論理的思考に長けている人は、持っている情報を総合的に判断し、最も合理的な意思決定を行っている、と考えているはずです。
しかしながら、いくつかの研究では、人の意思決定は直近の体験に引きずられる傾向がある、ということがわかっています。
つまり、無知が故に最適ではない判断を行う、とは限らないのです。
最良の判断より直近の体験
複数大学の研究チームにより次のような実験が行われました。
今回の研究では、57人の参加者は、パターンを洞察し、そのパターンを利用することで報酬を増やすことができるというシンプルなコンピュータゲームをプレイしました。
研究チームは、参加者のマウスカーソルの動きを追跡して、パターンに気付いたかどうかを検出しました。
例えば、参加者は、画面の上半分に表示されている2つのシンボルのうち、左上か右上にあるシンボルを1つクリックし、カーソルを移動させます。
その後、画面の下半分にカーソルを移動させると、右下または左下にシンボルが表示され、そのシンボルをクリックすると、報酬が得られます。
参加者は、このゲームを何十回も繰り返し、高報酬が得られるパターンを学習していきます。
(研究者は、参加者のマウスカーソルの動きにより、パターンを学習したか否かを判断できる。)
そして、参加者のほぼ全員がパターンを学習することができました。
ここで重要な実験の鍵が、通常のパターンとは異なる挙動が10%~40%の間で発生するよう仕組まれていた点にあります(イレギュラー)。
参加者は、イレギュラーが発生した後は、通常のパターンにおける最も効率が良い挙動を行わずに、どちらのパターンが起きても対応できるようなマウスカーソルの動きを示しました。
つまり、人の意思決定は直近の体験や情報に引きずられる、ということが示されたのです。
総合的に考えたら、イレギュラーが起きる確率は高くなく、戦略的に通常パターンに最適化させた方が効率が良いにも関わらず、です。
(最も効率が良い通常パターンに最適化させた方法をとった参加者は全体の20%程度だった。)
直近のフィードバックに引きずられる
これだけだと、イレギュラーも含めた総合的なパターンまで学習しきれなかった可能性があります。
そこでカリフォルニア大学の研究チームが行った、別の実験も紹介します。
500人以上を対象とした実験で、参加者は架空の図形「Daxxy」について、モニター上に表示される様々な色の図形の組み合わせを見て「Daxxy」であるか否かを特定するタスクを行いました。
「Daxxy」を特定する手掛かりは、「Daxxy」であるか否かを選択した後に得られる、正解か間違いかのフィードバックのみです。
また、「Daxxy」であるか否かを選択するたびに、回答の自信度についても答えました。
その結果、参加者はフィードバックを総合的に判断し推測の精度を高めているのではなく、最後の4,5回の試行を、正しく認識できた否かを判断する材料としていることがわかりました。
これは、試行を重ねることにより推測の精度を高めていった、というものではなく、「Daxxy」がなんであるか正解できたか否かに関わらず、最後の4,5回の試行で自信度を高めていた、という点から示されたことです。
参加者は、過去の試行を推測の精度を上げることに役立てられなかったのです。
これらの実験は非常に示唆に富みますし、人々が恐ろしいバイアスに囚われていることを示しています。
優れた意思決定者になろうとするならば、人の意思決定は直近の体験や情報に引きずられる、という点を理解し、あくまでも総合的に判断するよう努める必要があります。
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