難しい問題に直面した時、人の思考回路はどのようになるでしょうか?
人は、このような時、無意識に簡単な問題に置き換えて考える傾向があります。
また、その結果として答えを誤ることもしばしばあります。
置換バイアスという機能
表題の通り、人は難しい問題に直面すると無意識に簡単な問題に置き換え、そして答えを間違える傾向があります。
ある心理学の研究チームは次のような実験を行いました。
次のような問題を被験者に解かせ、その自信度を回答してもらう、というものです。
(実験課題)「バットとボール、あわせて1.10ドルの値段です。バットの値段はボールよりも1ドル高い時、ボールの値段はいくらでしょうか?」
この問題はバット=ボール問題と言い、心理学の世界では古典的な問いかけのようです。
一般的な人はこの問題を与えられたとき、正答率は20%程で、解答として10セントと答える傾向があるとのこと。
(正解は5セントです。x + (x + 1) = 1.10 なのだから、x = 0.05となるのは明確であり、少し考えればわかることのはずです。)
人間には置換バイアスというものがあり、難しい問題が目の前にある時、無意識に単純化する思考回路を働かせます。
この古典的な問いかけにより、(難しいとは言っても少し考えればわかる簡単な問題でも)容易に置換バイアスが働くことがわかります。
実験では、248名の学生を対象にし、対照となる課題も与えられました。
(対照課題)「雑誌とバナナ、あわせて2.90ドルの値段です。雑誌の値段は2ドルです。バナナの値段はいくらでしょうか?」
対照となる課題では、「〇〇の値段は■■よりも△ドル高い」という条件がない、より単純な課題となっています。
さらに実験では、グループ別に実験課題と対照課題を入れ替えたり(雑誌とバナナの方に△ドル高い、という条件を入れる)、問題の順番を入れ替えたり(実験が先か、対照が先か)して、設問の影響を排除するよう、設計が行われました。
そして、被験者は解答後に、自分自身の解答に対する自信度を0%(全く確信がない)から100%(完全に自信がある)の間で数字で答えました。
その結果、これまでの研究が示した通り、実験課題に対する正答率は20%程と、置換バイアスが働いていることがわかりました。
自信満々ではない模様
この結果は、これまでの多くの研究が示したものの確認ではあるのですが、興味深いのが自信度についてです。
実験では、実験課題において誤解答を行ったグループの自信度は、実験課題における正解のグループ、対照課題における誤解答・正解両グループより、低いものだったのです。
つまり、複雑な問題において置換バイアスが働いた場合、その誤った解答に対して自信満々ではなく、不安や疑念を抱いている、ということです。
(自分の解答が疑わしい、ということをある程度認識している「幸せな愚か者」ではない、ということ。)
現実における知見の活用
それでは、この知見を現実世界において活用するには、どのように考えれば良いでしょう?
まず、人は物事を単純化して考える傾向がある、という点の認識です。
このこと自体は決して悪いことではありません。
脳のリソースを有効活用し、素早い意思決定を行うにあたって、自分自身が理解しやすいように物事を解釈する機能は重要なものです。
ポイントは、この機能(置換バイアス)が悪さをする可能性がある、という点を知っているか否かです。
知っていれば、「あ、今自分は過度に問題を単純化したぞ。」ということに気が付ける可能性が増します。
次のポイントは、「疑わしいと感じている」点にあります。
つまり、何かしら出した解答に対して、何とも表現しがたい疑念を抱いているのであれば、その疑念は正しい可能性がある、ということです。
この点についても、人にはこのような性質がある、ということを知っていれば、その疑念をキャッチし、思考を正す可能性が増すはずです。
いずれにせよ、「知る」ということが、このような知見を現実において活用するためのポイントと言えるでしょう。
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