企業は、組織運営の中で様々なセキュリティ運用やリスクヘッジ処置を行っています。
何かしらのインシデントが発生した場合、状況によっては会社の屋台骨に影響を与えてしまうからです。
しかし、どれだけセキュリティを高めたりリスクヘッジを行ったとしても、最後のリスクである「人」という存在がいます。
今回は、人は「安全」な状況では却って高リスクな行動を取る傾向がある、という話をします。
シートベルトの着用と運転行動の実験
TNOというオランダ、スーステルベルグにある研究機関の研究者は、シートベルトの着用と運転行動との関係について実験を行いました。
内容としては、車のドライバーを対象をシートベルトの着用の観点でグループ分けし、運転行動にどのような変化が起きるのか?を調べるものです。
- 1年間、自動車事故を起こさないことに対してインセンティブを与えたグループ
- 習慣的にシートベルトを着用しているグループ(対象群①)
- 被験者がシートベルト着用について約束をしたグループ
- 習慣的にシートベルトを着用しないグループ(対象群②)
その結果、1つ目のグループ(インセンティブグループ)では、より慎重で安全な運転を行うような変化が期待されていましたが、特段の変化は見られませんでした。
つまり、インセンティブがあったとしても、安全な運転行動を行うような変化は起きなかった、ということです。
また、3つ目のグループ(シートベルト着用強制/約束グループ)では、逆に速度の増加や車間距離を詰めるといった、危険な運転行動の増加が見られました。
これらをまとめると、リスクを減らしたいからといって、インシデント発生の防止に対してインセンティブを与えても期待する効果は得られず、また、セキュリティを高めた場合、却って高リスクな行動を取る傾向があると言える、ということです。
現実のセキュリティ施策/リスク管理においてどうするべきか?
上述の実験結果は、セキュリティ管理部門、リスク管理部門においては望ましくない知見です。
インセンティブを与えてもリスクは減らず、セキュリティを高めれば従業員が高リスク行動を平気で取るようになる可能性があるからです。
(セキュリティ管理部門やリスク管理部門は、「人は必ずミスをする生き物だ」という前提で、「頑張って気をつける」というありがちな対応に頼らないセキュリティ施策/リスクヘッジ施策をとっているはずです。もしかしたら、これが却って高リスク行動を誘発する要因になっている可能性がある、ということです。)
それでは、人は「安全」な状況では却って高リスクな行動を取る傾向がある、という前提を踏まえた上で、如何に対処すべきでしょうか?
一つ言えることは、やはり教育しか無いのだろうな、という点です。
どのように対処したとしても、最後のリスクは「人」であると。
また、「人」の性質として、上述のような行動傾向があるのだ、という点もきちんと認識してもらうのが効果的であると考えられます。
知るという行為は非常に強力な武器となります。
「安全」であると妄信してしまった時、知識は改めて原点に振り返り自身の行動を見直すきっかけに(わずかでも)なるはずです。
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