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リーガル・法務

新型ウイルス影響で支払いができない!支払ってもらえない!~非常事態の法務~

とんでもない経済不況が訪れようとしています。
現実的に資金繰りに苦しみ、支払いができない、支払いが受けられない、という状況もあるでしょう。
今回は、新型ウイルス影響を受けての支払いに関して、法的な取扱いを見てみます。

売上が減少し取引先に支払うお金が無いパターン

事例

感染症の蔓延により、世間は外出自粛モード。
売上が激減し、資金繰りが厳しくなっています。
そのため、取引先や銀行に対する支払が困難な状況です。
つまり、金銭債務の履行ができない状況ですね。

このような状況における法的な取扱いはどのようになるのでしょうか?
損害賠償責任を負うのでしょうか?

法的取扱い

金銭債務が履行できない、という状況については、明確に法の定めがあります。

民法

(金銭債務の特則)

第四百十九条 金銭の給付を目的とする債務の不履行については、その損害賠償の額は、債務者が遅滞の責任を負った最初の時点における法定利率によって定める。ただし、約定利率が法定利率を超えるときは、約定利率による。

2 前項の損害賠償については、債権者は、損害の証明をすることを要しない。

3 第一項の損害賠償については、債務者は、不可抗力をもって抗弁とすることができない。

ようは、感染症が蔓延していようと、支払うものは支払わなければいけないし、支払いが遅延すれば損害賠償賠償責任も負う、ってことです。

不可抗力による抗弁もできないです。
実際に、契約書などでも金銭債務に関しては免責条項が無い(ことが一般的な)はずです。

現実的な対応

無い袖は振れないのも確かです。

取引先に対しては支払期限の猶予や、減額交渉をしてみましょう。
銀行の返済についても、返済期限の猶予交渉はやってみるべきです。
特に銀行に対しては、追加の融資を受けられないか、資金調達の交渉はするべきでしょう。

将来の見通しが全く立たないのであれば、相手も損切りをしてくるでしょうが、倒産してしまったら回収できるものも回収できなくなってしまいます。
また、世の中の状況も状況です。

交渉の余地はゼロでは無いと考えて、最大限の交渉努力は頑張りましょう。

取引先がお金を払ってくれず、自社も取引先に支払うお金が無くなったパターン

事例

上記は売上が減ったから、支払うお金が無くなったよ、というパターンです。

この項は、売上自体は立っていて請求はしているが、肝心の取引先がお金を支払ってくれない、というパターンです。
その影響を受けて、自社も、取引先や銀行に支払うお金がありません。

このような状況における法的な取扱いはどのようになるのでしょうか?
損害賠償責任を負うのでしょうか?

法的取扱い

この状況でも、可哀想ではありますが、最初のパターンと同様です。

自社に直接の責は無くても、支払うものは支払わなければいけないし、支払いが遅延すれば損害賠償賠償責任も負います。

民法上では、金銭債権における不可抗力は、免責事由とならないのです。

現実的な対応

最初のパターンと同様です。
取引先・銀行との交渉努力を最大限行いましょう。

加えて、支払ってくれない取引先に対して、取り急ぎいくらなら払えるのか?(分割支払いの提案)など、少しでも回収するよう努めましょう。
ただ、状況が状況ですので、あまり先方を追いつめすぎると、無事にことが収束したときに恨まれて、取引が切られてしまうリスクもあります。
苦しいのはお互い様、の精神で、協力して乗り越えていく姿勢を示すべきでしょう。

支払うお金が無いからと、商品の受け取りを拒否されたパターン

事例

最後がちょっと複雑なパターンです。

商品を用意して相手に納入しようとした段階。
ここで取引先が、商品を受け取れないと言ってきました。
つまり、受領の拒否です。

このような状況は、どのように考えたら良いでしょうか?

法的取扱い

このようなパターンにおいては、状況によりけり、という回答になってしまいます。

民法

まず、民法上の取扱としては受領遅滞というものが該当します。

民法

(受領遅滞)

第四百十三条 債権者が債務の履行を受けることを拒み、又は受けることができない場合において、その債務の目的が特定物の引渡しであるときは、債務者は、履行の提供をした時からその引渡しをするまで、自己の財産に対するのと同一の注意をもって、その物を保存すれば足りる。

2 債権者が債務の履行を受けることを拒み、又は受けることができないことによって、その履行の費用が増加したときは、その増加額は、債権者の負担とする。

上記、民法での規定の他、各種過去の判例にもとづき、次のことを言っています。
ただ、状況により(契約や、そもそもとしての債権の発生原因など)、商品を受け取る側に、受領義務や協力義務というものがある場合もあるので、個別ケースはしっかりと顧問弁護士の確認をとった方が良いです。

  • 商品を提供する側は債務不履行にはならないよ、債務不履行に伴う損害賠償責任も発生しないよ
  • いざ、商品を受領できると受け取る側が言い出した時に、その商品を提供できない状態になっていても提供する側の責任にはならないよ
  • 商品の管理に関しては、顧客の商品の取扱いではなく、自分の物としての管理水準で良いよ
  • 商品を管理している間の費用、つまり保管費用や弁済費用を、商品を受領する側に請求できるよ
  • その他、商品を提要する側は、受領する側に、損害賠償を請求できる可能性があるよ
  • 商品を提供する側は、契約を一方的に解除できる可能性があるよ

この民法の解釈に加え、下請法も考慮する必要があります。

下請法

下請法上では、親事業者による受領拒否や返品、支払い遅延、代金の減額などを禁止しています。

下請代金支払遅延等防止法

(親事業者の遵守事項)

第四条 親事業者は、下請事業者に対し製造委託等をした場合は、次の各号(役務提供委託をした場合にあつては、第一号及び第四号を除く。)に掲げる行為をしてはならない。
一 下請事業者の責に帰すべき理由がないのに、下請事業者の給付の受領を拒むこと。
二 下請代金をその支払期日の経過後なお支払わないこと。
三 下請事業者の責に帰すべき理由がないのに、下請代金の額を減ずること。
四 下請事業者の責に帰すべき理由がないのに、下請事業者の給付を受領した後、下請事業者にその給付に係る物を引き取らせること。
五 下請事業者の給付の内容と同種又は類似の内容の給付に対し通常支払われる対価に比し著しく低い下請代金の額を不当に定めること。
六 下請事業者の給付の内容を均質にし又はその改善を図るため必要がある場合その他正当な理由がある場合を除き、自己の指定する物を強制して購入させ、又は役務を強制して利用させること。
七 親事業者が第一号若しくは第二号に掲げる行為をしている場合若しくは第三号から前号までに掲げる行為をした場合又は親事業者について次項各号の一に該当する事実があると認められる場合に下請事業者が公正取引委員会又は中小企業庁長官に対しその事実を知らせたことを理由として、取引の数量を減じ、取引を停止し、その他不利益な取扱いをすること。

2 親事業者は、下請事業者に対し製造委託等をした場合は、次の各号(役務提供委託をした場合にあつては、第一号を除く。)に掲げる行為をすることによつて、下請事業者の利益を不当に害してはならない。
一 自己に対する給付に必要な半製品、部品、附属品又は原材料(以下「原材料等」という。)を自己から購入させた場合に、下請事業者の責めに帰すべき理由がないのに、当該原材料等を用いる給付に対する下請代金の支払期日より早い時期に、支払うべき下請代金の額から当該原材料等の対価の全部若しくは一部を控除し、又は当該原材料等の対価の全部若しくは一部を支払わせること。
二 下請代金の支払につき、当該下請代金の支払期日までに一般の金融機関(預金又は貯金の受入れ及び資金の融通を業とする者をいう。)による割引を受けることが困難であると認められる手形を交付すること。
三 自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること。
四 下請事業者の責めに帰すべき理由がないのに、下請事業者の給付の内容を変更させ、又は下請事業者の給付を受領した後に(役務提供委託の場合は、下請事業者がその委託を受けた役務の提供をした後に)給付をやり直させること。

加えて、公正取引委員会により、独禁法と下請法の考え方が整理されており、受領拒否は、商品を提供する側に責任がない場合は下請法違反になるとされています。
外出自粛の影響などを受け、親事業者側が工場などの事業所を閉鎖していて、商品の受領ができない、という場合も考えられます。
この場合においても、両者十分な協議の上、代替的な受領場所を用意するなど、受領側は受領の努力をしなければいけません。

ただ、これは下請法の整理ですので、そもそもとして下請法の適用対象でなければいけないです。
下請法の適用に関しては、公正取引委員会のHPを参照ください。

現実的な対応

これまで見てきた通り、商品受領拒否の場合は、商品を提供する側の責任を減ずる程度の法的取扱いになっているのが現状です。
下請法の適用対象であっても、じゃあ、いざ事態が正常化した時に(独禁法と下請法が禁じている)不利益な扱いを被らないとも限りません。
(訴訟を実行できるだけの体力やノウハウが無い会社も多いでしょう。)

現実的には、商品をいつになったら受領できるのか、代金はどれだけ負担いただけるのか、などの交渉を冷静に行っていくしか無いでしょう。
先方担当者も内心は心苦しいはずなので(中には人間的にダメな場合もありますが)、交渉の余地はあるはずです。

資金繰りに関しては上2つのパターンに従い、不足がある場合には個別に手当をしましょう。

(参考)新型インフルエンザ等対策特別措置法

一応、新型インフルエンザ等対策特別措置法上では、国として支払い猶予に関して速やかに検討する、としています。
銀行への返済に関しては、この件もあるので、交渉はしやすいでしょう。
民・民においては、なかなか厳しい所があるでしょうが。

新型インフルエンザ等対策特別措置法

(金銭債務の支払猶予等)

第五十八条 内閣は、新型インフルエンザ等緊急事態において、新型インフルエンザ等の急速かつ広範囲なまん延により経済活動が著しく停滞し、かつ、国の経済の秩序を維持し及び公共の福祉を確保するため緊急の必要がある場合において、国会が閉会中又は衆議院が解散中であり、かつ、臨時会の召集を決定し、又は参議院の緊急集会を求めてその措置を待ついとまがないときは、金銭債務の支払(賃金その他の労働関係に基づく金銭債務の支払及びその支払のためにする銀行その他の金融機関の預金等の支払を除く。)の延期及び権利の保存期間の延長について必要な措置を講ずるため、政令を制定することができる。

2 災害対策基本法第百九条第三項から第七項までの規定は、前項の場合について準用する。
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取締役会

取締役会議事録・株主総会議事録の電子化~リモート対応にあわせたハンコ廃止はどこまでできるか~

全員がWEB会議参加の取締役会が増えてきました。
あわせて出る悩みが「議事録の押印」、つまりハンコです。
今回は議事録の電子化、つまりハンコ廃止はどこまでできるのかを解説していきます。
結論、社内文章としての保存と、登記申請用の議事録で対応が異なります。

役員全員がWEB会議参加の場合の取締役会招集通知・議事録の書き方に関しては、こちらの記事を参照ください。

忙しい人向けまとめ

  • 社内文書として保存する場合と登記・申請等で行政機関等に提出する場合で考え方が異なる
  • 取締役会議事録の場合は、技術用件を満たしたサービスを利用すれば電子化対応は可能
  • 株主総会議事録の場合は、そもそもとしてハンコがマストでない(真正の担保のために実印押印が一般的)
  • 登記を要する場合は、難点が多く、書類の電子化対応が現実的でないため、運用でカバーした方がよい
  • 電子化対応を行う場合、定款の定めで「電子署名」に対応していることが必要

社内文章としての保存の場合(登記が必要ない場合)

社内文章としての保存の場合も、取締役会議事録と株主総会議事録で取扱いが変わってきます。

取締役会議事録の場合(登記が必要ない場合)

まず、前提の確認からです。

取締役会議事録を電子化する場合は電子署名が必要

取締役会の場合、その議事録は書面でも電磁的記録(以下、「電子データ」と表現)でも作成可能とされています(正確には、どちらかで作成しなければならない)。

会社法

第三百七十一条 取締役会設置会社は、取締役会の日(前条の規定により取締役会の決議があったものとみなされた日を含む。)から十年間、第三百六十九条第三項の議事録又は前条の意思表示を記載し、若しくは記録した書面若しくは電磁的記録(以下この条において「議事録等」という。)をその本店に備え置かなければならない。

(略)
会社法施行規則

第百一条 法第三百六十九条第三項の規定による取締役会の議事録の作成については、この条の定めるところによる。

2 取締役会の議事録は、書面又は電磁的記録をもって作成しなければならない。

(略)

そして、ご存知でしょうが、この取締役会議事録には出席取締役・監査役(以下、「出席役員」と表現)が署名または記名押印することとされています。
もしくは、署名または記名押印に代わる措置を取らなければならない、とされています。

会社法

第三百六十九条 (略)

3 取締役会の議事については、法務省令で定めるところにより、議事録を作成し、議事録が書面をもって作成されているときは、出席した取締役及び監査役は、これに署名し、又は記名押印しなければならない。

(略)

4 前項の議事録が電磁的記録をもって作成されている場合における当該電磁的記録に記録された事項については、法務省令で定める署名又は記名押印に代わる措置をとらなければならない。

この「代わる措置」が電子署名です。
つまり、取締役会議事録を電子化した場合は、署名または記名押印に代えて電子署名をすることが必要となります。

会社法施行規則

第二百二十五条 次に掲げる規定に規定する法務省令で定める署名又は記名押印に代わる措置は、電子署名とする。

(略)

六 法第三百六十九条第四項(法第四百九十条第五項において準用する場合を含む。)

電子署名の要件

電子署名の要件は次の2つです。

  • 本人性の確認:署名を行った者が本人、つまり出席役員であることを確認できる
  • 署名の改変・改ざん防止:署名が改変や改ざんされていないことを確認できる
会社法施行規則

第二百二十五条 (略)

2 前項に規定する「電子署名」とは、電磁的記録に記録することができる情報について行われる措置であって、次の要件のいずれにも該当するものをいう。

一 当該情報が当該措置を行った者の作成に係るものであることを示すためのものであること。

二 当該情報について改変が行われていないかどうかを確認することができるものであること。
電子署名及び認証業務に関する法律

第二条 この法律において「電子署名」とは、電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)に記録することができる情報について行われる措置であって、次の要件のいずれにも該当するものをいう。

一 当該情報が当該措置を行った者の作成に係るものであることを示すためのものであること。

二 当該情報について改変が行われていないかどうかを確認することができるものであること。

そして、この電子署名の要件2つを満たすためには、技術的要件を満たす必要があります。
逆にいうと、技術的要件を満たした方法であれば、取締役会議事録の電子化が可能となります。

電子署名及び認証業務に関する法律

第二条 (略)

3 この法律において「特定認証業務」とは、電子署名のうち、その方式に応じて本人だけが行うことができるものとして主務省令で定める基準に適合するものについて行われる認証業務をいう。
電子署名及び認証業務に関する法律施行規則

第二条 法第二条第三項の主務省令で定める基準は、電子署名の安全性が次のいずれかの有する困難性に基づくものであることとする。

一 ほぼ同じ大きさの二つの素数の積である二千四十八ビット以上の整数の素因数分解

二 大きさ二千四十八ビット以上の有限体の乗法群における離散対数の計算

三 楕円曲線上の点がなす大きさ二百二十四ビット以上の群における離散対数の計算

四 前三号に掲げるものに相当する困難性を有するものとして主務大臣が認めるもの

その他の要件

その他、取締役会議事録の電子化のために、以下の要件を満たす必要があります。

  • 電子データの見読性の確保:モニターで鮮明に表示され、読むことができる
  • 紙かモニター表示のみ:インターネットを経由した方法は不可
  • 紙同様10年の保存が必要:電子署名に加えてタイムスタンプが必要
  • バックアップ:データの消失を避けるためのバックアップ保存が必要

株主総会議事録の場合(登記が必要ない場合)

次に株主総会議事録の場合です。

株主総会議事録はそもそもとして押印が義務ではない

知らない人も多いと思いますが、株主総会議事録には押印義務がありません。
つまり、株主総会議事録の電子化にあたって、電子署名に対応しなければならない義務がないです。

会社法

第三百十八条 株主総会の議事については、法務省令で定めるところにより、議事録を作成しなければならない。

(略)

4 株主及び債権者は、株式会社の営業時間内は、いつでも、次に掲げる請求をすることができる。

(略)

二 第一項の議事録が電磁的記録をもって作成されているときは、当該電磁的記録に記録された事項を法務省令で定める方法により表示したものの閲覧又は謄写の請求

ただし、、、真正担保

ただ、作成した議事録の真正を担保するために、会社代表印、つまり実印を押印するのが一般的でしょう。
後々のトラブルを回避するためにも、押印対応しておいた方がよいでしょう。

つまり、株主総会議事録の電子化対応の場合も、取締役会議事録の電子化対応に準じた対応が望ましいと考えられます。

ついでに、株主から閲覧または謄写の請求があった場合には対応が必要となりますので、これについても取締役会議事録の電子化対応に準じた対応が必要です。

電子契約サービス

それでは、具体的にどのように取締役会議事録・株主総会議事録の電子化対応を行うか、です。
今は、電子契約サービスが充実しています。
安くて使い勝手の良いサービスがたくさんありますので、任意に選定すれば良いでしょう。
ここでは1社だけ紹介します。

GMO agreeは安くて使い勝手がよく、電子署名の技術的要件を満たしたサービスです。
また、GMO熊谷社長は、先般のIT大臣の発言をうけて、積極的にハンコを廃止していく旨のコメントを出しています。
今後のサービス向上にも期待できますし、無料期間も設定されたようですので、これを機に導入検討をするのは有りでしょう。

登記・申請等で行政機関等に提出する場合

(2020年6月18日追記)

ついに念願が叶い、クラウドサインが登記対応となりました。
そのため、本記事の本項は古い内容となります。

詳細は下記記事をご参照ください。


一方、登記のために役所に書類を提出する場合は難点が多くあります。
結論、あまり実用的で無いので、運用でのカバーが良いです。

登記・申請等で行政機関等に提出する場合

登記申請の際、取締役会議事録・株主総会議事録・就任承諾書・委任状などの書類を添付して法務局に申請することが必要です。
これらの書類には、実印による記名押印が必要です。
そのため、実印による記名押印に代わる電子署名が必要となります。

商業登記規則

第六十一条 定款の定め又は裁判所の許可がなければ登記すべき事項につき無効又は取消しの原因が存することとなる申請については、申請書に、定款又は裁判所の許可書を添付しなければならない。

(略)

4 設立(合併及び組織変更による設立を除く。)の登記の申請書には、設立時取締役が就任を承諾したことを証する書面の印鑑につき市町村長の作成した証明書を添付しなければならない。取締役の就任(再任を除く。)による変更の登記の申請書に添付すべき取締役が就任を承諾したことを証する書面の印鑑についても、同様とする。

しかも、その電子署名(代表印/実印)に用いる電子証明書は「電子認証登記所登記官が発行した電子証明書に限る」となっています。
(役員の場合は、認定認証業者が発行している電子証明書による電子署名、もしくは、マイナンバーカードに内蔵されている電子証明書による電子署名。)
つまり、認定認証業者が発行している電子証明書だけで登記ができないのです。

商業登記法

第十九条の二 登記の申請書に添付すべき定款、議事録若しくは最終の貸借対照表が電磁的記録で作られているとき、又は登記の申請書に添付すべき書面につきその作成に代えて電磁的記録の作成がされているときは、当該電磁的記録に記録された情報の内容を記録した電磁的記録(法務省令で定めるものに限る。)を当該申請書に添付しなければならない。
商業登記規則

第三十六条 法第十九条の二の法務省令で定める電磁的記録は、第三十三条の六第四項第一号に該当する構造の電磁的記録媒体でなければならない。

2 前項の電磁的記録には、法務大臣の指定する方式に従い、法第十九条の二に規定する情報を記録しなければならない。

3 前項の情報は、法務大臣の指定する方式に従い、当該情報の作成者(認証を要するものについては、作成者及び認証者。次項において同じ。)が第三十三条の四に定める措置を講じたものでなければならない。

4 第一項の電磁的記録には、当該電磁的記録に記録された次の各号に掲げる情報の区分に応じ、当該情報の作成者が前項の措置を講じたものであることを確認するために必要な事項を証する情報であつてそれぞれ当該各号に定めるものを、法務大臣の指定する方式に従い、記録しなければならない。

一 委任による代理人の権限を証する情報 次に掲げる電子証明書のいずれか
イ 第三十三条の八第二項(他の省令において準用する場合を含む。)に規定する電子証明書
ロ 電子署名等に係る地方公共団体情報システム機構の認証業務に関する法律(平成十四年法律第百五十三号)第三条第一項の規定により作成された署名用電子証明書
ハ 氏名、住所、出生の年月日その他の事項により当該措置を講じた者を確認することができるものとして法務大臣の指定する電子証明書

二 前号に規定する情報以外の情報 次に掲げる電子証明書のいずれか
イ 前号イ、ロ又はハに掲げる電子証明書
ロ 指定公証人の行う電磁的記録に関する事務に関する省令(平成十三年法務省令第二十四号)第三条第一項に規定する指定公証人電子証明書
ハ その他法務大臣の指定する電子証明書

5 前項の場合において、当該作成者が印鑑の提出をした者であるときは、当該電磁的記録に記録すべき電子証明書は、同項第一号イに掲げる電子証明書に限るものとする。ただし、第三十三条の三各号に掲げる事項がある場合は、この限りでない。

6 第二項から第四項までの指定は、告示してしなければならない。

7 前条第三項の規定は、第一項の電磁的記録媒体に準用する。

(なお、認定認証業者としてはリンク先のような事業者が対応していますが。)

難点が多く実用的でない

つまり、登記に対応できる取締役会議事録・株主総会議事録の電子化にあたっては、満たさなければいけない要件が多く、実用的でないのです。

まず、よっぽどの大企業でなければ、登記をしなければならないような事象が限られます。
そのために、役員全員に認定認証業者が発行する電子証明書を発行するのか?という悩みがでます。
役員がITまわりに苦手な場合、わざわざ設定のためのフォローが必要になります。
社外役員の場合は、その手間はもっと増えます。
パソコンですので、突然壊れて使えなくなることも十分に考えられます。
当然、イニシャルコストだけでなく、月額のランニングコストがかかります。

これだけの負担感があるので、現状の制度やサービスの中では、登記要件に充足する電子化対応は難しいと言えます。
実際、多くの会社が、登記については従来通りのハンコ対応を行っている状況です。

運用でカバーが無難

これまでみてきた通り、登記書類の電子化対応は実務上、現実的と言えません。

となると、運用でのカバーが無難と考えられます。

具体的には、登記が必要な案件に関しては、登記を要しない議案の取締役会や株主総会とはわけて対応するのです。
登記が必要な案件は、どこか特定の時期に集中させて、まとめて対応すれば、書類の回覧負担が減ります。
発生した時だけは面倒ですが、要登記事項自体を減らしてしまえば良いのです。

ついでに定款も注意が必要

ここまで、取締役会議事録・株主総会議事録の電子化対応について解説してきました。
実は、もう1点確認が必要です。
それは、会社の定款にどう定められているか?の確認です。

電子化対応を視野に入れているのならば、どこかの総会のタイミングで定款変更をかけておくのが無難でしょうね。

取締役会の議事録に関する定款の定め

A:取締役会における議事の経過の要領及びその結果並びにその他法令に定める事項は、議事録に記載または記録し、出席した取締役及び監査役がこれに記名押印する。

B:取締役会における議事の経過の要領及びその結果並びにその他法令に定める事項は、議事録に記載または記録し、出席した取締役及び監査役がこれに記名押印または電子署名する。

パターンAの場合、記載通り、出席役員のハンコ対応が必要です。
パターンBの場合、電子署名に対応しているならば、ハンコを廃止することができます。

株主総会の議事録に関する定款の定め

A:株主総会議事録については、法令で定めるところによりその経過の要領及びその結果等を記載又は記録し、議長及び出席した取締役がこれに記名押印又は電子署名を行う。

B:株主総会における議事の経過の要領およびその結果ならびにその他法令に定める事項については、これを議事録に記載または記録する。

パターンAの場合、記載通り会社実印と出席取締役のハンコが必要です。
パターンBの場合、登記を要しない議案であれば、ハンコは必須ではない形になります。

最後に

これまで書いてきたことは、IPOを視野にいれていない中小企業にとっては、おそらく重要性の低い話でしょう。
おそらく、議事録自体を整備していないでしょうから。

しかし、IPOを目指す場合は別です。
IPO進行上、議事録の整備は論点の一つとなるため、避けては通れない話になります。
書類の電子化は要件を満たしてさえいえれば審査上の問題はありませんの、どうせなら最初から電子化前提で管理体制を構築するのが良いのではないでしょうか。

その際は、オンライン上に機密情報を保存する形になりますので、セキュリティ面だけ十分な注意を払いましょう。

取締役会議事録・株主総会議事録の電子化は、登記という観点を除けば、リーズナブルに対応可能です。
管理体制の整備自体が業績向上に直接的に寄与するものではありませんので、効率的に進めたいものです。

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IR

クレームやマウンティングばかり!~IRの電話窓口は廃止しよう!~

株式市場にとって非常に厳しいタイミングが来ています。
各上場企業のIR担当者は、日々、電話の問い合わせが鳴り響いているのではないでしょうか?
そして、その内容のほとんどが生産性のないクレームやマウンティングばかりではないでしょうか?
IRの電話問い合わせ窓口は廃止すべきです。

忙しい人向けまとめ

  • IRの電話問い合わせ窓口に来る問い合わせ内容は、クレームやマウンティングばかりで生産性がない
  • 電話問い合わせ窓口を廃止する上場企業も出てきている
  • 問い合わせフォームとQ&Aの充実で、問い合わせの機能は果たせる
  • IR資料の充実を図れば、そもそもとして問い合わせが減る
  • いきなり電話問い合わせ窓口を廃止できない場合でも、録音とその音声アナウンスを導入すれば、クレームやマウンティングは減る
  • 貴重で優秀な社員のリソースを消耗しないためにも電話問い合わせ窓口は廃止した方がよい

IRの電話問い合わせ窓口で起きていること

IRにおける問い合わせ窓口とは

IRとは、インベスター・リレーションズの略で、企業と投資家との関係性構築のための取り組みのことを言います。
一般論としては、このIRにより、会社の経営状態や財務状況、今後の見通しなどが投資家に周知され、企業の株価が適正に評価されることを目的として実施します。

通常、IR活動をしっかりと行っている企業と、あまり行っていない企業では、同種の同じような業績の会社で比較すると、IR活動をしっかりと行っている企業の方が株価が高い、と言われています。
そのため、多くの上場企業は、実態はともかくとして、IR活動に熱心ですよ、投資家のことを重要視していますよ、という姿勢をアピールします。

企業ホームページにおけるIR問い合わせ窓口もその一環で、大体の会社において電話問い合わせ窓口が存在します。
そして、この電話問い合わせ窓口が曲者なのです。
会社の情報を入手したいという投資家からの問い合わせではなく、ほとんどの問い合わせがクレームやマウンティングばかりなのです。

実際は、、、

まず、上場をしている以上、有価証券報告書という、企業の情報が詳細に掲載された資料が公開されます。
また、大体の企業では半期毎(6ヶ月毎)に決算説明会を開催し、あわせて決算説明会資料が公開されます。
IR関連資料だけでなく、企業のホームページでは当然、事業内容を説明しているページや、各種ニュースリリースが読めるようになっています。
上場企業は、非公開会社にくらべて企業活動が大きいこともあり、何かしらメディアに取り上げられる機会も多いです。

つまり、非常に情報があふれています。

加えて、現代社会は前時代的な会社であってもメールは使えるはずで、ほぼほぼ全ての上場企業において、デジタル上でのコミュニケーションで完結する場合がほとんどです。

ようは、今この現代社会、わざわざ電話をかけてくる人は個性的な方が多いのです(言葉をだいぶ濁しました)。

まじめな個人投資家の方で、本当にわからないことや疑問点を、事前調査を踏まえて上で問い合わせてくる方もいらっしゃいます。
懇意にしている機関投資家の方はフランクに電話をかけてくる場合もあります。
しかし、それらは割合としては少数で、実際にはクレーマーや、マウンティング取りのためだけに電話をかけてくる方がほとんどなのです。

「お前の会社の株をかったら損をした。どうしてくれるんだ!」
「あんたみたいな貧乏人に、私のことがわかるわけないわよね。」
「兄ちゃん大変だろ。困ったことがあったら俺に相談しろよ。警察や偉い人とつながっているからな。」
「ホームページなんか見るわけないだろ!今、口でわかるように説明しろ!」

こういった言葉をいただくことは決して珍しくありません。
何時間も罵声と説教をうけ、その日一日がほぼほぼ仕事にならないこともあります。
それが、IRの電話問い合わせ窓口なのです。

中には、真面目に会社のことを考えていただいており、商品や施策のアイデアをお話いただける場合もあります。
しかし、会社の中のことはやはり社員の方が知っているものです。
いただくアイデアやアドバイスは、大体において「検討済み」の内容です。

結論と極論を言ってしまうと、IRの電話問い合わせ窓口は設置するだけ無駄なのです。

懇切丁寧に電話対応をするのが良しとされてきたが、、、

IRの電話問い合わせ窓口では株価はあがらない

極端なことを言ってしまえば、IRの電話問い合わせ窓口では株価はあがりません。
上述の通り、わざわざ電話をかけてくる方は個性的な方が多いです。
こういった方々一人一人に丁寧に対応するのは、限られたリソースの無駄遣いです。

株価は、結局の所、企業の将来の可能性に対しての期待感で決まるものです。
IRは、この企業の将来の可能性を「広く」周知することが仕事です。
個人投資家も含めた市場全体に対して、その説明責任を如何に丁寧に果たすのかが重要です。
一個人のクレームやマウンティングに付き合う時間は無いはずです。

クレーム対応、マウンティング対応、この責やストレスをIR担当者に負担させるのは経営者の怠慢でしょう。
事なかれ主義の中で、何となく電話対応を継続するのは思考停止でしょう。

今すぐにでもIRの電話問い合わせ窓口は廃止してしまいましょう。

電話問い合わせ窓口を廃止した事例

実際、世の中では、IRの電話問い合わせ窓口を廃止する事例が増えてきています。
別に私個人の偏った考えと言うわけでは無く、すでに実行している企業が存在するのです。

https://www.sig-c.co.jp/contact/
https://www.zenrin.co.jp/company/ir/support/index.html
https://www.klab.com/jp/ask/

次項からは具体的な対応について考えていきます。

ではどうすれば?

問い合わせフォームとQ&Aページの充実

問い合わせ窓口としては、企業IRページの中に問い合わせフォームを設置しておけばよいです。
大体の企業では既に対応済みでしょう。

電話問い合わせには対応していない旨も併記すると良いです。

そして、来た質問に関しては、IRのQ&Aページにおいて、質問と回答の内容を掲載し、全ての株主、投資家が閲覧できるようにすれば良いのです。
電話問い合わせでは、特定の株主にしか対応できない点を踏まえると、Q&Aページで公表することは公平性も高く、IRの充実という観点でも良く、むしろやらない理由が見当たらないです。

IR資料の充実

加えて、純粋にIR資料の充実化を図りましょう。
有価証券報告書と決算説明会資料は、全てと言ってよい企業で入手性高く公開されています。

それに追加して、四半期毎の業績推移資料をExcelやCSVデータで公表すると良いです。
機関投資家や、きちんと分析する個人投資家は、そういった資料を欲するので事前に用意してしまうのです。
分析資料まで準備すると、機関投資家によるカバーを受けられるかもしれません(彼らは忙しいですから、その仕事を一部代替してしまえばカバー確率があがります)。

会社のPL構造やBS構造など、質問を受けやすく、IR資料をがっつり読み込まなくては理解できない事項を、基礎資料として用意してしまうことも考えられます。
これは、対応している会社が少ないので、好印象を得られやすいです。

決算説明会や株主総会の動画配信も行いましょう。
決算説明会や株主総会は、言ってしまえばぶっつけ本番なので、業績説明動画を別撮して、それを公開するという方法もあります。
決算説明会や株主総会で出た質問に関しては、上記問い合わせフォームで書いたQ&Aページに掲載すれば問題がありません。
むしろ、その場に参加した投資家しかQ&Aを知れない状況より、公平性が高いと言えます。

録音の実施

いきなり電話問い合わせ窓口を廃止できない、という会社も多いでしょう。
その場合、先に音声アナウンスで録音をする旨を伝えるのも有りです。

「この通話は、株主様、投資家の皆様への対応の品質向上のため、録音させていただいております。」

何かクレームを入れたい方は、感情的になられている場合が多いです。
怒りのピーク時間は6秒と言われています。
先に音声アナウンスが流れて時間を少しでも確保することにより、怒りの感情を少しでもおさめる効果があります。

また、「録音するよ」という情報を先に出すと、暴言・罵声を言う方が減ります。
録音されてるとなると、ひるんで無茶苦茶なことを言うのを控えるのでしょう。
変なクレームやマウンティングが全体的に減るのです。

最後に

IRを担当する方は企業によって異なるでしょうが、「これは喋って良い、これは喋ってはダメ。」ということを的確に判断し、正確に投資家の方々に伝達できる担当者は希少ですし、優秀なはずです。

そんな希少で優秀な社員を、クレーマー対応やマウンティング対応で消耗させるのはもったいないです。
電話が突然来れば業務が中断され、集中力も途切れ、またそれが何の生産性もないただのクレームやマウンティングだった場合、後に残るのは消耗感だけです。

一個人のためのIRではなく、株式市場全体のためのIRであるべきです。
効率的に、株式市場全体に対して敬意をもって丁寧に対応さえすれば、IRの対応としては100点です。
今すぐにでもIRの電話問い合わせ窓口は廃止してしまいましょう。

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生産性・業務効率化

こんな情報収集は損をする!~本当に役に立つ情報の考え方~

誰しもがインターネットを使い、情報収集を気軽にできるようになった時代。
そんな時代だからこそ、情報収集の考え方一つで、得もするし損もします。
損をしない情報収集、本当に役に立つ情報について考えていきます。

忙しい人向けまとめ

  • 役に立つ情報とは、利益をえるための時間軸で評価される
  • 一般的には「すぐに役に立つ情報」、つまり目先の時間軸で捉えられる
  • 目先の役に立つ情報ばかりを追い求めると、情報に右往左往し、損をする
  • 長期的目線に立って情報収集をすることにより、得をする可能性がある
  • 人は興味のある対象しか覚えられないので、自分の好奇心を育てることが必要
  • 人生の時間は有限で、情報の量は無数なので、自分の人生軸の明確化が重要

役に立つ情報とは

そもそも役に立つ情報とは何でしょうか?

おそらく多くの人にとっての役に立つ情報は、「今、困っているこのことを解決したい」「知りたいこの情報を調べたい」という見方での情報では無いでしょうか。

これは決して誤りではありません。
リアル現実に、目先の困りごとを解決できるので。

1年後、5年後、10年後に役に立つかもしれない、という「かもしれない」で情報を収集することは、ほとんどの場合、無いでしょう。
つまり、役に立つ情報とは、利益をえるための時間軸で評価されるものなのです。

そして、損をする情報収集とは何か。
それは、この時間軸が短いこと、目先の役に立つ情報ばかりを追い求めること
なのです。

目先の役立つ情報ばかりを追い求めることが如何に損か

目先の役立つ情報ばかりを追い求めることで損をする例

今、マスクや消毒液を買えない、もしくは買えるけど高くて困っている人が大勢います。
毎年、冬はインフルエンザをはじめとして、風邪をひきやすい季節です。
このことを意識していれば、事前の備蓄ができ、マスクや消毒液を入手できずに困ることが無かったかもしれません。
(当たり前に物が入手できる時代に酷な話ではあるでしょうが。消費量が多い時期にまとめ買いしておくと安く手に入りますし、毎回買う手間暇も減ります。)

ここ最近ようやく解消されましたが、ティッシュペーパーやトイレットペーパーが入手しづらくなりました。
マスコミの報道の性質や、オイルショックの時に何が起きたかを知っていれば、行列に並ぶなどという行動に出ずに済んだかもしれません。
(純粋に必要なのに、タイミング悪く不足してしまった方はかわいそうですが。)

マスクや消毒液が不足していても、マスクというものは予防効果としては弱く、消毒に関しても手洗いうがいをきちんとできていれば十分に代替効果があることを知っていれば、焦ることは無かったはずです。
PCR検査というものは設備も試薬も必要で、また臨床検査技師という専門家の方も必要である、ということを知っていれば、全数検査を主張するようなことをせずに済んだはずです。

今回起きている騒動のほとんどは、目先の情報にばかり目が行った結果、右往左往して起きたことがほとんどです。
病気というものは非常に身近なもののはずなのに、リアルに感染症にかかった、自分の健康が害されるリスクが高くなった(ように感じた)という、逼迫した状況になって、ようやく情報を収集するので、行動が遅れ、焦り、誤った意思決定を下しやすくなってしまうのです。

日常生活だけでなくビジネスにおいても同様

これは何も感染症の話だけではありません。
ビジネス上についても同様です。

今目の前の生産性を高める事ばかりに注目した結果、衛生管理を怠り、異物混入により工場閉鎖に追い込まれた食品工場がありました。
問題が「起きるかもしれない」ということには目を向けず、労務環境の改善や、情報管理を怠った結果、裁判沙汰になった企業がありました。

将来のリスクを減らす、将来の成長を見据える。
そのような情報には目を向けず、目先の役に立つ情報ばかりを追い求めた結果、このような状態になってしまうのです。

長期的目線に立って情報収集をすることで得をする例

得をする可能性

将来を見据える、つまり長期的目線に立って情報収集することは、すぐの利益にはつながりませんが、得をする可能性があります(あくまでも可能性です)。

目先の費用負担は飲み込み、コミュニケーションや業務フローのIT化に向けて取り組んでいた企業にとって、今回のリモートワークへの移行はスムーズだったでしょう。
そして、今のこのSNS時代において、社会から賞賛されるプロセス、バズりについて知っているからこそできたPRがあります。
早々に時差勤務やリモートワークに移行してPRした結果として、ホワイト企業として賞賛された企業が何社か存在しました。
後発組は、同じような取り組みをしていても、影が薄くなってしまいます。

ウーバーイーツなど、宅配の時代が来ると知っていた飲食店経営者は、店舗サイズを絞り、宅配に対応した店舗設計・業務設計・商品設計をしていました。
そのため、売上の減少を最小限に抑える共に、固定費の少なさから生存可能性を高めることができるでしょう。
逆に、このタイミングだからこそ宅配を強化し(プロモーションの強化など)、業績を伸ばしたところも存在するはずです。

そして純粋に将来を見据えて計画を練っているが故に、成長のスピード感をあげることも指摘できます。
場当たり的に対応するのではなく、ミッション・ビジョンの実現のために、見えている最短距離で進むが故に、他者に比較して速く成長できる、業績を伸ばすことにつながるのです。

将来を見据えた情報収集のメリット

つまり、目先の役に立つ情報ばかりでなく、将来を見据えて情報を収集していると次の得があるのです。

  • 柔軟にかつ迅速に変化に対応できる
  • チャンスが訪れた時にチャレンジができる
  • 成長速度があがる

それでは、具体的にどのような考え方でいればよいでしょうか?

じゃあどうすれば?

人は興味のあることしか覚えられない

まず大前提として、人は興味のあることしか覚えられない、ということを抑えておく必要があります。
となると、興味の対象を増やしていくしかありません。
自分の中の好奇心を育てていくのです。

好奇心の育て方

チャレンジとアンテナ

とりあえず、何でもよいので、色々なことをやってみるのが良いでしょう。

新しいことに何かチャレンジするのです。
何でもよいので、何かテーマを決めてアンテナを立ててみるのです。

そうすれば自然と多様な情報が集まってきます(意識している、つまりアンテナを立てているので)

その内、実際にやってみた結果として、失敗した、やっぱり興味が湧かなかった、ということがわかるでしょう。
これは儲けものです。
どういうチャレンジをしたら失敗をしたのか、自分にとってどういう領域が興味が無いのか、が明確になるからです。
こういったことは、やってみなければわからないものです。
第一印象でものごとを判断せず、とりあえず聞いてみる、調べてみる、やってみるのが大事なのです。

難しいチャレンジであったとしても、今の自分でできる簡単なことからはじめてみるのも良いでしょう。
例えば新しい領域を勉強するという場合、「もしドラ」のような漫画からはじめる、つまりハードルを下げるのもよいでしょう。
つまづいてしまうと、そこで興味も途切れやすいので、興味が途切れないような工夫をするのも大事です。

今までやってきたことのやり方を変えてみる

これまでと違うやり方を考えてみるのも有りでしょう。

例えば、事務作業において手作業でやっていた部分を、Excelの関数やマクロを活用して作業時間を短縮できないか試してみるのです。
そして、このための方法を考えたり、調べてみたりするのです。
知識・技術というものは、将来にわたって活用しやすいので、情報の質としては非常に高いです(目の前の困りごとの解決にも役立つので、二重にお得です)。

通勤において、違う駅で降りて、一駅歩いてみるのもよいでしょう。
今まで知らなかったお店の存在を知ることができるかもしれませんし。
人の導線の理解につながるため、リアル店舗を出す際に役立つかもしれません。

単調な生活は楽なものですが、将来の可能性を狭めてしまいます。
確立したHowだからこそ、一度壊してみるのは、非常に高い価値があります。

住む場所や付き合う人を変えてみる

そもそもとして、自分自身を取り巻く環境を変えてみるのも良いでしょう。

リモートワークで仕事ができているフリーランスの方でしたら、いっそのこと海外に移住してみるのはどうでしょうか。
新しいチャレンジとあわせて、これまでとは違う新しいコミュニティにも所属してみるのはどうでしょうか。

得られる情報の種類が大きく変わるため、それが仮にすぐには役に立つ情報ばかりではなかったとしても、将来の可能性を広げる種になるかもしれません。

人生軸の明確化が重要かな

結論、自分の人生軸、やりたいこと、実現したいこと、面白いと思うことを明確化するのが重要なのでしょう。

自分の人生軸が明確化されていれば、目先の役に立つ情報ばかりでなく、自分の軸に沿った情報を興味を持って収集することが、しやすくなるはずです。

人生の時間は有限です。やらない言い訳を考えている時間は無いはずです。
一方、世の中の情報をすべて知ることは不可能です。
だからこそ、将来を見据えた考え方が重要になるのです。

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生産性・業務効率化

速読のウソ・ホント~本当に役立つ読書の方法~

リモートワークが増えた結果、本を読む時間が増えた人も多いのではないでしょうか。
そんな中、読書術、特に速読に興味がある方もいらっしゃると思います。
ここでは、速読のウソ・ホントと題して、速読の真実を解説していきます。

なお、ここではいわゆる「ビジネス書」を対象にしており、小説や漫画のような、速読そのものが無粋になるような本については対象としていません。
また、一部、速読を否定するような記載をしていますが、特定の組織や団体を批判したり、名誉棄損するような意図も無いこと、留意ください。

忙しい人向けまとめ

  • 眼球運動や潜在意識を活用したような速読法の効果は、基本的には科学的に否定されている
  • 速く本を読めたとしても、それが理解度にはつながらない
  • 本を速く読むためには、身も蓋も無いが、前提となる知識や経験の絶対量が必要
  • 知識や経験の絶対量を増やすために、専門書の精読や、幅広く各領域の本を多く読むことが必要
  • 読書の目的は、あくまでも問題解決にあると理解し、手段として効率を高める考えが重要
  • 楽な方法など存在しない、辛くなければ効果はない、のでひたすらの積み重ねが重要

いわゆる速読とは

速読とは

速読とは、文字通りの意味で、文章、特に本を早く読むためのテクニックです。
ちまたには、何かしら速読に関して解説された書籍が転がっています。
そして、この速読法は1つではなく、複数の方法論があります。
まず、速読法の種類に関して見てきます。

速読法の種類

速読法を分類すると、ざっくり次の3つの種類が存在します。

  • 眼球運動を活用した速読法(この種の速読法を一番良く見かける印象)
  • 潜在意識を活用した速読法(右脳を使った、とか表現される場合もある)(フォトリーディングとか)
  • 純粋な読書法としての速読法

結論を言ってしまうと、前者2つの眼球運動や潜在意識を活用した方法は効果がありません。

速読のウソ・ホント

詳細はこちらのカリフォルニア大学の論文に譲るのですが、ざっくり解説すると眼球運動や潜在意識を活用した速読法には次のような問題点があります。

まず、眼球運動についてです。
読書をしていて、文字を一つ一つ目で追っていく読み方や、読み戻し(前に戻って、同じ文章をもう一度読む)は、読む速度を遅くする要因であり、眼球をすばやく動かしたり、視野を広げてページ全体を見渡すような読み方が速いよ良いよ、というのが眼球運動を活用した速読法の主張です。

しかしながら、読書における目の動きの重要性は10%以下であるため、この眼球運動部分のトランザクションを改善したとしても、読書速度全体に与える影響は極めて軽微です。

次に潜在意識を活用した速読法についてです。
本のページを例えば「写真」のように読み取り、右脳や潜在意識を活用して情報を処理することにより、常識では測れない速度で本を読むことができるよ良いよ、というのが潜在意識を活用した速読法の主張です。

これも、そもそもとして人間の脳は、文章の内容や全体の構造を読み解き、再構築しながら理解を深めていく構造になっており、右脳や潜在意識を活用する、という方法自体に科学的な無理があります。

速読法に関する大会が主催されているようですが、この速読法大会の成績優秀者に実験が行われました。
その結果、速読法大会の成績優秀者による速読でも、サンプルとして提示された本の内容を全く理解できていなかった、という明確に速読法を否定する実験結果が出ました。

好意的に解釈して「本を速く読むことはできる」のでしょうが、結局のところ「理解度は低い」と言えるでしょう。

速読法の解説を読んでいると、「素質が無い人には習得しづらい」「人によって合う合わないがある」と擁護するような文章も見受けられます。
速読法に関して興味がある方は、この種の方法論との付き合い方は考えた方が良いでしょう。

それでは、全ての速読法はインチキであり無意味なのでしょうか?

純粋な読書法としての速読法

そうではありません。
上述のカリフォルニア大学の論文でも触れられていましたが、読み手側の知識量に応じて速読の効果が変わります。
有効な速読のコツは存在し、それが「純粋な読書法としての速読法」です。

純粋な読書法としての速読法には2つの考え方があります。

  • 純粋な知識量・経験量の増大
  • 目的の明確化

この2つについて見ていきます。

なお、読書は勉強の一形態ですので、理解を深めるために、こちらの記事も参照ください。

早く本を読むための考え方①~純粋な知識量・経験量の増大~

基本的な考え方

身も蓋もないですが、結局のところ、本を読む速度は知識や経験の絶対量に左右されます。
全くもって知らない領域の本は、読む速度が劇的に遅くなりますし、逆に理解度の高い領域の本はすらすら読めるでしょう。
拳の厚さ位ある、ヘビー級の専門書は、読む速度が遅くなることは明らかに想像ができますよね。
同様に、小学生の教科書は、流し読みでも内容を理解できるのも想像ができるかと思います。

ようは難易度設定が重要なのです。
学習における難易度設定としては、現状の理解度・学習レベルより、少々程度難易度を高く設定するのが良いという研究があります(上の記事を参照ください)。

では、自分の専門領域に関する話と、自分自身の幅を広げるための専門外の領域にわけて、純粋な知識量・経験量の増大について考えていきます。

自分の専門領域 ⇒ 少数の本を徹底的に読み込む

自分の専門領域に関しては、少数の専門書を徹底的に読み込むのが良いでしょう。

例えばマーケティングを担当業務としている方でしたら、「コトラー&ケラーのマーケティング・マネジメント」のような専門書です。
ビジネスの各領域には、何かしら権威的な専門書が存在するはずです。
この専門書を数冊選定し、徹底的に繰り返し繰り返し読み込むのです。

併せて、業務の中で、覚えた内容を活用していくのが良いでしょう。
アウトプットは、良質な学習効果をもたらします。

新任担当者の場合は?

まだ経験も知識も浅い新任の担当者の場合は、各領域の入門書からはじめるのは当然に良い判断です。
専門外の方でも理解できるような薄めの入門書を選び、まずはそれを8割ほど理解する。
この入門書は複数冊を買う必要な無く、1冊だけで良いです。
まずは、適当でも良いので選んだ入門書を8割ほど理解するまで、繰り返し読みましょう。

その次に、少々厚めの本、実務よりな本を選ぶと良いでしょう。
各業界で活躍されている方が執筆している良書があるはずです。
先輩方におすすめの本を聞いて2・3冊ほどを選定し、今度はこれらを8割ほど理解するまで、繰り返し読みましょう。

真面目な方でしたら、2・3ヶ月ほどでここまで十分に到達できるはずで、仕事も覚えられるようになるはずです。
ここまで来たら、上述の専門書の精読フェーズに移れば良いです。
優秀な方でしたら、2・3年ほどで、諸先輩方と肩を並べるくらいに仕事が出来るようになるはずです。

専門外の領域 ⇒ ひたすら多くの本を読む

幅を広げるための専門外の領域に関する読書については、ボリュームが大事です。
可能な限り、ひたすら多くの本を読みましょう。

ビジネスの領域は多岐にわたります。
ヒト・モノ・カネという分類で考えた時、ヒトなら「組織・人事」「リーダーシップ」、モノなら「マーケティング」「経営戦略」「オペレーション」、カネなら「アカウンティング」「ファイナンス」という領域があり、更にそれぞれ細分化された領域が存在します。
これらについて、順番ずつテーマを決めて読んでいくと良いです。

本の選定に関しては、上述「新任担当者の場合は?」に準拠し、まずは専門外の方でも理解できるような薄めの入門書を1冊選んで、6割~8割ほど理解できることを目標に設定するのが良いでしょう。
理解に関して、あまりこだわりすぎず、ある程度ざっくり理解したら、次のテーマに移る方が吉です。
ビジネスというものは一つの領域で完結しているのではなく、複数の領域が複合的に絡み合っているので、入門書レベルでも読み漁っていく内に、段々と点と点がつながり、理解度が高くなっていきます。

テーマを一巡したら、少々厚めの実務よりの本を選定するフェーズに入ります。
そして、同じく6割~8割ほどの理解度目標を設定し、各領域の本を順々に読んでいきます。

3年~5年も続ければ、幅広い領域で、各領域を専門に担当している方々と協業ができるようになるはずです。
「人を動かすためには、その領域のことを知らなくても良い、人を動かすスキルがあれば良い。」という人がいますが、正確性に欠けます。
その領域のことを専門に担当としている方よりは知らなくても良いですが、全くの知識0では話にならないです。
ある領域の知識を6割~8割ざっくり理解するまでは比較的容易ですが、8割より先の世界は修羅の世界です。
そしてこの修羅の世界で生きているのが「専門家」であり、この領域に立て、と言っているのではありません。

せめて、人の上に立つのであれば、ざっくり6割~8割理解レベルまでは到達すべきでしょう。

早く本を読むための考え方②~目的の明確化~

基本的な考え方

次に目的の明確化についてです。

まず大前提として、人は興味の無いことは理解ができない・覚えられない生き物です。
ですので、漠然と本を読むのではなく、毎回毎回テーマを決めて取り組むのが効率的です。

時間軸にわけて見ていきます。

【短期的視野】今、困っていることに関して知りたい

短期的視野、これはわかりやすい話でしょう。
今、何か困っていて、このお困りごとを解決したい、知らないことを知りたい、という状況です。

この「解決したいこと」「知りたいこと」を明確化し、それをピンポイントで調べるのです。
多くの方が無意識にやっているはずです(ググることすらしない人たちも一定数存在しますが、、、)。

つまり、本を全部読もうとせず、タイトルや前書き後書き、目次部分を読んで、自分のニーズに合致する部分のみを読むのです。
本は最初から最後まで全部読まなければいけない、という考えは捨てましょう。
「解決したいこと」「知りたいこと」がクリアできたなら、それで読書目的は達成しているのです。
辞書を最初から最後まで全部読もうとする人って、ほぼほぼいないですよね?

また、この観点に立った時に、眼球運動やフォトリーディング的な読書法が役に立つ可能性が想定されます。
タイトルや目次から、自分の知りたいことがどこなのかわからない本は多いですし、辞書的な専門書でも索引が親切でない本も多いです。
この際、一定程度、あたりをつけて読む形になると思いますが、理解は捨てて、ざっくり何が書いてあるかを見ていく読書法がここで機能しうるのです。

ようは、読書法はあくまでも手段なので、目的のために有効活用しましょう、ということですね。

【長期的視野】将来的に役立つであろう知識を習得したい

次に長期的視野にたって、将来いつか役立つであろうことのための読書です。

基本的には上記「早く本を読むための考え方②~目的の明確化~」の通りです。
注意点が2つあります。

  • 専門領域を深堀りしすぎない
  • 自分の専門領域からかけ離れすぎない

専門領域を深堀りしすぎない

専門領域といものは、深堀をすればするほど、段々と実務からかけ離れていくものです。
繰り返しますが、人は興味がないことは理解も記憶もできない生き物です。
実務からかけ離れたことは、興味からもかけ離れる可能性が高いので、専門領域の深堀は読書の効率を著しく落とすリスクが高いです。

ある程度の知識がついたと思ったのならば、インプットよりアウトプット(実務での活用など)の比重を高めましょう。
アウトプットの方が学習効率は高いので、一定レベルのインプットができたのならば、実践での習得が良いです。

その内、つまづいたり、疑問点が出たりするので、その時に専門書に立ち戻れば良いです。

自分の専門領域からかけ離れすぎない

営業の人がマーケティングを学ぶのは良いでしょう。
関連性が高いので、実務にも役立たせやすいはずです。
しかし、概要のインプットで十分なはずで、個別具体のHowに入り込んだ学習は、優先度が低いはずです。
マーケティングを学ぶにせよ、例えば「Webマーケティング」の概要が学べれば良いはずで、「Googleアナリティクス」の解説書を読む必要は無いのは、わかりやすいと思います。

専門領域からかけ離れすぎると、深堀と同様で、興味の領域から外れやすいことが指摘できます。
加えて、アウトプットをする場面が減ってしまうので、併せて学習効率を落としてしまいます。

最後に

以上、速読について見てきました。

まとめ的に、より根源的なことを書くと「楽な方法など存在しない」です。
速読術を習得すれば、本をたくさん読めて、知識もたくさん得られて、収入もアップして、ヒャッハーできる!なんてことはありえません。
順序が逆で、膨大な量の知識や経験を背景として、結果論として本が速く読めるようになる、です。

「楽してダイエット!」がそもそもとして無理があるように、辛くなければ効果がないのです。
心配しなくて大丈夫です。
努力も慣れれば、「今はもう痛みさえ愛おしい」状態になれます。

物事の理解とそこからの問題解決と目的を明確化し、その上で効率を重視する、あくまでも手段だと速読を捉えるようにしましょう。
それができたら、後はひたすらに積み重ねるだけです。

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IPO・バリュエーション

利益相反が何でダメなのか納得~ハンコ文化とリモートワークから見る利益相反取引~

日本全体でリモートワークが進められています。
しかしながら、とある物の存在により、リモートワーク推進が妨げられています。
ハンコ文化です。
そして、日本はこのハンコ文化について国家レベルの利益相反の状態にあり、改善が進まない状態にあります。
ここでは、利益相反とは何か?なんでダメなのか?を解説していきます。

忙しい人向けまとめ

  • 取締役が自分の利益のために、会社の利益を損なう取引を行わせることを利益相反取引と言う
  • IPO推進上、証券会社や東京証券取引所の審査上、絶対に見られる領域
  • 利益相反取引を行う場合、株主総会、取締役会設置会社の場合は取締役会にて承認をとらないといけない
  • 日本のハンコ文化がリモートワークの推進を妨げている
  • IT大臣ははんこ議連の会長も兼任しており、完全な利益相反の状態にある
  • 会社のミッション・ビジョンといった本質的な所から離れてしまうため、利益相反の状態は排除しなければならない

利益相反取引とは

利益相反取引とは~IPO推進上マスト対応~

組織の構成員が、組織と組織の構成員の利益が相反する取引を、組織に行わせることを利益相反取引と言います。
特に、株式会社においては会社法という法律で明確に規定しており、取締役が会社の利益と相反する取引を行わないよう、ガバナンスを構築することを求めています。

なお、利益相反取引はIPO推進を行う会社において、証券会社や東京証券取引所の審査上、絶対に見られる領域です。
そのため、IPOを目指すならば、対応しなければいけない必須の事項となります。

会社法の規定

会社法の規定では、次の通りとなっています。

(競業及び利益相反取引の制限)
第三百五十六条

取締役は、次に掲げる場合には、株主総会において、当該取引につき重要な事実を開示し、その承認を受けなければならない。

一 取締役が自己又は第三者のために株式会社の事業の部類に属する取引をしようとするとき。

二 取締役が自己又は第三者のために株式会社と取引をしようとするとき。

三 株式会社が取締役の債務を保証することその他取締役以外の者との間において株式会社と当該取締役との利益が相反する取引をしようとするとき。

2 略

(競業及び取締役会設置会社との取引等の制限)
第三百六十五条

取締役会設置会社における第三百五十六条の規定の適用については、同条第一項中「株主総会」とあるのは、「取締役会」とする。

2 取締役会設置会社においては、第三百五十六条第一項各号の取引をした取締役は、当該取引後、遅滞なく、当該取引についての重要な事実を取締役会に報告しなければならない。

つまり、利益相反に該当しうる取引を行う場合には、株主総会、取締役会設置会社においては取締役会での承認が必要としています。
これにより、会社の業務を執行する取締役が、会社の利益に反して、その取締役自身や、取締役が関与する第三者の利益を図ることを防ぎます。

利益相反取引の事例

よくある典型例としては、会社が取締役に、もしくは取締役が会社に、何かしらの商品や資産を売却する場合です。
この場合、通常よりも商品や資産の売却代金を安く売却(もしくは高く買い取り)することにより、取締役の取り分(利益)が増える可能性があります。

この例では、会社-取締役の1対1の取引の図式ですが、会社-会社の場合もありえます。
例えば、会社Aのある取締役が、別の会社Bでも取締役を務めていたとしましょう。
この際に、会社Aと会社Bが取引を行う場合、この取締役にとって有利なように、会社間取引を操作する可能性が考えられます。

他には、取締役が個人的な借金をする際に、会社が保証をする場合も想定できます(間接取引)。

まず、これらが大前提です。

リモートワーク化を妨げているもの

それでは、リモートワークの話に移ります。

現在、リモートワークの推進が国や都によって強く推奨されています。
首相により、「オフィス出勤者の最低7割削減」が求められている状況です。

しかし、このリモートワークがある存在により妨げられているのが実態です。
それは、ハンコです。

高性能低価格のノートパソコンの普及や、クラウドサービスの浸透により、リモート環境でも多くの仕事ができるようになりました。
PDFで書類をやり取りし、印刷をせずに済む状況や、紙を不要とする文化も一般的になってきました。

それでも、どうしてもハンコという物理的な存在を無くし切ることは現実的に不可能です。
電子稟議は一般化しましたが、電子契約書はあまり使われず、契約書などは未だにハンコを必要とする商習慣になっています。
(自社が電子契約を導入しても、先方が同意しなければ成立しない。)
役所においても「印鑑証明書」というものが存在すると共に、役所への提出書類は非常に物理的なハンコを必要とするものが多いです。
(役所には、基本的に交渉事が通用しない。)
下記動画も参照ください。

FNNプライムオンライン「首相は“出勤7割減”を要請 “緊急事態宣言”各地で相次ぐ」

そのため、今現代の状況を踏まえて、改めてハンコを不要とする商文化に、国策として変えて欲しいという要望が各所であがっています。
ハンコを押すためだけに出社しなければならない、という状況が現実として存在しているのです。

やっぱり利益相反はダメだ

ところが、我が国のIT大臣は、14日の記者会見にて、リモートワークの妨げになっているハンコ文化について、下記のように発言しました。

「民・民の取引で支障になっているケースが多い」
「民間で話し合ってもらうしかない」
「役所との関係ではそういう問題は起きない」

朝日新聞デジタル IT相「しょせんは民間の話」 はんこのデジタル化 2020年4月14日

これに対して、ネット上では、怒りを通り越して完全に呆れた様子の反応が出ています。
上述の通り、実際、役所に提出する書類には多くの印鑑が必要ですし、各種の手続きで「印鑑証明書」を求められることも多々あります。
民・民で起きているからこそ、法令を含む社会制度全体で改善して欲しい、という要望も存在します。

さて、このIT大臣について、「日本の印章制度・文化を守る議員連盟」(はんこ議連)の会長を努めていることを、すでに多くの方がご存知でしょう。
このIT大臣は、2019年9月の就任会見にて、この兼任について問われた際、「(はんことデジタルが)共に栄えるためにはどうすればいいかということに知恵を絞っていきたい」と回答しています。

つまり、完全な、しかも国家レベルの利益相反の関係にあるのです。
IT大臣として、法令を含む社会制度全体でハンコ文化の改善が必要ですが、今このリモートワークが国や都から求められている状況でなお、利益相反の状態がある故に実行することができないのでしょう。
やはり、利益相反はダメです。
必要なはずのことが進まなくなります。

免責

なお、断片情報の所感故、上記14日記者会見について、全文情報が出たら、受け取り方が変わる可能性があることは留意ください。
加えて、私は別に政府批判をしたいわけでも無いことも留意ください。
同様に、関係各所の名誉棄損や営業妨害の意図も一切ございません。

IPOを目指すベンチャー企業は利益相反状態を排除しよう

上記の通り、利益相反は百害あって一利なしです。

会社の成長を妨げたり、業績面での実害をもたらしうる可能性があります。
IPO推進における、証券会社や東京証券取引所の審査で障害になります。
ガバナンスでヘッジをすることは可能ですが、そもそもとして、利益相反の状態を取り除けばヘッジが不要になります。

会社という物は、人間関係や感情などがどうしても渦巻くものです。
ですが、ミッション・ビジョンを見据えて考えた時に、本質でないものは徹底的に排除すべきでしょう。
繰り返しますが、やはり利益相反はダメです。

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マネジメント・リーダーシップ

議論の質を高める反論のカルチャー~デビルズアドボケイトとシックスハット法~

会議をしていて誰も意見を述べない会議や、けんか腰の会議、誰かを「詰める」ためだけの会議を経験したことはありませんか?
反論は議論の質を高めるのに、有効活用されず、時間を浪費するだけのものになっている、そんな状況を多々見受けます。
今回は、反論を有効活用し、議論の質を高めるための方法について考えていきます。

忙しい人向けまとめ

  • 議論、特に人と異なる意見、つまりは反論を述べることを苦手とする人は多い
  • 一人の人間の思考には限界があるため、反論は議論の質を高めて、高いレベルでの思考を可能にする
  • 会議においてファシリテーターは出席者に反論を促すと良い
  • デビルズアドボケイトという「あえての反論」で、賛成の立場であったとしても反論を義務付ける方法がある
  • シックスハット法で会議の出席者に役割を与えると、差し障りなく反論する環境を作ることができる
  • 反論がカルチャー化すると、会社を自走組織に変革することができ、強い組織になる

反論に対するネガティブなイメージ

議論、特に人と異なる意見を述べることを苦手とする日本人は非常に多いです。

学校教育、というものが反論を苦手とする人を量産する環境になっていることもあります。
社会に出て会議の場で、声の大きい人だけがしゃべり、場合によっては詰められ、社会人としての入り口で苦手意識を持ってしまう人もいます。
否定的な意見ばかりを述べる人をみて不快感を感じることも珍しくなく、反論そのものに対してネガティブなイメージも抱かれがちです。
意見を述べられること自体を、人格否定と捉えてしまう心理的傾向もあります。

ようは、議論というものを「過激な議論」というイメージを抱いており、生産的な未来志向の「穏健な議論」を描けていないのです。

反論は議論の質を高める

一人の人間が得られる情報や持っている知識、できる経験には限りがあります。
人間はバイアスにも縛られている生き物です。
どんなに賢い人でも、その意見が正しいとは限りません。

そのため、積んできたキャリア、それぞれの専門性、担当している業務など、異なる立場の人たち同士で意見をぶつけあうことによい、議論の質を上げ、高いレベルの思考ができるようになります。
反論はクリエイティブなプロセスであるため、有効活用した方が良い
のです。

ただ、上述のように、反論に対してネガティブなイメージを抱いている人は非常に多くいます。
では、どのようにすれば、反論を有効活用し、議論の質を高めることができるようになるでしょうか?

反論の有効活用方法

ファシリテーターとして、反論を促す

繰り返しますが、人の意見に反論をするのは勇気がいるものです。
そこで、会議をはじめとした議論の場そのものを反論しやすいものにする環境づくりが重要です。

ファシリテーターは、反論をしやすいように、会議の出席者に反論を促しましょう。
次のように促されれば、出席者は反対意見を述べやすくなります。

「この意見に反対の方はいますか?」
「この施策を検証するために、反対の立場で意見を述べて下さい。」
「アイデアをブラッシュアップするために、欠点を洗い出しましょう。」

それでも、意見を述べない人は一定存在します。
この場合は、反論自体を仕組化する方法が考えられます。

反論の仕組の導入~デビルズアドボケイトとシックスハット法~

「デビルズアドボケイト」という方法があります。
これは「あえての反論」という意味で、仮に意見に賛成の立場であったとしても、議論の質を高めるために、あえて反対の立場に立って意見を述べるディスカッションの方法です。

かの大前研一師(がオリジナルでは無いでしょうが)より教わった方法です。
コンサルティング・ファームであるマッキンゼーでは、反論はコンサルタントの義務として扱われていました。
賛成の立場であってもデビルズアドボケイトにより議論が活性化されるのです。

このデビルズアドボケイトを役割としてはめてしまう方法がシックスハット法です。
シックスハット法とは、会議の参加者に6つの役割を与えて、意見を述べてもらう方法です。

  • [白] 客観的・中立的:データやファクトに基づき客観的に考える役割
  • [赤] 直感的・主観的:直感、本能、感覚的な立場の役割
  • [黒] 否定的・悲観的:ネガティブにロジックを構築、リスクや失敗可能性で考える役割
  • [黄] 肯定的・楽観的:ポジティブにロジックを構築、プラス思考や成功可能性で考える役割
  • [緑] 創造的・革新的:クリエイティブなアイデアフルな立場、代替案を模索する役割
  • [青] プロセス管理・俯瞰・統括:ファシリテーターとしての役割

シックスハット法を採用する上で、会議の参加者は6人である必要はありません。
白と黒の役割を一緒にしたり、赤や黄色の役割を一緒にすることができます。
議論の内容に応じて一部の役割ははずして、その時々の重要な役割のみを設定することも考えられます。
ファシリテーター以外の全員が同じ役割になる場合もあるでしょう。

このように、会議の前提として参加者に役割を与えてしまえば、どうしても意見を述べ辛い状況において、意見を述べることが仕事になり、発言を促すことができます。
また、役割として発言していれば、議論に勝ち負けがなくなります(熱くなると、相手を言い負かすことが目的化する人が出てくるので)。

なんとなく会議の出席者を選んで招集をかけているファシリテーターは多いと思いますが、意識的に誰にどんな役割を担ってもらうのか?を考えれば、会議の質は劇的に向上するでしょう。

反論のカルチャー化ができたら強い

そして、上記のような取り組みを続けると、だんだんと慣れてきて習慣化されてきます。
習慣化されて、役割として反論を述べる癖がつけば、しめたものです。

反論をカルチャー化できた組織は非常に強くなります。
議論の質が高まることにより、会社の意思決定の質があがるだけではありません。

メンバーが自分の頭で物事を考え行動できるようになってくるのです。
自走組織の強さは、企業経営を行っている人ならばよくご存じでしょう。

反論のカルチャー化は、会社を自走組織に変革することが可能なのです。

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ビジネスと心理学

エコーチェンバー組織は成功しない~多様な意見を聞き、ファクトベースで思考しよう~

多様な意見や情報が飛び交う現代社会。
明らかに間違っている考えなのにも関わらず、その考えに固執し、反対意見を受け入れず排除しようとするエコーチェンバー現象を多く見かけます。
ここでは、エコーチェンバー現象とそれに陥らないためのポイントを解説します。

忙しい人向けまとめ

  • 同種の意見が飛び交う閉鎖的コミュニティに身を置いていると、他の意見を認めず、排除するエコーチェンバー現象が起きやすくなる
  • エコーチェンバー現象に陥ると、明らかに間違った考えを信じたり、周囲に害をまき散らしたりする
  • 会社がエコーチェンバー組織になってしまうと異なる意見が出なくなり、倒産、最悪の場合リビングデッド化する
  • エコーチェンバー現象に陥らないためには、人の話を聞く、ファクトベースで考える、自分は間違っているという前提立つ、この3つのポイントが重要
  • ただし、「軸」はブラさないようにしなければいけない

エコーチェンバー現象とは

コミュニティというものは、えてして同種の人が集まりやすいものです。

この同種の者同士で集まったコミュニティ内では、同じような意見が飛び交いやすいものです。
当然、自分自身の意見も肯定されやすい環境にあります。
このような環境にいると、自分自身の意見や主義主張・思想信念が正しいと思い、他の意見を認めず、排除するようになっていきます。
この現象をエコーチェンバー現象といいます。

残響音が鳴る共鳴室の様子と、閉じられたコミュニティ内で同じ意見が飛び交う様子が似ているところから、名付けられた現象です。
SNSの発達と共に提唱されました。

自分自身の意見や主義主張・思想信念が正しいと思い、他の意見を認めず、排除するようになる。

この言葉を見ると、非常に恐ろしいと感じませんか?
実際にこの状態になると、実害を伴う被害がまき散らされます。

新型コロナウイルス騒動と経営の現場の2つの事例で、エコーチェンバー現象により起きる問題を考えていきます。

(エコーチェンバー現象から至る「バックファイア効果」について、こちらの記事も参照。)

新型コロナウイルス騒動における言説

新型コロナウイルス騒動において、いくつかの対立する意見が飛び交っています。

PCR検査の全数実施の是非や、外出自粛に関して過剰対応と考えるか否かなどです。

この内、PCR検査の全数実施だけを例にとって考えると、次の記事でも書いた通り、PCR検査自体が100%の精度の検査方法では無いため、全数検査は意味が無いことは冷静に考えれば明らかです。

(ここでは詳細に触れませんが)また、そもそもとして臨床検査技師の人数や、検査機器や試料の数に限りがあり、リソースの観点で全数検査ができないことも明らかです。
同様に、簡易キットを用いての全数検査を主張する人も出てきていますが、精度が落ちるため、意味の無さに拍車がかかることも明らかです。
仮に全検査リソースを新型コロナウイルスの検査に振って全数検査を実施したとしたら、他の医療リソースがなくなり、それにより実害を被る別の病気の方もリアルに出てきます。
どのようにロジックを構築しようとも、PCR検査の全数実施はやらない方が良いのは明らかなのに、主張を取り下げる所か、むしろ主張を強める人たちが存在します。

現代はインターネットを用いて、様々な意見や考えを聞き、情報を収集し、自分の意見をアップデートすることが可能です。
しかし、一度エコーチェンバー現象に陥ってしまうと、確かなエビデンスでもって構築されたロジックを見ても、否定的な意見、攻撃的な意見が飛び交い、捏造としか見えなくなり、敵対的立場として受け入れなくなったりします。
自分たちのことを正義と思っているので、反対意見を述べる人を悪の使者のように見えてしまうのです。

社会的インパクトがある事象において、エコーチェンバー現象が起きると、非常に大きな混乱を招いてしまうのです。
これは、会社のようなコミュニティでも同様です。

経営の現場における問題

会社も一つの閉じられたコミュニティです。
そのため、エコーチェンバー現象に陥りやすい環境が整っています。

創業社長という生き物はえてして自我が強いものです。
プライドが高い人が多いですし、またビジネスを自分で立ち上げるだけの優秀さを持ち合わせている場合も多いです。
つまり、あまり人の意見を聞かない、という傾向があります。
(私も、自分のビジネスを経営している立場なので、自戒を込めて。)

フラット組織であったり、意見が広く交わされるような、一見風通しの良い組織であったとしても、よくよく見てみると同じような意見しか飛び交っていない、社長に対して反対意見を言おうものなら遠回しに排除される、というような会社はあちらこちらに存在します。
幹部社員が離反する要因は、大体において意見の不一致です。
このような状態になった組織のことを、私はエコーチェンバー組織と呼んでいます。

社長含め残っている構成要員が優秀な人たちだったら良いのですが、そうそう都合のよい環境は整っていません。
同じような意見しか持っていない平凡な人たち同士の組織が待ち受ける運命は、衰退、果ては倒産、最悪リビングデッド化です。

起業の本質的な目的はミッション・ビジョンにあるはずで、決して個人の成功やプライドの充足では無いはずです。
(個人の成功やプライドの充足からはじめても全く構わないのですが、事業の成長と共に、自分自身の心も成長させていきたいですよね。)
エコーチェンバー組織は、会社が目指すべき本来のあるべき姿を見失ってしまっているのです。

エコーチェンバー現象に陥らないためには

エコーチェンバー現象に陥らないためのポイントは3つです。

  • 広く多くの意見を聞き、他者の異なる意見を尊重する
  • ファクトベースで考える(データを重視する)
  • 自分は間違っているかもしれない、という考えを持つ

広く多くの意見を聞き、他者の異なる意見を尊重する

まずシンプルに、人の意見に耳を傾けましょう。
それが間違っているとか正しいとかはいったん脇において、ニュートラルにまずは話を聞きましょう。

会議においては、誰かにあえて反対意見を述べる役割を与える、という方法もあります。

その上で、ある意見に関する対立軸がある場合は、それぞれにおいて論理構造を整理すると良いでしょう。
ロジック構造が破綻している場合、意見の怪しさが浮かび上がってきます。
冷静に相手の感情を逆なでないように、ロジックの破綻を指摘し、議論を活性化しましょう。

SNSなどにおいては、フォローする人たちに偏りが無いように意識すると良いでしょう。
むしろ、自分の考えとは反対の意見を述べる人たちをフォローする方が自然とバランスがとりやすくなります。

所属するコミュニティも増やした方が良いです。
今勤めている会社しかコミュニティが無い状況であったとしたら非常に危険です。
これは難しく考える必要はなく、例えば通っているスポーツジムのコミュニティであったり、以前に勤めていた会社OBOGのコミュニティであったりと、様々に可能性があります。
私の場合は上記の例に加え、ビジネススクール時代のコミュニティや、ベンチャー企業関連のコミュニティに所属したりと広く考えを聞ける環境を作っています(これらのコミュニティの場合、マッチョイムズに偏る傾向がありますが)。

ファクトベースで考える(データを重視する)

次に大事なのがファクトベース、つまり事実やデータに基づく考えです。
PCR検査の例ですと、精度の問題や検査リソースの問題などが事実でありデータです。

ある意見に関して対立軸がある場合に、双方共にロジック構造がしっかりしていたとしましょう。
この場合次に検証するのがファクトです。
ロジック構造がしっかりしていたとしても、そのロジックを支えるファクトに欠陥がある場合にはロジックが成立しなくなります。

なお、この場合、ファクトに欠陥があるため「それは違うよ!」と攻撃的に言ってはいけません。
あくまでも議論を活性化させる前提で、ファクトの欠陥を指摘するべきです。
それでも相手が感情的に主張を繰り返したりした場合は、もう相手にする必要は無いでしょう。

自分自身のロジックに対しても同様で、ファクトに欠陥があったり、それを他者から指摘された場合、それを感情的にならず素直に受け止め、再度、ファクトの収集やロジックの再構築を行いましょう。

自分は間違っているかもしれない、という考えを持つ

最後に大事なのは「自分は間違っているかもしれない」という考えです。

本ブログでは、いくつかバイアスに関して紹介してきました。
エコーチェンバー現象に限らず、自分自身が様々なバイアスの悪影響を受けている、という前提に立つのです。

人間はバイアスの生き物であり、完全にバイアスから脱却することは不可能です。
どんなに賢くて人格的に優れていて、多数の実績を残している人であったとしても、無理なのです。
例えば、「社会貢献は大事であり、尊いことだ」という一見もっともらしい意見も、結局はバイアスに縛られています。
ようは、縛られていても問題がないバイアスと、悪影響を及ぼすバイアスがある、ということです。

バイアスがある前提で自己を客観視できていれば、自分自身が本来志したものはブレないはずです。
この自分自身が本来志したもののことを「軸」と呼びます。

この「軸」を中心におき、達成したミッション・ビジョンの実現のためにどうすれば良いか?という流れで「自分は間違っているかもしれない」と考えれば、エコーチェンバー組織には陥らず、ミッション・ビジョンの実現可能性が高まっていくでしょう。

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ビジネスと心理学

反論・批判を受け入れない人~バックファイア効果から見る経営判断と新型コロナウイルス~

世の中の言説は、正しい情報や明らかに誤った情報が入り乱れています。
特に、ここ1,2ヶ月では、社会的インパクトが大きい事象について、明らかに誤った言説がされ、それに対して強い反論がされていますが、誤った言説が正される気配は見えません。
反論や批判を受け入れない現象を「バックファイア効果」と言い、経営の意思決定においても悪影響を与えている光景を多々見受けます。
今回は、このバックファイア効果について解説していきます。

忙しい人向けまとめ

  • 人は反論・批判を受けると、それを否定して、もともとの考えを強め心理的反応があり、この現象をバックファイア効果と言う
  • バックファイア効果により、社会や経営の現場で、反論が受け入れられず、本来正しいはずのことが行われない状況が多々見受けられる
  • バックファイア効果は科学的には証明されきってはいないが、人生における感覚値と一致する
  • 感情に触れる領域での反論や批判はバックファイア効果が起きやすい可能性がある
  • バックファイア効果が出やすい人と、出にくい人がいて、これは遺伝子によって決まっている可能性がある
  • 反論や批判が目的ではなく、行動変容が目的ならば、言い方、表現には気をつけた方がよい

バックファイア効果とは

「お前は間違っている!」
こう言われた時、あなたはどう感じるでしょうか?

「なんだとう!間違っているのはお前だ!」
カチンときて、頭に血がのぼり、こう反論したくなりませんか?

このような、自分にとって、信じたくない情報、都合の悪い証拠、反論、批判に直面すると、それを否定して、もともと持っていた考えや信念、主義主張をより強めてしまう現象を「バックファイア効果」と言います。

米ダートマス大学が行った、イラク戦争に関連する情報の受け入れ方に関する実験において、大量破壊兵器の存在を否定する情報をえた人が、大量破壊兵器を事前に廃棄したから、という考えを強めたという現象から、提唱されている心理学的効果になります。

この現象は実際の経営の意思決定の現場や、新型コロナウイルスに関連する言説においても多く見られます。

新型コロナウイルスから考えるバックファイア効果

まず、新型コロナウイルスに関連するバックファイア効果を考えていきます。

まず、新型コロナウイルスの脅威度ですが、当ブログにて繰り返し主張している通り、十分な脅威はあれど、風邪やインフルエンザと比較した時の相対的な脅威度は低い、というのが数字から見る実態と考えられます。

PCR検査の全数実施についても同様で、全数検査は明らかな不合理なのに、未だに全数検査を主張する人はいなくなりません。

脅威度は相対的に低い事や、全数検査は明らかな不合理な点は、私に限らず多くの冷静かつ論理的で合理的な方々が解説し、発信しています。
それにも関わらず、脅威を主張する人、全数検査を訴える人はいなくなりません。

これはバックファイア効果が働いているからです。

なお、今現在、急激に感染者が拡大している現状でこういった言説をする私にもバックファイア効果が作用してしまっている可能性は存在し、これは留意が必要です。

経営の意思決定から考えるバックファイア効果

次に経営の意思決定の現場においても考えていきます。

社長や声の大きい幹部が「〇〇をやるぞ!」と言ったとします。
〇〇はあなたのお好みで、あてはめてください。

これに対して、論理的な人が「〇〇は、これこれこういう理由でやめた方がいいです。」と言ったとします。
無視・スルーされ、当初の掛け声どおり〇〇が実施される光景が目に浮かびませんか?
最悪、叱責をうけ、その論理的な人の居場所が会社の中で無くなる可能性もあります。

もちろん、これはその会社のカルチャーや、中の人たちの性格にもよるでしょう。
ただ、多くの人が、「反論をした結果として受け入れてもらえなかった」という経験をしたことがあるはずです。

バックファイア効果が働いてしまっているからです。

言い方、表現には気をつけよう

バックファイア効果は科学的には証明されていないが感覚値とは一致する

なお、バックファイア効果は、まだ心理学的に証明されきった現象ではありません。

まず、バックファイア効果ですが、上記のイラク戦争に関連する実験の他、米ダートマス大学では減税に関する論争についても実験をしており、また英エクスター大学のワクチン接種に関する実験や、米マサチューセッツ大学で行われた環境負荷に関するこちらの実験などで、その効果が主張されています。

一方、オハイオ州立大学で行われた、バックファイア効果に関するメタ検証や、52に及ぶバックファイア効果に関する実験でバックファイア効果に関して、疑問を呈する主張がでています。

つまり、繰り返しになりますが、バックファイア効果自体はまだ科学的には証明されきっていないのです。
それでは、何故、日常の中の感覚値で、バックファイア効果は確かに存在するな、と感じるのでしょうか?

これは私の仮説になるのですが、感情に触れる領域での反論や批判において、バックファイア効果が出るのでは?という仮説です。
また、バックファイア効果が出やすい人と、出にくい人がいるのでは?という仮説もあります。

感情に触れる領域での反論や批判はバックファイア効果がおきやすい

まず、感情に触れる領域での反論や批判においてバックファイア効果が出やすい、という仮説の説明です。

上述の英エクスター大学のワクチン接種の実験や、米マサチューセッツ大学での環境負荷に関する実験は、環境負荷に触れやすい設問だったと感じます。
というのも、「ワクチン接種は危ないから子供に打たせない、子どもは私が守る」と考えている親に対して、「ワクチン接種をしないと子どもが危ないですよ、ワクチンを子どもに打たせないことは一種の虐待ですよ」と伝えたら、感情的な反論がきて当然だと思いませんか?

環境負荷も同様です。
「環境に負荷を与える生活をすると、地球に優しくないですよ、次の世代の子どもたちに負担を背負わせますよ」と言われたら、「いや、中国や後進国が悪い。自分は何も悪くない。」と受け止められて、かえってエコな生活から遠ざかる可能性があります。

バックファイア効果が出やすい人がいる

次に、バックファイア効果が出やすい人と、出にくい人がいるのでは?という仮説の説明です。

米カリフォルニア大学の研究によると、特定の遺伝子をもった人は、リベラルな思想を持ちやすいことが発見されています。
別の研究では、米バージニア工科大学で行われた、不快な画像に対する反応実験において、リベラルや保守といった政治思想と脳の反応、ひいては遺伝子に特徴があることが示されています。

これらの研究から特定の遺伝子の有無によって、反論・批判の受け入れやすさに差がでるという可能性が考えられます。
反論・批判を、高年になって精神が成熟し、物事を受け入れやすくなる人は確かにいますが、幼少期から他者の反論・批判を受け入れて自分の成長に活かす人もいます。
逆に、何歳になっても頑固で、むしろ歳を取れば取るほど悪化する人もいます。

バックファイア効果が出やすい人と出にくい人がいる、という前提で考える方が現時点では良いように思えます。

言い方、表現には気をつけよう

最後にまとめると、何か反論や批判をしたい時はストレートに物を言うのではなく、相手のことを肯定した上で、ソフトに物事を伝えると良いであろう、というコミュニケーションの話に帰結します。

反論や批判が目的ならば良いのですが、本来の目的は社会や相手の行動変容のはずです。
行動変容を促す、相手が受け入れやすいようにコミュニケーションを取ることは、バックファイア効果を考えると、その重要性を感じます。

逆に、大して重要じゃない内容で、あえて反論・批判をストレートにぶつけて、相手の反応を見る、相手がどういうタイプの人間なのかを測る、というのも有効と考えられます。
こういったことを計算高く行う人間は嫌われがちですが、コミュニケーションにおいて、相手との距離を測るのは常なので、一つのツールとして持っておくことは、人生のどこかで役に立つかもしれません。

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確証バイアスの一種「共変錯誤」から考える経営の意思決定とPCR検査

ここ1,2ヶ月の世の中の報道や意見を見ていると、確証バイアスの一種である「共変錯誤」に陥っている人を大勢見かけます。
大勢に影響を与えないことならば良いのですが、社会的インパクトを与える事象での共変錯誤は重大な実害をまき散らします。
今回は経営の意思決定においても見られる共変錯誤について解説していきます。

忙しい人向けまとめ

  • 「自分が求める情報ばかりを収集すること」を確証バイアスと言い、確証バイアスは人間の思考の性質である
  • 「共に変化するものの間の関係を誤ること」を共変錯誤と言い、共変錯誤は確証バイアスの一種である
  • 共変錯誤の例としては「PCR検査の全数検査」主張があげられ、ウイルス検査で「感染していないが陽性とでる方や、逆に感染しているのに陰性とでる方が発生する」という事実に目を向けずに意見を述べる方が見受けられる
  • 共変錯誤は経営の意思決定の場面でも多く見られ、自分がやりたいことを支持する情報にばかり目を向ける経営者は実際に多い
  • 共変錯誤から脱するには、メリット・デメリットの検証や、「自分の考えは間違っている」という前提に一度立つことが重要

共変錯誤とは~確証バイアスの一種~

確証バイアスとは

確証バイアスを一言で表現すると、「自分が求める情報ばかりを収集すること」です。

人は、自分の考えが正しいのか、それとも間違っているのかを考える時に、自分の考えが正しいことを証明する情報、つまり証拠ばかりを探してしまう傾向があります。
間違っているという情報、つまり反証には目を向けない傾向があるのです。

そのため、「自分の考えは正しい」という気持ちに固執しやすくなってしまうのです。

なお、私は周囲の人間から「否定的な意見が多い」という言葉を投げかけられたことがありますが、これは私の確証バイアスに対する防衛機構です。
何か物事を考える時に、自動的に「自分の考えは間違っている可能性がある」という思考回路を作動させ、反証を求めるようにしています。
これはもう完全に習慣化された思考の癖で、思考の正確性を担保するための機能なので、ご容赦ください。

共変錯誤とは

それでは共変錯誤という小難しそうな言葉の解説に移ります。

錯誤とは誤りのことです。
つまり共変錯誤とは、「共に変化するものの間の関係を誤ること」を意味します。

これは事例を交えながらの方がわかりやすいと思いますので、昨今話題に上がっているPCR検査を例に共変錯誤を考えていきます。

PCR検査から考える共変錯誤

PCR検査とは、微量のDNA(もしくはRNA検体)検体を高感度で検出する方法です。
新型コロナウイルスのような病原体の有無を調べることができ、昨今、非常に話題にあがっています。
文脈としては、「全数検査をしろ」であったり「PCR検査に重きを置くのは意味がない」であったりです。

さて、PCR検査は高感度の検査技法ではありますが、100%の感度があるわけではありません。
確定的なことは不明なのですが、新型コロナウイルスの検査においては70%位の感度、とされているようです。
(また、特異度、というパラメータもあるのですが、小難しさが増すので省略します。)
そのため新型コロナウイルスには感染していないが陽性とでる方や、逆に感染しているのに陰性とでる方が発生します。
この状況を図式で示すと次のようになります。
(PCR検査を感度70%・特異度99%、感染者総数を5千人とし、10万人を対象に検査した場合)

この図を見ればわかる通り、PCR検査を行うと、1,500人の感染しているのに陰性と出た方、逆に950人の感染していないのに陽性と出た方、つまりエラーが発生するのです。
こういった事実を見ずに「PCR検査の全数実施をしよう」とジャッジする、つまり共に変化するものの間の関係を誤ってジャッジしてしまうことを共変錯誤と呼びます。
PCR検査に対して、確証バイアスにとらわれてしまっているのですね。

なお、メディアの報道を見ていると、「そうならば、複数回実施すればよいのでは?例えば一人の検査対象者に10検体とって、まとめて検査すれば。」というコメンテーターがいらっしゃいました。
一見もっともらしく聞こえます。
確かに、感染の確率が高い検査対象者に絞って複数回検査を行えば、確度高く検査を行うことができます。
しかし、検査対象者全体に対して、複数回の検査を行うとどうなるか。
上の図の比率で、検査のたびに感染していないが陽性とでる方や、逆に感染しているのに陰性とでる方が発生します。
一回一回の検査は、独立した事象なので、複数回検査をまとめて行うと、もう何が何だかわからない状態になってしまいます。

(どうでも良いですが、私は理系出身でPCR検査は演習でやったことがあるので、こんな世間的にマイナーなはずの用語が広く知れ渡るような状況をなんとも言えない感情で見ています。)

経営の意思決定から考える共変錯誤

共変錯誤は経営の現場における意思決定においても見受けられます。

ビジネスにおいては他社の成功事例を参考にして、自社に取り入れる、ということがよくあります。
この成功事例導入において、非常に多くの共変錯誤が見受けられます。
どういうことでしょうか。

例えば、「急成長しているベンチャー企業ではフラット組織を採用している(意思決定の速度が速いから)」という事例を考えてみます。

とあるベンチャー企業経営者は、急成長している5社を参考とし、自社に有用な施策を取り入れようと考えました。
その5社はいずれもフラット組織を採用していました。
フラット組織は一般的に、意思決定の速度が速いから、急成長を志向するベンチャー企業に向いている、と言われています。
では、この会社でフラット組織を採用したら、本当に急成長できるのでしょうか?

PCR検査の時と同様に、図で考えてみます。

もし仮に、組織形態と成長速度に関係が無かったとしたら、上のような図になるはずです。
でも、この経営者は、たまたまフラット組織を採用して急成長している5社を参考にしてしまったのです。
より正確に言うと、この経営者の場合はフラット組織を採用したくて確証バイアスにとらわれてしまったのです。
そのため、世の中には会社がたくさんあるにも関わらず、フラット組織を採用して急成長している会社の情報を(無意識で)選択して収集してしまった
のです。
もう少し冷静に考えれば、フラット組織のデメリットや、階層組織でも成功している事例に目を向けられたはずですが、完全な共変錯誤を起こしてしまっていたため、確証バイアスから逃げられなかったのです。

なお、組織形態と成長速度には、実際に大して関係が無いです。

こういった共変錯誤は別に組織形態に限らず、様々な場面で起きています。
1on1やOKRの採用であったり、洒落乙なオフィスだったり、他諸々のベンチャー界隈で流行っている様々な施策が大体そうです。
経営者がエゴで、自分がやりたいことをやっている、というパターンを非常に多く見受けられます。

見たくないものにも目を向けよう

共変錯誤から脱する方法はシンプルで、ある選択を考えた場合に、相対する別の選択も検証することです。

上のフラット組織の採用の例ですと図の通りで、フラット組織=階層組織、成長速度高=成長速度低、というような図式で検証するのです。
縦軸横軸をどう置くかは状況によりきりなのですが、1つの軸を成功・失敗軸、もしくはメリット・デメリット軸でおいて、もう1つの軸を検証対象軸として置くのが一般的でしょう。

上述した思考法、確証バイアスに対する防衛機構も有効です。
何か物事を考える時に、自動的に「自分の考えは間違っている可能性がある」という思考回路を作動させ、反証を求めるようにするのです。
つまり、見たくないものにも目を向ける癖を身に着ける、ということですね。

これはもしかしたらネガティブなマインドのように受け止められるかもしれませんが、決してそのようなことはありません。
あくまでも自分の人生や、会社の経営を成功させる、ポジティブなマインドが前提にあって、あえてネガティブな方向で検証を行う、成功確率を高めるプロセスなのです。

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