速読のウソ・ホント~本当に役立つ読書の方法~

生産性・業務効率化

リモートワークが増えた結果、本を読む時間が増えた人も多いのではないでしょうか。
そんな中、読書術、特に速読に興味がある方もいらっしゃると思います。
ここでは、速読のウソ・ホントと題して、速読の真実を解説していきます。

なお、ここではいわゆる「ビジネス書」を対象にしており、小説や漫画のような、速読そのものが無粋になるような本については対象としていません。
また、一部、速読を否定するような記載をしていますが、特定の組織や団体を批判したり、名誉棄損するような意図も無いこと、留意ください。

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忙しい人向けまとめ

  • 眼球運動や潜在意識を活用したような速読法の効果は、基本的には科学的に否定されている
  • 速く本を読めたとしても、それが理解度にはつながらない
  • 本を速く読むためには、身も蓋も無いが、前提となる知識や経験の絶対量が必要
  • 知識や経験の絶対量を増やすために、専門書の精読や、幅広く各領域の本を多く読むことが必要
  • 読書の目的は、あくまでも問題解決にあると理解し、手段として効率を高める考えが重要
  • 楽な方法など存在しない、辛くなければ効果はない、のでひたすらの積み重ねが重要
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いわゆる速読とは

速読とは

速読とは、文字通りの意味で、文章、特に本を早く読むためのテクニックです。
ちまたには、何かしら速読に関して解説された書籍が転がっています。
そして、この速読法は1つではなく、複数の方法論があります。
まず、速読法の種類に関して見てきます。

速読法の種類

速読法を分類すると、ざっくり次の3つの種類が存在します。

  • 眼球運動を活用した速読法(この種の速読法を一番良く見かける印象)
  • 潜在意識を活用した速読法(右脳を使った、とか表現される場合もある)(フォトリーディングとか)
  • 純粋な読書法としての速読法

結論を言ってしまうと、前者2つの眼球運動や潜在意識を活用した方法は効果がありません。

速読のウソ・ホント

詳細はこちらのカリフォルニア大学の論文に譲るのですが、ざっくり解説すると眼球運動や潜在意識を活用した速読法には次のような問題点があります。

まず、眼球運動についてです。
読書をしていて、文字を一つ一つ目で追っていく読み方や、読み戻し(前に戻って、同じ文章をもう一度読む)は、読む速度を遅くする要因であり、眼球をすばやく動かしたり、視野を広げてページ全体を見渡すような読み方が速いよ良いよ、というのが眼球運動を活用した速読法の主張です。

しかしながら、読書における目の動きの重要性は10%以下であるため、この眼球運動部分のトランザクションを改善したとしても、読書速度全体に与える影響は極めて軽微です。

次に潜在意識を活用した速読法についてです。
本のページを例えば「写真」のように読み取り、右脳や潜在意識を活用して情報を処理することにより、常識では測れない速度で本を読むことができるよ良いよ、というのが潜在意識を活用した速読法の主張です。

これも、そもそもとして人間の脳は、文章の内容や全体の構造を読み解き、再構築しながら理解を深めていく構造になっており、右脳や潜在意識を活用する、という方法自体に科学的な無理があります。

速読法に関する大会が主催されているようですが、この速読法大会の成績優秀者に実験が行われました。
その結果、速読法大会の成績優秀者による速読でも、サンプルとして提示された本の内容を全く理解できていなかった、という明確に速読法を否定する実験結果が出ました。

好意的に解釈して「本を速く読むことはできる」のでしょうが、結局のところ「理解度は低い」と言えるでしょう。

速読法の解説を読んでいると、「素質が無い人には習得しづらい」「人によって合う合わないがある」と擁護するような文章も見受けられます。
速読法に関して興味がある方は、この種の方法論との付き合い方は考えた方が良いでしょう。

それでは、全ての速読法はインチキであり無意味なのでしょうか?

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純粋な読書法としての速読法

そうではありません。
上述のカリフォルニア大学の論文でも触れられていましたが、読み手側の知識量に応じて速読の効果が変わります。
有効な速読のコツは存在し、それが「純粋な読書法としての速読法」です。

純粋な読書法としての速読法には2つの考え方があります。

  • 純粋な知識量・経験量の増大
  • 目的の明確化

この2つについて見ていきます。

なお、読書は勉強の一形態ですので、理解を深めるために、こちらの記事も参照ください。

早く本を読むための考え方①~純粋な知識量・経験量の増大~

基本的な考え方

身も蓋もないですが、結局のところ、本を読む速度は知識や経験の絶対量に左右されます。
全くもって知らない領域の本は、読む速度が劇的に遅くなりますし、逆に理解度の高い領域の本はすらすら読めるでしょう。
拳の厚さ位ある、ヘビー級の専門書は、読む速度が遅くなることは明らかに想像ができますよね。
同様に、小学生の教科書は、流し読みでも内容を理解できるのも想像ができるかと思います。

ようは難易度設定が重要なのです。
学習における難易度設定としては、現状の理解度・学習レベルより、少々程度難易度を高く設定するのが良いという研究があります(上の記事を参照ください)。

では、自分の専門領域に関する話と、自分自身の幅を広げるための専門外の領域にわけて、純粋な知識量・経験量の増大について考えていきます。

自分の専門領域 ⇒ 少数の本を徹底的に読み込む

自分の専門領域に関しては、少数の専門書を徹底的に読み込むのが良いでしょう。

例えばマーケティングを担当業務としている方でしたら、「コトラー&ケラーのマーケティング・マネジメント」のような専門書です。
ビジネスの各領域には、何かしら権威的な専門書が存在するはずです。
この専門書を数冊選定し、徹底的に繰り返し繰り返し読み込むのです。

併せて、業務の中で、覚えた内容を活用していくのが良いでしょう。
アウトプットは、良質な学習効果をもたらします。

新任担当者の場合は?

まだ経験も知識も浅い新任の担当者の場合は、各領域の入門書からはじめるのは当然に良い判断です。
専門外の方でも理解できるような薄めの入門書を選び、まずはそれを8割ほど理解する。
この入門書は複数冊を買う必要な無く、1冊だけで良いです。
まずは、適当でも良いので選んだ入門書を8割ほど理解するまで、繰り返し読みましょう。

その次に、少々厚めの本、実務よりな本を選ぶと良いでしょう。
各業界で活躍されている方が執筆している良書があるはずです。
先輩方におすすめの本を聞いて2・3冊ほどを選定し、今度はこれらを8割ほど理解するまで、繰り返し読みましょう。

真面目な方でしたら、2・3ヶ月ほどでここまで十分に到達できるはずで、仕事も覚えられるようになるはずです。
ここまで来たら、上述の専門書の精読フェーズに移れば良いです。
優秀な方でしたら、2・3年ほどで、諸先輩方と肩を並べるくらいに仕事が出来るようになるはずです。

専門外の領域 ⇒ ひたすら多くの本を読む

幅を広げるための専門外の領域に関する読書については、ボリュームが大事です。
可能な限り、ひたすら多くの本を読みましょう。

ビジネスの領域は多岐にわたります。
ヒト・モノ・カネという分類で考えた時、ヒトなら「組織・人事」「リーダーシップ」、モノなら「マーケティング」「経営戦略」「オペレーション」、カネなら「アカウンティング」「ファイナンス」という領域があり、更にそれぞれ細分化された領域が存在します。
これらについて、順番ずつテーマを決めて読んでいくと良いです。

本の選定に関しては、上述「新任担当者の場合は?」に準拠し、まずは専門外の方でも理解できるような薄めの入門書を1冊選んで、6割~8割ほど理解できることを目標に設定するのが良いでしょう。
理解に関して、あまりこだわりすぎず、ある程度ざっくり理解したら、次のテーマに移る方が吉です。
ビジネスというものは一つの領域で完結しているのではなく、複数の領域が複合的に絡み合っているので、入門書レベルでも読み漁っていく内に、段々と点と点がつながり、理解度が高くなっていきます。

テーマを一巡したら、少々厚めの実務よりの本を選定するフェーズに入ります。
そして、同じく6割~8割ほどの理解度目標を設定し、各領域の本を順々に読んでいきます。

3年~5年も続ければ、幅広い領域で、各領域を専門に担当している方々と協業ができるようになるはずです。
「人を動かすためには、その領域のことを知らなくても良い、人を動かすスキルがあれば良い。」という人がいますが、正確性に欠けます。
その領域のことを専門に担当としている方よりは知らなくても良いですが、全くの知識0では話にならないです。
ある領域の知識を6割~8割ざっくり理解するまでは比較的容易ですが、8割より先の世界は修羅の世界です。
そしてこの修羅の世界で生きているのが「専門家」であり、この領域に立て、と言っているのではありません。

せめて、人の上に立つのであれば、ざっくり6割~8割理解レベルまでは到達すべきでしょう。

早く本を読むための考え方②~目的の明確化~

基本的な考え方

次に目的の明確化についてです。

まず大前提として、人は興味の無いことは理解ができない・覚えられない生き物です。
ですので、漠然と本を読むのではなく、毎回毎回テーマを決めて取り組むのが効率的です。

時間軸にわけて見ていきます。

【短期的視野】今、困っていることに関して知りたい

短期的視野、これはわかりやすい話でしょう。
今、何か困っていて、このお困りごとを解決したい、知らないことを知りたい、という状況です。

この「解決したいこと」「知りたいこと」を明確化し、それをピンポイントで調べるのです。
多くの方が無意識にやっているはずです(ググることすらしない人たちも一定数存在しますが、、、)。

つまり、本を全部読もうとせず、タイトルや前書き後書き、目次部分を読んで、自分のニーズに合致する部分のみを読むのです。
本は最初から最後まで全部読まなければいけない、という考えは捨てましょう。
「解決したいこと」「知りたいこと」がクリアできたなら、それで読書目的は達成しているのです。
辞書を最初から最後まで全部読もうとする人って、ほぼほぼいないですよね?

また、この観点に立った時に、眼球運動やフォトリーディング的な読書法が役に立つ可能性が想定されます。
タイトルや目次から、自分の知りたいことがどこなのかわからない本は多いですし、辞書的な専門書でも索引が親切でない本も多いです。
この際、一定程度、あたりをつけて読む形になると思いますが、理解は捨てて、ざっくり何が書いてあるかを見ていく読書法がここで機能しうるのです。

ようは、読書法はあくまでも手段なので、目的のために有効活用しましょう、ということですね。

【長期的視野】将来的に役立つであろう知識を習得したい

次に長期的視野にたって、将来いつか役立つであろうことのための読書です。

基本的には上記「早く本を読むための考え方②~目的の明確化~」の通りです。
注意点が2つあります。

  • 専門領域を深堀りしすぎない
  • 自分の専門領域からかけ離れすぎない

専門領域を深堀りしすぎない

専門領域といものは、深堀をすればするほど、段々と実務からかけ離れていくものです。
繰り返しますが、人は興味がないことは理解も記憶もできない生き物です。
実務からかけ離れたことは、興味からもかけ離れる可能性が高いので、専門領域の深堀は読書の効率を著しく落とすリスクが高いです。

ある程度の知識がついたと思ったのならば、インプットよりアウトプット(実務での活用など)の比重を高めましょう。
アウトプットの方が学習効率は高いので、一定レベルのインプットができたのならば、実践での習得が良いです。

その内、つまづいたり、疑問点が出たりするので、その時に専門書に立ち戻れば良いです。

自分の専門領域からかけ離れすぎない

営業の人がマーケティングを学ぶのは良いでしょう。
関連性が高いので、実務にも役立たせやすいはずです。
しかし、概要のインプットで十分なはずで、個別具体のHowに入り込んだ学習は、優先度が低いはずです。
マーケティングを学ぶにせよ、例えば「Webマーケティング」の概要が学べれば良いはずで、「Googleアナリティクス」の解説書を読む必要は無いのは、わかりやすいと思います。

専門領域からかけ離れすぎると、深堀と同様で、興味の領域から外れやすいことが指摘できます。
加えて、アウトプットをする場面が減ってしまうので、併せて学習効率を落としてしまいます。

最後に

以上、速読について見てきました。

まとめ的に、より根源的なことを書くと「楽な方法など存在しない」です。
速読術を習得すれば、本をたくさん読めて、知識もたくさん得られて、収入もアップして、ヒャッハーできる!なんてことはありえません。
順序が逆で、膨大な量の知識や経験を背景として、結果論として本が速く読めるようになる、です。

「楽してダイエット!」がそもそもとして無理があるように、辛くなければ効果がないのです。
心配しなくて大丈夫です。
努力も慣れれば、「今はもう痛みさえ愛おしい」状態になれます。

物事の理解とそこからの問題解決と目的を明確化し、その上で効率を重視する、あくまでも手段だと速読を捉えるようにしましょう。
それができたら、後はひたすらに積み重ねるだけです。

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