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経営企画

急成長ベンチャーが使う市場規模指標、TAM/SAM/SOMの意味とは

ベンチャー界隈ではよく使われるTAMという用語。
ざっくり「市場規模」という意味で、何となく捉えられているこの言葉を、関連用語であるSAM、SOMとあわせて、その意味を解説していきます。

TAM/SAM/SOMの重要性

新プロダクト、新サービスを開発する前に、大切なことがあります。
対象となる市場、つまり市場規模を調査することです。
現実のビジネスでは、プロトタイプでも良いのでプロダクト、サービスを投入してみないと実際にはわからないことも多いですが、一定レベルでの市場規模の調査は可能であり、そして非常に重要なことです。

ベンチャー経営者は、自分たちのプロダクト/サービスの市場規模について、当然に検討しているでしょうし、またベンチャーキャピタルをはじめとする投資家からもよく聞かれる話かと思います。
それは、まだどれくらい成長するのかが実際には読みきれないベンチャー企業に投資するにあたって、判断材料が必要だからです。
そもそもとして投資する価値があるのか、また投資する価値があるにせよ、自分たちのファンドサイズから言って適切な投資案件なのか。
そのようなことを検討するのにあたり、市場規模は事業やプロダクト/サービス、チーム構成、将来ビジョンといったもの以外の一つの目安になるのです。

市場規模が小さければ、会社の成長において、アップサイドに限界があると見られてしまいますし、現実にビジネス展開をしていく上での障害になるでしょう。
また、仮に市場規模が十分に大きかったとしても、その前提、ロジックが微妙でツッコミどころが満載でしたら、その数字は疑わしく、ネガティブに見られてしまうでしょう。

TAMそして、関連用語であるSAM、SOMはその市場を評価するための指標です。
今回は、このTAM/SAM/SOMについてとその算出方法について解説していきます。

なんで普通に「市場規模」って言わないの?

日本の外食産業の市場規模はどれくらいでしょうか?
25兆円です。
ググればわかります。

このような、世の中に既にあるプロダクトやサービス、市場については、検索して調べられるか、簡単な調査やロジック構築により算出が容易です。
しかしながら、これまでにない新しいプロダクト、サービス、革新的なテクノロジーを使用して既存市場に革新を起こす、リプレイスを起こす、このような事業においては、その市場規模を定義し、算出することは簡単でしょうか?

既存の市場の考え方で新しい プロダクト/サービスを評価したがために、本来もっと高い価値がある、ポテンシャルのある企業を過少に評価し、その芽を摘んでしまう。
そういったことも考えられます。

少し想像してみてください。
12年前、スマートフォンを持っていた人はどれだけいたでしょうか?
ほぼ、誰も持っていなかったはずで、そのような状況で、スマートフォンがもつポテンシャルをどれだけ正確に評価できたでしょうか?
これはほんの一例ですが、まったくの新しいプロダクト/サービスについては、単純に既存の市場規模をみていては、その価値を正確には捉えられないのです。
(他にも、中古市場もネット販売、特にCtoCが発達してから、その市場規模が膨れ上がることは、どれだけの人が想像できたでしょうか?)

このように、まったくの新しいプロダクト/サービスの市場規模を評価するにあたっては、既存の市場規模の考え方とは異なる分析が必要なのです。
既存のどのようなプロダクト/サービスをリプレイスしていくものなのか、代替していくのか、その対象ユーザーは誰でどれくらいいるのか、その根拠や動機は。
こういった点にこたえる指標として、TAM/SAM/SOMが存在します。

なお、なんとなく流行り言葉っぽいTAMですが、実は1980年代から使用されている用語です。
後述はしますが、元々はSAMの意味合いでTAMが長く使われていて、それが不味いね、となったのが近年のベンチャー企業の勢い、具体例えばUBERで、UBERのTAM(SAM)が蓋をあけてみたら物凄く大きいと。
それで、TAM(SAM)では、価値のあるベンチャー企業の本当の価値が測れないのでは、ということで今現在のTAM的使い方が一般的になっています。

それぞれの用語の意味

¶ TAM(Total Addressable Market)

TAMとは、あるプロダクト/サービスにより「実現可能な最大市場規模」という意味を持つ用語です。
市場におけるプロダクト/サービスの総需要を示しており、対象市場の最大想定規模と言い換えることもできます。
これは、いわゆる「市場規模」が指す直接の競合に限らず、同じ市場や異なる市場が競合するサービスも含んで考えます。

TAMの明確化により、経営者は参入すべき(もしくはできる)市場の選別や、ターゲットとすべき顧客について解像度をあげることが可能になるでしょう。
また、投資家たちに対しては、事業の長期的なポテンシャルを示すこともできます。

なお、既存の市場規模ではその価値を測り切れない新しいプロダクト/サービスに対して使うのが適切であるが故に、明らかに規模が大きい市場に対しては、事細かくTAMの話をすることの意味は、あまりありません。
誰しも人材不足なのは知っていますし、医療費が高騰していくのも知っています。
人口減や関連して空き家が増えていくのも、誰しもが知っているので、この種の話を細かくつつく必要が無いのです。

また、市場規模は大きければ当然良くはあるのですが、当たり前の話、ブルーオーシャンは早々に赤く染まります。
単純に市場規模が大きいから良し、ではなく、自分たちの新しいプロダクト/サービスがどのように、その市場を切り取って、その価値を示していくのか、の方が非常に重要です。

後述はするのですが、TAMはトップダウン方式で算出します。
またTAMは「実現可能な最大市場規模」ですので、100%の市場シェアが達成できた場合を仮定して算出されます。
数字は通常、年額です(以下、SAM、SOMも同様)。

¶ SAM(Serviceable Available Market)

TAMの中で具体的にターゲットとしている部分の需要を意味します。

自分たちのプロダクト/サービスがいかに斬新で革新的なものとはいえ、何かしら競合はいるはずですし、既存のプロダクト/サービスも存在するはずです。
自分たちのプロダクト/サービスが市場からどれだけ評価されても、従来のプロダクト/サービスからスイッチしない層も必ず一定の割合で存在します。
それら対象とする顧客セグメントの需要、つまり「あるプロダクト/サービスが獲得しうる市場規模」を指します。
表現を変えるならば「そのプロダクト/サービスによりアプローチ可能な市場規模」とも言えます。

つまり、企業が当面の目標とする市場シェア全体を示すことになります。
TAMとセットで考えることで、経営者はより、経営者は参入すべき(もしくはできる)市場の選別や、アプローチすべきターゲット顧客は誰なのかについて解像度をあげることが可能になるでしょう。

SAMはトップダウンで算出する場合もありますが、一般的にはボトムアップで考えます。
TAMがこれくらいで、その〇〇%を獲得していくのでSAMはいくらいくら、という算出のやり方では根拠が薄弱、というか根拠がありません。
積み上げで考えていった結果、これくらいは獲得できるはずなので、結果SAMはTAMの〇〇%になる、という文脈の方が説得力があります。

TAMに関しては大きすぎるのは必ずしも良くない、という話をしましたが、SAMに関しては小さすぎる市場を選ぶことは(当然ですが)あまり良くは無いです。
どのようにスケールさせていくのか、スケールさせていった結果として、どのような市場にスライドしてアプローチしていくのか。
こういった点が見える、今々想定のSAMが小さかったとしても、Expantion(拡張)可能な市場を選択することが必要です。

ボトムアップの考え方に関しては、トップダウンの考え方とあわせて後述します。

¶ SOM(Serviceable Obtainable Market)

SOMは、「自分たちのプロダクト/サービスが実際に現実的に獲得できる市場規模」のことです。

TAMは「想定しうる100%のシェアをとった場合の市場規模」のことで、
SAMは「あるプロダクト/サービスが獲得しうる市場規模」のこと、
そしてSOMはそこからさらに具体的に「自社」にとなります。
つまり、SOMは「実際にアプローチする顧客の市場規模」とも言い換えられ、自社が短中期で獲得せねばならない売上の重要目標となりえます。

このSOMの達成具体によって、算出したTAMやSAMに対する評価を考え直します。
アップサイドが大きければ、期待は当然大きくなりますし、ダウンサイドが大きければ反対にその企業の価値を小さく再評価するでしょう。

SOMの検討にあたっては、現実的で蓋然性のある事業計画、つまり自社のマーケティング/セールス努力によってアプローチできるSAM、を算出する形になります。

このようにTAM/SAM/SOMはセットで考え、自分たちのポテンシャルを考えると同時に、具体的な事業計画に落とし込んでいくものになります。

下記がTAM/SAM/SOMの参考イメージです。

AirBnB Pitch Deck より

なお、ビジネスの解像度があがったり、純粋に業容が拡大すれば当然TAM/SAM/SOMについても修正が必要です。
実際にプロダクト/サービスをリリースしてみたら顧客の反応は違った、ということは珍しくありません。
思いもよらない市場に刺さる場合もあります。
海外に進出すれば、TAMは大幅に拡大します。
TAM/SAM/SOMは不変ではなく、常に変わりうる、という前提で捉えておくとよいでしょう。

算出・分析方法

ここからはTAM/SAM/SOMの算出方法の解説になります。
算出には2つのアプローチがあります。

  • トップダウン方式
  • ボトムアップ方式

¶ トップダウン方式

トップダウン方式は、市場規模全体から大きく見ていく方式です。
上述した通り、主にTAMの算出に使用します。

例えば、政府公表の統計資料であったり、矢野経済研究所の調査資料であったりと、世の中に出ている信頼度が高い資料から、その市場規模を見ていきます。

ポイントとして重要なのが、その統計資料がどのような中身、構成要素なのか、です。
同じ〇〇市場規模であっても、調査主体が異なれば結果が異なる場合がほとんどで、その理由としては、調査が定義している市場が異なったり、調査条件や対象カテゴリーが異なったりするためです。
世の中に複数ある統計資料の中から、自分たちが欲する定義、カテゴリーであることを確認していきましょう。

また、大掛かりな調査は時間も費用も要するものです。
つまり、「最新」の統計資料であるにも関わらず、何年も前のものであったり、毎年更新されていた調査が更新されておらず存在しない場合は珍しくないのです。

適切な統計資料が見つからない場合、そのTAMの算定が重要ならば、調査会社に依頼するのも一つの手です。
ただ、別に企業価値の算定のために第三者を入れるよう、大げさな話でもありません(大概は)。
極力、世の中にある統計資料でもって、工夫して算出を行うのがよいでしょう。

¶ ボトムアップ方式

ボトムアップ方式は、積み上げによって市場規模を推測・算出していく方式です。
SAM/SOMに算出に使用します。

大枠の計算式はSOMの場合は「顧客全体の数 × 顧客が支払う年間総額」、もしくは「(顧客全体の数 - 競合を利用している顧客全体の数) × 顧客が支払う年間総額」となります。
対象となる顧客のニーズや実際の支払意思、購買行動、そして既存の各種統計資料を織り交ぜながら必要となる計算式(ロジック)を構築していく形になります。

SAMの場合は、そこから更に、自分たちのリソースまでも含めて、どこまで顧客のニーズに対して市場を切り出して、作っていけるのか、を分析します。
自社には、どれだけのマーケティング予算があって、セールスの人員はどれだけいて、それでこういう事業計画なんだ、という点を現実的でかつ蓋然性を高くもって見ていきます。

精度高くSAM/SOMを算出するにあたって、実際のプロダクト/サービスをもってヒアリング調査を行ったり、支払意思や購買行動の確認のためアンケート調査を行ったりします。
その際のポイントとしては、いきなり大規模な調査を行うのではなく、複数の小規模なパイロット的調査を、やり方を変え、PDCAをまわしながら行う方が良い、という点です。
サンプル数が少数でも、まあまあな精度で情報をとれますし、ある一つの調査だけですと、その調査の設計によっては曖昧性が高かったり、誘導的な内容になったりと、本当に欲しい情報がとれるとは限りません。
実際にプロダクト/サービスがあるならばそれを、まだ無いのならばプロトタイプで良いので、パイロット調査を積み重ねていきましょう。

アンケートのサンプル数の算定にあたっては、こちらの記事も参考にしてください。

数字も大事だけれども、過程も大事

まだ、どこの馬の骨とも言えないベンチャー企業にとって、自社の価値をわかってもらうことは非常に大変です(自分だってわかっていない)。
その中で、このTAM/SAM/SOMを用いれば、一定レベルはコミュニケーションをとることが可能になります。

ここで重要なのは数字そのものもそうですが、その数字を算出するにあたっての過程です。
市場規模や競合環境、それに対する自社のアプローチを蓋然性高く説明できれば非常に説得力が高まります。
適切な泥くさい調査を積み重ねていれば、投資家たちからの、分析能力に対する評価もあがるでしょう。

夢を大きくもつことは当然良いことではありますが、同時に、現実的な視点をもち、蓋然性の説明を精度の高いロジックでできることも重要であると心がけていきましょう。

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生産性・業務効率化

ビル・ゲイツ氏と皿洗い

マイクロソフトの創業者であり、世界に革新をもたらした「Windows」を世に送り出したビル・ゲイツ氏が、3月13日にマイクロソフトの取締役を退任する、という報が流れました。
時代の流れを感じつつ、ここではビル・ゲイツ氏のある習慣について紹介します。
それは、「皿洗い」です。

ビル・ゲイツ氏の習慣

ビル・ゲイツ氏は、自身の習慣として、皿洗いを毎日夕食後に行っているそうです。
ハウスキーパーなどを雇うことに、一切不自由がないであろう彼が、何故自分自身でそのような家事を行うのか?
「自分の皿洗いのやり方が好きだ」と彼自身は回答していますが、皿洗いにはストレスレベルを下げて、インスピレーションをえる力も向上することが、いくつかの研究で示されています。

なお、アマゾンCEOのジェフ・ベゾフ氏も同じく、皿洗いをする習慣があるそうです。
彼曰く、「私がすることの中で最もセクシーなことだと、確信している」とのことです。

皿洗いの効能

米フロリダ大学の研究により、上述の通り、皿洗いにはストレスレベルを下げるという効果が示されています。
具体的には、「皿洗いに集中し、一枚一枚丁寧に、注意深く洗う」ことにより、ストレスレベルが約30%低下するという効果が見られたそうです。
研究チームは、皿洗いに「マインドフルネス」の効果あると話をしています。

何も考えずに皿洗いをした場合には効果が見られませんでした。
また、皿洗いには、水の感触や温度、お皿の感触、洗剤の感触や匂い、タスクを処理するということそのものなど、心理に与えるいくつかの要因があるため、具体的にどのような要素がストレスレベルを低下させるに至ったのかは、不明とのことです。

米カリフォルニア大学の研究によると、高い認知能力を要しない作業、つまり単純作業を行うと、脳がなんてことのないよしなしごとを考えはじめるため、クリエイティブな発想につながりやすい、という結果を出しています。

英ランカシャー中央大学の研究では、アドレス帳からの電話帳のコピーという単純作業を行った後、クリエイティブに発想する力が高まったという結果を出しています。
研究者は、職場での退屈な仕事は否定的にとらえられていましたが、実はクリエイティブな側面をもつ、肯定的なものなのでは、としています。

これは私自身の実体験としても、難しい頭を使うタスクの合間に、比較的簡単なタスクを挟み込むと、長い時間集中力を維持して働けることを実感しています。
ずっと同じ難しい頭を使うタスクを行っていると、数時間で頭がボヤっとしてきますが、きちんと「息抜き」を挟んでいくと、一日中働いていられます。

他の多くの人からも、お手洗いやシャワーを浴びている時など、インスピレーションをえやすい、という話を聞きます。
ボーっとするなり、ただ手を動かして無心になっている時、その感覚がディスプレイの中の文字やグラフを見ているときと比較して、「脳にスペースが生まれる感覚がある」というのです。

ここで当たり前に注意しなければいけないのは、「皿洗いをすれば成功するわけではない」という点ですね。
「成功者は、いわゆる雑務も大切にする」が「雑務をしている人が成功するわけではない」ということです。

皿洗いはカップルの関係も良好にする

米ユタ大学の研究によると、家事は様々にあるけれども、その中でも皿洗いの分担はカップルの関係への影響が大きいとしています。
それは、皿洗いは料理やガーデニングなどとは違い、賞賛されることのない類の家事だからとのことです。

日本においても、「夫婦で押し付け合いになる家事」の1位に「食器洗い」がきています。
同様に「夫婦喧嘩のもとになる家事」の2位にランクインしています。

食器洗い乾燥機の導入が、時短効果として、よく取り上げられますが、あえて「クリエイティブな能力の向上」の観点で、皿洗いに取り組んでみるのは、一つの案として良いかもしれません。
何事も「意思をもって取り組む」ことは、プラスの結果を生みやすいものです。

最後に、ビル・ゲイツ氏に敬意と謝辞を

最後に、マイクロソフトを退任し、慈善事業にフォーカスするというビル・ゲイツ氏に、改めて敬意を表すると共に謝辞を述べたいと思います。

1995年にWindows95が発売された時、私はまだ、これから中学生になろうというタイミングでした。
その時は自宅には書院のワープロがある位で、自宅のパソコンというものはありませんでした。
近くの電気店であこがれをもって眺めていたものです。

その後入学した中学では、大量のFM TOWNSが導入されていました。
また、PC-9800も1台だけでしたが、設置されていました。
私はここで、ベーシックをはじめ、いくつかのプログラミング言語を独学で学ぶ機会を、幸運にも得ることができました。

Windowsに本格的に触れるようになったのが、家族の就職活動で必要だから、ということで購入したコンパックのデスクトップです。
高校2年生あたりだったかと思います。
インターネットにはダイヤルアップでの接続という、不便なものでしたが、私はむさぼるようにパソコンをいじり倒しました。
今は懐かしいFlashを使ったサイトや、某有名掲示板、様々なゲーム、そういったものを楽しみつつ、自分自身の勉強にWordやExcelを使っていました。
私の今の(自分で言うのは若干憚られる)高い事務処理能力の基礎は、この時代に築かれたのでしょう。

その後、大学に入学し、アルバイトでお金を稼げるようになってからはまったのが「自作PC」です。
今は休刊になってしまった「日経WinPC」や、なんとか続いていたけれども昨年に休刊してしまった「DOS/V POWER REPORT」を読み漁りつつ、たまたま実入りのよい仕事(理系だったので、研究系の仕事を先輩から紹介された)をしていたので、かなりの金額を自作PCにつぎこみました。

就職してからは、ずっと管理系の仕事をしていたので、MicrosoftOffice製品とは仕事上でも長い付き合いとなります。
高校・大学と、がっつりOffice製品を利用していたので、最初に就職した会社では非常に重宝されました。
マクロも組めたので、諸先輩方の何倍もの効率で仕事ができ、誇らしかったことを覚えています。

ノートパソコンの性能が一定水準以上になってからは自作PCをやめてしまったので、自分でWindowsをインストールする、ということは無くなってしまいましたが、最先端のものを使う、というマインドは色々な所に影響したと感じています。
例えば、2008年にiPhone3Gが日本で発売されてからは、多分、大多数の日本人の中では、かなり早くスマートフォンを使うようになりました。
まだ、折り畳み式の携帯電話、いわゆる「ガラケー」が主流の時代です。

だらだらと書いてきましたが、ようは、20年以上の時間(私の人生の半分以上)を、Microsoft製品と過ごしてきた、ということです。

ビル・ゲイツ氏の今回の退任は決してネガティブな内容ではないとのことです。
元々、第一線からは離れていたので、一定予期はしていましたし、すでに慈善活動家としてポリオ撲滅など、あらたな領域で戦っていたので、今回の報は決して驚くものではありませんでした。
しかしながら、私の人生を振り返りつつ今回の報を聞いた時、非常に思い出深く、そして感慨深く感じたのです。

彼は2007年のハーバード大学の卒業式でも「多くを与えられた人が、人助けをしないで、いったい誰がやるのか?」という趣旨のスピーチをしています。
今回の慈善活動へのフォーカスについても、どれだけの想いをもっての選択なのか、僭越ながら感じ入るものです。

そして、今回の報をもって、自分自身がどれだけ社会に対してコミットできるか、覚悟をもって臨めるか。
自分自身が「多くを与えらえた人」だと信じ、そして仕事で成果をだすだけのみならず、世界の不平等や横たわる諸問題に対して貢献していくか、改めて決意を表明するものです。

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統計・経済

アンケートサンプル数の計算方法

企画担当者にとってよく行う調査にアンケートがあります。
その中で、サンプル数の設定はよくある悩みの種です。

サンプル数が少ないと調査の信頼性が下がり、サンプル数が多いとコストが跳ね上がってきます。
ここでは、アンケートを実施する際の適切なサンプル数の設定について解説していきます。


(2020年7月6日追記)選挙で開票がはじまっていない、もしくははじまって間もないのに「当確」報道が出ることが珍しくありません。
これは、統計学的には「400」のサンプルを取得すれば、概ね全体像を把握することができるからです。
「16,000」まで集まれば、ほぼほぼ誤差がなく正解も出せます。

とりあえず結論だけ知りたい人向け

母集団の総数が10,000を超える場合、サンプル数の目安は「400」です。
「400」集まれば十分、と考えて下さい。

なお、母集団の総数が1,000程度の場合は「300」、
100程度の場合は「100」、
10程度の場合は「10」、つまり全調査が必要になります。

用語の意味等、諸々理解されている方は、こちらを見てください。

基本的な用語

ここから、その根拠を理解するための必要な用語知識や計算について解説していきます。

母集団:ターゲットとなる対象の集団全体のこと

母集団数:母集団の対象総数のこと

サンプリング調査:母集団の中から何人かをピックアップして母集団全体の状況を見る調査のこと

サンプル数(サンプルサイズ):サンプリング調査におけるピックアップする対象数のこと

許容誤差:母集団からどの位のズレがあるのかの可能性を示す指標

例えば、許容誤差5%の設定で、ある事象への好感度が70%だとした場合、その「ある事象への好感度」は「65%~75%」ということになります。
ようは、アンケートからえられた結果が「どれだけ実態からかけ離れているか」を示します。
アンケートの目的にもよるのですが、通常は許容誤差5%が設定されます。

信頼度:えられたサンプルが、どれくらいの確率で許容誤差内の結果におさまるのかを示す指標

例えば、信頼度95%の設定で、回答者数が100人、上記の許容誤差5%、ある事象への好感度が70%の場合、「100人中95人」は「ある事象への好感度が65%~75%」ということになります。
アンケートの目的にもよるのですが、通常は信頼度95%が設定されます。
なお、信頼度は許容誤差以上に、必要なサンプル数に与える影響度(感度)が大きいので、無理に高めようとする場合には、よく検討が必要です。

回答率:特定の回答を選択するサンプルの比率のこと

例えば、上記の「ある事象への好感度が70%」の場合は、回答率は70%が設定されます。
ようは、ある程度、回答の傾向がわかっている場合は、必要なサンプル数が減るのです。
ただ、回答傾向は設問内容やターゲットによって変わりますし、基本的には結果がわからない前提でいるはずなので、通常は回答率50%を設定します。
こんな適当な設定でよいのか疑問に思われるかもしれませんが、サンプル数の計算の関係上、50%を設定すると、必要なサンプル数が最大になるため、最も保守的な設定になるのです。

回収率:アンケートを実施した際の回収率のこと、必要なアンケート数に影響する

例えば、不特定多数のアンケートをお願いして戻ってくる想定が10%(10人に1人が回答する)とした場合で、必要なサンプル数が400人なら、4,000人にアンケートを依頼する必要があります。

計算式について

さて、ここで必要なサンプル数を求める計算式を提示します。

それぞれの意味は下記のとおりです。
数値を代入していけば、サンプル数(n)が求められます。

  • n : 必要なサンプル数
  • N : 母集団数
  • z : 信頼度(Zスコアというものをあてはめます。)
  • e : 許容誤差(%での計算なので小数点で計算します、5%なら0.05です。)
  • p : 回答率(%での計算なので小数点で計算します、50%なら0.5です。)

ここで信頼度(z)について簡単に触れます。
zスコアは信頼度の%そのままではなく、統計的に対応する数字をあてはめることになります。
統計学のt分布の自由度∞の数字で、信頼度95%なら1.96、信頼度99%なら2.58というように、一律で決定されます。
参考として、末尾にzスコア一覧を掲載しておきます。

具体的に計算してみましょう。
母集団数Nを10,000、信頼度zに1.96、許容誤差eに0.05、回答率pに0.5と設定し、上記の式にあてはめると、369.9837,,,となるはずです。
つまり小数点以下を四捨五入して、「370」です。

ただ、これを一々計算していては身がもたないので、冒頭でも掲示した、このような必要サンプル数の一覧表を見るのが一般的です。

これを見ればわかると思うのですが、許容誤差や信頼度について、精度を高めようと思えば思うほど、必要なサンプル数が一気に増えてしまいます。
そのため、多くの研究やビジネスの現場では、一定水準で精度を確保しつつ、リーズナブルにできる許容誤差5%、信頼度95%、という数字を設定して計算するのです。

逆に考えると、ざっくりと市況感やニーズ感を掴みたい、というのであれば大幅に必要なサンプル数を減らすことができます。
許容誤差10%、信頼度90で設定すれば、サンプル数「100」もあれば、十分以上に知りたいことの概観を掴むことができます。

具体的な検討ステップ

ここからは、より具体的なサンプル数の算出ステップに関して解説していきます。

¶ 母集団数の設定:母集団の規模はどの程度の大きさなのか?

最初のステップが「母集団数の設定」です。

例えば、福利厚生のサービスを提供している日本の会社において、世の中の労働者にとっての福利厚生へのニーズを調査したいとします。
この場合は母集団としては日本の雇用者となります。
数としては雇用者数全体となり、約6,000万人が母集団数となります。
これは就業者数の中の雇用者数全体となるので、より福利厚生を意識するであろう正社員に限定したい場合は、約3,500万人が母集団数となります。

¶ 目的の設定:どの程度の正確性(誤差と信頼度)を要求するのか?

次のステップが正確性、精度の設定、よりかみ砕きつつ正確に言うと、目的の設定です。

調査の目的が、ざっくり粗々にニーズ感を掴みたいのか、それとも具体的なサービスが既にあってそれに対しての情報が欲しいのか、新規事業があって精度高く設定価格の情報をえたいのか、このような形で、どれくらいの正確性、精度を調査に求めるのかを考えます。

ここで上述の通り、許容誤差と信頼度を設定する形になります。
ここのパラメータを個別に検討することには(こういうと統計の専門家からは怒られるかもしれませんが)あまり意味がありません。
ですのでざっくりと3パターン位で考えるのが良いです。
サンプル数は母集団10,000で考えています。

精度重視:許容誤差5%、信頼度95%(サンプル数約400)

標準調査:許容誤差5%~10%、信頼度95%~90%(サンプル数約70~400)

ざっくり:許容誤差10%~20%、信頼度90%~80%(サンプル数約10~70)

許容誤差と信頼度を設定できたら、回答率は50%で設定すればよいので、そのまま必要サンプル数を算出できます。

アンケート依頼数の計算:どういった対象に依頼し回収していくのか?

最後に、どれだけのどういった対象にアンケートを依頼すれば良いのか?の話になります。

アンケート調査代行会社に依頼するのならば、シンプルに「必要サンプル数は400」と伝えれば良いでしょう。
自社でアンケートを実施する場合は、依頼対象との関係性で回収率も変わるので、依頼数が大きく変わります。

必要サンプル数が400で、回収率が20%であるならば、必要依頼数は2,000になります。

アンケート対象が少数ならば、追いかけも可能ですが、100も超えれば現実的には追いかけが困難になります。
ですので、回収率は10%~20%のレンジ内で堅実に設定するのが良いでしょう。

(参考)AIの導入にあたって、何故、膨大なデータ必要なのか?

AIは、ざっくり言うと、過去の膨大な統計データをもとに、ある何かの事象を自動で判定するものです。

上で提示した通り、アンケートによってえられた結果には、誤差があり、かつ信頼レベルも設定されています。
つまり、精度という観点では、あまり質が高くないのです。
現実の研究やビジネスの中では、そこまでの精度を求めてはいないので、必要なサンプル数の中で検証をしていくわけですが、AIにおいては限られたサンプル数(教師データ)では問題がおきます。

というのも、仮にトータルとしての精度を99%にまで高められたとしても、試行100回につき1回は誤った出力をしてしまうのです。
業務内容にもよるのですが、これでは安心して自動化にAIを組み込むことができません。

そのため、膨大な統計データを用意し、トータルとしての精度を99.99,,,と高めて運用する形になります。
(もしくは、素直に精度が低い前提で業務に組み込みます。どちらかというと、こちらの方が現在の主流ですね。)

(参考)信頼度にあてはめるzスコア一覧

信頼度zスコア
99.9%3.290
99.8%3.090
99.0%2.576
98.0%2.326
95.0%1.960
90.0%1.645
80.0%1.282
70.0%1.036
60.0%0.842
50.0%0.674
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生産性・業務効率化

オープンオフィスの議論~本当に生産性をあげるのか?~

日本では従来よりオープン形式のオフィスが主流で、近年では特にITベンチャー企業を中心に、デザイン性の高い、クリエイティブな空間を意識したオープンオフィスが流行しています。
しかしながら、オープンオフィスは、その生産性について多くのネガティブな研究が発表されているのが事実です。

ここでは、オープンオフィスの生産性について、実際の研究を元に解説していきます。

生産性については多数のネガティブな研究が報告されている

オープンオフィスは、その文字通りオープンに広がった環境によって、アイデアが生まれやすくなったり、仕事の効率、つまりは生産性が高まるというメリットが語られてきいました。
ここで、オープンオフィスの大本を辿ってみると、1950年代のドイツにさかのぼります。
元々の思想としては、集団のコミュニケーションを活発にし、チームワークを高める、つまりはチームビルディング効果を高める目的をかかげ、導入されました。
つまり、元々は生産性については語られておらず、その先進性だけが世界各国の企業に広まっていった、という点が、まずはの大前提です。

次にいくつかの研究を紹介します。

米ハーバード大学で行われた研究では、オープンオフィスでは、かえってコミュニケーションが減り、集合知も生まれにくくなることが示されました。
オープンオフィスとクローズオフィスで比較した結果、オープンオフィスではクローズオフィスに比べて、コミュニケーションの時間が約70%減少し、デジタル上でのやり取りが平均約40%増加しました。
併せて、生産性も低下した、とされています。

研究では、同じチームに所属していたメンバー同士では、直接のやりとりが増える傾向があったものの、大きな影響は無かったとのことです。
なお、性別とコミュニケーション量には相関関係がなかったとのことです。

別の研究では、オープンオフィスを採用した結果、従業員の集中力が低下し、生産性が15%低下したという結果がでています。
従業員が何かしらの病気にかかる頻度も2倍に増えたとのことです。

実際、対象となった職場では、時間内で業務を終えられず、自宅に持ち帰って仕事をする頻度が増えたとのことです。

こちらの研究でも、オープンオフィスで働く人と、クローズオフィスで働く人では、オープンオフィスで働く人の方が明確に生産性が低いことが示されています。

こういった結果は限られた研究が出したネガティブキャンペーンではなく、非常に多くの研究がオープンオフィスの生産性について、ネガティブな報告を出しています   )。

一応、オープンオフィスのメリットはある

それでは、本当にネガティブな効果だけなのでしょうか?

調査してみた結果、ポジティブな研究はありました。
しかしながら内容としては、運動量が増加する、というものでした。

オープンオフィスにした結果、運動量が増加するので、運動不足になりがちなオフィスワーカーにとって健康効果が増進し、運動不足に起因するストレスが低下するという報告が出ています。

確かにメリットといえばメリットなのですが、クリエイティブ、アイデア云々という点で期待していた点とは方向性が全く異なります。

オープンオフィスの何が良くないのか?

それでは、オープンオフィスの何が良くないのでしょうか?

それは、次の通りです。 一つ一つ見ていきます。

  • 集中力の低下
  • プライバシーの喪失
  • 健康への悪影響
  • 騒音による悪影響
  • コミュニケーションの質の低下

集中力の低下

オープンオフィスがうまく行かない最も大きな原因と推測されるのが、集中力の低下です。

こちらの記事でも解説していますが、人間は「マルチタスク」を行うのには向いていません。

いったん集中が途切れた人は、元の集中した状態に戻るのに、約27分がかかるという報告があります

また、こちらの記事でも簡単に触れていますが、人は記憶力を高めるのに、「関連付け」を行うと記憶効率があがることが伝統的に言われています。

オフィスにおいては、同じ場所にとどまり仕事をすることにより、多くの記憶を保ち、他の記憶との関連付けができるようになります。
人は自然と、記憶を周囲に存在する様々なものや場所と関連付けて、詳細にその記憶を保つ行為を行っています(これを「記憶の城」といいます)。

つまり、オープンオフィスでは、関連付けを行うにあたって、そもそもとして場所の範囲が広すぎて脳の処理能力を超えてしまうこと、また場所が頻繁に変わる場合には、場所との関連付けができないため、何かを思い出す際の障害になってしまうのです。
記憶の観点でも生産性低下につながってしまうのです。

筆者自身、自分のオフィスでは思い出せることが、外部のオフィス、特にオープンオフィスで働いているときは、失語症なんじゃないか?と自分自身で疑うくらいに、言いたいことが思い出せない現象を実感しています。

プライバシーの喪失

心理学の観点では、人は適度なプライバシーが確保されているときに生産性が高まるとされています。
また、人は自分自身で物事をコントロールできない状態のときに、無力感が高まり、生産性が低下するとされています。

オープンオフィスでは、プライバシーの確保が困難であることに加え、オフィスのドアの開け閉めなど、そのプライバシーの選択権に関して存在しない状態に置かれます。
また、人によって適切と感じる照度(明るさ)や室温・湿度が異なります。
これをオフィス全体で一律に決められてしまうと、快適と思う人がいる一方、そうではないと感じる人も出てしまいます。

監視下に置かれないと、怠けてしまい、仕事に対する集中力が出ない人も、いるにはいると思うのですが、これはマネジメントの世界で解決すべき問題です。
心理学的に、プライバシーの喪失による悪影響は、決して無視すべきではないでしょう。
基本的には「監視されている」ような感覚は、人にストレスを与えるのです。

健康への悪影響

上述した通り、オープンオフィスは病気にかかる頻度が増えるという研究結果が出ています。
これも一つの研究ではなく、複数の研究が、病気による欠勤が増えたことを支持しています。

これは、一つ上で触れた、プライバシーの喪失のからくるストレスも原因であると共に、オープンな空間であること特有の問題もあります。
それは、オープンな空間はウイルスなどが拡散しやすいのです。

物理的に仕切りが無いため空気の流れを遮るものが無い点と、その空気を空調によって循環させてしまう、この2点により、オフィス内に人の健康に悪影響をおよぼすウイルスが存在した場合、このウイルスを広く拡散させてしまうのです。
日本人は、例え具合が悪くても、無理をして出勤することを良しとしてしまう文化がありますが、これは健康への悪影響を、拡大してしまうことを助長しています。

騒音による悪影響

まず、騒音と認知能力(脳の処理能力)との間には、負の相関関係があります。
つまり、オフィス内の騒音が、生産性をダイレクトに悪化させてしまうのです。

単純に生産性が低下するだけならまだ良いのですが(良くはない)、片頭痛や潰瘍のようなストレス性疾患を悪化させてしまうという報告もあります

実際、いくつかの研究では、オープンオフィスで数時間騒音にさらされた結果、従業員のアドレナリンの水準が非常に高まった、という報告が出ています。
アドレナリンは「闘争」か「逃走」に関連するホルモンです。
つまり、オフィスの騒音は、従業員に、非常に高い、場合によっては恐怖にも近しいストレスを与えてしまう可能性が示唆されているのです。

また、騒音は、外交的な人より、内向的な人に、より強く影響を与えるという研究があります。
若者がどうこう、を語るつもりは一切ないのですが、ひと昔前に比べて現代の若者の内向性は高い傾向があります(これを悪いとは言っていないので留意)。
つまり、現代社会の若者と、騒音の影響を受けやすいオープンオフィスは、本質的には相性が悪いはずなのです。
せっかくのオープンオフィスで、ヘッドホンやイヤホンをつけて、自分の殻にこもる方を見かけるのも、この点が一因である可能性があります。

コミュニケーションの質の低下

現代において、オープンオフィスが推奨される理由の一つとして、コミュニケーションにおよる、新しいアイデアの創発、クリエイティブな側面があげられています。

しかしながら、この点においてもネガティブな研究や意見が多くでています。
実際には、オープンオフィスで働いている人がアイデアを持ち寄ったり、ブレインストーミングによってクリエイティブな価値を発揮する、ということは、期待されていたほど多くないことがわかっています。
こちらの研究では、ブレインストーミングのような、アイデアを多数で持ち寄って何かを生み出すようなことが、クリエイティブな課題を解決するのに、役立っていないことが示されています。
ここでは、オープンオフィスの大本の考え方である、チームビルディング効果の方が支持されています。

また、オープンな環境であることが故に、周囲の耳を気にして、内容の薄い会話しかできない、という点も指摘されています。
例えば、家族の話題や、芸能人の話題など、仕事に関連しない内容であったり、仕事に関連する内容であっても当たり障りのない会話になってしまうのです。

ここまで見た通り、たとえオフィスの壁を取り払っても、従業員同士の距離は縮まらず、広いスペースに散らばってしまうだけなのです。
また、距離が近い場合でもヘッドフォン・イヤフォンをして自分の殻に閉じこもってしまうのです。
そして、可能な限り忙しいフリをして、仕事をしているアピールをするなり、邪魔をされないようにするなりしてしまうだけなのです。

では、どうすれば?

日本のオフィス面積はアメリカなどと比較して狭いので、現実的にはオープンな環境にならざるを得ないのが実態でしょう。
また、オフィス投資は多額のコストがかかるので、そうそう簡単には改修できない現実もあります。
日本の生産性は諸外国に比べて低いとされていますが、そもそもとして置かれている環境が生産性という観点で不利である、ことは指摘できるでしょう。

そのような中、目新しい取り組みをしている企業が存在します。
こちらの企業では、ベースはオープンオフィスなのですが、半個室のブースを用意し、集中して作業ができるエリアで働くこともできる、選択が可能な様式を採用しています。
上述の通り、選択は心理的安全性を高めるので、生産性向上に寄与することが想定できます。

パソコンのディスプレイにはる「プライバシーフィルム」などの採用や、「耳栓」の配布などもリーズナブルにできる対応でしょう。
ベンチャー企業においては、素直に個室があるコワーキングスペースを利用する、という選択肢も考えられます。
オープンオフィスの大本の考え方である、チームビルディング効果に振り切ってしまう、というのもポリシーとしては採用の価値があります。

オフィスは物理的かつ多額のお金がからむものであるため、簡単には対処できないことが多いですが、知恵を絞ればまだまだできることがあるはずです。

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経営企画

ストックオプションの配分の考え方

ストックオプションはスタートアップ/ベンチャー企業の経営者にとっては、非常に重要な経営のツールであると同時に、専門性が高く、あまり世の中に情報も無いため、悩みの種の一つでもあります。
ここでは、ストックオプションの配分の考え方について、解説していきます。

これを読めば、ストックオプションの配分の考え方について、少しでも「最適」に近づけるでしょう。

なお、ストックオプションについて、最低限の知識があることを前提に記載しています。

ストックオプションとスタートアップ/ベンチャーとの相性のよさ

ストックオプションの発行は、当然諸費用は生じるものの、大きなCashOutを伴いません。
そのため、資金が常に足りないスタートアップ/ベンチャーとは、非常に相性が良いツールです。

ただし、大きなCashOutを伴わないからといって、安易な発行は危険です。

まず、会計上の費用として計上されるので、バリュエーションに影響を与える可能性があります。
株式の希薄化懸念により、IPOの審査に影響を与える場合もあります。
また、株式の希薄化懸念がある、ということは既存株主からの反発を招く可能性も当然にあります。

ストックオプションの発行にあたっては、あくまでも人件費の内数であると認識して、適切に設計する必要があります。

思想が一番大事

ストックオプションの配分について考えるにあたって、最も大事な事はなんでしょうか?

それは、会社としての思想やポリシーです。

配分についての正解は存在せず、経営の方向性や社風などを考慮する必要もあります。
ストックオプションの配分は、給料以上にメッセージ性が強いです。
その設計に関して安易に考えず、あくまでも思想やポリシーを大前提において、慎重に経営者の意思を込めて検討すべきです。

なぜこんな話をするのかと言うと、ストックオプションの配分数(付与個数)は、隠しても上場時にオープンになるからです。
(目論見書、という書類に記載される。)
また、上場前でも、人の口は軽いものですから、存外に広まるものです。
日常の会話の中や、飲み会の場など、自然と話題にあがり、こぼれてしまうのです。

お金に関して表面的には出さなくても、嫉妬の温床になります。
人の心も荒むので、組織が乱れるリスクもあります。
IPO達成後の一斉行使による、大量退職も珍しくありません。

つまり、説明がしっかりとできるように思想やポリシーを明確にし、設計をしておかねばならない、ということです。
むしろ、オープンにする位のつもりで、制度設計を行うのが良いでしょう。

ストックオプションの総枠は10%前後

もう一つ抑えておかねばならない点が、ストックオプションの総枠は10%前後だ、という点です。

これは、ただの慣習で、理論的な話ではありません。
株式市場の投資家の感覚なのか、証券会社の希望感なのか、不明ですが、とりあえず10%前後、という感覚値が常識として横たわっています。
合理的では無いのですが、相場観になっているのです。

つまり、できあがりの発行済み株式数の15%を超えてくると、多い、と受け止められます。

ストックオプションは上記の通り、限りがあるので、今後の活躍が期待されるキーマン、特にCxOクラスを中心に、順に枠を確保していく考え方が定石です。
つまり、逆算して考えて、残りの枠から従業員に配分していく、という形とするのが良いです。

ここでも思想やポリシーの話が出てきます。
限りのある10%を、限られたキーマンに重点配分するのか、広く配分するのか、という点ですね。
この点を考えるにあたり、目的の整理を行う必要があります。

目的の整理

ストックオプションの目的は大きく3つあります。

  • これまでの働きに報いる、過去の視点(感謝の気持ちの表現であったり、リテンションとしての機能)
  • 採用やリテンションにつなげる、現在の視点(出せる給料と市場価値との乖離を埋める機能)
  • これからの活躍に期待する、未来の視点(パフォーマンスのドライブとリテンションの機能)

ストックオプションを発行する場合は、どのような目的をもつのか、視点でいるのか、を明確にしておくとよいでしょう。
これのうち、どの視点に立つのか、で大きく設計の方向性が変わります。

なお、採用のツールとして使う場合は、安易な口約束はしないようにしましょう。
面接時に、口頭でストックオプションを出す、と言いつつ、実際に蓋をあけてみたら貰えなかった、もしくは想定以上に少なかった、として揉める話はよく聞きます。
あるある話です。
会社としての信頼性にも影響を与えますし、組織を乱すことにもつながるので、口約束をするくらいならば、明確に「言わない」かオファーレターに明記すべきでしょう。
明確な決定は怖いものですが、曖昧さが未来に与える悪影響よりかは怖くないはずです。

配分方法の例

過去の視点の場合

これまでの働きに報いる、感謝の表現であったり、今まで頑張ってくれた人たちへのリテンションを意識する、過去の視点の場合です。
(ジョイン時に、給料をダウンして入社してくれた人への、差額分の補填の意味合いを乗せる場合もあります。)

この場合、「在籍年数」と「グレード」、これに何かしらの「人事評価」でマトリクスを作り、傾斜配分をする方法が考えられます。
なお、一定の曖昧さを残しておきたい場合は、「ミッション・ビジョンへの共感度合い、体現度合い」など、定性的な評価項目も組み込んでおくと、鉛筆なめなめをできる余地が残ります。

この場合は、今後のコミットに関して期待を乗せるような設計は微妙です。
身も蓋もない話ではあるのですが、多くの場合、ストックオプションの価値がわかる方は少数派です。
ですので、変に行使条件をつけても、今後のパフォーマンスへのドライブ効果はほぼありません。

現在の視点の場合

会社が一定程度成長してくると、未来への成長のため、今この瞬間、CxOクラスやそれに準ずるキーマンを採用する必要性が出てきます。
ここでの採用ツールとして使う、という考え方です。

会社として出せる給料と、その人の現在給料や市場価値との差異、ここの乖離を埋めるだけのストックオプションを発行する、という計算になります。
(つまり、資本政策バリュエーション想定はもって、一定レベル以上できちんと計算できる状況である必要があります。)

この場合は、独自の行使条件をつけるなど、コミットをしてもらえるような設計にすると良いでしょう。
場合によっては、出来上がりの金額感が、普通にサラリーマンをやっていたのでは得られない規模にすることも考えられます。
ただし、ストックオプションの価値をきちんと理解できる人に限られます。
(CxOクラスやそれに準ずるキーマンを対象とするはずなので、通常は心配が無いはずですが。)

なお、一般メンバークラスの採用で、給料ギャップを埋めるためのツールとして使う場合も考えられますが、これは微妙です。
というのも、何度も書きますが、ストックオプションの価値がわかる方は少ないので、いくら発行しても、結局のところ目の前の給料の額でモチベーションが影響されがちなので、あまり意味が無いのです。
リテンション機能もあまりありません。
「在職条件」をつける場合が一般的なので、辞めてもらっても影響がないのが幸いですが、、、。

未来の視点の場合

こちらのパターンでは、概ね「現在の視点」の考え方と同じになります。

違うのは、乖離を埋める、という考え方を持つ必要がない点です。
「これからの活躍が見込める」「代えられない存在なので絶対に頑張り続けて欲しい」という方に重点配分をする考え方です。

ですので、グレード間や報酬間での逆転現象も十分に考えられます。

なお、補足ですが、基本的にストックオプションは、生株を持ってない人に割り当てるのが定石です。

筆者の考え方

これまで、いくつかの視点で記述してきましたが、筆者は「未来の視点」で設計するのが最も合理的であると考えています。
絶対に残って欲しい代えられない人、圧倒的な活躍が見込まれる人、そういった方には多く偏りをもって付与するのが良いでしょう。

なぜならば、会社の成長にあわせて、その会社にとって必要な人物像は変わってくるからです。
そのため、過去の視点で設計したとしても、未来へのインパクトはほとんど見込めないからです。
感謝が不要とは決して思いませんが、経営においては、合理的にいられる領域に関しては、とことん合理的であるべきと考えます。
在籍年数は過去の話であり、未来の話は一切含まれていません。
情はどうしても湧いてしまうものですが、冷静に、合理的であるべきです。

また、未来の視点で設計する限り、今現在での採用ツール、リテンションツールとしての機能も内包できます。
つまり、非常に柔軟性高く、かつ強力にストックオプションの性質を活用できるのです。

抑えておくべき注意点としては、ストックオプションの価値を理解できる人に重点配分すべき、という点です。
誤解を招く言い方ではあるのですが、ストックオプションの価値を理解できない人に多めに配分しても無駄です。

ストックオプションは、大きな意味合いで給料の内数ではあるのですが、その性質は大いに異なります。
在籍し続けなければ行使ができないですし、業績が伸びなければ当然にその価値はあがりません。
通常の給与制度と同じ枠組みで考えては、ストックオプションの性質を活用しきることはできないでしょう。

最後に、できあがりのイメージに関して触れます。

  • CxOクラスの方々で合計6%程度
  • CxOクラスに準ずるキーマン上位約10人で合計3%程度
  • 残りを他の従業員で配分

この形で大枠の配分を考えるのが良いでしょう。
発行のスケジュール感としては、CxOクラスの採用時には1%弱、それに準ずるキーマンの採用時に0.1%程度を発行、残りを活躍の想定などをみながら発行、という流れになります。
都度都度の発行では、無償なのか有償なのか、などなど、様々に設計も可能です。
これなら総枠10%の相場観にも合致しますし、未来の視点での配分もできるのです。

(補足)持株比率に関する懸念に対して

なお、経営者の中には、ダイリューションという、持株比率の低下を気にする方もいらっしゃいますが、本質的ではありません。

経営のコントロール権はあくまでも業績成果で示すべきものであり、持株比率でえるものではないからです。

持株比率の過半数や3分の1という考え方は、経営企画などの資本政策を実務で考える方たちに任せて、経営者自身は早々にその考え方を捨てるのが良いです。

ダイリューションに関しては、こちらの記事でも詳細を解説しています。

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人事・総務

企業の花粉症対策~福利厚生としての手当のすすめ~

パナソニックが花粉症に関する調査し、花粉症に起因する労働力低下の経済損失額は、1日あたり「約2,215億円」と具体的な経済損失額を公表しました。
ここから換算すると、花粉症に苦しんでいる方の生産性低下は1人あたり36万円と計算できます。

ここでは、企業の花粉症対策を推奨する前提で、上記調査内容を検証すると共に、具体的な対策を解説します。

数字ロジックの検証

日本人の平均給与は、5,315千円です。

1年間の総労働時間は、1,998時間です。

時給換算では、3,907円/時間となります。
〔5,315千円÷1,998時間×1.13(法定福利費分13%)×1.3(その他雇用コスト30%)=3,907円/時間〕

花粉症の患者割合は、29.8%です。

就業者数は、6,687万人です。

「花粉症により仕事のパフォーマンスが低下していると感じる時間は平均で約2.8時間とされています。

これらの数字を元に、「2,215億円」のロジックを分解すると、下記のようになりました。

3,907円/時間 × 29.8% × 6,687万人 × 2.8時間/日 = 2,179億円/日

どういう前提を置くか、によりますが上記の計算ロジックの模様です。
ほぼほぼニアリーイコールですので、ポジショントーク的印象をうけないわけでも無いですが、MAX額としてこれくらいの損失があることはわかりました。

企業の対策を推奨~1人あたり約36万円の損失~

花粉症は酷い方は年中苦しんでいるとされていますが、スギ・ヒノキが広がる2月~6月の集中期間、生産性低下が大きいと仮定します。
5か月間の内、風が弱い日や雨が降っている日もあるので、花粉症の飛散が多い日を3日に1日とします。
そうすると、下記の通り、約36万円が一人当たりの花粉症による経済損失です。

3,907円/時間 × 5か月間(100日) × 3分の1 × 2.8時間 = 364,653円/1人

これは仮定をどのように置くかで当然に変わってくる数字ですが、もっと低く見積もったとしても、結構な金額、損失があることがわかるでしょう。
企業として花粉症対策を行うことは、かなりの生産性向上につながる可能性があります。

ここからは、具体的にできる、企業としての花粉症対策を解説していきます。

本稿では触れませんが、リモートワークを導入するのも一つの施策として考えられます。

花粉吸引ブラシの用意

花粉吸引ブラシの設置は、外からの室内への花粉持ち込みを防止します。
例えば、リンクのような商品を、職場の入り口に設置します。
1つ6,000円から7,000円とリーズナブルですので、導入のハードルも低いでしょう。
通常の衣服用ブラシ + 掃除機 でも代用が可能です。

高性能な空気清浄機の設置

室内に入ってしまった花粉を除去する効果があるのが空気清浄機です。
高性能なものですと、高額ですが当然、効果は高くなります。
リンクのものですと最大75畳の広さに対応し、値段は110,000円~120,000円となります。
他のハウスダストやシックハウスへの効果もあり、副次的なプラスも得られます。

職場の人数や広さにもよるのですが、花粉吸引ブラシとあわせて導入すると、非常に効果が高くなるでしょう。

マスク補助

外出時の花粉症対策用品に補助を出すことも考えられます。
今現在(2020年3月)は、感染症の影響もありマスクが高騰していますが、例年ですとマスクは1個、精々20円~30円です。
1月分で大箱400円ですので、これに対して会社から補助を出すのは妥当と考えられます。

場合によっては、対花粉用のメガネやゴーグルに対して補助を出すのも考えられます。
例えばリンクのような商品ですと、1個2,000円しないので、非常にリーズナブルです。
1人1個、1年に1回、と決めて福利厚生施策を設計することは十分に考えられます。

通院手当の導入

そしてこちらが、比較的、根本性が高い対策です。
花粉症は、残念ながら一度発症してしまうと、根治治療は困難なものですが、その症状が出にくいようにする治療(対処療法)は可能です。
しかし、通院は時間もお金もかかり、頭では病院にいった方が良いとはわかっていても、中々足が遠い方もいるでしょう。
そこで、実際に通院してかかった費用に関して手当(補助)を出す福利厚生施策が考えられます。

治療費用は1か月あたり3,000円から4,000円で、費用対効果も高いものです。
根治治療に近しい「舌下免疫療法」では毎月2,000円が数年にわたり続きますが、これを補助することも考えられます。

企業による花粉症対策はEmployee Successにつながる

花粉症対策を行っている企業はまだまだ少数です。

別の調査では、企業に花粉症対策を望む方が6割もいるのも事実です。

企業として花粉症対策に乗り出すことは、Employee Successにつながり、採用力の強化にも、リテンション(離職防止)にもつながる可能性があります。

そして、現実として生産性の低下を招いている以上、花粉症対策に投資をすることは非常に合理性が高いと言えます。

企業経営者、総務担当者は、改めて企業としての花粉症対策を導入してはいかがでしょうか。

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経営企画

ビジネスで大切なこと~膨大な量の選択肢の中での正しい意思決定プロセスの心理学~

常に何かしらの意思決定を行わなければいけない。
これがビジネスの現場です。
膨大な量の選択肢がある中で、どのようにすれば正しい意思決定ができるでしょうか?

ここでは、意思決定の正しいプロセスについて、科学的な側面から解説していきます。

膨大な量の選択肢は意思決定の質を落とす

意思決定を行う上で、選択肢が多いことは良いことではあるのですが、多すぎる選択肢は悪影響をおよぼすことがあります。
多すぎる選択肢は迷いを生み、ストレスの原因となり、場合によっては合意の妨げになるのです。

スーパーマーケットでの場面を例にあげてみましょう。
北カリフォルニアのスーパーマーケット、ドレーガーズで行われた有名な実験です。
このマーケットでは、膨大な種類のオリーブ油や香辛料など、非常に豊富な食材を取り揃えています。
ここで心理学者たちが実験をしました。
具体的には、ある週では24種類のジャムを、別の週では6種類のジャムを並べて買い物客の反応を調べ、購買行動にどのような差がでるのかを実験したのです。

結果、24種類のジャムが並べられていたときは、60%の客が試食をしたけれども、6種類のときには40%しか試食しなかったそうです。
しかしながら、実際の購買行動においては逆の反応をしめしており、24種類のジャムのパターンでは3%の客が、6種類のパターンでは30%の客が購買した、という結果になりました。
つまり、あまりにも多い選択肢は、そもそも意思決定ができない、ということになりかねないのです。

この結果は他の場面にもみられており、証券会社や保険・年金での商品選択において、選択肢を多く提案することは、かえって購買意欲を減らしてしまうことにつながる例など、選択肢の多さは意思決定の質を落としてしまうことは、ほぼ間違いないであろうと言われています。

なぜ選択肢が多いと意思決定の質が下がるのか?

答えはシンプルで、単純に人の知的能力の限界を超えてしまうと、判断ができなくなるからです。
ようは、頭がオーバーロードし、働かなくなってしまうのですね。

アメリカの心理学者、ジョージ・ミラー博士の実験では、人は新しく与えられた情報については1度に7個(7個プラスマイナス2個)の情報しか覚えておけない、という結果示されています。
この7個というのは、意味をもった情報のかたまり(チャンクと言う)のことで、例えば、単純な数字情報から、何かの出来事のような情報量が多いものも、この7個の範囲でしか脳に一時ストックできないそうです。
これをもって、現代では「マジカルナンバー7」という言葉が使われています。
(なお、当然にこの話には諸説があるのですが、概ね人がぱっと覚えられる限界量としては、感覚値的にもそう外れてはいないかと思います。)

この話から、あまりにも選択肢が多いと、検討するにしても脳のワーキングメモリーが働くなってしまうことが推測されます。

別の心理学的な意見としては、選択肢が多い中で1つを選択した結果として、それ以外の方が正しかった場合のことを考えて、委縮して決断できなくなってしまう、ということも指摘されています。
後になって後悔してしまうのではないか?
周囲から、間違った決断をした結果として責められるのではないか?
そういった思考が、心理的に負担になってしまうのです。

また、こちらの記事でも解説していますが、雑事に対しても一つ一つ意思決定を行っていると、IQが低下し、生産性も大幅に低下することが示されています。
そのため、一部の一流経営者は毎日同じ服をきるなど、極力意思決定を行う数を減らしているのです。
(一説では、人が一日に行える意思決定の数には限りがあるようです。)

では、正しい意思決定プロセスは何か?

それでは、ここからは正しい意思決定のプロセスについて、科学的知見も交えて解説していきます。

① 幅広く選択肢を用意する

これまでの話とは逆行するようですが、まずは幅広く選択肢を用意しましょう。
人は与えられた数少ない情報から、偏見でもって意思決定をしたり、逆に情報を収集しようとしても「自分が欲しい情報を積極的に集める」習性があります。
偏りなく、幅広く情報を収集し、多くの選択肢をまずは取り揃えることが必要です。

② 選択肢の評価を行う~メリット・デメリット~

次に、出そろった選択肢のメリット・デメリットの評価を行います。
この際も、偏りなく評価を行うことが重要です。
できれば多くの人の意見を聞きながら、公平に実施するのが良いです。

あわせて、選択肢の前提となる情報の質に関しても評価を行うのが良いでしょう。
こちらの記事でも解説しましが、情報にはレベルがあり、純粋に「事実」なのか、推測や意見・感想が混じった「主観」なのか、それとも誰かが言っていることの「伝聞」なのかがあります。
情報の質の評価が漏れてしまうと、当然に選択肢の質も落ち、意思決定の質も落ちてしまいます。

なお、この評価の段階で重要なのが、「検討しすぎない」ことです。
ようは、ざっくりと手っ取り早く、大雑把に検討していきましょう、ということです。
といのも膨大な量の選択肢を検討していくことは、同様に膨大な時間と費用がかかってしまいます。
メリット・デメリットの評価を行いたいのではなく、意思決定を行いたいのですから、ここにリソースを割きすぎるのは、あまり健全とは言えません。

③ 選択肢の絞り込み

ざっくりとしたメリット・デメリットの評価を終えたら、その次が選択肢の絞り込みです。
この段階でいきなり「これだ!」と意思決定をするのではなく、「これは無いよね」というものをどんどん削っていくのです。
ようやく、選択肢の数が多いと意思決定の質が下がるの話とリンクしてきました。

この段階で重要なのが「自分自身にとって譲れないこと」「優先しなければいけない事項」「そもそもの目標」などを明確化することです。
何かの意思決定を行う、ということは、なにかしらのゴールがあるはずです。
そのゴールに沿った、重要な軸に沿って、「これは無いよね」というものを削っていくのです。

この絞り込みの段階では、3個程度に選択肢を絞るのがよいでしょう。
いくつかの研究では、二者択一や、選択肢が4つ以上よりも、選択肢3個程度の時が、その後の成果調査ともあわせ、もっとも質の高い意思決定ができるという結果がでています。

④ そして意思決定

3個程度に選択肢が絞られれば、メリット・デメリットの解像度の高い再評価が行えるでしょう。
すでに、今回の意思決定にあたっての重要な軸も明確になっています。
十分な調査の時間と費用も投入し、頭の中にはたくさんの情報も入っています。
あとは、これまでのビジネス経験と目指すべきゴールに沿って、勇気をもって決断するだけです。

(参考)評価にあたって点数をつけることの是非

よく、メリット・デメリットの評価にあたって、比較検討表に点数をつけることが多くあります。
これは、趣味やポリシーの世界にも突入してしまうので何とも言えないのですが、あまりおすすめできないです。
というのも、非常に恣意性が高いからです。

点数をつけるにあたっての項目の数や、抽出の方法によって、いくらでも操作ができてしまうため、結局のところ、評価者の偏りに沿った結果になってしまいがちです。

決して、絶対ダメだとは思いませんが、必ずしも良いものでは無い、という点は抑えておくべきでしょう。

(参考)メリット・デメリットについて~プロコン~

これまで、メリット・デメリットという言葉を使ってきましたが、コンサルや経営企画の世界ではあまり使いません。
では、どういう言葉を使うかというと「プロコン」という言葉を使います。
Pros & Consの略で、良い点(Pros)と悪い点(Cons)という意味です。

ようはメリット・デメリットと同じことではあるのですが、相手によっては「わかっていないな」「プロフェッショナル感に欠けるな」という風に捉えられてしまうので、一定の使い分けを行うか、そういうったことがあると素直に割り切ってどちらかを使うのかを決めてしまうのかをするのが良いでしょう。

(参考)交渉におけるテクニック

上記で自分にとって譲れない重要な軸を明確にすることの大切さを説きましたが、これは交渉にも使えます。
どういうことかと言うと、交渉における交換条件において、優先度・重要度の低いことに関して、交渉の対価として譲れることができるからです。
ここは譲れない、ここは譲って良い、を明確にしておくと、交渉はスムーズになります。

また、提案においては、言葉の使い方にも注意は必要です。
具体的にはポジティブに言うか、ネガティブに言うか、です。

①「どちらを選択すべきか?」
②「どちらを選択すべきでないか?」

この2つの問いかけ方をした場合、①の言い方ではポジティブ要素を大きく評価する傾向があり、②の言い方ではネガティブ要素を大きく評価する傾向があるのです。
ようは、「どちらを選択すべきか?」と問いかけると、ある選択肢のメリット、そのことの強み、得られる利益などを高く評価するのですが、
「どちらを選択すべきではないか?」と問いかけると、デメリット、それにより負担しなければいけないマイナスのリスク、失敗した場合の損失などを高く評価してしまいがちなのです。
それが人間心理なのです。

これは交渉時においても重要で、ポジティブ要素、ネガティブ要素のどちらを高く評価して欲しいのか?でもって、問いかけ方を変えるのは、一定考慮に値します。

ただ、最終的にこういうテクニックを使うのが良いのか、というと、個人的な意見としては微妙だと思っています。
というのも、私自身の立場からすると、相手が小賢しいテクニックを弄してきたら不快だと感じるからです。
相手が自分のことを操作しようとしている、というのは、上記のことがわかっている人にとってみれば、まあまあ不快なものです。
最終的には人と人とのぶつかりあいなのですから、正直まっすぐ正々堂々が一番なのでは?と考えています。

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生産性・業務効率化

仕事での「燃え尽き症候群」対策~回復方法はシンプル~

仕事で頑張りすぎて「燃え尽き症候群」になってしまう方が大勢います。 趣味で気晴らしをしたりと、独自の方法で対策をしている方が多いかと思いますが、ここでは科学的な対策、回復方法を解説します。

忙しい人向けまとめ

  • 燃え尽き症候群はWHOからも認定されいる健康状態に影響する要因
  • 問題が起きている状態ではあるが、「疾病」とはされていない
  • 自分自身が受ける「周囲からの様々な期待や要求、労働時間、その他諸々のストレス(ストレッサー)」などに対して、「報酬、評価、公平性、人間関係、安心感」などに対する自分自身の欲求のバランスが欠いたときに発生する
  • バカンスに行くなどの、根本的解決から目をそらしたものは効果が薄い
  • 対策は、「運動をする」「睡眠をしっかりとる」「人間関係を良好にする」「環境を変える」「圧倒的な実力をつける」

燃え尽き症候群とは

燃え尽き症候群は、アメリカの心理学者ハーバート・フロイデンバーガー博士が提唱した考えです。

2022年に発効する世界保健機関(WHO)の新しい国際疾病分類(ICD-11)の中で、健康状態に影響する要因の中の、不適切な慢性的な職場ストレスによるものとして記載がされています。
この中では、問題が起きている状態ではあるものの、「疾病」とはされていません。

一つ古いICD-10では、生活管理困難に関連する問題の中の、重要な枯渇の状態とされ、こちらも同様、「疾病」とはされていません。
その状態として次の3つがあげられています。

  • 極度の疲労感:エネルギーが枯渇、または消耗したという感覚
  • 皮肉っぽさ(離人症):仕事への忌避感の増加、または否定的ないしは冷笑的態度の発露
  • 無力感:能率の低下

具体的には、酷い疲労感により朝起きるのが辛くなったり、会社に行きたくない、仕事をしたくない、というような状態であったり、
常にイライラしていて、突発的な行動(退職、過度な浪費、極端な飲酒など、最悪の場合の結果も含む)に出たり、
家庭環境やほかの人間関係への悪影響などが出たりします。

燃え尽き症候群は決して珍しいものでは無く、ドイツの調査では労働人口の6%程が症状を示しているそうです。
イギリスの調査では、3社に1社に、自社内に燃え尽きている人がいる、と回答しています。

なお、日本では、例えばスポーツ選手などが、華々しい結果を出したあとに、打ち込むものが無くなってしまった喪失感、というようなニュアンスでも使われます。
これは、若干正確性に欠ける理解です。

燃え尽きの原因と効果のない対処方法

燃え尽き症候群の原因に対するよくある誤解として、「長い期間に渡って、過度に働きすぎた結果」というものがありますが、これは一つの可能性にすぎません。
実際には、自分自身が受ける「周囲からの様々な期待や要求、労働時間、その他諸々のストレス(ストレッサー)」などに対して、「報酬、評価、公平性、人間関係、安心感」などに対する自分自身の欲求のバランスが欠いたときに発生するされています。

そのため、仕事に限らず、例えば「親が過保護な場合」「親から過度な期待をされている子供」も燃え尽きやすいと指摘されています。
親からの高い期待をされて支援、管理もされているが、それに応えることによって自分の人生がどれだけ良いものになるのか?自分にとって幸せなのか?というマインドになり、燃え尽きてしまう、ということです。

燃え尽き症候群への対処方法として、よく気晴らしとして「バカンスに行く」という方法があげられますが、これは効果がありません。
いくつか研究によって、バカンスで元気にはなったが、その持続時間は短く、数日から3週間ほどで、元の燃え尽きた状態に戻ってしまったという結果が示されています。

燃え尽き症候群の原因を端的に表現すると「周囲からうけるストレスに対する、自分自身の報われ感のバランスが欠けた時」である以上、大本の自身を取り巻く環境が変わっていない以上、一時的に回復したとしても、元の燃え尽きた状態に戻ってしまうのは当然と言えます。
根本的な問題を解決していないのですから。

ではどうすれば燃え尽きないのか?

ここまでは燃え尽き症候群になってしまう原因と、よくある勘違いに関して解説してきました。
ここからは、具体的に燃え尽き症候群にならないための、もしくはなったとして回復するための対策を、科学的な知見と、科学的ではないが多くの成功者が語る経験談を元に解説します。

運動をする

まず1つ目が「運動」です。
「運動かぁ、、、」とがっくり来るのは早いです。
豪ニューイングランド大学の研究によると、持久力系の運動、筋力トレーニングのどちらでも、継続的に運動を継続している方は「幸福度」が向上し、「達成感」も得られたという結果が出ています。
また、「メンタルヘルス」の改善や「ストレス指数」の減少も併せて見られました。
加えて、運動を継続している従業員は、病気欠勤の割合が9分の1になり、生産性が大幅に向上するとのことです。

睡眠をしっかりととる

睡眠とメンタルヘルスは密接な関係があります。
睡眠時間が短い、あるいは長すぎる方は、心身ともに不調に陥る傾向があることが示されています。
適切な長さは人によって違うのですが6時間から8時間、比較的最近の研究では7時間~8時間が適切であるという主張が多いです。
なかなか寝付けない、という方も多いと思いますが、上述した運動をすると、良質な睡眠をとりやすくなります。

こちらの記事では、燃え尽き症候群に関して心理学者の方が解説しており、自分自身に対してしっかりとケアをすること(食事、運動、睡眠)の大切さを説いています。

また、こちらの記事で解説していますが、寝る前の電子機器の使用は、良質な睡眠を妨げるので注意が必要です。
寝る1時間~2時間前は、光を発する電子機器の使用は控えましょう。

人間関係を良好にする

周囲の人にサポートの手を差し伸べたり、ポジティブなフィードバックをすることが、自分自身へのストレスを軽減させ、健康水準の向上に寄与する、という研究結果があります。
不足した場合に燃え尽き症候群の原因にもなる「評価」や「人間関係」、「安心感」という欲求を満たすためにも、職場の中で相互にサポートしあい、フィードバックをしていくことは、重要でありかつ効果があります。
組織全体で燃え尽き症候群を防ぐことにつながるので、助け合う、賞賛しあう文化を社内で作ってみてはいかがでしょうか。

また、親しい友人を大切にするのもストレスに強くなる効果があります。
子どもに対する調査ではありますが、親しい友人が一人でも存在する子は、存在しない子よりも、「レジリエンス」という対ストレス能力が高いことが示されています。
長く連絡をとっていない親しい友人がいるのなら、是非、食事に誘ってみるとよいでしょう。

環境を変える(例えば転職をする)

ストレスフルであり、それに対応するだけの自分が望むものを得られない職場であるならば、素直に転職するのも一つの手です。
「嫌なら辞めればいいじゃん」という身も蓋もない話ではあるのですが、自分の希望がかなえられる職場を探すのは、合理的であると考えます。

その際には、ただ単純に「嫌だから」「自分にあわないから」というような理由だけで転職するのではなく、「自分がやりたいことは何だろうか?」「自分が譲れない要素はなんだろうか?」という点を考えて転職活動に臨まなければ、同じような結果が訪れてしまうでしょう。

転職が不安ならば、「自分がやりたいこと」がやれるポジションへの異動を会社に直訴するのも考えられます。
会社は、シンプルに従業員がやりたいことを把握していないがために、適切なポジショニングができていない場合が多くあります。
ですので、必ずしも有用とは限りませんが、効果がある場合があります。

圧倒的な実力をつける

もう一つおすすめなのが、「圧倒的な実力をつける」ことです。
これも身も蓋もない話ではあるのですが、圧倒的な実力をつけると、高い成果を出せるので、周囲からの賞賛や高い評価を得やすくなります。
また、どういう状況であれ、自分自身が成果を出せることを重々承知しているので、周囲からの評価を一々求めなくなります。

成果をだせるので、そもそもとして周囲からの成果に対するプレッシャーが問題になりません。
望まない環境であった場合の、転職度の自由度も、はるかに高くなります。
どういう環境下でも、一定程度やっていける自信もあるので、安心感も満たされます。
(もちろん、これらは人によります。承認欲求の塊のようなハイパフォーマーも大勢います。優秀なのに自身が無い方もいます。不思議ではあります。)

そうはいっても、どうやれば、その実力をつけられるのか?という問題があります。
一つシンプルな方法は、やはり勉強です。
勉強という新しいチャレンジ自体が「環境を変える」ことにもつながるため、ストレスへの対処方法にもなります。
こちらでは、忙しい現代人にとって有用な、本当に効率的な勉強法について解説しています。

まとめ

見てきた通り、燃え尽き症候群は「周囲からうけるストレスに対する、自分自身の報われ感のバランスが欠けた時」に発症します。

対策は、「運動をする」「睡眠をしっかりとる」「人間関係を良好にする」「環境を変える」「圧倒的な実力をつける」の5つです。

色々書きましたが、この内、もっとも効果が高いと感じるのが最後の「圧倒的な実力をつける」です。
本当に身も蓋も無いのですが、やはり圧倒的な実力を身に着けると、会社に対する発言力やコントロール権が増します。
こういう状態は、求められる成果の絶対量と質は高くなりますが、自尊心が満たされるだけでなく、純粋に楽しいものですし、給料も高くなりやすいです。

結局のところ、燃え尽きかねない状況を何とか乗り越えて、自分自身のステージを一段階あげるのが一番効果的なのです。

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生産性・業務効率化

タイピング練習のすすめ~一生で1年分の時間節約!~

今回は、タイピングの速度を速めることが、如何に有用なのかを説明します。
タイピング速度を速められれば、人によっては一生で1年分以上の時間を節約することができます。

なお、この話はタイピング速度に限らずの話で、日々の様々な本質的ではないことに費やす時間を削減できれば、一年や一生のスパンで考えた時に、膨大な時間を節約することにつながります。
タイピング速度、と軽視せずに、「人生の時間は限られている」という前提で物事を考えると、日々の生活と人生はより有意義なになるでしょう。

なんでタイピング速度の話をいまさら持ち出すの?

こちらを見ると、パソコンの利用実態に関する調査内容を確認することができます。

リンク先の中段以降の所で「タッチタイピングをできると答えた割合:最も高い世代は男女ともに30代」という項目があります。
このデータの詳細を見ると、各年代で次の割合でタッチタイピングができないと回答しています(男女平均)。

  • 20代では32.5%
  • 30代では30.4%
  • 40代では37.3%
  • 50代以上では52%

タッチタイピング、つまりはブラインドタッチですが、これはタイピング速度において重要な要素です。
現場実務での主力、20代~40代の方々の内、3人に1人がブラインドタッチができない、というのは非常に大きな損失です。
そして、これはあくまでも自己申告ですので、実際はもっと悪い可能性もあります。
これは2018年の調査ですので、今現在においても大きな変化は無いでしょう。
つまり、タイピング速度の話に改めて触れることは、大きな意義があると考えました。

タイピング速度の目安

タイピング速度の話をする際に出てくる用語として「WPM」(words per minute)という言葉があります。
文字通りなのですが、一分あたりに入力できる英数字キーの数を指します。

目安としては、ここを参考にまとめると、次のようになります。

  • 300~ かなり早いと言われるレベル(上には上がいる)
  • 200~300 仕事で問題なく通用するレベル
  • 100~200 プライベートで不自由がないレベル、仕事では遅い
  • 0~100 遅い方、仕事では明確に支障がでる

上記サイトでのWPMは、スコアで表記しており、「スコア=WPM×(正確率^3)」で計算しています。
誤入力があると、タイピング速度が遅くなるので、スコア=WPMと考えて差し支えないでしょう。

(なお、筆者は350~400くらいなので、一般的にはかなり早い方ではあるのですが、もっと早い人だと500とか、タイピングのチャンピオンクラスだと1,000とか行くので、上には上がいる、ということをここでも実感します。)

シミュレーション

さて、ここで人がタイピングにどれだけの時間を費やしているのか、シミュレーションをしていきます。
まず、タイピング数(文字数)ですが、こちらのサイトだと一日平均で4,849の打鍵をしているそうです。
この時の調査は2014年で、現在はSNSや社内チャットツールの普及により、打鍵数は増えているであろうと仮定し、一日平均の打鍵数を5,000と設定します。

この一日平均打鍵数5,000を基準に、タイピング速度(WPM)別に、どれだけの時間を費やしているのかを示したのが下記の表です。

WPM1日/分1年/時間
(1年260日換算)
40年/日
(8時間換算)
4001354271
3501462310
3001772361
2502087433
20025108542
15033144722

それぞれの項目の意味は次の通りです。

  • WPM : WPM(words per minute)
  • 1日/分 : 1日にタイピングに費やしている時間を分単位で表記(ここだけ見ると、結構少ないですね)
  • 1年/時間 : 1年でタイピングに費やしている時間を年単位で表記、1年は365日ではなく260日で計算
  • 40年/日(8時間換算) : 働く期間を40年と仮定した場合にトータルでタイピングに費やしている時間を日数単位で表記、日数は24時間ではなく、稼働時間である8時間で計算

1日あたりでみると大したことがないように見えますが、これを1年というスパンで考えてみてみると、もの凄い時間を費やしていることがわかります。
WPMが150の人と300の人で比較したときに、1年で72時間、稼働時間8時間で考えた時に9日分の差が出ます。

単純に同じくらい優秀な方で、WPM300の人の方が稼働時間が9日分多いと考えたら、どちらが発揮するパフォーマンスが高いと言えるか、明瞭でしょう。
また、タイピング速度が速い人は、あくまでも感覚値ですが、優秀な方が多い印象です。
タイピング速度以外でも優秀なら、この9日分の価値は、より高まっていくことは間違いありません。

上記では1年のスパンで計算しましたが、一生(40年)のスパンですと、1年間分以上の差がでてきます。
1年間の分の時間確保ができる、と考えると、タイピング速度一つがどれだけ人生に影響を与えるのか、もう無下にはできないでしょう。

(なお、40年としたのは、社会にでるのが20歳前後として、平均寿命が80歳前後。さすがにタイピング速度がずっと向上しないことはないだろう、加えてがっつりタイピングする期間は社会に出てからずっとではないだろう、ということで40年という期間を「一生」としました。つまり、あくまでも仮定の話です。)

会社経営者の方も、この話は真面目に考えた方がよいでしょう。
従業員が500人いる会社を想定したとき、全員がタイピングが苦手で無いとしても、丸々1人分の損失になっています。
そして、こういう点を疎かにしているとなると、他の面でも言及できる要素があるでしょうから、潜在的な損失はもっと大きくなるはずです。

まとめ

繰り返しになりますが、WPMが150の人と300の人で比較したときの、費やす時間の差です。
それは、1年で9日分、一生で1年分の時間の差が生まれます。

タイピング速度、とあなどらず、若いうちにタイピング速度向上のための練習をすると良いでしょう。
(パソコンが苦手な中高年の方もあきらめないでください!)
インターネット上で検索すると、無料のタイピング練習のサイトはたくさんあります。
上述WPMの解説部分で示したサイトですと、例えば「ビジネス」というカテゴリーで速度をはかりつつ練習することができます。

そして冒頭でも触れましたが、こういった話はタイピング速度に限りません。
自分自身の人生にとって本質ではない、様々な雑事にかける時間、これを削減することができるだけで、どれだけの時間を一生で確保できるでしょうか?
非常に膨大な時間になるはずです。
「人生の時間は限られている」という前提で、ありとあらゆる物事を見ていきたいです。

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人事・総務

印鑑の基礎知識~おまけの雑学が長い件~

ビジネスをしていると何気なく登場してくるのが印鑑です。
ここでは、印鑑に関する基礎知識に関して解説していきます。
今回も、雑学が豊富です。

別の場所で現代社会における印鑑不要論と、電子契約の活用に関して触れます。

法人における印鑑の種類

法人において使用する印鑑としては、次の4つを使用するのが一般的です。

  • 実印
  • 銀行印
  • 角印
  • 認印

それぞれ見ていきましょう。

¶ 実印

実印は印鑑登録をする印鑑となります。
(そのため、直径30ミリ未満のサイズにしなければいけません。)
市区町村役所へ登録することにより、法的に実印としての効力を持ちます。
商業登記法により、会社の設立にあたって使用することが定められていますので、法人はかならず実印を持っています。

用途としては、役所への届け出書類や重要な契約書に使用します。
つまり、非常に重要性が高い印鑑になります。

偽造をされたり盗難された場合、契約における連帯保証人にされたり、役所への届け出を勝手にされたりと、リスク上の問題点が大きいことがあげられます。
紛失・盗難ががあった場合、複製は不可能ですので、新しい印鑑を作成し、再登録を行う必要があります。

¶ 銀行印

預金口座の開設や諸手続きに使う印鑑です。
金融機関に届け出ることにより、対金融機関において効力を持ちます。

預金取引が可能になる印鑑ですので、紛失・盗難があった場合、預貯金を勝手に引き出されるリスクや、被害を届け出た場合に改印するまで取引に制限が出たりします。
紛失・盗難ががあった場合、複製は不可能ですので、新しい印鑑を作成し、再登録を行う必要があります。

通常は、実印とは別の印鑑を設定します。
最近は銀行印が不要なネットバンクも、ようやく増えてきました。

¶ 角印

通称の通り、形が四角の印鑑です。
よく、請求書の右上に押印されている、四角いあれです。

見積書や請求書に押印する印鑑として、一般的に使用するものです。
法的な効力としては、あまり意味がありません。
商習慣として、「請求書には角印」となっているだけです。

法的には規定されている印鑑では無いため、改廃は自由です。

¶ 認印

日常的に使用する印鑑です。
諸々の申込書や一般的な契約書に使用するものですが、実はこれも、法的な効力としては、あまり意味がありません。
商習慣として、「契約書には認印を押印する」となっているだけです。
商習慣として極めて一般的になってしまっているため、契約書の締結において、印鑑が押印されていなければ、その契約書の効力が発生しない、という勘違いも多くされています。
(正確に言うと、商法において、署名が必要な場合、署名か印刷+印鑑、のどちらかで良いという定めがあります。つまり、署名があれば押印されてなくても良い、ということです。)

実印や銀行印とは、通常は別の物を使用します。
逆に言うと、実印や銀行印を認印として使用している場合は、リスクが高いので、早々に別の物を用意しましょう。

法的には規定されている印鑑では無いため、改廃は自由です。

朱肉とスタンプ台の違い

印鑑を押印する時は朱肉を使い、ゴム印を押印する時はスタンプ台を使うのが一般的ですが、これらの違いは何でしょうか?

簡単に表現すると、保存性に大きな差があり、原料として顔料(朱肉)か染料(スタンプ台)の違いがあります。
とりあえず、通常の印鑑(上であげた4つの印鑑)は朱肉を、ゴム印はスタンプ台を使用する、と覚えておけばOKです。

朱肉は、赤色の顔料に松脂などをまぜて作ります。
顔料ですので、印影の保存性にすぐれます。
保存性が高いので、契約書への印鑑の押印には朱肉を使用します。
(ひと昔前は、練朱肉や印泥というものを使用していました。まだ一部の役所担当者は愛用していますね。今は利便性の高いスポンジ朱肉が一般的です。)

スタンプ台は、赤色の染料、特に水性の染料を使用します。
なぜならば、ゴム印は油に弱く劣化しやすいからです。
ですので、ゴム印を朱肉で押印していると、比較的早い時間でゴム印がダメになります。
溶けて文字が鮮明でないゴム印を見たことがあるかもしれませんが、それは押印時に朱肉を使用していたからです。
染料の弱点は保存性で、紫外線を長く浴びると、退色という色が変化し薄くなる現象が発生します。
街頭で、色が劣化したポスター等々を見たことがあることかと思いますが、あれです。
ただ、最近のスタンプ台に使用される染料は優秀ですので、わざわざ日光を直接長時間浴びさせるようなことをしない限り、心配は不要です。

(おまけ)事務上あると便利なハンコ類

会社情報が刻印された横判(組み合わせて使用できるもの)は1つ用意しておくと便利でしょう。
実際、ほとんどの会社が1つは持っているはずです。

また、速達印もあると便利です。
速達を出したい場合、赤いマーカーとかで線を引いて速達と書けば、速達で出せるのですが、手間です。
1つ速達印を用意しておけば、手間を減らせます。

他にもシャチハタをはじめ、ハンコ類はオーダーができるので、事務上よく使う定型的なものはオーダーを考えるとよいでしょう。

(おまけ)印鑑の素材は何を選べば良い?

素材の良さだけを見た場合のベストは象牙です。
象牙は、経年劣化や気温・湿度による変性も少なく、柔軟性も高いので落下させてしまった時の欠けのリスクも少ないです。
ただし、非常に高額になってしまいます。

無難に、一番安い柘(つげ)で十分でしょう。
柘は繊維の密度が高く、硬さと柔軟性のバランスがよく、加えて非常に安いので、木素材の中でも印鑑に向いています。

(おまけ)印鑑の歴史

印鑑の歴史は非常に古く、古代メソポタミアや古代エジプトといった時代にさかのぼります。
身分や権利などに関して示す実用的な側面のみならず、宗教的な意味合いや、芸術的観点など、文明の発祥と共に世界各地で様々な形で生まれ、発展してきました。

原始的には紀元前7,000年頃の遺跡から発掘されているとされていますが、明確に使用の形跡が見られるのが紀元前5,000年頃の古代メソポタミア文明の時代でした。
粘土板に押すタイプの現代の印鑑に近い形のものから、所有主体や権力を示すものとしてはじまり、紀元前3,600年頃からは「円筒印章」と言われる、粘土板の上で転がして印を刻むタイプのものが使われるようになりました。

粘土板を使用する上において利便性の高い楔形文字と共にこの円筒印章は使用され、アナトリア半島に一大帝国を築いたヒッタイトや、古代オリエントのエラムにおいても使用されていました。
なお、同時期の古代エジプトでは、ヒエログラフという、宗教性をもった絵のような文字が刻印された印章が使用されていました。エジプトの遺跡に刻まれている文字、として頭に浮かぶあれです。
その後、羊皮紙やパピルスの普及と共に、紀元前1,000年頃から円筒印章は姿を消していきました。

別の地域、古代インダスにおいて、は古代エジプト同様、象形文字が使用されていて、この象形文字が刻印された印鑑が広く普及しました。
文字の類型や、粘土での使用を前提としたものなど、ルーツは古代メソポタミアからのものと、推測されます。
これが、いわゆるシルクロードを通して中国に伝わりました。
紀元前500年頃です。

なお、ヨーロッパ地域においては、古代ギリシャや古代ローマの時代を経て所有権の主張や、手紙などの発行主体を示すものとして使用され続けてきました。
赤色の蝋に火を灯して手紙に垂らし、金属の印でシーリング(封印)する様子などを、絵や映画などで見たことがあるかと思いますが、あれです。
識字率の低さを背景に、紋様で権利を示すものとしては都合がよいものでした。
つまり、識字率の向上と共に姿を消し、欧米においてはサイン(署名)文化が普及しました。
今では、趣味の世界でのシーリングと、かなりパブリック性の高い用途以外において、印鑑が使われることはありません。

さて、中国を経由して日本に伝わったのは西暦の時代に入ってからです。
(中国での印鑑の歴史はごちゃごちゃで、正直よくわからないです。中国の王朝の歴史は変化が激しく、文化の連続性もつなげるのが難しく、時代時代や地域において、使用のされかたが異なるのです。)
いわゆる「漢倭奴国王」と刻印された「金印」が日本最古のものとして有名ですが、実際に文化的に使用されている形跡が残っているのは西暦700年頃からです。
遣唐使が始まった奈良時代の話ですね。
この頃は政府によって使用が認可された「官印」のみが使われていましたが、その後、平安時代に入り、一部貴族のみに「私印」が許されるようになりました。
その後、鎌倉時代に入ってからは落款印、筆者印などが流行し、新しい文化を築くようになり始めます。
そして、室町時代、戦国時代と、微妙に形式や用途、流行が変わりながらも、現代の署名に近い形式で使用されていくようになりました。

現代の印鑑登録制度の起源となるのが江戸時代で、「実印」を登録する「印鑑帳」が作成されるようになりました。
この「実印」は所有権に関して強く保証するものとなっており、現代社会における「実印」と非常に似た性格を持つようになりました。
日本の近代法では明治6年(1873年)に実印が制度化されました。
この印鑑制度は、日本の中で独自に文化として染みわたり、現在まで続きます。

現代においては、電子印がITの発展と共に普及しはじめており、特にブロックチェーン技術は印鑑を不要にする社会を実現するのでは、と言われています。
この印鑑不要論と電子契約の話は、別のところで触れたいと思います。

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