会にしても、参加型なのか、出席型なのかが、人によってはわかりづらい場合もあるでしょうから、明確にどちらなのかを記載するのが良いのでしょう。

ID・パスワードについて

ID・パスワードは、バーチャル株主総会への出席を希望する株主様に限定する形で、
「必要な ID とパスワードは、インターネット出席を希望する旨のお申込みをいただいたのちに当社から改めてご案内させていただきます。」
と案内を出しています。

問い合わせベースでのID・パスワード発行は煩雑なので、最初からインターネットによる議決権行使と同じID・パスワードが利用できるような方式に変わっていくものと考えられます。

参加環境について

参加環境は複雑と言いますか、めんどくさい感じです。

「インターネット出席いただくためには、株主の皆様におかれて、少なくとも以下の環境を整えていただく必要がございます。」
と案内を出した上で、

  • 映像視聴はWindowsパソコンからのみ対応
  • 資料の閲覧や議決権の行使には「iPad」のみ対応
  • 質問は電話のみ受け付け

と制限が多い形となっています。
結論、バーチャル株主総会への出席人数が少なかったのも、頷けます。

この事例は技術的にはハードルが低いものの、今後この方式を採用する企業は少ないか、いたとしても「形だけ整えました」という感じになるのでは、と考えます。

本人確認について

本人確認は、シンプルにID・パスワードによる認証です。
「ご案内する ID とパスワードを用いて当社ホームページ、アプリケーション等にログインいただく方法で、株主様の本人確認を実施させていただきます。」

この方式、つまりID・パスワードによる本人確認は、今後のスタンダードになっていくでしょう。
出席環境が整ってきたら、二段階認証方式などが採用されていくのでしょうね。

代理人について

代理人の出席は、
「株主様本人のみに限定させていただき、代理人等による参加はご遠慮いただきますようお願いいたします(代理人等による出席をご希望される株主様は、会社法及び定款等の定めに従い、会場出席いただきますようお願いいたします。)。」
と明確に認めない方針を打ち出しています。

この方式も、今後のスタンダードになっていくでしょう。

議決権行使の取扱い

議決権行使に関しては、
「開催日当日、インターネット出席の方法で定時株主総会にご出席いただいた時点で、事前の議決権行使の効力は破棄するものといたします。
(中略)
また、事前に議決権行使いただいたうえで、定時株主総会にインターネット出席いただいたものの、採決に参加せず、議決権の行使がなされなかった場合には、会場出席株主様と同様、棄権として取り扱うことといたします。
(中略)
事前に行った議決権行使の効力を維持しつつ、株主総会の議事進行の様子をご覧いただきたい場合には、インターネット出席のためのシステムにログインすることなく、ライブ配信のみをご利用ください。」

としています。

整理すると、下記の通りです。

  • インターネットで議決権行使を行ったら、それが優先される
  • 事前行使をし、インターネット出席した場合は、事前行使分が無効になり、棄権扱いになる
  • 事前行使して、変更意思が無い場合は、傍聴のみとするよう案内している

経産省のガイドでは、会社法上の解釈の中で、上記の取扱いとしているので、今後、会社法の改正があれば、この整理は変更が入る可能性があります。
むしろ、面倒ですし、本質的な意味合いは無いので、改正して欲しいですね。

質問について

質問は、
「固定電話又は携帯電話から会場にいる当社のオペレーターにお電話をいただき、議長の許可を得て質問をすることができます。」
と、電話のみであることを明言しています。

質問に対する方針や、質問権濫用への対応については、
「説明することが不適当な質問に対しては、質問を取り上げず、ご回答しないものといたします。
(略)
濫用的な質問であると議長が判断した場合には、当社から当該インターネット出席株主様との通話を強制的に途絶させていただく場合がございます。」

とし、不適切な質問には回答しないこと、質問権濫用は通話を切ることを明言しています。

会社のスタンスに応じて、ここの方針・記載は変わってくるのでしょうが、今の世の中の流れ的に、毅然と対応する方向性がスタンダードになっていくのではないでしょうか。

動議について

動議は、
「動議につきましては、(略)インターネット出席株主様からの提出は受け付けないこととさせていただきます。
(略)
動議の採決につきましても
(略)
インターネット出席株主様は棄権又は欠席と取り扱うこととさせていただきます。
(略)
希望される株主様におかれましては、会場出席の方法で定時株主総会にご出席いただきますようお願い申し上げます。」

とし、バーチャル株主総会出席の場合は受け付けず、動議を行いたい、採決に加わりたい、と希望する場合はリアル株主総会への出席を行うよう案内しています。

これは、コミュニケーションの即時性・双方向性の質が向上したら、もしかしたら変わるかもしれませんが、会社的にあまりメリットは無いので、上記の方向性がスタンダードになる可能性が高いです。

お土産について

お土産は、
「インターネット出席株主様に対して、お土産をお渡しすることはできませんので、併せてご注意ください。」
バーチャル株主総会では配布無しが明言されています。

これは、株主の属性によってはトラブルになりえますが、この方向性を世の中のスタンダードとして欲しいですね。
お土産にこだわる株主が一定数存在しますが、時間コストを考えたら、どう考えたって釣り合わないので、正直不思議です。

免責・インターネット参加する場合のリスクの案内

免責・リスクに関する説明は、手厚くされています。

「もっとも、システム等の都合上、会場出席株主様と完全に同じ取扱いをさせていただくことは難しい点、ご了承ください。
また、インターネット出席の方法は、(i) システム及び通信環境の影響を鑑み、日本国内に在所する株主様のみを対象に実施すること、(ii) 提供できるシステムの言語は日本語に限定させていただくこと、いずれもご了承ください。
(略)通信障害が発生する可能性がございます。当社としては、このような通信障害によってインターネット出席株主様の皆様が被った不利益に関しては、一切責任を負いかねます。
なお、インターネット出席に際して必要な通信・通話のための機器類及び利用料等一切の費用については、株主様のご負担とさせていただきますのでご了承ください。
(略)
想定外の不利益が生じる可能性も踏まえて、会場出席の方法で定時株主総会にご出席いただくか、インターネット出席の方法で定時株主総会にご出席いただくかをご判断くださいますようお願い申し上げます。」

このように、大前提として、リアル株主総会への出席者とは同じ扱いができない点を明言し、その上で、下記について案内を出しています。

  • 日本国在所に限定
  • 言語は日本語に限定
  • 通信生涯が起きうること、とその損害の責任は負わないこと
  • 各種費用負担は株主様が負うこと
  • リスクを承知の上で、リアルかバーチャルかを選択すること
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パイプドHD㈱の事例

バーチャル株主総会の案内について

パイプドHD㈱は2020年5月27日(水)開催なので、現時点では「予定」となります。
招集通知上で全ての案内を出しています。
パイプドHD㈱の案内は、富士ソフト㈱の案内に比較して、かなりあっさりとしたものになっています。

可能な限り、書面(郵送)またはインターネットによる方法での議決権行使をお願い申しあげます。
(中略)
本株主総会はハイブリッド出席型バーチャル株主総会として実施しますので、当日、インターネット上で出席し、議決権を行使することもできます。

「パイプドHD㈱ 第5回定時株主総会招集ご通知」より

ID・パスワードについて

富士ソフト㈱と同様ID・パスワード方式ですが、
「議決権行使サイトにアクセスし、同封の議決権行使書用紙に表示された「ログインID」及び「パスワード」でログインしてください。」
と、議決権行使書に記載のあるものを利用する形になっています。

これは一番しっくりくる方法です。
今後のスタンダードになっていくでしょう。

代理人について

代理人は「代理人によるバーチャル出席はお受けいたしません。」と富士ソフト㈱と同じ扱いです。

議決権行使の取扱い

議決権行使は、
「議決権を行使された後、採決において議長が締め切る時まで、再度議決権を行使し直すことができますが、この場合、最後の議決権行使を有効な行使としてお取扱いいたします。」
と、繰り返し行使できる旨の記載がありますが、事前行使との関係が示されておりません。

リスクが高いのではと感じます。
事例がどれだけ積みあがるかにもよりますが、流石にここまであっさりとするのは問題があるでしょう。

富士ソフト㈱の記載が良いと考えます。

質問について

質問は、インターネットによる事前の議決権行使における「コメント」と同じ扱いにする旨を記載しつつ、シンプルに
「いただいた質問は、株主総会事務局が取りまとめ、議長より回答いたします。」
と、回答する旨を記載しています。

動議について

動議は、富士ソフト㈱と同様、
「バーチャル出席される株主様の動議については、取り上げることが困難なため、お受けいたしません。
当日ご来場の株主様から動議提案がされ採決が必要になった場合、バーチャル出席されている株主様は賛否の表明ができません。事前に議決権行使書用紙の郵送またはインターネットにより議決権を行使し当日ご出席されない株主様と同じお取扱いとなります。」

としています。

会社側からすれば、動議を取り上げるメリットはあまりありません。

免責・インターネット参加する場合のリスクの案内

免責、出席環境については、インターネットによる事前の議決権行使における環境と同じ扱いにしています。

免責事項なのに、
「(略)
通信障害や通信遅延が発生する可能性があります。このような通信障害により株主様に生じた不利益に関して、一切責任を負いかねます。バーチャル出席される株主様におかれましては、可能な限り、事前に議決権行使を済ませた上で、バーチャル出席くださいますようお願い申しあげます。
(略)
また、不測の事態が生じた場合には、当社として適切な措置を講じることがあるほか、株主様におきましては、リアル株主総会への出席と比較して、制約事項や想定外の不利益が生じる可能性がございます。」

と、あっさりとした記載にしています。

パイプドHD㈱の記載例は全体的にかなりあっさりしており、事例が積みあがっていない現状では、不安に思うほどです。
ベースとしては富士ソフト㈱の方針に倣いつつ、使用するツール的には視聴環境から質問・議決権行使まで、一つのシステムで完結できるようなもので実施するのが良いでしょう。

㈱ガイアックスの運営事例-Zoom使用

㈱ガイアックスは3月27日、ハイブリッド出席型のバーチャル株主総会を実施しています。

使用ツールはZoomで、議長をはじめとする取締役・執行役の全員がオンライン参加をする形式です。

運営方法としては、下記の流れです。

  • バーチャル株主総会の参加希望株主に対して、専用の案内窓口をを通知
  • 専用案内窓口にて本人確認(株主番号、氏名住所)を実施
  • 本人確認と併せて、Zoomのカメラやマイクをオンにするなどの注意事項を伝達
  • メールアドレスを確認し、ZoomURLを送付
  • 総会本番では、順番に株主番号を確認し、出席番号を付与
  • 質疑はカメラ前で挙手
  • 議案・採決はカメラ前で拍手

かなりアナログな運営フローですが、確かにハイブリッド出席型の要件を満たしてはいるので、一つの方法として参考にはできます。

ただし、これは株主数が少ないことが前提です。
バーチャル参加が10名程とのことですので、この人数だからこそできる運営と言えます。
現実的な選択肢としては、難しいと言えるでしょう。

(参考)具体的なソリューション

現在、ハイブリッド出席型バーチャル株主総会を運営するためのソリューション(システム)としては、下記のようなものがあります。

なお、富士ソフト㈱は上述の通り、視聴環境と質問環境が分離されているので、選択肢としては厳しいものがあるのでは、と考えられます。
その意味で、実績のあるサービスは現状存在しない状況です。

(補足)実質的なバーチャルオンリー株主総会

バーチャルオンリー株主総会を開催したい場合は、経済産業省の「株主総会運営に係るQ&A」で示されている下記の見解が参考になります。

設定した会場に株主が出席していなくても、株主総会を開催することは可能

株主総会運営に係るQ&A 2020年4月2日

つまり、リアル株主総会の場所を用意すれば、そこに株主が参加していなくても、株主総会は開催したことにできる、ということです。
ハイブリッド出席型の形式をとりつつ、会場出席者がいないのであれば、「実質的なバーチャルオンリー株主総会」になり、法的に問題がありません。

バーチャルオンリー株主総会は会社法的に開催できないのですが、この「実質的なバーチャルオンリー株主総会」を目指すことは可能です。

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