「ネット・ゲーム依存症対策条例」が話題になっています。
ゲームで遊ぶと依存症になってしまい良くないよね、というのが理由の条例です。
これに対して、この論拠が非科学であること、そしてゲームで遊ぶと実は頭が良くなること、について解説していきます。
忙しい人向けまとめ
- ゲームによって依存症になることはほぼない(ついでにゲームによって暴力的になることもない)
- ゲームは認知機能(IQ的なもの)を向上させる
- ゲームはモラルやチームワークなど、社会性を向上させる
ゲームの何がいけないのか?~条例の根拠~
香川県で「ネット・ゲーム依存症対策条例」が可決された、というニュースは既に多くの方がご存じかと思います。
内容としては、18歳未満を対象に、ゲームの利用時間を1日60分まで、休日は90分までとし、スマートフォンは中学生以下が21時まで、それ以外は22時までとする目安を設け、家庭内でのルール作りを促すものです。
学習目的での利用については制限はありません。
条例違反に対する罰則規定はありません。
これ自体に関しては、選挙によって選ばれた方々によって構成された県議会が審議の上で決定したことなので、口をはさむ立場にないと考えています。
考えてはいますが、それはそれ、これはこれで、やはりこのサイトのポリシーからすると「科学的にはどうなのか?」については言及するべきだとも考え、本稿を執筆した次第です。
さて、ポジショントークとなってしまう可能性もあるので、ニュートラルに私自身について告白をすると、私はまあまあなゲーマーでした。
今でこそ、仕事が忙しいのでほとんどゲームをやる時間がなく、あまり手を付けられていないのですが、学生時代はかなりの時間的リソースをゲームに投入していました。
ですので、以下は、ポジショントークとかもしれない、という前提で読んでいただければと思います。
さて、当該条例のパブコメを読む限り、条例名の通り、「依存症」がいけないよね、ということで制定された条例です。
ここのリンクで、パブコメを一通り読めます。
ニュートラルに事実を記載すると、パブコメで提示された全2,686の意見者数の内、賛成が2,269、反対が401、提言等その他が16と、実に約84%が賛成となっています。
(一部報道で「賛成票」という書き方が見受けられますが、パブコメは別に投票では無いので、「票」という書き方はどうなんでしょうね?)
パブコメ内では賛成意見と反対意見に関して、その意見の概要がまとめられており、見てみると、賛成意見はPDF「1ページ」、反対意見はPDF「80ページ」となっています。
つまり、ニュートラルに事実だけを提示するのならば、意見者のうち約84%が賛成の立場であり、賛成意見は全体意見のうち約1%ほどのボリュームという内訳になります。
さて、次に「依存症」部分に関して、考えていきます。
依存症に関しての検証
もろもろ調査をした結果、こちらのサイトがよくまとまっていました。
ただ、こちらのサイトもニュートラルに、サイトの性質的にポジショントークであるかもしれないことは、前提として読むのが良いでしょう。
まず、基本的にゲーム依存になる人の割合は少なく、約91%の人はゲームをしても全く問題がなかったとされています。
純粋にゲームよって依存症になってしまった割合は、約1.7%と、全体の一部であること、また仮に依存性が見られたとしても自然治癒する人がほとんどであることも言及されています。
国別にも影響度が異なり、社会環境など、別の要因の可能性が高く示唆されます。
つまり、「他に依存できる対象が多い」と、その他の対象に依存する可能性が高いということです。
また、香川県が論拠とした科学研究についても異議が出ており、例えば病気としての取扱い(IDC-11上では、あくまでも「状態」であり、「病気」とは定義していない)や、ドーパミン仮説(楽しいことをしていればドーパミンが放出されるのは当たり前であり、これはゲームに限らない)について、反証が出されています。
その他諸々、規制の論拠に対して、一つ一つ反証がでています。
そして、ゲームに依存してしまう人は、ゲームが規制されたとして、別のことに依存するだけでは?とし、「依存症」という観点において、規制での対処は難しいと結論付けています。
ゲームは人の脳機能を向上させる!
さて、これまで規制に関する話と、依存に関する、ネガティブよりな話をしてきました。
それでは、ゲームにはポジティブな効果は全く無いのでしょうか?
実はあり、各種の研究が人の脳機能を向上させるとしています。
例えばこちら、ニューメキシコ州にある研究所Mind Research Networkの研究によると、ゲーム(テトリス)をすると脳の一部が厚くなり、またその活動効率も向上したとしています。
「知的活動」が実際に脳の構造に影響を与え、認知機能も向上したのです。
(ただ、こちらに関しては「ゲームに対する習熟が脳の構造に反映されただけ」とも読み取れることは留意。)
こちらはゲームではなく、インターネットそのものですが、カリフォルニア大学の研究によると、インターネットを使用すると、脳の活動が活発になり、特に中高年において認知機能の改善に役立つかもしれない、としています。
理由としては、読書などの知的活動は「インプットだけ」ですが、インターネットは自ら検索する行為や、「どこをクリックするのか?」という判断もあるため、脳を使う機会が多いから、とされています。
ロジックとしては非常に頷けます。
IQ的側面だけでなく、社会性に関してもプラス効果があるという研究もあります。
英ボーンマス大学の研究によると、日常的に多様なゲームをする人は、そうでない人に比較し、モラルが高いのでは?という結果を示しています(より正確に言うと、モラルが高い行為を判断する能力が高いという結果)。
道徳的な観点における正誤を問うアンケート調査において、ゲームをする人のスコアが一様に高かったと言うのです。
また、同調査において、ゲームがチームワークを促進する効果についても示唆しています。
近年のゲームは、インターネット上での運営である場合が多く、ゲーム内のギルドやフレンドなど、コミュニティが形成されます。
その結果、チームワークをはじめとする社会性の醸成につながるのでは、としています。
社会性だけでなく、判断力にもプラスの効果があるとされています。
米ロチェスター大学の研究によると、アクションゲームには、人の判断力を向上させる効果があることが示されています。
アクションゲームによる「トレーニング」を積んだ被験者は、そうでない被験者に比較して、判断力(スピードと正確性)を測るテストにおいて、25%ほどスピードが向上性、正確性についても損なわれなかったとのことです。
研究者は、ゲームは、ゲームそのもののスキルだけでなく、運転や道に迷わないなど、様々な場面で日常生活に役立つ可能性があると話しています。
さらに、いわゆる「障害」に関してもプラスの効果があるという研究があります。
米カリフォルニア大学の研究によると、ゲームで遊ぶことにより、認知機能が改善し、障害が和らいだとしています。
ゲーム自体が障害の治療となる劇的な効果は無いにせよ、認知障害への対応のオプションになる可能性が示唆されているのです。
これらの研究はほんの一部です。
ゲームにより、純粋に脳のスペックが向上し、社会性も身に着けられ、場合によっては障害が和らぐ効果もある。
ゲームによるプラスの効果、ポジティブな効能がこれだけ示されているのです。
繰り返しますが、本稿は「ポジショントークかもしれない」というは前提においておいてください。
それがニュートラルだと思います。
しかしそれでも、研究を収集する限りはポジティブな効果に関するものが多いことは言及します。
(参考)ゲームは人を狂暴にするのか?
今回の条例では話題にあがっていませんが、「ゲームは人を狂暴にし、暴力的にする」という意見もあります。
これはどうなのでしょうか?と言うと、結論確かな根拠はありません。
アメリカ心理学会によると、暴力的なゲームと、現実世界における暴力行為には因果関係がない、科学的な証拠は不十分、としています。
英ヨーク大学の研究においても、ゲームで遊ぶことが、暴力的になることに関して、つながりはない、と明確に否定しています。
これらも多くの研究の、ほんの一部ですが、非常に多くの研究が、ゲームと人の狂暴性に関して、明確に否定する立場をとっています。
コメント