カテゴリー
経営企画

オフショア開発を成功させる方法~コミュニケーションの重要性~

日本のエンジニア人材の枯渇は深刻なままであり、採用コストも人件費も非常に高く推移しています。
そこで話題として出るのがオフショア開発。
ここでは、オフショア開発についての基本的な点を解説します。
ようは、しっかりとコミュニケーションをとりましょう、という話です。

オフショア開発とは

オフショア開発とは、システム開発などの業務を、海外に委託することを言います。
この場合の海外とは、海外の別法人であったり、海外に存在する自社グループ法人である場合があります。
切り出して委託する業務としては、製造工程、テスト工程である場合が一般的です。

日本においては主に2つの目的をもって、オフショア開発の検討が行われます。
1つ目が、コスト面で、人件費が比較的安い中国やベトナム、インドなどのを委託先として選定することによって、大幅に人件費を削減することが可能になります。
2つ目が、日本のエンジニア不足の深刻さからで、教育水準が高く、人口も多い地域を選定すれば、このエンジニア不足を解消する手段となりえます。

他にも、ラボ型開発と呼ばれる手法をとり優秀な人材を低価格で確保したり、人件費が安いことを逆手にとって日本で開発するよりも高品質なシステム開発体制を構築することなどを目的とする場合もあります。

委託先として多いのが、上記であげた国の内、特に「ベトナム」が人気で、話題としてあがりやすく、事例も多く見聞きします。
なぜベトナムが選ばれやすいかと言うと、親日で、日本人の気質に比較的似ていて、英語でのコミュニケーションが取りやすいこと(場合によっては日本語が通じることもある)などがあげられ、そのため、共同での開発プロジェクトが進めやすい、ということです。
他にも、フィリピンやミャンマーも日本人の気質にマッチしやすい国として、候補にあがります。

失敗事例が多い

では、実際のところはどうなのかと言うと、失敗事例の方が多く見聞きするのが現実です。
なぜ、失敗してしまうのでしょうか?

言語が異なる

言語の差によるコミュニケーション上のミスや、コミュニケーション自体が成立しない、薄い、という話は、もっともよく聞く事例です。
せめて英語であればまだ良いのですが、現地の言語でないとスムーズに受け入れられない状況もあり、この場合、非常にコミュニケーションが厳しくなります。
英語(ないしは現地語)ができるエンジニア、ないしは日本語ができる委託先エンジニアを雇った結果として、コスト削減につながらなかった、という話もあります。
また、物事を図表でまとめて整理して考えるのが不得手であったりもするので、コミュニケーションにおける工夫がなかなか実らないという事例も見聞きします。

文化が異なる

親日で、気質が比較的似ているとはいえ、異なる国・文化の人たちだということを忘れてしまったパターンは失敗事例の一つとして、良く見聞きします。

日本人よりは時間にルーズですし、要件や仕様は英語でのやり取りの場合が多いですが、阿吽の呼吸は通用しないので、行間に書かれている真意を汲み取ることは基本しません。
書いていないことは全く期待できないため、出来上がってきた成果物を見た結果、期待と全く異なるものであったという話は珍しくないのです。

委託先が日本側に譲歩する場合もあり、真意が伝わらないままに委託先が勝手に作業をしたり仕様を変えてしまったりして、二重コストがかかってしまうことも珍しくありません。
この場合、委託先は委託先で、善意で良かれと思ってやっている場合も実際に多く、揉める話は多いです。

教育水準が高いとはいえ、技術力不足による品質上の問題の発生や、文化の違いによる作りこみの甘さが障害となる場合もあります。

また、委託先の文化や生活スタイルについて指摘した結果として、プライドを傷つけてしまい、決定的な亀裂が生じてしまった話も見聞きします。

こういった諸問題を解決するためハイレイヤー人材を選定したり、異なる言語・文化を乗り越えられる運用体制を敷いた結果、結局の所、日本で開発するよりコストが高くなってしまった、という話は非常に多く見聞きする失敗事例です。

どうすれば成功させられるか?

上述の通り失敗の事例を見てきましたが、発注者サイドの管理不足やグローバルレベルでのプロジェクトマネジメントの力量不足が根本的な問題というわけです。
業務を委託しているからといって、全体の進捗管理に関して丸投げは決してやってはいけません。
プロジェクトマネジメントについては必ずグリップし、開発のブラックボックス化が進まないようにしていきましょう。

オフショア開発を成功させるための方法は、至極シンプルなことでして、それはチームビルディングをしっかりと行いましょう、「コミュニケーション」を取りましょう、という話です。

作業内容の確認や進捗管理にがっつり入り込む、場合によっては現地に赴くことも必要です。
委託先のメンバーがどういう人たちで、どんなスキル感、考え方を持っているのかを知るのは、プロジェクトマネジメント上、非常に有効に機能します。
なお、現地に赴くのは、存外に歓迎されます。
(想像してみれば当たり前ですが、自分たちのお客様が、自分たちに興味をもって話を聞きに来てくれたら、普通に嬉しいですよね。)

こちらの企業では、CTOがベトナムに引っ越して、一緒に開発するなど、思い切りのある取り組みをしています。
かなり現地に入り込んで、現地の方々と同化して一体となって開発をしています。
ここまでのエネルギー感があれば、成功するのも当然であろうというイメージが強く湧くでしょう。
つまり、相手にこちらへの歩み寄りを強くは求めず、こちらから先方に歩み寄り、どれだけ同化するような努力をしたか、ということです。

ブリッジエンジニアと呼ばれる、コミュニケーションの仲介ができるエンジニアを採用することも有効に機能します。
委託先として、日本語の理解力が高い方がいる所を選定したり、オフショア開発を成功させた企業のエンジニアを採用し、ノウハウを社内に取り込むことなどが方法としてあげられます。
阿吽の呼吸を期待せずに、きちんとロジカルに説明していけば、最終的にはうまくコミュニケーションがとれるはずです。

委託先のエンジニアを日本に招いて、自社の取り組みを体験してもらったり、実現したいことの認識を直接すりあわせたりする事例も成功例として聞きます。
問題意識の共有を行うことは、異なる文化だからこそ、有効に機能します。

責任と要求水準についてしっかりと理解してもらうことも重要です。
不安な部分や、開発における要所部分については、コードを送ってもらい、定期的に確認をしていくなどの管理は必要でしょう。
成果物に不備がある場合に、発生するコミュニケーションを嫌い、発注者側で修正をしてしまい、差し戻しやクレームなどは入れなかった、というパターンも良くなく、どこまでの品質を要求しているのか、という点を示し続けることは必須です。

まとめ

ここまで見てわかると思いますが、オフショア開発に取り組む場合は、新規事業を行うくらいのつもりで、かなり気合を入れて、エネルギーを投入して行うことが必要です。
コスト削減や人材不足、という点だけに着目して行うと、失敗をする確率が非常に高まります。

相手も同じ人間ですので、しっかりと正しいコミュニケーションをとっていけば、オフショア開発の成功確率は高まっていきます。

また最後に、中国やベトナム、インドの人件費も年々高騰している点は留意すべきです。
つまり、コスト削減に取り組んでいたはずが、そのメリットがいつかは必ず失われる、ということです。
オフショア開発を行う場合は、別の地域でのオフショア開発に移し替えられるように発注者側でそのノウハウを蓄積していくことが必要でしょう。

カテゴリー
ビジネスと心理学

なぜフェイクニュースやデマは拡がってしまうのか?~知能指数と相関がある模様~

フェイク/デマは、初期の発信者がごく少数であっても、現代社会の構造上、非常に早く、しかも多数の集団行動をゆがめやすくしています。
ここではフェイク/デマが拡散する理由と、個人での防衛策を、多数の論文を元に解説します。
どうやら、認知機能、つまり知能検査のスコアと相関があるようです。

なぜフェイク/デマは信じられてしまうのか?

あることを「どこで」知ったのかは覚えていないが、「どこかで」知ったことは覚えているという現象を「錯誤帰属」と言います。
いわゆる広告(CM)も錯誤帰属を利用しており、繰り返し広告を見ることにより、「見覚えがある」という状況を作り出せ、購買行動につながる効果があります。
フェイク/デマも一緒で、こちらの記事(豪モナッシュ大学)では、フェイク/デマを何度も繰り返しインプットしてしまうことにより、信じてしまう可能性が高くなる傾向があるとしています。

人は、物事の正確性より、自分自身が信じたい内容を重視して記憶してしまう脳のメカニズムになっており、それがフェイク/デマと重なった際には、記憶が強く残るのです。
さらに、あとになってそれがフェイク/デマだという情報をインプットしても、その誤った記憶は訂正されないままになる傾向があるとしています。

これは認知能力、つまりは知能検査のスコアが低い人ほど、この傾向があるとのこと。
こちらの研究(アイルランド・コーク大学、アメリカ・カリフォルニア大学による合同研究)では、知能検査のスコアが高い人ほど、ニュースの真偽や、自分自身の偏見について疑問を抱きやすい傾向があることを示しています。

また、集団のメンバーが相互に影響しあう状況では、集合知が集合浅慮(愚かな集合知)に陥ってしまう点も指摘できます。
集合知は、意見をもった個人の、その意見を多数集めると正しい結論に近くなる、という考え方です。
こちらの記事(マサチューセッツ工科大学)では、個々人が相互に影響しあう状況では、何かのバイアスがかかり、集合浅慮に陥りやすい、つまりはフェイク/デマを信じやすい状況に陥りやすくなることを示しています。
(認知機能が高い人は、集合知の影響を受けにくく、バイアスがかかりにくいことが、併せて示されている。)

さらに恐ろしいことに、人々は自分が信じたい内容のフェイク/デマを信じるだけでなく、そこから「偽の記憶」までを作り出してしまうことが、こちらの研究(アイルランド・コーク大学、アメリカ・カリフォルニア大学による合同研究)で示されています。

年齢による差についてはあまりわかっていない

年齢層による、フェイク/デマの影響はあまりわかっていません。
とりあえず高齢層ほど、フェイク/デマの拡散に関与してしまう傾向はあるそうですが、シンプルにITリテラシーの問題である可能性が高そうです。

こちらの研究(ニューヨーク大学・プリンストン大学)では、高齢層ほど教育水準や性別、人種、収入などに関係なく、フェイク/デマを拡散しやすいという結果を発表しています。
研究者は、これはITリテラシーの問題では、と推測しています。

一方、こちらの調査(イギリス情報通信庁)では、若年層では、検索結果が検索したかった情報なのか、単純に人気がある検索結果なのか、広告なのかの区別がついていない傾向があることを示しており、若いからITリテラシーが必ずしも高齢層より高いわけではないことがわかっています。

個人でできる防衛策

フェイク/デマは集団だからこそ発生します。
阻止することは難しく、一人ひとりが自己防衛していくことが、現状、一個人でできることです。
それでは、個人で出来る防衛策は何でしょうか?
答えはシンプルで、上述の通り、認知機能が高い人ほどフェイク/デマの影響を受けにくいことがわかっているため、この認知機能を高めればよいのです。
具体的には、下記のとおりです。

1)情報のレベルは何かを確認する豪モナッシュ大学

見聞きした情報が、どのレベル感なのかを確認すると良いでしょう。
具体的には、その情報が単純に「事実」だけを伝えたものなのか、推測や意見・感想が混じった「主観」なのか、それとも誰かが言っていることを伝達している「伝聞」なのかの識別です。
情報の質としては、「伝聞」が一番低いことはイメージしやすいでしょう。

2)情報源を確認する豪モナッシュ大学

見聞きした情報の発信は、パブリック性の高い情報メディアからの発信でしょうか?
また、複数の情報メディアから、同様の発信が行われているでしょうか?
SNSなどの限られた情報源しかない場合は、その真偽を疑う必要があります。
非常に拡散されている情報であったとしても、それが上記の「伝聞」である場合は、それは「限られた情報源」であり、情報の質は低いと言えます。

3)誰がそのフェイク/デマで利益を得るのかを想像する豪モナッシュ大学

特定の政治団体や、企業など、それによって誰かが利益を得ることはないでしょうか?
例えば情報が下記のような点に該当する場合は、その真偽を疑う必要があります。

  • 選挙に影響を与えていないか
  • 人種や性別など、特定の人々への中傷していないか
  • 広告収入(クリックベイト)などを目的としていないか

実際に、フェイク/デマを発信しているボットの発信内容は、特定の政治団体に有利な内容になっているという主張もあります(Inverse:海外のメディア)。
(ただし、この情報もどこまで真なのかは、疑うべきなのは留意。)

4)むやみに感情に訴えかけるものがないか確認するウェスタンシドニー大学、クイーンズランド工科大学

センセーショナルな見出しの記事ほどクリックされやすく、読まれやすいことは既知の事実です。

  • 見聞きした情報は、センセーショナルな見出しになっていないでしょうか?
  • 感情的で誰かの人間性を否定するような言葉を使っていないでしょうか?
  • 衝撃的な画像や過度に加工された画像を使っていないでしょうか?

こういった点に該当する場合は、その真偽を疑う必要があります。

5)バイアスを受けやすい人からは距離を置くスペイン・カハール研究所

自分自身の意見や考えをもっている人は、自分の賢さに自信があるので集合知を無視する傾向にあります。
つまり、バイアスにかかりにくい点が指摘されています。
しかし、バイアスを受けやすい人は集合知の影響を受けやすいので、会議など、集合知の重要性が高まる場面においては、残念ではありますが、メンバーから外す方がよいでしょう。
自分の意見を強くもった人たちによる結論を出したあとに、より精度を高めるための調査やトライアルなどを実施すると、より正解に近づきやすくなります。

(参考)現代社会の情報の拡散について補足

Twitterアカウント全体の内、わずか6%のボットから、フェイク/デマの疑いが強い「信頼性の低いコンテンツ」の31%が発信・拡散されていたという研究があります(米インディアナ大学)。
情報の拡散初期段階では、ボットから情報が発信され、拡散がはじまるとインフルエンサーを介して世の中に広く拡散されていたとのことです。

実際に、直近発生している騒動に関しても、誤情報を拡散するボットが登場し、混乱を招いているいるという報道があります(Inverse:海外のメディア)。

初期の情報はボットから拡散されることはそうだとして、なぜ人が後期の拡散に加担してしまうのでしょうか?
これは「目新しさへの欲求」が要因だとされており、真実の情報より、フェイク/デマの方が20倍もの速度で、人の手によって拡散することが、こちらの研究で示されています(米マサチューセッツ工科大学)。
このため、ボットの封じ込めもそうなのですが、情報の真偽についてわかりやすく表記する「ラベリング」が求められています。

また、SNS上での拡散は、「怒り」の感情については、非常に拡散されやすい傾向があることが示唆されています(中国・北京航空航天大学:学生による調査)。

この理由としては、シンプルに脳がそのような構造になっているから、というのが一つの指摘です。
こちらの研究(カナダ・ラヴァル大学)では、新規情報にふれるとドーパミンが増加する、としており、これは自分自身にとってプラスとなる「報酬の可能性」を予測するためです。
太古の時代から人は、食料の獲得、もしくは危機からの回避のため、新規の情報に対しては敏感に、感情的に反応していました。
それが生存に有利だったからです。
そのため、キャッチ―なフェイク/デマや感情に訴えかける情報は記憶に残りやすく、人々に影響を与えやすいのです。

感情は人を幸福にも不幸にもするもので、それらは決して否定するものではありませんが、この現代社会、理性をもって行動していきたいものです。

カテゴリー
監査役会・監査等委員会

監査役ってなぁに?~雑学あり:監査役の起源~

今回は、株式会社における「監査役」に関して、基礎的な部分を解説していきます。
法律云々や委員会制度に関しては触れず、別の機会に書きます。
今回も監査役の起源に関して、わりかし面白おかしく役に立たない雑学を盛り込んでいます。

監査役とは?そもそも監査って?

「監査」と聞くと、なんとなくはどんなことをするのかはわかりますが、明確なイメージはなかなか掴めないです。
とりあえず、辞書を開いてみます。

委託者(たとえば投資家,株主総会,経営幹部,国会など)から財産の運用権限を委託されている受託者の会計責任が正しく果たされているか,信頼性の程度を確かめるために,申し開きをする受託者と,第三者 (たとえば公認会計士,監査役,内部監査人,会計検査院など) が,事後的に会計をはじめ各種業務の実情を検討し,立証基礎に対する証拠づけの正当性を確認し,その結果を委託者に伝達すること。

ブリタニカ国際大百科事典

うん、よくわからないですね。
もう少し、別の解説も見てみます。

(業務の執行や会計・経営などを)監督し検査すること。また、その人。

大辞林

いきなり、解像度が粗くなりました。
とりあえず、「経営を監督し検査すること」というのはわかりました。

監査役とは、名前の通りで、「経営を監督し検査することを役割とした人」のことをいいます。
具体何をするのかというと、経営の活動、つまりは「取締役が適正にかつ適法に活動をおこなっているか」を監査します。

では、より具体的に、どのようなことを「監督し検査」するのでしょうか?

監査役の権限は次のようになります。

  • 取締役や従業員へ報告を要求し、独自に調査ができる
  • 会計監査を実施できる
  • 取締役会に参加し、発言ができる
  • 株主総会に参加し、報告ができる
  • 取締役の違法行為の阻止するための訴訟ができる
  • 会社-取締役間の訴訟を取り持てる

経営の会議の場、つまりは「取締役会」において、取締役同士が、それぞれの職務遂行状況をチェックし、相互に切磋琢磨しまう関係であるならば良いのですが、やはり人間同士の付き合いです。
どうしてもなれ合いというものが発生してしまいがちです。
そこで、監査役という人たちが、取締役の活動を監査し、「適正かつ適法」に経営を行っているのかを監査することになります。
企業は、自分たちが監査役にどのような役割を期待するか?にあわせて、監査役の権限を定款という、会社にとっての憲法のようなものに記載することができます。

ここであわせて「監査役会」と「会計監査人」に関して簡単に触れます。
監査役会とは、監査役で構成する会社の職務執行を監査する機関のことです。
民主主義の構造である3権分立に例えれば、 国会(立法)が株主総会、政府(行政)が取締役会、裁判所(司法)が監査役会に該当します。
会計監査人とは、同じく会社の機関の一つで、会計監査が主な職務であり権限となります。
これは公認会計士、または監査法人のみが就任することができます。

監査役の一般的な大枠の話は以上で、お堅い法的な話は別の所で触れるかします。
会社法で、設置の要件などなどが詳細に定められているのですが、ここでは踏み込みません。
委員会の話も、ここでは触れません。

会社の成長にあわせて、経営の機関設計も変わってくる

ここからは、ベンチャー企業の視点で監査役について考えていきます。

会社は、創業者が想いを込めて事業を立ち上げ、つまりは起業をします。
ここにスタートアップ・ベンチャー起業が誕生しました。
どんどん成長していくスタートアップは、会社の成長ステージにあわせて、経営のあり方を変えていく必要があります。
ここでする話は、取締役会などの構成についての話で、この種の話を「機関設計」と呼びます。

取締役というものは、株式会社を運営して行く上で必須で設置をしなければなりません。
会社法という法律で、そのように定められているのです。
ですので、スタートアップの場合、創業者が「社長」であり「(代表)取締役」であり「メンバー」でもある、一人会社である場合が往々にしてあるわけです。

このステージの機関設計は、「取締役のみ」という状況です。
ここから会社が成長していき、世間的には「アーリー」というステージに入ってくると、事業運営や投資のために、まあまあ多額のお金を調達するようになります。
ベンチャーキャピタル(VC)というような人たちからお金を調達、借りるのではなく出資していただくようになると、今までは取締役のみであった機関設計に変化が出てきます。
具体的には、「取締役会」の設置と、「監査役」の選任です。

このステージの機関設計は、「取締役会 + 監査役」という状況です。
この時期になると、一定、IPOが視野に入ってきて、組織としてコンプライアンスを重視しなければいけないようになります。
ようは、組織としてしっかりとやっていきましょう、というステージです。
ここからもっと成長し、IPOがリアルに射程範囲に入ってくると、ここからさらに期間設計の変化がおきます。
具体的には、「監査役会」の設置、ないしは「会計監査人」の選任、あるいはその両方です。

このステージの機関設計は、「取締役会 + 監査役会」もしくは「取締役会 + 監査役 + 会計監査人」、場合によっては「取締役会 + 監査役会 + 会計監査人」という状況です。
最終的に上場する段階では最後の、「取締役会 + 監査役会 + 会計監査人」という状態になっている必要があります。
多くの株主からお金を預かり、会社を経営していくためには、経営の体制を厳密に整えないといけない、という至極当たり前な理由からです。

ようは、株主に対しても、従業員に対しても、社会に対しても、与える影響が大きくなり責任が重くなる、加えて更に会社を成長させていくために、会社の成長ステージにあわせて、会社の機関設計もグレードアップしていかないといけない、ということですね。

監査役をどう活用するか?

監査役という立場は微妙に難しく、なかなか、その重大な機能を有効活用できている会社は少ないです。
創業者というものは大なり小なり、エゴが強いもので、今まで自分の力で会社を大きくしてきた、という自負もあるため、たとえ年上の経験豊富な方からであっても、なかなかその助言を受け入れるのは難しいものです。
また、急激に成長している企業が、同じく急激に変化していく機関設計を、適切に御することも、まあまあ難しいものです。

必要だから、という理由で、形式的に、数合わせとして友人や知人などに就任してもらうパターンも多く、そうなると当然にその本質的な役割を期待することは難しくなってきます。
形式的に機関を整えることが決して悪いとは思いませんが、それで全く外部の株主やお金を貸してくれる銀行が、どこまで納得するでしょうか?
また、これから会社をどんどん成長させて行こうとする組織が、管理サイドの重大な機能をぞんざいに扱って、本当にどこまで会社を成長させられるでしょうか?

経営者に立場からすると、とやかく言われるのは嫌なものですが、外部の異なる立場・専門性を活かして、監査役を自社の成長をドライブさせるために、大いに活用すべきでしょう。
自社の事業領域に関連のある企業のOBOGに、監査役として就任してもらうパターンが多いのも、こういった点を期待していることがあげられます。
その際、一定の財産を保有しているか、別に収入源があって、あくまでも企業のミッションやビジョンに共感してくれたからこそ協力してくれる、という方を選任するのが一番幸せな結果を生みやすいです。

というのも、監査役とはいえ、企業から報酬をもらう以上、なかなか経営者に対して厳しいことを言うのが憚られる、というのは決しておかしな話ではないからです。
最悪なパターンとしてあげられるのが、報酬をもらっている以上、仕事をしている体を装うため、経営者には厳しいことは言わないが、現場や外部に厳しいことを言う、という状況です。
現場や外部のコンサルが、様々な提案をしても、監査役がそれっぽい助言でもって実行を阻み、結果論として会社の成長を阻害している、その先の運命としてリビングデッドになってしまった、という会社は現実に存在します。
(そのような害はなくても、成果を出さないおじいちゃん監査役で、ただの懇親会要員としてしか機能しない、しかしながら影響力はあるため誘いは断れず、みんなの貴重な時間と体力とお金を浪費する、という光景も珍しくない。)

あくまでも、あくまでも、監査役を企業価値を高めるための重要な存在として活用できるか?
この観点で選任し、(良い意味で)存分に使い倒すのが、結論、みんなにとって幸せな結果につながるでしょう。

(おまけ)監査役の起源

東インド会社というものをご存じでしょうか?
近代株式会社の起源といわれる、歴史上、最初の株式会社です。
監査役の起源もこのあたりにさかのぼり、ロンドン東インド会社が設立された1600年からプラス21年が経過したのち、監査に関する体系的なルールが定められました。

当時は、一航海ごとに決算を締める慣習があり、そのためPL(損益計算書)という概念がなく、BS(貸借対照表)ベースでの決算報告が行われていました。
しかも単式簿記です。
その決算報告に対して、「会計担当役が会社の諸勘定を取り扱い収集するに際して、遵守して処理しなければならない指示と方法」と呼ばれるルールがあり、その中で、会計担当役、監査担当役、理事会監査役、と呼ばれる職務と監査の方法が示されていました。

なお、複式簿記の導入と、資本評価が行われたのは、そこから更に年月がたった1664年です。
加えて、大きく監査担当役職務が改訂されたのが1666年です。
こんな話をしているのは、ここら辺の変化が現代社会の監査のあり方と似ていて面白いと感じているからです。

というのも、1621年に制定された監査のルールと、1666年に改訂された監査のルールを比較すると、後者の監査役の業務は増えているにも関わらず、権限は一切増えていない、ようは負担だけが増えた状態だからで、これは現代社会の無駄に監査の工数が増え、現場負担が積み上げっている現状とかぶって見えるのです。
航海のノウハウが発展し、一航海で取り扱うビジネス規模が大きくなり、監査の重要性が増した、という点と、現代社会の取り扱うお金の規模が大きくなり社会に与えるインパクトも大きくなり、云々、という点ともかぶっており、陳腐な言葉ではあるのですが、歴史は繰り返すものだなぁ、としみじみと思う次第です。

カテゴリー
人事・総務

登記に関する基礎知識~雑学込み~

多くの方にとって、「登記」は馴染みのない手続きです。
今回は、この「登記」について、基礎的な部分を解説します。
ちょっとマニアックな雑学が入っているのは、そちらの方が楽しいからです。

豊臣秀吉が日本の登記の起源、って聞くと、びっくりするはずです。

登記とは

登記とは、重要な権利や義務について、法的に社会に示すと共に保護するための手続きです。
「法務局」という役所にて行う、ようは事務手続きを行います。
多くの人にとっては、ほとんど関わりのない手続きではあるのですが、例えば家を買ったときや、親族の不動産を相続したときに行わなければいけない役所での手続き、と書けばぼやっとはイメージできるでしょう。
なお、これを「不動産登記」といい、他には会社を設立した時などに発生する「商業登記」、「法人登記」「動産譲渡登記」「債権譲渡登記」「成年後見登記」「船舶登記」「工場財団登記」などがあります。

日本での登記で一番多いのが土地や建物の物理的な状態と、権利義務関係について行われる「不動産登記」です。
不動産登記は関連する手続きや確認をしっかり行わないと、大きなトラブルに巻き込まれる可能性のあるものです。
ここら辺とか、詳しいので読んでみては(「不動産登記 トラブル」で検索しても、たくさんでてくる)。

雑学ですが、立木(りゅうぼく)登記というものもあり、土地の上に生えている木の所有権に関して登記を行うこともあります。
これは土地収用の問題などにおいて、反対派が抵抗するための手法として行う場合があり、これを「立木トラスト」といいます。
有名なところとしては、安保闘争時代に発生した「下筌(しもうけ)ダム」の案件があります。
現在でも、ダムの建設反対運動などに、実際に行われていたりします。

登記に関するTips

会社の場合、役員の改選任や定款の変更、増資、ストック・オプションの交付などがあった場合、登記手続きを行わねばならず、これを怠った場合、「過料(かりょう)」という罰金が発生する場合があります。
しかも、この「過料」の通知は代表取締役個人宛に裁判所から届くため、法的な手続きを軽視していたり、知識が乏しかったりすると、ある日突然、ぞわっとする想いを経験することになります。
こういうのです。
「過料」は、何年間も手続きを放置していた、などの悪質性が高い場合に課せられるので、登記の期限である2週間を過ぎたからといって、過度に心配する必要はありません。
よくあるパターンは、役員の改選人や、役員の住所変更(引っ越し)を何年も放置していた、というケースです。

登記手続きを行ったあとに取得できる書類を「登記事項証明書(とうきじこうしょうめいしょ)」と呼びます。
一般的には「登記簿謄本(とうきぼとうほん)」や単純に「謄本(とうほん)」と呼びます。
こういうのです。
この謄本は、法務局で発行手続きを行うのが一般的で、そのため、役所に赴かないと取得できないと勘違いしている方も多いです。
実際は、オンラインで郵送手続きを行えますし、こういうサービスを使うと簡単に取り寄せや逆にお取引先様へお届けすることができたりします。
なお、会社の謄本は、赤の他人でも取得できるため、与信や反社の確認などに活用されます。

昔は紙で記録されており、そのため「登記簿謄本」と呼んでいましたが(謄本は文書という意味)、現在はデジタルでの記録のため、「登記事項証明書」と呼び方が変わりました。
ついでに書くと、お取引先様などから「謄本の原本をちょうだい」と依頼をうけることがあるかと思いますが、謄本の原本は法務局にデジタルデータとして記録保管されているもので、法務局から発行される紙の謄本はあくまでも「写し」です。
逆に「謄本の写しをちょうだい」と依頼をうける場合もあります。
ですので、依頼されているものが「発行された紙の写しの原本」のことなのか、「コピー」や「PDFデータ」でよいのか、をきちんと確認をしないと、手間が増える場合があります。

なお、不動産登記は、「不動産登記法」という「民法」が、「商業登記」は「商業登記法」という「商法」がカバーしており、登記と一言でいっても、法律の種類が異なります。
登記は「司法書士」と呼ばれる方々が代行できます。
自分自身で登記手続きを行うのは、決して簡単では無いですし、煩雑ですので、通常は司法書士に依頼して対応してもらいます。

登記の歴史

日本での登記の歴史は意外に古く、あの豊臣秀吉がおこなった「太閤検地(たいこうけんち)」にさかのぼります。
懐かしい単語がでてきましたね。
太閤検地を簡単に説明すると、太閤である豊臣秀吉が命令して行わせた全国規模の土地調査のことです。
教科書的な書かれ方としては太閤検地は兵農分離や刀狩りとセットで語られ、イメージが悪いですが、権利関係や税制の整理や、単位の統一、法制度、経済などの基礎となるもので、国の発展という観点において、非常に意義のある取り組みでした。

その後は、明治初期に、土地の所有権を示した「地券」が東京府下の土地所有者に発行され、地価を基準に課す不動産税の基礎となり、そしてようやく登記が法律として施行されたのは、明治20年(1887年)になってからです。
フランスの登記制度をベースに制定され、土地や建物に関して、所有権取得などを登記しました。
民法の施行が明治31年(1898年)なので、なにげに登記に関する法律の方が歴史が古いです。
当時のイメージは、このあたりを見ると、掴めるでしょう。

世界では、英国系の登記制度(イギリス、ニュージーランド、オーストラリア)と、大陸系の登記制度(ドイツ、フランス)がありますが、そもそもとして登記制度がない国が多いです。
英国系の登記制度、「トーレンスシステム」は1858年にさかのぼりますが、これのもっと起源としては、「コモン・ロー」と呼ばれる中世イングランドから続く、独自の慣行や正義に関して示した概念にたどり着きます。
大陸系の登記制度としては、ドイツやイタリアで発祥した「公証制度」があげられ、その更に起源は中世の神聖ローマ帝国のローマ法にたどりつきます。
なお、司法書士という職業は日本にしかなく、海外では弁護士や、公証人が代行して行います。

海外での登記

海外の登記の歴史が話題に出たので、最後に海外で起業する場合の話を簡単に触れます。

海外で会社を起こす場合、登記手続きや、それに該当する役所での手続きが必要になります。
ただでさえ決して簡単ではない登記手続きを現地の法律と言語で行うわけですので、非常に難易度が高くなります。
そのため、海外での登記手続きを代行する業者が多数存在します。
海外進出時の手続きに関しては、きちんと調査して、適切な業者を探しましょう。

カテゴリー
生産性・業務効率化

マルチタスクは本当に生産性を下げるのか?~一流の経営者が同じ服を着る理由~

マルチタスクは人間の生産性を下げてしまう、というのが現在の知見です。
しかしながら、マルチタスクからは中々逃げられないのが現代社会の宿命です。
ここではマルチタスクは本当に生産性を下げるのか?をテーマに複数の論文・記事を横断レビューしていきます。

これを読めば、一部の一流経営者が同じデザインの服を着ている理由がわかります。

マルチタスクは生産性を下げる

マルチタスクについては、研究の歴史がそれなりにあり、1960年代から心理学領域を中心に様々な実験がされてきました。
マルチタスクを継続して行うことにより、人間の能力が向上するのではないか?という仮説があったからです。

結論を先に言ってしまうと、マルチタスクは人間の生産性を大きく下げます。
こちらの記事(マサチューセッツ工科大学)では、マルチタスクを行っている時の人間の脳は、複数のことを同時並行して処理しているのではなく、1つのタスクを短い間集中して処理することをひたすら繰り返しているだけにすぎない、としています。
しかも、脳のリソースそのものはフル稼働している状態で、別のことを繰り返して処理しているため、1つのタスクにふりわける脳のリソースは大幅に低下してしまいます。

これがマルチタスクをすると生産性が大きく下がってしまう原因です。

生産性低下のみならず、疲労と認知機能低下を招く

更に悪いことに、マルチタスクを行っている間は高い集中力を要するため、脳内の神経科学物質をガンガン消費します。

結果、短い時間で「頭が動かない」「疲れた」と感じてしまうのです。
これは多くの働く人が経験したことがあるでしょう。

こちらの研究(英サセックス大学)では、PCやスマートフォンなど、複数のデジタル端末を同時によく利用する人と、そうでない人で比較し、複数端末の同時利用者の脳の一部(前帯状皮質灰白質)の密度が小さくなっていることが示されています。
研究では、この脳密度の低下が脳の認知機能の低下や、社会的感情の悪化を招いているのでは?としています。

こちらの記事(マギル大学)では、上述のマサチューセッツ工科大学や英ロンドン大学、カリフォルニア大学などの研究を横断的にレビューし、現代社会がいかにマルチタスク環境下におかれ、人間にストレスを与えているかを解説しています。
例えば、スマートフォンの不在着信一つをとっても、かけた側が「返信が来るに違いない」、うけた側も「折り返しかけないと」と、意識を不在着信にとられてしまうため、一見大したことが無いように思えても、脳のリソースが奪われるとしています。
メールの返信一つ(返信をする、しないの意思決定)にしても、重大な意思決定に使う脳のリソースと大きく差が無いため、雑事に気を回すと、どんどん生産性を低下させていきます。
そのため、このようなマルチタスク環境下にあると、IQ10ほど低下させてしまう、としています。

重要ではない意思決定に脳のリソースを奪われたくない。本当に大切なことに限られた脳のリソースをまわしたい。これ (服を選ぶという意思決定を削減する) が、一部の一流経営者が、毎日同じデザインの服を着る理由でもあります。

悪いとわかっているのに何でやめられないの?

上述したマサチューセッツ工科大学の解説によると、私たち人間が文明を持つ以前の生活に起源があるとしています。

現代社会は極めて安全ですが、猿の時代や、原始時代はそうではありません。
周囲は危険にあふれており、常に気を配っていないと、そもそもの生存がおぼつかない状況です。
そのため、マルチタスクに向いていない生理的性質があるにも関わらず、生存本能の観点でマルチタスクを行ってしまうのでは?としています。

また、マルチタスクを行い、複数のタスクを消化していくことが、麻薬的な報酬を脳を与えてしまうのでは?という意見もあります。

ただ、どうやらトータルのパフォーマンスはあがる可能性がある

これまで、マルチタスクが如何に人間に悪影響をおよぼすかを書いてきましたが、本当に弊害しか無いのでしょうか?
どうやら、弊害だけではなく、マルチタスクは人間のトータルのパフォーマンスを引き上げる可能性が示唆されています。

こちらの研究(ミシガン大学)では、マルチタスクを行っているという認識そのものが、人間のパフォーマンスをあげる可能性を示しています。
過去の研究の蓄積として、人間は処理するタスクの難易度があがると、努力しようとするモチベーションや、認知制御機能が向上することが示されていました。
そのため、この部分が上述のマルチタスクを行っているという認識そのものが、人間のパフォーマンスをあげる可能性につながってきます。
実験ではシングルタスクとマルチタスクのグループにわけてタスクを処理した結果、マルチタスクを行っているグループの中でさらにマルチタスクを行っていることを認識していた被験者の集中力が高かったことが示されました。

この研究は、まだ蓄積がすくなく確かなことは言えませんが、一定経験則とも合致する部分があります。

一日のはじめの、「今日やることリスト」をズラッと並べてから仕事にとりかかると、高い生産性を出せた経験は多くの人にあるでしょう。
「今日やることリスト」は一種の「マルチタスクを行っていることの認識」につながるため、これが集中力の向上につながる可能性があります。

(おまけ)女性も男性も等しくマルチタスクには向いていない

なお、以前から、女性はマルチタスクが得意(だから家事育児に向いている)という考えがありましたが、これは誤りです。
こちらの研究(ロンドン大学)で、マルチタスクの性差影響が調査されていますが、差が無いという結論が出ています。

人種だとか、性別だとか、年齢だとか。
そのようなものに縛られず、偏見なく、一人ひとりが自分自身が本当に実現したいことに素直にまい進できる世界が早く来ると良いですね。

カテゴリー
生産性・業務効率化

本当に効率的な勉強の方法

現代社会の忙しさ。
せっかく勉強をするのならばコストパフォーマンス高く学びたいと思うのが自然です。
ここでは、複数の研究を横断的にレビューし、本当に効率的に勉強できる方法を検討します。

忙しい人向けまとめ

  • 反復学習が効果的
  • 反復学習の際は文字情報、映像情報、音声情報など多様な手段で
  • 学習量が多いことは純粋に良好なパフォーマンスを示す可能性がある
  • テストを活用し覚えたことを「思い出す」のは良い
  • 平易に理解できるものからはじめ難易度をあげていくのが良い
  • 寝よう
  • 周囲の励ましをうけよう

インプットの知見

反復学習の有効性

記憶と学習に関する研究は歴史が長く、有名な所としてはドイツの心理学者のヘルマン・エビングハウス博士の研究があげられます。
エビングハウス博士は、一度記憶したことは、短時間で忘れていき、その忘れるペースは時間と共に緩やかになっていくことを発見しました。
また、間隔をあけて再学習することにより、その忘れるペースが更に緩やかになっていくこと。
つまり、記憶の定着率が向上することを発見しました。
この知見は多くの学習者の経験則とも合致しており、「反復学習」の有効性を示しています。

なお、この反復学習は、異なる方法で学習をすると効果的であるとする提唱もあります(多様な手段での反復学習)。
こちらの記事(オーストラリアカトリック大学)では、教科書による文字情報のインプット、ポッドキャストなどの音声情報、図解などの映像情報などを交えて学習すると、記憶の定着が強化するとされています。

もう一点、反復学習に関して付け加えると「オーバーラーニング」という学習に関しても触れるべきでしょう。
オーバーラーニングとは、学習をし、その効果が一定見えてきた段階で、さらにもう一押しする形で反復学習を行うことを言います。
こちらの実験(米ブラウン大学)では、オーバーラーニングを行うと、行わないグループに比較し、良好な記憶定着の結果が行われたという結果がでています。
オーバーラーニングに関する研究の蓄積は少なく、この結果をもって言えることは少ないにせよ、学習量が多いことは純粋に学習パフォーマンスを向上させる可能性があることは言えます。

関連付けによる記憶

反復学習とは異なる関連であるインプット、関連付け、言い換えると「記憶術」の効用についても言及できるでしょう。
記憶術の歴史は長く、2,000年以上の蓄積があります。
皆さんも活用をしているはずで、歴史における語呂あわせや、元素記号の「水兵リーベ」などは懐かしさを覚えるでしょう。
これは記憶術における場所法、もしくは置換法とよばれるもので、人間の脳細胞の特性を利用したものです。
新しく覚える物事を整理し、すでに記憶している事象と関連付けていくと学習効果が高いという経験則とも合致するはずです。

他にも、名前の通り場所を思い浮かべ、そこに記憶したい対象を並べていく方法や、ストーリー上に記憶したい対象を関連付けていく方法があります。
後者に関しては、マンガの活用が有効です。
「もしドラ」が有名ですが、難しい内容がイラスト主体の平易な内容で説明されると、初期学習として有用だというのは説得力がある話でしょう。
なお、これは推測で言っているのではなく、実際に研究がなされており、例えば歴史学習におけるマンガの有効性が指摘されています(東洋英和女子院大学)。

アウトプットの知見

ラーニングピラミッドについて

前段でインプットの話をし、ここでアウトプットの話をするのならば、ラーニングピラミッドについては触れておくべきでしょう。
ラーニングピラミッドはNational Training Labolatory(アメリカ国立訓練研究所)のエドガー・デール博士が基礎的な提唱をした考え方で、経験の三角錐ともいわれます。
簡単に言うと、本を読んだり講義をうけたりするインプットよりも、人とディスカッションしたり、人に教えたりするアウトプットの方が学習効率が高い、とするものです。
これ自体は、大本の考え方からはだいぶ乖離した伝達がされており、根拠が無いものです。
ただ、インプット中心よりも、アウトプット中心の方が、学習効果が高いという点は多くの経験則が支えています。
これは、上述インプット部分で言及した、多様な手段での反復学習や関連付けによる記憶の強化で説明ができるはずです。
授業、読書、視覚情報、デモ、ディスカッション、体験、人に教える。
こういった多様な手段で反復学習をすること、そして実際に人に教えるとなると対象となる事象を整理し、自分の言葉で説明(すでに記憶している事象との関連付け)をしないと人に説明できないこと、を考えると、ラーニングピラミッド自体の数字根拠はともかくとして、考え方そのものは大枠として支持できるものと言えます。

テストの効能

もう一つ、アウトプットに関して言及をしなければならないものとして「テスト」があります。
多くの人にとっては、複雑な想いをもってしまうものかと思います。
ただ、間違いなく言えることはテスト、より正確に言い換えると「情報を思い出すこと」は高い学習パフォーマンスにつながるという点です(米ワシントン大学)。
実験では、インプット学習に加えテストによるアウトプット学習を行うと、中期的には記憶定着に効率が高いことが示されています。
別の観点でいうと、覚えていることと覚えていないこと、理解していること理解していないことを識別することが出来る点もあるため、純粋に高い学習パフォーマンスがあることは間違いがないでしょう。
なお、プログラミング学習などで言及される、「習うより慣れろ」「手を動かせ」も一種のテストであると言えるため、経験則で言われていることも一定の裏付けがあると考えられます。

なお、学習における難易度設定ですが、現状の理解度・学習レベルより、少々程度難易度を高く設定するのが良いという示唆があります(米アリゾナ大学)。
上述のマンガによる平易な水準からの学習効果が高い点も、この仮説を支持するものになると考えます。
同様に、テスト効果における「情報を思い出すこと」も、あくまでも記憶の定着を前提としている点を踏まえると、この仮説を支持するものと言えます。

(おまけ1)寝よう

一夜漬けの効果が薄いことは、多くの方にとって実際に体験したことかと思います。
これは経験則だけの話ではなく、実際に事件をした結果(ヨーク大学、ハーバード・メディカルスクール)、一夜漬けより、学習後に睡眠をとる方が、学習のパフォーマンスが高いことが明確に示されています。
というわけで、言われなくても寝るとは思いますが、勉強後はしっかりと寝ましょう。

(おまけ2)励ましあう仲間をつろう

大人になると物覚えが悪くなると、一般的に言われています。
これは一定確かではあるのですが、諦めるのは早いです。
こちらの研究(カリフォルニア大学)では、学習に適切な環境に身を置くと、年齢に関係なく高い学習パフォーマンスが出ることが示されています。
適切な環境をより具体的に言うと、それは「周囲からの励ましを得られる」環境です。
家族や学習友達など、励ましあう仲間を作るのは間違いなくプラスです。
恥ずかしがることなく、周囲に「私は勉強をしているので応援して!」と言いましょう。

(おまけ3)学習中の音楽は益か害か

勉強中に音楽を聴くと集中力があがって効率が良い、という人と、逆に集中できない、という人がいます。
さて、学習中の音楽は益なのでしょうか?害なのでしょうか?
答えを言うと、人によるし、聴く音楽による、です(ウロンゴン大学)。
前者の「人による」、に関して身も蓋もないことを言うと、脳の処理能力の高い人に限っては、音楽を聴きながらの作業は、その効率をあげることが示されています。
後者の「聴く音楽による」、に関しては、ボーカルが入る、テンポが早い、音量が多い、などの要素がある音楽を聴きながらの作業は、その効率を下げることが示されています。

カテゴリー
IR

IPOにおける広報の役割~前半~

IPO(新規株式上場)は、ベンチャー企業経営者や、そこで働く人達にとって夢の一つであり、より広く大きく社会に貢献する、未来に羽ばたくための大事な通過点の一つです。
ここでは、IPOにおける広報が果たす役割について、ベンチャー企業のPRもしくはIR(Investor Relations:投資家向け広報)の担当者向けに、IPOにおける広報・IRの役割について解説していきます。

長くなってしまうので、前半後半にわけて解説し、前半は大枠の考え方と実際のToDo的な話の一部を、後半はToDo的な話の続きと戦略よりの話を書いていきます。
IPO準備の全体像は別の場所で書いていきたいと思います。

IPOにおける広報・IRの役割大枠

全ての企業は、非公開企業、つまりクローズドな世界で限られた株主のみで構成された状態で、この世に誕生します。
この企業の株式を公開することにより、広く世の中の人たちが経営に参画できる状態にすることを新規公開、IPO(Initial(最初の)Public(公での)Offering(売り物))と言います。
IPOの目的は大きく3つほどあげられます。

  • 知名度の向上
  • 信頼度の向上
  • 多額の資金の調達

成長志向のベンチャー企業にとって、この3つ目の「多額の資金の調達」がポイントで、IPOをする企業の株式を投資家たちが購入することにより、投資家は企業への経営の参画ができる状態になり、そして企業は事業運営のための多額の資金を調達することができます。
企業にとっては、この多額の資金を活用することにより、事業を大きくステップアップさせ、次のステージへの成長段階に羽ばたかせることができるわけです。
(戦略的に多額の資金を要せず、知名度の向上や信頼度の向上を主目的としてIPOを実施する会社も実際は多い。

さて、IPOをするまでは企業の情報を外部に発信することはマーケティングやブランディング以外の側面では基本ありません。
しかし、IPO後は情報の発信のあり方が大きく変わります。
企業の業績の情報や企業組織の体制をはじめ、どのような事業をどのような戦略でもって取り組んで行くのかという事業計画の情報などなどなどなどを事細かに発信する必要がでてきます。
それがマストで守らなければならないルールだからです。
企業をクローズドな世界からオープン(Public)にしていくにあたり、企業と社会(投資家)との接点を作る(情報を発信していく)、ここにIPOにおける広報の重大な役割があります。

IPOにより自社が「社会の公器」として「社会の眼」にさらされるということは、コンプライアンスを遵守した経営を行うということはもちろんのこと、自社が「社会に必要な事業を行う」ということを、事業をもって示すということです。
広報担当者の市場への発表内容により、資本構成や株価が変化し、場合によっては経営に直結することも出てきます。

IPOにおける広報・IRの役割は、IPO後の会社経営自体につながる仕事をしているのです。
広報・IRに携わる方は、是非「IPOによって自社が社会にどのようなインパクトを与えられるのか」を意識した広報活動を心がける必要があるでしょう。

上場前に広報・IRが準備しておくこと

大枠の考え方に続いて、ここからは実際に取り組んで行かなければならないことを順番に解説していきます。

  • 認知度向上のためのPR実施
  • 目論見書の作成
  • IRサイトの作成
  • 上場セレモニーの準備

なお、長くなってしまうので今回はここで切り、下記を後半で書いていきます。

  • プレスリリースの準備
  • ロードショー用資料の作成
  • 役員のメディアトレーニング
  • 決算説明会の準備
  • その他

認知度向上のためのPR実施

IPOを成功させるには、顧客や取引先のみならず、今まで関係性のなかった一般の人々(個人投資家)や機関投資家(大口投資家)に、自社のことを知ってもらう必要があります。
なお、ここで言っている「成功」とは、上場承認をうけてIPOができることではなく、IPOを行うための自社にとっての目的を達成することを指しています。

企業やブランドの認知度向上のためのPRは早めに準備し、実施していきましょう。
マザーズ市場(そしておそらくグロース市場も)の年間取引額のうち、約6割は国内個人投資家であり、この国内個人投資家へのブランド訴求はおろそかにはできません。
機関投資家に対しても同様で、事業戦略の前提となる企業のミッション・ビジョンを正確に理解してもらうことは、自社の戦略ストーリーの理解にもつながるため、IPO上有利に働きます。

IPO時の広報・IRの担当者構成は、経営企画領域の担当者と、広報・マーケティング領域の担当者が連携してチームを組成する形がおおいですが、この認知度向上のためのPR実施は、主に後者の広報・マーケティング領域の担当者の仕事となるでしょう。
PR会社と契約してプレスリリース配信の体制を整備したり、ブランディング・コンサルを活用してコーポレート・アイデンティティの刷新、記者懇親会や勉強会の開催などを行うことが考えられます。

目論見書の作成

目論見書(もくろみしょ)とは、IPO時の需要申告(ブックビルディング)、もしくは購入申し込みをする投資家に対して交付される書類のことです。
企業の概要や募集・売出をする株式の条件などが記載されており、投資家にとって投資判断を行うための重要な情報源となります。

新規上場時に有価証券届出書という書類を作成するのですが、この有価証券届出書を抜粋する形で目論見書は作成されます。
具体的に事例を見た方がイメージがつきやすいでしょう。

事例の通り、目論見書には本文の内容を要約し、図表等を用いて説明するダイジェスト部分があります。
ここは会社のイメージをグラフィカルに伝えられる、ダイレクトに印象が伝わってしまう部分になるので、経営企画領域の担当者、広報・マーケティング領域の担当者、デザイン・クレイティブ領域に明るい社内外のメンバーが連携して作成するのがよいでしょう。
(事例として出したライフネット生命保険㈱の目論見書からは、お堅いイメージが伝わってきますね。)

なお、目論見書は電子交付のみならず、印刷して交付する必要もあるため、印刷のための期間も考慮してスケジュールを組む必要があります。
さらに加えて、目論見書(有価証券届出書も)は未確定の部分がある段階で作成を行う必要があり、実際にブックビルディング方式で募集・売り出し条件が確定し、募集価格・発行価格が確定した段階で訂正目論見書(訂正届出書)を作成、提出を行う必要があります。
この部分は、完全に経営企画領域の担当者がスケジュールを組み、プロジェクト・マネジメントを行っていく形になります。

IRサイトの作成

IRサイトは目論見書と同様、投資家と自社とをつなぐ大事なツールとなります。
特に、個人投資家にとっては、IRサイトは重要な情報源となるため、個人を意識したIRサイトの充実が効果的な施策となります。
個人投資家の多くは事業面でのプロでは無いため、何をやっているのか?将来どうなるのか?についての「わかりやすさ」が重要となります。

上場当日にIRサイトをオープンできるよう、予め準備しておく必要があります。
なお、情報漏洩や改ざん防止などのセキュリティ上の観点から、証券会社や印刷会社のサービスを使うケースが多いです。

IRサイトの良い事例としては、個人投資家に理解してもらうために、わかりやすいコンテンツを多数掲載しているシスメックスパン・パシフィック・インターナショナルホールディングスなどがあげられます。
また、個人投資家のレベルにあわせて資料を提示できるよう、わかりやすい難易度表記があるオリエンタルランドも特徴的です。

上場セレモニーの準備

上場日当日には、証券取引所において、上場セレモニーが実施されます。
取引所内にはスタジオが併設されており、動画の撮影・配信をはじめ、初値決定の瞬間を見るなどのイベントがあります。
なお、上場セレモニーには人数制限があるため、社員数が多い企業では全員で祝うことができません。

言葉では表現しづらい所も多々あるので、こちらこちらを見るのが良いでしょう。
他にも「上場セレモニー」でGoogle検索をすると、多数、IPOを達成した企業の様子を見ることができます。

動画の撮影・配信については、こちらを見るとイメージがつきやすいでしょう。

上場セレモニーでは、上場認証式や記念撮影の後、東証内にある「鐘」を打ち鳴らします。
この際、鐘は「五穀豊穣」にちなみ、5回打つことができます。
創業者が1人で5回、その後主要なメンバー5人ずつで4回で、最大21人が参加することができます。

この上場セレモニーの準備として、当日の流れの確認やスケジュール組み、参加メンバーの確定、撮影する内容(社長の話の構成)の決定、などがあります。
後半の方で説明しますが、「しゃべって良いこと、悪いこと」がありますので、社長をはじめ役員・幹部に対するメディアトレーニングが効いてくる段階になります。

カテゴリー
生産性・業務効率化

ブルーライトは結局、悪いのか?影響ないのか?

目をはじめ身体に悪影響を与えると言われているブルーライト。
日本では2012年頃から話題に多くあがるようになり、この2020年に入ってもトレンドが収まる兆しを見せません。
今回は、このブルーライトの実際に切り込んでみます。

Googleトレンド(日本、2004-現在、全てのカテゴリ、ウェブ検索)より

なお、「ブルーライトとは?」の基本的な部分は一番下に(参考)として掲載しているので、ご存じ無い方はそちらからご確認ください。

サマリー~少なくとも目への悪影響は気にしなくてよい、就寝前には電子機器を使わないのは睡眠の質のため吉~

結論を一言で表現すると、「気にするな、ただし就寝前には電子機器を使わないようにしよう」です。
下記記事をまとめると、影響度合に関しては次のようになります。

  • ブルーライトの悪影響は多数言われているが、少なくとも目に与える影響は限定的(失明するとは言えない)
  • 日中、ブルーライトカット機能を持つ液晶フィルターやスマートフォンを使うことの意味は無い
  • ブルーライトそのものより、光の輝度の強さや黄色光の方が睡眠に与える悪影響が強い可能性がある
  • 就寝前には電子機器を使わないのが現時点では吉と言える

ブルーライトに関しては、まだまだ研究の歴史が浅く、ここ20年ほどです(特に、スマートフォンが普及しはじめたここ10年ほどの蓄積しかない)。
各種論文を横断してレビューする限り、あるとされている悪影響については、それぞれ下記が現時点で言えることではないでしょうか。

  • 網膜へのダメージは限定的(無いと言ってもよい)
  • 目の疲れ,痛みはある(が紙の書類仕事を長時間しても同様のことは起きる)
  • 睡眠障害は現時点では否定する要素が少ない
  • 肥満は研究が少なく意見表明ができない(そもそも夜中に人工光を浴びるような不摂生な生活が問題なのでは)
  • 癌(がん)は研究が少なく意見表明ができない(体積の小さい昆虫や微生物の遺伝子変異が言及されているだけで、体積の大きい人への悪影響が大きいとは思えない)
  • 精神状態は睡眠障害や目の疲労と連動して起きる可能性はある(つまり直接的な影響は少ないのでは)

悪い(悪影響がある)とする主張

日本では冒頭にも書きましたが2012年頃から、身体に悪影響を与えるという文脈で、話題に多くあがるようになりました。
そして、この頃に、日本で初めてのブルーライトカット機能を持つiPhone用液晶保護フィルムがSoftBankから発売されています。

では、具体的にどんな悪影響があると主張されているのでしょうか?

こちらの記事(実験当時、心理学を専攻していた学生による予備研究:2013年5月に発表)では、就寝2時間前に電子機器を操作している人は、操作していない人に比べてストレスレベルが高くなる、とされています。
実験は、SNS広告経由のオンライン調査で行われ、18歳から73歳までの500人が参加、参加者には若い女性やヒスパニックの方が多かったとの事で、母集団としては偏りがあるかもしれないと注釈があります。

こちらの記事(ハーバード大学医学大学院)では、就寝前、紙の書籍と電子書籍を読んだ場合の睡眠の質を比較しています。
実験では、電子書籍を読むと、血中のメラトニン量が減少し、眠るのに時間がかかったのみならず、翌日への疲労が残った、とのことです。
実験は、12人が参加、2週間にわたり、同じ被験者で紙の書籍を読む週と、電子書籍を読む週にわけて実施しています。
なお、バックライトのないタイプのKindleなどは、悪影響が無いようです。

こちらのリリース(東北大学大学院農学研究科)では、昆虫にブルーライトを照射した結果、対象の昆虫が死亡した、という実験が公表されています。
その殺虫効果はヒトの目に対する傷害メカニズムに似ていると推測されており、光が内部組織に吸収され、活性酸素が生じ、細胞や組織が傷害を受け死亡すると推測されています。

こちらの論文(米トレド大学)では、網膜における信号伝達物質である「レチナール」がブルーライトによって、光受容体細胞にとって有害な化学物質に変容するとしています。
この有害な化学物質が、失明の原因である黄斑変性症を引き起こすメカニズムでは無いか?と主張されています。
なお、研究では併せて、ビタミンE由来のα-トコフェロールという物質が、網膜の細胞死を防ぐ可能性についても示唆しています。

こちらの記事(複数研究者)では、夜間の就寝中に人工光を浴びることにより、女性の体重増加や肥満リスクの拡大につながる可能性があると示唆されています。
実験は、アメリカ全土の35歳から74までの約4万4,000人の女性で、アンケート形式での調査で行われています。
なお、相関性が見つかっただけで、因果関係が判明したわけでは無いことは、あわせて注釈があります。

こちらの論文(オレゴン州立大学)では、ブルーライトを長く照射されたショウジョウバエ(科学実験によく使われる昆虫)は、照射されていないショウジョウバエに比較して、運動障害、網膜細胞の損傷、脳神経の変性など、加齢の症状が早くあらわれ、寿命も短くなった、としています。
また、盲目のショウジョウバエに対しても同様の結果が見られ、必ずしもブルーライトを目で見なくとも悪影響はある、としています。

これらの記事や論文や、世界中の記事、論文の一部ですが、非常に多くの研究で「悪影響がある」ことが指摘されています。

影響ないとする主張

一方、アメリカ眼科学会(AAO)は、これまでの研究などを総括したうえで、「ブルーライトは視力に影響するとは言えない」と声明を出しています。

  • 実験上の結果と、実際に人の目で起きることが一緒であるとは限らない
  • 各種研究で使用されている細胞は、網膜細胞由来ではない
  • 各種研究で使用している光は、実際の人の目が受容する光の条件とは異なっている
  • 実験において変性レチナールの悪影響を受けた細胞膜細胞は人の目には存在しない
  • そもそもとして、レチナールそのものが、変性しようがしまいかに関わらず、いくつかの細胞にとって毒性がある
  • 実験においてブルーライトを照射された細胞は、人体内であればブルーライトに暴露されない

つまり、目そのものへの悪影響は考えづらい、という主張です。

一方、睡眠に対する悪影響に関しては、エビデンスが多くあり、こちらに関しては否定するものでは無いともしています。
また、電子機器を長時間見ることにより、まばたきの回数の減少や、異なる距離への焦点があわせづらくなることもある、ともしています。

ただ、後者の話に関しては当たり前の話なのですが、紙の書類仕事や読書などに熱中すれば、同様の現象がおきるので、電子機器が一方的に悪いとするのは乱暴でしょう。
何にしても、過度は良くない、ということでしょう。

また、最近の研究(マンチェスター大学,2019年10月)では、ブルーライトは言われているほど睡眠を妨げる効果はない、むしろ黄色光の方が睡眠に与える悪影響が多い、ことを示唆しています。
マウスに照明の輝度や色を自由に変更できる照明を用いて光を照射した結果、光の色合いよりも輝度の強さの方が影響度合いが大きいこと、また、ブルーライトを含む青色光よりも、黄色系統の光の方が影響度合いが大きいことがわかったとのことです。
つまり、現状普及しているブルーライトカットのフィルターや、パソコンやスマートフォンに搭載されているカット機能には、意味が無い可能性が高い、ということです。
研究者は「就寝前にスマートフォンなどを使わない、という対策の方が良い」としています。

(参考)ブルーライトとは?

そもそものブルーライトとは?については「ブルーライト研究会」の解説を拝借します。

ブルーライトは、ヒトの目で見ることのできる光の中でも強いエネルギーをもっており、身体に悪影響を与えるとされています。
このブルーライトは、近年、急速に普及したパソコンやスマートフォンのディスプレイの光にも、多く含まれています。
ブルーライトが身体に与える具体的な悪影響としては、「網膜へのダメージ」「目の疲れ」「目の痛み」「睡眠障害」「肥満」「癌(がん)」「精神状態」があるとされています。

波長が380~500nm(ナノメートル)の青色光のこと。ヒトの目で見ることのできる光=可視光線の中でも、もっとも波長が短く、強いエネルギーを持っており、角膜や水晶体で吸収されずに網膜まで到達します。パソコンやスマートフォンなどのLEDディスプレイやLED照明には、このブルーライトが多く含まれています。
(中略)
デジタルディスプレイから発せられるブルーライトは、眼や身体に大きな負担をかけると言われており、厚生労働省のガイドラインでも「1時間のVDT(デジタルディスプレイ機器)作業を行った際には、15分程度の休憩を取る」ことが推奨されています。

ブルーライト研究会「ブルーライトとは」より
カテゴリー
人事・総務

かの大前研一氏のビジネス・スクールの講座が無償で受講可能(期間限定)

かの大前研一氏によるビジネス・ブレークスルー大学・大学院(以下、BBT)が、昨今の騒動を背景にした人材育成の機会損失軽減にむけて、オンライン講座の無償提供を期間限定で行うようです。
内容を見てみましょう。貴重な機会なので受講推奨です。

大前研一氏とは?

そもそもとして大前研一氏をご存じ無い方もいらっしゃるかもしれませんので、簡単の紹介させていただきます。
大前研一氏は、世界的なコンサルティングファームであるマッキンゼーにて20年以上に渡り、世界中の大企業にてコンサルティングを実施すると共に、国家元首へのアドバイザリーも多数務めた、世界に影響を与える日本を代表するコンサルタントです。
現在はオンラインにてMBA(Master of Business Administration)を取得できる、ビジネス・スクールである、BBTを展開しています。

大前 研一(おおまえ けんいち、1943年2月21日 – )は、日本の経営コンサルタント、起業家。マサチューセッツ工科大学博士。マッキンゼー日本支社長を経て、カリフォルニア大学ロサンゼルス校公共政策大学院教授やスタンフォード大学経営大学院客員教授を歴任。
現在、ビジネス・ブレークスルー大学学長、韓国梨花女子大学国際大学院名誉教授、高麗大学名誉客員教授、(株)大前・アンド・アソシエーツ創業者兼取締役、株式会社ビジネス・ブレークスルー代表取締役社長等を務める。
「ボーダレス経済学と地域国家論」提唱者。

wikipediaより

講座のコンテンツ

今回の講座無償提供のコンテンツは、現時点で公表されているものとしては下記のものになります。

世界のリカレント教育の動向と日本への提言
~デジタル・ディスラプション時代における「リカレント教育」のあるべき姿とは?~
21世紀の現代においては、AI、IoTなどのIT技術が社会を大きく変える、デジタル・ディスラプションが既に始まっている。産業界においては、業態・業種などの垣根を越えたビジネスの大変革が起こっており、市場は先の見えない混乱の様相を呈している。解が見えない時代にあって、必要となるのは人間の構想力、見えないものを見る力であるが、日本の教育には抜け落ちている。本番組では、21世紀の人材を育成するために必要な教育システムと、個人が備えるべき要件を明らかにする。
大前 研一 経営コンサルタント
2018/12/15 配信 収録時間: 60分

デジタル・ディスラプション時代の「フューチャースキル」の身につけ方
ゲスト:マイケル・オズボーン氏(オックスフォード大学 教授)<二ヶ国語>
大前 研一 経営コンサルタント
2020/01/25 配信 収録時間: 60分

・ 問題解決の「地図」と「武器」
・若手社員のためのロジカルシンキングオンライン集合研修
・新入社員向けのビジネスセミナー(LIVE)

高松康平
詳細調整中

リーダースキル講義コーチング
東田一人
収録時間: 240分

チームビルディング講座(基礎編)
斎藤秀樹
収録時間: 300分

BBT大学より

内容は、BBTの講座を受講したことがある方なら何となくわかるのですが、大枠で下記のような構成になる模様です。

  • 世の中がどのような動きになっており、自分たちは何を考えて行動していかなければいけないのか?
  • グローバルで戦っていける人材になるための心構え
  • PSA(プロブレム・ソルビング・アプローチ)、ロジカルシンキング
  • ビジネスリーダーとして必要なこと

提供は現時点で2020年3月31日まで(情勢を鑑み、延長する場合があります、とは注釈がある)、となっているので、この機会に是非、会社内での人材育成に活用するとよいでしょう。
大前研一氏の講座は非常に有用であるため、これは非常に貴重な機会です。

他の講師陣

高松 康平
経営学部 グローバル経営学科 専任講師
株式会社ビジネス・ブレークスルー
執行役員 教育コンテンツ開発室 室長 
問題解決力トレーニングプログラム 講座責任者

慶應義塾大学経済学部卒業後、マッキンゼー・アンド・カンパニーに入社。
その後、リクルート等を経て現職。
現在は「考える力」を中心に様々な教育コンテンツを提供するビジネス・ブレークスルーにて、
教育コンテンツ開発室長を務め、年間5000名以上が受講する「BBT問題解決力トレーニング」の講座責任者でもある。
年間約100日以上の法人研修をプロデュース。
自らも研修講師として、製薬・産業機器・医療機器・IT・小売・広告・素材・サービスなど幅広い業界の企業をメインに年間約70日登壇している。

BBT大学教員紹介

東田 一人
経営学部 グローバル経営学科 専任教授
株式会社フォーサイト 代表取締役社長

国家資格1級キャリア・コンサルティング技能士
国際コーチ連盟認定プロフェッショナルコーチ(PCC)
米国CCE.inc 認定GCDFキャリアカウンセラー

1985年 北海道大学教育学部卒業
株式会社リクルート入社。
その後リクルートコスモス社にて長年人事・採用を担当、

風土、企業文化の礎を築く。
自らが採用した人材の中から多くの経営者を輩出、
「社長を採用する男」と社内外から呼ばれる。
営業部門長、経営企画室、情報システム室長、
人事エグゼクティブマネージャーを経て
2009年4月 ㈱フォーサイト設立

BBT大学教員紹介

齋藤 秀樹
株式会社アクションラーニングソリューションズ代表取締役
一般社団法人日本チームビルディング協会代表理事
株式会社ビジネス・ブレークスルー「リーダーシップ・アクションプログラム」集合研修講師 

富士通、SIベンダー等において人材開発部門責任者、事業会社の経営企画部門、KPMGコンサルティングの人事コンサルタントを経て、 人材組織開発コンサルタントとして独立。
ジョージワシントン大学大学院人材開発学部マイケルJ.マーコード教授より直接、アクションラーニングコーチ養成プログラムを受け、 GIALジャパン設立(現:NPO法人 日本アクションラーニング協会)に参加、ディレクター就任。
その後、アクションラーニングの日本における本格的な企業導入を標榜し、株式会社アクションラーニングソリューションズ設立、代表取締役に就任。 また中小から大手企業・外資系企業のコンサルティングで実証された組織開発の有効性を広く一般に広めるために 一般社団法人日本チームビルディング協会(JTBA)設立、代表理事に就任。

BBT登壇者紹介

カテゴリー
IR

freeeとX-Smartが2020年3月よりAPI連携、具体何が良くなるの?

クラウド会計システム「freee」と宝印刷㈱のディスクロージャー支援システム(開示書類作成システム)「X-Smart.Advance/Basic」が2020年3月よりAPI連携を開始するようです。
freee使用の会社は、X-SmartにCSVファイルで出力したデータを読み込む、ないしは手動でデータを入力する作業をしていましたが、これが省力化されるようです。
これによって、何が具体的に良くなるのでしょうか?

ディスクロージャー支援システムの連携これまで

宝印刷㈱は以前より他社会計システムとの連携を進めており、㈱TKCの連結会計システム「eCA-DRIVER」や、㈱ビジネストラストの連結会計システム「BTrex 連結会計」、ISIDの「STRAVIS」、そして連結会計システムの大御所、㈱ディーバの「DivaSystem」との連携が可能でした。
今回はこれに、「freee」が加わるようです。

競合である㈱プロネクサスの「PRONEXUS WORKS」も、上記「eCA-DRIVER」「BTrex 連結会計」「STRAVIS」「DivaSystem」との連携が可能ですが、宝印刷㈱が一歩先んじる形となってようです。
とは言え、ディスクロージャー支援システムの進化は、両者が競い合って開発を続けており、㈱プロネクサスのクラウド会計システム連携は、(おそらく)時間の問題でしょう。
(ただし、「PRONEXUS WORKS」は未だに「Internet Explorer」にしか対応していないなど、全般的に宝印刷㈱に遅れている印象があるのは留意。)

省力化については若干疑問

なお、これによってどれだけの省力化が図れるのか?は疑問です。

従来、手動でExcelファイルを介して行っていた連携作業が大幅に削減されることによりお客様の業務効率性を飛躍的に高めると共に、ミス発生リスクとなる手作業・Excelの排除による内部統制面の強化も期待できる機能となっております。

IPO準備企業や上場企業の開示書類作成業務を自動で効率化 -freee、宝印刷と会計データAPI連携を開始-

ここの部分は確かにそうだとは思うのですが、出力したCSVファイルを所定のフォーマットにはめて開示システムに読み込ませる、ここの部分の作業は(所定のフォーマットが作りこまれていれば)10分程度で終えられます。
そのため、本連携は既にディスクロージャー体制を作りこんでしまった企業には、ほとんど刺さらないものなのでは、と考えます。
また、開示書類の作成業務で大変なのは、会計システムと開示システムの繋ぎこみのメンテナンスで、これは四半期と年度末で開示科目が異なること、その時々の業績の状況で開示しなければならない開示科目が変更になることが原因です。
ここの部分のメンテナンスのやりやすさが、どこまでカバーされているのか?が重要かと考えます。
繋ぎこみ部分のフォーマットを作りこむと、このメンテナンスはExcel上でやるのがイージーかつリーズナブルで、かつ可視化も簡単なため、古の開示戦士にしてみると却って使いづらいシステムになる可能性があります。
つまり「省力化」だけにフォーカスすると、そこまでのアップデートにはならない、というのが私の意見です。

では、どういう企業にとって有用なの?

別の観点で見てみます。
「freee」を使用している会社はベンチャー企業が多いでしょう。
そしてベンチャー企業にはディスクロージャー領域で知見が豊富な社員がいる例は稀でしょう。
宝印刷㈱は自社グループで開示支援のコンサルティング部隊も抱えているため、繋ぎこみ部分の初期コンサルと、メンテナンスもセットで提供し業容を拡大。
IPOした直後のベンチャー企業にとっては、社内リソースも経験値も限られた状態の中で、(お金はかかるけれど)イージーに開示業務が対応ができる、という便益を享受できる。
このような絵姿が見えてきます。

なお、「freee」の競合である、クラウド会計システムのマネーフォワードもIPO準備企業向けの「マネーフォワード クラウド会計Plus」を提供開始しています。

「マネーフォワード クラウド会計Plus」は、IPO準備・中堅企業向けに特化した会計ソフトで、仕訳承認機能や仕訳更新履歴機能などの内部統制機能を搭載している。今年の秋には、電子承認をはじめとする内部統制を保ちながら、領収書などの証憑を本サービスに添付することで、Web上で証憑確認などの監査手続きを行うことが可能になる。料金は、月額29,800円(税抜)から。料金はアカウント数に応じて変わる。

マネーフォワード、IPO準備・中堅企業向けのクラウド会計ソフトをリリース

「マネーフォワード クラウド会計Plus」でも開示システムとの連携が進み、またクラウド上で動く連結会計システムが増えれば、アナログな領域が多く、古の開示戦士の手でしか改善が進まなかった開示業務の効率化が一気に進むかもしれません。
この領域・業界での更なる進化に期待です。

モバイルバージョンを終了