疲労やストレス、睡眠不足が意思決定やリスク判断を歪めて、ネガティブ面を軽視し、ポジティブな方向に走りがちにしてしまう、ということは知られています。
そして、疲労の一種でもあろう空腹についても同様で、判断力が落ちて安易な意思決定をするようになってしまうことが示されています。
今回は非常に恐ろしい研究を紹介します。
空腹と裁判官の判断の関係
次の論文では、司法判断に与える外部要因について研究がされています。
まず、このグラフを見てください。
こちらのグラフは、10ヶ月間にイスラエルの刑務所で行われた1,112件の仮釈放審査会の結果をまとめたものです。
縦軸は、裁判官が仮釈放を認めたケースの割合で、横軸は、1日の中で審問が行われた順番を示しています。
点線は、裁判官が食事休憩をとったタイミングを示しています。
囚人が仮釈放される確率は、はじめは65%程度と高いのですが、数時間後には劇的に低下していきます。
そして、食事休憩から戻ってくると、再度確率があがり、また時間を置くと低下していく、ということが明らかです。
囚人の人生は、1日のうちのどの時間帯で心理されたのかに左右されてしまう、ということであり、もっと言うと、裁判官のお腹の空き具合に左右されてしまう、ということです。
空腹以外の要因の影響では無い模様
この結果は、空腹以外の別の要因の可能性もあります。
しかしながら、心理に携わったのは平均22年の裁判官経験を持つベテランであり、また研究は10ヶ月間の期間に渡った調査を集計したものです。
集計対象は、研究対象国の国内で行われた仮釈放申請の40%に相当し、極端な事例を集めたものではないことも指摘できます。
(なお、各裁判官は1日14件から35件の案件を検討し、1つの判断に約6分を費やします。食事休憩は2回であり、審理は1日3回に分けて行われます。)
また、再犯の可能性がある囚人や、特定の更生プログラムに参加していない囚人には仮釈放を認めない傾向があるなど、適切に審理が行われているという印象も持てます。
その他にも、性別や民族、罪の重さ等々の要因の影響も見られませんでした。
つまり、裁判官は全ての囚人を平等に扱っていたのです。
空腹という要因を除いて。
お腹が空くと人は簡単な選択肢を取るようになる
心理学者は、この現象について簡単な原理により説明ができる、としています。
意思決定を繰り返す作業は精神的リソースを消耗させます。
そして、判断回数が多ければ多いほど消耗し、最も簡単な選択肢を選ぶようになります。
つまりは仮釈放申請の却下です。
この消耗は食事休憩により一定回復させることができるため、休憩から戻った後は、仮釈放を認める確率が向上するのです。
優秀な裁判官も所詮は人間であり、人間である以上、心理的バイアスから逃れきることはできません。
人である以上、疲れたら判断ミスをする。
そのことを意識する必要があるでしょう。
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