カテゴリー
生産性・業務効率化

集中力を鍛えることに対する一つの意見~タイガーウッズを参考に~

忙しい現代社会において「集中力」は多くの人の関心のまとです。
Webで「集中力」と検索をすると、「集中力を高める」であったり「集中力を鍛える」というワードがサジェストされてきます。
書店にいけば、DAIGO氏による「自分を操る超集中力」というタイトルの本をはじめ、各種「集中力」に関する本が並んでいます。
ここでは、この「集中力を鍛える」というテーマに関して、一つの意見、切り口を解説していきます。

集中力は常に忙しいひとたちの関心の対象

仕事でも勉強でも、頑張る人にとって欲しいものに「集中力」があげられるでしょう。

「集中力」については多くの人が言及していて、例えば、「目標を設定する」であったり、「あえて難しい仕事に取り組む」であったり、「締め切りを設けることにより自分を追い込む」ことにより集中力を高めている人もいます。
そして、多くの場合にあげられる集中力を高める方法として出てくるのが「気が散らない環境を作る」ことです。

気が散らない環境とは例えば、スマートフォンの電源を切る、騒音が少ない環境で仕事をする(耳栓やイヤホンをするも含む)、布団を片付けたり家からソファのようなくつろげるものを排除したりする、などの方法です。
これは一定、科学的に合理的であると言えます。

こちらの記事でも書きましたが、オープンなオフィス環境は、気が散る要素が増え、他人からの邪魔も入りやすくなるため、生産性が明らかに低下することが示されています。
気が散る要素を削ることは、科学的には正しい集中力を高める方法なのです。

ここでは、この集中力に関して、すぐには効果がない、おそらく多くの人にとっては役に立たないであろうことを、あえて書いていきます。

私の過去の環境

私が一番長く勤めた会社は、ありていに言って「従業員自身の努力や貢献」に強く依存していた会社でした。
また、社会活動や環境貢献にも強い関心をもっており、コストを削減した分は、第一にお客様に還元すべきであり、加えて、社会活動や環境貢献のような領域にまわそうとするポリシーも持っていました。
これに関しては、良い悪いの話ではなく、こういう会社だった、というだけの話です。

では、具体的にどのようなオフィス環境だったか、というと、まず机が狭かったです。
どれくらいの狭さだったかというと、隣の人と満席のカフェの距離感、というとイメージがしやすいかもしれません。
当然、書類仕事には向いていない環境でした。

水光熱費に対する意識も高かったので、夏は暑く、冬は寒い、夜は暗い環境でした。
生産性、クリエイティビティ、という意味において、だいぶ厳しいというのが率直な感想です。

これらは、会社の方針であり、基本的に異を唱えることができません。
自分の力で変えることのできない、アンコントローラブルな領域でした。

その環境下において、どうやって私が集中力や生産性を高めていったのか?を改めて考えたときに、あるストーリーを思い出しました。
タイガーウッズと、タイガーウッズの父親の話です。

なお、当該会社の話を聞くと、あまり良くないイメージを持たれてしまうかもしれませんが、私はその会社のことが好きで、結局8年ほども勤めてしまいました。
ですので、繰り返しますが、良い悪いの話ではない点は留意ください。

タイガーウッズは如何に集中力を身につけたのか?

タイガーウッズは、誰しもが知っている一流のゴルフプレイヤーです。
当然、彼も人ですので浮き沈みがあることも誰しもが知っているでしょう。
それでも、非常に高い集中力をもっている人であることは確かです。

このタイガーウッズと、タイガーウッズの父親について、有名な逸話があります。

「タイガー・ウッズの父親は、タイガーの練習中、わざと大きな気が散る音を立てたり、視界に入って邪魔をした。それでタイガーは強靭な集中力とメンタルを身に着けた。」というものです。

プレイ環境は一定でなく、一緒にまわる競争相手のプレイヤーや観客も必ずしもマナーの良い人たちばかりではないでしょう。
外部環境に関して、実際の試合の場面では、アンコントローラブルな領域は多いのです。
そのため、タイガー・ウッズの父親は、あえて邪魔をし、気を乱すことに対する耐性を身に着けさせた、ということです。

この話を、上で書いた会社にいた時に読んで、「環境を変えられないのであれば、自分が変わるしかない」と思いました。
最初は「ぶっちゃけ理不尽だな、、、」とは思っていたのが正直な所ですが、意識し続けると慣れてしまうのも人間の性質です。
半年もすれば、外部環境、特に騒音や横やりによって自分自身の集中力が乱されることがほとんどなくなっていたのです。

まとめ

今この記事を書いているのは自宅のオフィスです。
子どもは小学生と未就学児の2人がおり、まあまあやかましく、一般的にはあまり仕事に集中できる環境ではないと思います。
が、これで私の集中力が乱されることはありません。
長い期間、集中力という観点において、厳しい環境に身をおいてきた結果として、外部に影響されない集中力が鍛えられていったのです。

「すぐには効果がない、おそらく多くの人にとっては役に立たないであろうこと」と書いたのは、結局のところ、入り口が精神論であり、一朝一夕で身につく類のものではないからです。
科学的にも立証されておらず、あくまでも「経験則」にすぎません。
そのため、人に強くすすめることもしません。
ですが、自分自身の体験と実感値から、これは効果があると考えているのも確かです。

「集中力」に対して悩み、鍛えたいと考えている人は、参考にしてみてください。
半年もすれば慣れるはずです。

カテゴリー
生産性・業務効率化

エルゴノミクス(人間工学)製品はオフィスの生産性をあげるのか?

近年のベンチャー企業オフィスにおいて、エルゴノミクス(人間工学)に基づいた製品を導入する例が増えてきました。
「生産性をあげるから」が理由のようですが、本当に生産性はあがるのでしょうか?
具体的な研究から示唆される内容をもとに、考えてみます。

忙しい人向けまとめ

  • エルゴノミクス製品の使用により、快適感が向上する人がいる
  • 不快であるとする人も同割合でいて、「慣れ」「トレーニング」が必要
  • 疲労度の軽減にはあまり効果がない
  • 快適感や疲労度に関しては「バイアス」の影響が大きい
  • 素直に、睡眠・運動・リラックスをすることが重要
  • エルゴノミクス(人間工学)と「生産性」に関する研究はほとんどない

エルゴノミクス(人間工学)とは

エルゴノミクスとは、ハードウェアやソフトウェアなどについて、快適で使いやすい道具にするための設計やデザインのことで、人間工学と訳されます。

元々は産業分野における、人が扱う機械の使いやすさから発祥した研究分野ですが、近年のITの発展に伴い、扱いやすいコンピュータ機器のデザインとして、よくその言葉を聞きます。
一般的には、エルゴノミクス製品を使うことにより、眼精疲労や肩コリ、腰痛、むくみなどが軽減され、ストレスに悩まされにくくなる、とされています。

オフィス・デザインにおいては、従業員が使うデスクやチェア、キーボード、マウス、ディスプレイなどのオフィス・ファシリティについて検討されたり、組織全体としての生産性や創造性の向上を目的に、クリエイティビティなデザインと共にエルゴノミクス製品を取り入れるオフィスが増えています。

エルゴノミクス(人間工学)製品の有用性について

エルゴノミクス製品の有用性について、研究されたものを探したので、いくつか紹介します。

早稲田大学の研究(学生による実験)では、エルゴノミクス製品を使用することにより、筋活動量が有意に減ることが示されています。
生産性評価はされていませんが、エルゴノミクス製品の試用による疲労度の軽減が示唆されるほか、例えばノートパソコンのような作業がしにくい環境において、慣れにより疲労が蓄積しているにも関わらず、疲労を感じにくくなっていることが示唆されています。

慶応義塾大学の実証実験(広告的実験であることと、当時のリンクは無く、記事のみ)では、エルゴノミクス製品に対する慣れが進むほど、エルゴノミクス製品の方が使いやすくなることが示されている他、疲れにくくなった、という意見が出ています。
主観的評価であることと、疲労度評価がされていないことは留意です。

他にもあるにはあるのですが、主にエルゴノミクス製品を生産・発売しているメーカー発のものが多いことがわかりました。
主に「疲労度」にアプローチをあてたものが中心で、「生産性」にアプローチしているものはほとんどありませんでした。

なお、この種の研究で行われる生産性評価は、タイピングにおける打鍵数の比較や、何かものを仕分けるなどの単純タスクが中心であり、実際のオフィス環境で行われる作業内容とは乖離している場合が多いことは留意する必要があります。

エルゴノミクス製品は本当に有用か?疑問の提示

エルゴノミクス製品には「慣れ」が必要

上述、慶応義塾大学での実証実験でも一定示されていましたが、エルゴノミクス製品には「慣れ」が必要です。

米コーネル大学の研究では、エルゴノミクス製品を揃えたワークステーション環境を用意し、非エルゴノミクス環境下との比較で、その有用性が調査されています。
調査の結果、約33%ほどの従業員がエルゴノミクス製品を快適であるとしているのに対し、ほぼ同数の約33%ほどの従業員が不快であると回答しています。
勤務時間中に、首、肩、背中、手首などに不快感が報告されており、作業活動を妨げている、というのです。
つまり、快適である、と、不快である、がほぼ同数だったのです。

同研究では、エルゴノミクス環境に対して、トレーニングを積ませると、新しいワークステーション環境に適合し、問題が「軽減」されることを併せて示しています。
つまり、「慣れ」が必要であり、「教育コスト」がかかるのです。

姿勢と身体の痛みは、あまり関係がない?

オーストラリアで行われた研究では、「姿勢の悪さ」と「首の痛み」についてその関係が調査されており、座った時の姿勢と首の痛みには関係がないことが示されています。
むしろ、若い方においては、「気分」との関連性の方が大きいことが示されました。
(そうか、悩みや心の痛みは、やはり身体に影響を与えるんだね。)

こちらの研究では、もっと辛辣に、エルゴノミクス製品のような、姿勢を正す器具類の使用によって、身体の痛みを防げることは、ほぼほぼ有用でないか、まったく有用でないと、しています。
研究では、「バイアス」の影響が大きいことが言及されています。
全体として質の高い研究が少なく、エルゴノミクス製品の有用性について判断がしづらいこと、さらに質の高い研究が必要なこと、が併せて言及されています。
本研究は2018年に発表されたもので、かつメタ研究であることもあり、現時点における比較的信頼性の高い研究と言えます。

なお、別の観点での研究においてはすでに発生している痛みの軽減に関しては、エルゴノミクス製品が有用である、と示唆されています。
こちらもメタ研究であり、現時点における信頼性としては、高い報告と言えます。

疲労度軽減には素直に睡眠・運動・リラックスが有効

これまで見てきた通り、エルゴノミクス製品は人によって快適感の向上につながることが示されている一方、比較的多くの人に対して「慣れ」「トレーニング」が必要であることが示されました。
「疲労度」に関しては、軽減するとする研究もあるものの質が低く、メタ研究ではあまり効果が無い、というのが現時点での意見となっています。

エルゴノミクス製品を生産・販売している企業による広告的な研究が多い事や、エルゴノミクス製品そのものを使用していることに対する「バイアス」的なものが多いのでは?というのが研究をメタ・レビューしてみての感想です。
ただ、まだエルゴノミクス・研究は意外なほど量が少なく、十分な研究がされていない、というのが現実です。
さらに研究が進み、真に生産性を向上させるデザインが発明されることは十分に考えられます。

英ハートフォードシャー大学によるメタ研究では、エルゴノミクス製品に関して上述のような研究に触れつつ、こう意見を述べています。
睡眠、運動、リラックスをすること。

身もふたもない。

最後に私見

繰り返しますが、エルゴノミクス製品と生産性に関しては、研究がほとんどありません。
私見になりますが、「慣れた」環境が結局の所、生産性の向上(というか維持)には効果的と考えます。

一般的に普及しているスタンダードなキーボード、マウス、デスク、チェア。
オフィスにおける生産性投資に関しては、そういったもので十分であると考えられ、かつスタンダードなものはコストを明確に抑えられます。

現在の人不足からくる採用難対策として、ハイセンスでクリエイティビティのあるオフィスにすることは一定有用かもしれませんが、オフィス・ファシリティにまで、過剰に持ち込む必要はなさそうです。

カテゴリー
IPO・バリュエーション

DCFは使えない~バリュエーションにおけるDCF法の限界、デメリット~

バリュエーションにおいてよく使われる手法として「マルチプル」が存在します。
もう一つ、よく語られるものとして「DCF法」が存在しますが、IPOバリュエーションにおいて利用される比率は少ないです。
なぜ、DCF法は使われないのでしょうか?
DCF法の限界、デメリットについて解説していきます。
最後にDCFが有用となる場面についてもあわせて解説しています。

忙しい人向けまとめ

  • DCFは、将来キャッシュフローを元に企業の現在価値を算定する方法で、理論的には合理的
  • DCFは、非常に手間暇がかかるのと、前提が複雑かつ多すぎるので数字がぶれるため、あまり使われない
  • DCFは、「事後的な検証」や「バリュードライバーの検証と企業価値を高めるための目標設定」には有用

DCFとは

「DCF(Discounted Cash Flow)法」とは、企業が生み出す将来のキャッシュフローを予測し、それをベースに企業・事業のリスクに応じて設定する割引率で現在価値を計算する(ディスカウントする)形で企業価値を求める方法です。
(以下、DCF法のことを単純に「DCF」と記載します。)
一方、よく使われる別の手法に「マルチプル」とは、企業の規模や株価などから、既に企業価値が分かっている他企業との比較により、企業価値を求める方法です。類似企業比較法とも言います。

学術的、つまり理論的には、DCFは非常によくできている方法で、MBAなどビジネス・スクールにおいても、ファイナンスの講義において必ずDCFは登場していきます。
中には、DCFこそが企業価値評価における唯一性の高い万能な手法であると考える人もいるくらいの方法です(実際にいる)。
実際に算定していて、複雑なシミュレーションを要することもあり、この手法を使うことそのものに喜びを感じてしまう人もいます(実際にいる、なんかかっこいいしね)。

しかしながら、設備投資におけるプロジェクト・ファイナンスのような、比較的キャッシュフローを読みやすい状況や、同業同種におけるM&Aの際のバリュエーションに算定などを除いて、現実的には使用が難しいと言えます。

(参考)企業価値評価の方法

  • ネットアセット・アプローチ : B/S純資産をもとに算出。簿価純資産法、時価純資産法がある。
  • マーケット・アプローチ : 類似企業の株価や過去の評価事例を参考に算出。市場株価法、類似企業比較法(マルチプル)がある。
  • インカム・アプローチ : 将来のCFやPLの現在価値などに基づいて算出。DCF法、収益還元法がある。

なぜ、DCFは使えないのか?その限界、デメリット

では、学術的にDCFが支持されているし、実際に適用されている場面があるのに、なぜDCFは使えないのか?
その限界、デメリットについて解説していきます。

なお、先に補足を入れておくと、企業価値の算定自体が「未来予測である」点を指摘できるため、DCFに限らず、マルチプルも含め、絶対的な方法は存在しません。
人間の活動を将来にわたって予測しきることなど不可能な話ですので、当然に、この世に存在するありとあらゆる企業価値の算定の方法には、そもそもとして無理があります。
ですので、「DCFは現実的にバリュエーションに使えないよね」というスタンスに立ちながらも、その価値が一切ない、有用性0である、とは考えていません。

ただ、現実に、IPOにおけるバリュエーションではマイナーですし、各種ファンドでも「使ったことがない」という人が珍しくないのが現実です。

純粋に複雑なので手間暇がかかる

DCFは、将来キャッシュフローの算出と、現在価値を計算する上で必要となる割引率の算出が前提となります。
この将来キャッシュフローの算出にあたっては、事業計画をベースとするため、当然に事業計画を蓋然性の高い根拠でもって策定しなければなりません。
また、割引率の算出にあたっては、WACC(加重平均資本コスト)というものをベースとするため、もろもろのパラメータとなる各種資本コストなどを計算しなければなりません。
ここで登場するパラメータとして、時価ベース自己資本の価値、有利子負債の価値、税引前有利子負債資本コスト、実効税率、無リスク利子率、株式β値、株式市場全体資本コスト、といった変数が絡んできます。
更に、非上場企業の場合、投資リスクが上場企業よりも大きいであろうという理由で、「サイズプレミアム(小規模企業リスクプレミアム)」というものが加算されます。
非常に複雑で、もうわけがわかりません。

これだけの手間暇がかかるので、忙しい中、実務でどこまで使用できるでしょうか?
現実的に難しいと言えるでしょう。

変数が多いので数字がぶれる

次に、数字が大きくぶれる点があげられます。

上述の通り、事業計画をベースとする将来キャッシュフローと、多くの変数により成り立つ割引率によって計算されるため、各パラメータのおき方が及ぼす影響が非常に大きくなります。
また、DCFにおいて決定的に無理があるのが「ターミナルバリュー」です。

ターミナルバリューとは、事業が生み出す将来キャッシュフローの試算において、試算が現実的にできない期間以降について算出された永続価値のことです。
将来キャッシュフローが現実的に試算できない期間とは、例えば5年目以降とか、10年目以降です。

この計算においては「企業は永続して存続し、キャッシュフローを生み出し続ける」という前提があり、その前提でもって「永久成長率」を設定し、ターミナルバリューを計算することになります。
DCFでは、この永久成長率の数字によって、企業価値が非常に大きくぶれます。
そして、ターミナルバリューが企業価値の大半を占めるケースも散見されます。
つまり、多くのケースで、DCFで行ったバリュエーションは、マルチプルなどを利用したバリュエーションに比較して、高く企業価値が算定されてしまうのです。

確かに、企業が安定して成長し続けるのであれば、5年目以降とか、10年目以降の企業価値の方が、今目の前からその時点までの企業価値より高い場合も、それは当然にあるでしょう。
しかし、企業価値の大半が現時点では予測できない遠い未来の将来キャッシュフローで決まってしまう点に、純粋に疑問や違和感を持ってしまいます。

事業価値をベースとする将来キャッシュフロー、様々かつ複雑な変数により構成される割引率、企業が一定の割合で永久に成長し続けるという前提。
これによって起きる「企業価値の大半が現時点では予測できない遠い未来の将来キャッシュフローで決まってしまう」という現実。

これがDCFが決定的に使えない、限界がある、デメリットです。

確かにDCFは、理論的には正当であり、その「概念そのもの」は他の企業価値算定の手法に比較して合理性が高いと言えるでしょう。
しかし、現実問題として、上記であげた各種パラメータを正確に予測するのか?
これが誰にもわからないのです(どれだけDCF研究が進んだとしても、無理でしょう)。

DCFが有用な場面

これまで、DCFが使えない理由、その限界、デメリットについて解説していきました。
ここからは、ではDCFが有用となる場面について考えていきます。

まず、冒頭でも書いた、設備投資におけるプロジェクト・ファイナンスのような比較的キャッシュフローを読みやすい状況や、同業同種におけるM&Aの際のバリュエーションに算定などについては、比較的、精度高く未来予測ができるため、適用が十分にできます。

次に、考えられるのが「事後的な検証」です。
実際に事業を運営してみて時間が経過した時、すでに実績として出た各種パラメータを用いて、DCFで企業価値を算定してみるのです。
これにより、他の手法、例えばマルチプルで計算した結果の正当性や、逆に無理があった点を事後的に検証できます。
あくまでも事後の話にはなってしまうのですが、バリュエーションの精度をあげていく、という観点で考えれば、事後的な検証は有用と言えるでしょう。
(その意味で、DCFも計算しておいて、後々、その計算結果を検証することも有用かもしれません。リソースは奪われますが。)

また、企業価値をあげるための戦略立案に関しても有用と言えます。
長期間に渡り議論を重ねながら、企業における「バリュードライバー」は何か?「目標」をどのように設定していくか?を考えていくのです。
投資家は、ある単年度の利益に投資するのではなく、あくまでも将来に渡って得られる未来のキャッシュフロー、つまり「将来キャッシュフロー」に投資します。
このため、「将来キャッシュフロー」の設定や「永久成長率」の設定などの話は、企業価値を算定するためのものではなく、企業価値を実現していくための指標として捉えることができるのです。
資本主義の原理原則の観点で考えれば、DCFの「概念そのもの」は非常に合理性が高いのです。

カテゴリー
IPO・バリュエーション

サーキットブレーカーとは~新型ウイルス騒動はIPOにも影響~

サーキットブレーカー、ここ最近、よく聞くけど、、、

新型ウイルスの影響は世界経済に猛威を振るっており、世界的にリセッションが懸念されています。

3月9日に米ニューヨーク市場において15分間、3月12日に再発動、そして3月18日に主要株価指数「S&P500」が7%下落したため、取引を15分間停止する3度目のサーキットブレーカーが発動されました。
2週間以内で3度も発動する、異常事態に陥っています。
3月19日にはアジア株式市場が下落、フィリピン、インドネシア、韓国の各マーケットでサーキットブレーカーが発動しました。
アジアでも次々と取引の一次停止が起きています。
フィリピンではフィリピン証券取引所で15分間取引が中断、総合株価指数(.PSI)が24%下落、
インドネシアではジャカルタ総合指数が5%下げた後、6営業日で4回目のサーキットブレーカーが発動、
韓国では韓国総合株価指数(KOSPI)が8%以上の大暴落が起き、KOSPIとKOSDAQの両マーケットで20分間のサーキットブレーカーが発動されました。

(参考)リセッションとは

景気の後退局面のことを言います。

景気は拡張と後退を交互に繰り返しますが、拡張から後退に入るタイミング(景気の山と言う)と、そして後退期の底(景気の谷)の間、つまり景気が低迷し後退していく期間のことです。

多くの金融関係者が、新型ウイルスがリセッションの引き金を引いた、と発言しています。

それでは、サーキットブレーカーとは

「サーキットブレーカー」とは、先物市場やオプション市場などで相場が想定外の急激な変動を見せた場合、取引所によって行われる、取引の一時中断措置のことです。
相場の保険的な性格をもつ制度で、取引に参加するプレイヤーを安心させる効果があると共に、冷静な判断を促しマーケットの過熱感を鎮めるために行われます。

取引を一時中断(5分から15分位の冷却時間)した後、制限値幅を一定程度拡大し、中断は解除され取引が再開されます。
それでも価格の変動が激しい場合は、段階的に制限値幅が拡大されていきます。

取引が完全に中断するのではなく、一部の取引が中断される場合のサーキットブレーカーのことは「サイドカー」と言います。

付け加えると、価格の異常な変動を防ぐために、1日に変動する価格の範囲に制限を与える「値幅制限」もサーキットブレーカーの一つなのですが、各メディアにおけるサーキットブレーカーの用語の使われ方としては「取引の一時中断」のことになります。
値幅制限における、上限まで価格が上昇し取引が動かなくなることを「ストップ高」、逆に下限まで落ちた場合のことを「ストップ安」と言います。
先物市場がサーキットブレーカーによって一時中断しても、個別株は動き続けます。

サーキットブレーカーの制度は、米国の1987年におきたブラックマンデーをきっかけにニューヨーク証券取引所で取り入れられました。
東京証券取引所と大阪証券取引所では1994年から、東京工業品取引所では2009年から導入されました。

発動事例としては、2001年におきたアメリカ同時多発テロ、2008年のリーマンショック、2011年の東日本大震災、そして最近では2016年のイギリスのEU離脱における混乱で、日経平均株価が急落した際に日経平均先物(大阪取引所)でサーキットブレーカーが発動しました。

IPOにも影響

マーケットの乱高下(今回の場合は暴落の方向性)は投資家に不安を招きます。
それはIPOにも大きく影響を与えます。

直近のIPOにおいて初値が公開価格を下回るケースが相次ぎ、IPOを中止する企業も出始めている状況です。
3月18日にIPOをよていしていたファストフィットネスジャパンをはじめ、既に3月に入ってから6社が新規上場を見送っています。
予定通りIPOを行った企業においても、公開価格を上回る水準で取引がなされているのはわずか1社のみです(執筆時点)。
これは当然、日本に限らずのことで、アメリカや中国をはじめ、世界中でIPOを中止する企業が相次いでいます。

東京証券取引所は、新型ウイルスの影響で一時的に業績が悪化している場合には、審査場でもそれを勘案するという、収益性の判断を柔軟にする方針を発表しています。
あわせて、上場承認とならなかった場合において、再審査料を免除することも決定しています。
この東京証券取引所の特別措置は非常に良いものだとは思うのですが、企業の事業計画に与える影響をフォローしきることはできません。

景気自体も後退し、消費が落ち込む中、企業経営上、厳しい状況の会社も多いでしょう。
その中でのIPO中止は、企業の資金計画に大きなインパクトをもたらします。
新型ウイルスによる影響は、ここから半年は最低でも続くと予想でき、IPOの数が回復するのも半年はかかるでしょう。

この期間、如何に業績を維持し、資金を確保していくか、ジャンプアップのための力を溜めるか、正念場です。

カテゴリー
経営企画

科学的とは何か?その意味と重要性は?

「科学的」と聞くと、苦手意識をもってしまう方が多いかもしれません。
しかし、科学的であることは重要で、逆に非科学的な態度がもたらす危険性は非常に大きいものです。
そして、科学的な態度は、実は簡単なエッセンスで会得できます。

本サイトも、可能な限り多くの情報を収集し、多角的に検証する、科学的なアプローチでもって、ブログ記事を執筆しています。

科学的とは何か?

科学とは「再現性のあること」を指します。
これまで学校で習ってきた「理科」や「化学」「物理学」のような話ではなく、より普遍性の高い意味での「科学」について言及しています。

では、科学的とは何か?
難しく書くと、物事を調査し、その調査結果を整理し、新たな知見を導き出す、そしての知見の正しさを立証するまでの一連の手続きのことを「科学的」と表現します。

最初にある現象を観察した人が、他の人たちにもその現象を観察してもらい、同じ結果が確かめられたとき、はじめてその現象は「確からしい」と見なされます。
つまり、どこかの誰か一人が、「これは正しい」と主張しても、(その時点で十分なデータを持っていても)「正しい」とは言えません。
複数の人の検証が入り、認められることにより「科学的に正しい」と言える状態になります。
(その複数人の人が全員間違っている場合もある。そのため、常に科学の事実はアップデートされ続けている。)

ではここで、複数の人たちによって検証されるにあたり、何が重要となるでしょうか?
それは、です。
ある現象が再現され、正しく確認される。仮説を構築し、数字や数式による定量的な評価が行われる。
こういった客観的な議論を行うための大前提が根拠です。
そして、再現・検証により、より多くの根拠が積みあがっていくことによって、人の知見は蓄積されていき、科学を発展させてきたのです。

科学は印象や直感を極力排除し、可能な限り客観的に現象を捉えようとするからこそ、有用と言えます。

非科学的なことのデメリット

それでは、科学を避けること、非科学的な態度によって起きるデメリットは何でしょうか?

それは端的に言うと、真実ではない情報に踊らされ、意思決定を誤らせてしまうことにあります。

こちらの記事でも書きましたが、認知能力に問題がある場合、人はフェイク/デマに踊らされ、たとえ初期のフェイク/デマの発信者がごく少数であっても、現代社会の構造上、非常に早く、しかも多数の集団行動をゆがめやすくしてしまいます。

実際、非科学的な態度で混乱をしている人を大勢見るはずです。
原発問題であったり、自然災害、そして直近のウイルス騒動もそうです。
非科学的な態度は、自分自身の人生にダメージを与えうる危険性があるのです。

これはビジネスを進める上でも障害が起きえることを意味します。
現代社会は膨大な情報が存在しており、その中身は正誤と玉石が入り交じっている状態です。
適切なデータを正しく抽出し、取り扱わなければ、その意思決定は誤り、ビジネスの成功が遠ざかっていくでしょう。

重要でないことや論理的に正しくないことに人とお金と時間を投下し、業績が伸び悩んでいる会社などいくらでも見たことがあるはずです。
印象や好みで人を評価し、本当はい続けて欲しかったはずの貴重な人財が離職してしまった場面も、いくらでも見たことがあるはずです。
多くの場合、理性でものごとを考えず、感情でものごとを決めていった結果、つまり非科学的な態度がもたらした結果です。

ただ、科学的であることを避けてしまう心理は理解ができます。
純粋に「考えること」は面倒くさいものです。
また、学生時代に「数学」や「化学」「物理学」などに対して、苦手意識を持っていた人は多いのではないでしょうか。

科学的であることは、決して難しいものではありません。
人生のどこで使うのかわからない公式や記号を覚える必要はありません。
ちょっとした心構えだけで十分です。

科学的な態度のための心構え

では、そのちょっとした心構えとは何でしょうか?
そのエッセンスは次の7箇条です。

  • 科学に対する拒否感を克服する意思を持つ
  • ものごとを数字で捉える
  • 数字の単位は確認する(単位の意味がわからなければ調べるか質問する)
  • 情報はよくその中身を調べる
  • 限られた少ない情報だけで、ものごとを判断しない
  • 印象や好みで決めつけない
  • ありとあらゆるものごとを疑い、常に「本当にそうなのか?」と考える

書いてみたら、言うほど「ちょっとした」印象ではないですね。
しかし、この姿勢は非常に重要です。

繰り返し書きますが、非科学的な態度がもたらす危険性は深刻です。
日常生活ならまだ良いですが、ビジネスの重要な意思決定の局面ではどうでしょうか?
ミッション・ビジョンの達成のためならば、科学的な態度の会得は容易なはずです。

カテゴリー
IPO・バリュエーション

バリュエーションにおけるプレとポストとは?

バリュエーションにおける用語で「プレ」と「ポスト」という言葉が出てきます。
わかっている人同士では何気なく使いますが、わかっていない人にしてみれば、不可解な用語でしょう。
ここでは、バリュエーションにおけるプレとポストについて解説していきます。

バリュエーションとは?

まず、バリュエーションとは、ある企業にどれくらいの価値があるのかを示した数値のことで、つまりは時価総額のことを意味します。
時価総額が高ければ高いほど価値のある企業、という理解になります。

企業のバリュエーションは次の式で計算できます。

バリュエーション(時価総額) = 発行済株式総数 × 一株あたり株価(発行価格)

これは、非公開会社(未上場企業)であろうと、上場企業であろうと、基本的には変わりません。
上場企業の場合は、株価が明確にあるため、発行済株式数に株価をかければバリュエーションが求められます。
上場企業においては、取引所が開いている時間において、株価は常に変動しますが、非公開会社(未上場企業)においてはそうはなりません。
ある調達ラウンドを終えた場合、次の調達ラウンドが行われるまで、バリュエーションは動きません。

プレとポスト

ベンチャーファイナンスの調達ラウンド(バリュエーションタームと言う)において使う用語に「プレ」と「ポスト」という言葉があります。

プレはプレマネーバリュエーション(Pre Money Valuation)の略、
ポストはポストマネーバリュエーション(Post Money Valuation)の略となります。

それぞれ、プレバリューやポストバリュー、ないしは何度も使っているように、単純にプレとかポストのように呼ばれます。

ここでは長いので、プレ、ポストと呼びます。

プレとは

プレとは資金調達前の企業価値、つまり新規投資がなされる前の時価総額のことを指します。
(企業価値と時価総額の違いについては、ここでは端折ります。)

上記で、バリュエーションの計算式を次のように示しました。

バリュエーション(時価総額) = 発行済株式総数 × 一株あたり株価(発行価格)

この計算方法はプレの計算方法となります。

そして、一般的にバリュエーションのという言葉を使う際は、プレのことを指します。
用語の使い方が曖昧なシチュエーションにおいては、「今の数字はプレ?それともポスト?」なんて会話が出てきます。

じゃあ、なんで一般的にバリュエーションはプレのことをさすのかというと、それは企業の現在価値をもって、投資家といくら調達するのかを交渉するからです。
企業の現在価値は、DCFやマルチプルを用いて算定しますが、この算定基礎となるのが事業計画です。
事業計画は資金調達前のものになるので、それを元に算定した企業の現在価値は、プレのことをさす形になります。

ポストとは

プレが資金調達前の企業価値のことをさすのに対し、ポストは資金調達後、つまりは新規増資により、新しいお金が入った後の企業価値のことを指します。

ここでプレとポストの関係を整理すると、下記のようになります。

プレ + 新規調達額 = ポスト

プレ = 発行済株式総数 × 一株あたり株価(発行価格)

繰り返しますが、調達ラウンドにおいて、企業が投資家と交渉をするベースはプレになります。
上述の通り、DCFやマルチプルで算定した企業価値を、投資前の発行済株式総数で割ることにより、一株当たり株価、つまり「発行価格(引受価格)」が決まります。

なお、ここでの発行済株式総数ですが、潜在株式(ストックオプションですね)全ての希釈化と、種類株式すべてが普通株式に転換した前提で計算します。

整理すると、次の計算式になります。

プレ = 希釈化後発行済株式総数 × 一株あたり株価(発行価格/投資時の引受価格)

計算例

例として、下記の条件でプレとポストを計算してみます。

プレ:50億円
発行済株式総数:10,000株
経営メンバーの持株比率:50%(5,000株)

引受価格 = 50億円 ÷ 10,000株 = 500,000円/株

調達額:10億円

新規の発行株式数 = 10億円 ÷ 500,000円/株 = 2,000株

ポスト:60億円
発行済株式総数:12,000株
経営メンバーの持株比率:41.7%(5,000株)

こうして考えると、結構簡単と感じるでしょう。

カテゴリー
生産性・業務効率化

ゲームは悪影響をおよぼすのか?~ゲーム依存は非科学で、本当は頭が良くなる~

「ネット・ゲーム依存症対策条例」が話題になっています。
ゲームで遊ぶと依存症になってしまい良くないよね、というのが理由の条例です。
これに対して、この論拠が非科学であること、そしてゲームで遊ぶと実は頭が良くなること、について解説していきます。

忙しい人向けまとめ

  • ゲームによって依存症になることはほぼない(ついでにゲームによって暴力的になることもない)
  • ゲームは認知機能(IQ的なもの)を向上させる
  • ゲームはモラルやチームワークなど、社会性を向上させる

ゲームの何がいけないのか?~条例の根拠~

香川県で「ネット・ゲーム依存症対策条例」が可決された、というニュースは既に多くの方がご存じかと思います。
内容としては、18歳未満を対象に、ゲームの利用時間を1日60分まで、休日は90分までとし、スマートフォンは中学生以下が21時まで、それ以外は22時までとする目安を設け、家庭内でのルール作りを促すものです。
学習目的での利用については制限はありません。
条例違反に対する罰則規定はありません。

これ自体に関しては、選挙によって選ばれた方々によって構成された県議会が審議の上で決定したことなので、口をはさむ立場にないと考えています。
考えてはいますが、それはそれ、これはこれで、やはりこのサイトのポリシーからすると「科学的にはどうなのか?」については言及するべきだとも考え、本稿を執筆した次第です。

さて、ポジショントークとなってしまう可能性もあるので、ニュートラルに私自身について告白をすると、私はまあまあなゲーマーでした。
今でこそ、仕事が忙しいのでほとんどゲームをやる時間がなく、あまり手を付けられていないのですが、学生時代はかなりの時間的リソースをゲームに投入していました。
ですので、以下は、ポジショントークとかもしれない、という前提で読んでいただければと思います。

さて、当該条例のパブコメを読む限り、条例名の通り、「依存症」がいけないよね、ということで制定された条例です。
ここのリンクで、パブコメを一通り読めます。
ニュートラルに事実を記載すると、パブコメで提示された全2,686の意見者数の内、賛成が2,269、反対が401、提言等その他が16と、実に約84%が賛成となっています。
(一部報道で「賛成票」という書き方が見受けられますが、パブコメは別に投票では無いので、「票」という書き方はどうなんでしょうね?)
パブコメ内では賛成意見と反対意見に関して、その意見の概要がまとめられており、見てみると、賛成意見はPDF「1ページ」、反対意見はPDF「80ページ」となっています。
つまり、ニュートラルに事実だけを提示するのならば、意見者のうち約84%が賛成の立場であり、賛成意見は全体意見のうち約1%ほどのボリュームという内訳になります。

さて、次に「依存症」部分に関して、考えていきます。

依存症に関しての検証

もろもろ調査をした結果、こちらのサイトがよくまとまっていました。
ただ、こちらのサイトもニュートラルに、サイトの性質的にポジショントークであるかもしれないことは、前提として読むのが良いでしょう。

まず、基本的にゲーム依存になる人の割合は少なく、約91%の人はゲームをしても全く問題がなかったとされています。
純粋にゲームよって依存症になってしまった割合は、約1.7%と、全体の一部であること、また仮に依存性が見られたとしても自然治癒する人がほとんどであることも言及されています。

国別にも影響度が異なり、社会環境など、別の要因の可能性が高く示唆されます。
つまり、「他に依存できる対象が多い」と、その他の対象に依存する可能性が高いということです。

また、香川県が論拠とした科学研究についても異議が出ており、例えば病気としての取扱い(IDC-11上では、あくまでも「状態」であり、「病気」とは定義していない)や、ドーパミン仮説(楽しいことをしていればドーパミンが放出されるのは当たり前であり、これはゲームに限らない)について、反証が出されています。

その他諸々、規制の論拠に対して、一つ一つ反証がでています。
そして、ゲームに依存してしまう人は、ゲームが規制されたとして、別のことに依存するだけでは?とし、「依存症」という観点において、規制での対処は難しいと結論付けています。

ゲームは人の脳機能を向上させる!

さて、これまで規制に関する話と、依存に関する、ネガティブよりな話をしてきました。
それでは、ゲームにはポジティブな効果は全く無いのでしょうか?

実はあり、各種の研究が人の脳機能を向上させるとしています。

例えばこちら、ニューメキシコ州にある研究所Mind Research Networkの研究によると、ゲーム(テトリス)をすると脳の一部が厚くなり、またその活動効率も向上したとしています。
「知的活動」が実際に脳の構造に影響を与え、認知機能も向上したのです。
(ただ、こちらに関しては「ゲームに対する習熟が脳の構造に反映されただけ」とも読み取れることは留意。)

こちらはゲームではなく、インターネットそのものですが、カリフォルニア大学の研究によると、インターネットを使用すると、脳の活動が活発になり、特に中高年において認知機能の改善に役立つかもしれない、としています。
理由としては、読書などの知的活動は「インプットだけ」ですが、インターネットは自ら検索する行為や、「どこをクリックするのか?」という判断もあるため、脳を使う機会が多いから、とされています。
ロジックとしては非常に頷けます。

IQ的側面だけでなく、社会性に関してもプラス効果があるという研究もあります。
英ボーンマス大学の研究によると、日常的に多様なゲームをする人は、そうでない人に比較し、モラルが高いのでは?という結果を示しています(より正確に言うと、モラルが高い行為を判断する能力が高いという結果)。
道徳的な観点における正誤を問うアンケート調査において、ゲームをする人のスコアが一様に高かったと言うのです。
また、同調査において、ゲームがチームワークを促進する効果についても示唆しています。
近年のゲームは、インターネット上での運営である場合が多く、ゲーム内のギルドやフレンドなど、コミュニティが形成されます。
その結果、チームワークをはじめとする社会性の醸成につながるのでは、としています。

社会性だけでなく、判断力にもプラスの効果があるとされています。
米ロチェスター大学の研究によると、アクションゲームには、人の判断力を向上させる効果があることが示されています。
アクションゲームによる「トレーニング」を積んだ被験者は、そうでない被験者に比較して、判断力(スピードと正確性)を測るテストにおいて、25%ほどスピードが向上性、正確性についても損なわれなかったとのことです。
研究者は、ゲームは、ゲームそのもののスキルだけでなく、運転や道に迷わないなど、様々な場面で日常生活に役立つ可能性があると話しています。

さらに、いわゆる「障害」に関してもプラスの効果があるという研究があります。
米カリフォルニア大学の研究によると、ゲームで遊ぶことにより、認知機能が改善し、障害が和らいだとしています。
ゲーム自体が障害の治療となる劇的な効果は無いにせよ、認知障害への対応のオプションになる可能性が示唆されているのです。

これらの研究はほんの一部です。
ゲームにより、純粋に脳のスペックが向上し、社会性も身に着けられ、場合によっては障害が和らぐ効果もある。
ゲームによるプラスの効果、ポジティブな効能がこれだけ示されているのです。

繰り返しますが、本稿は「ポジショントークかもしれない」というは前提においておいてください。
それがニュートラルだと思います。
しかしそれでも、研究を収集する限りはポジティブな効果に関するものが多いことは言及します。

(参考)ゲームは人を狂暴にするのか?

今回の条例では話題にあがっていませんが、「ゲームは人を狂暴にし、暴力的にする」という意見もあります。
これはどうなのでしょうか?と言うと、結論確かな根拠はありません。

アメリカ心理学会によると、暴力的なゲームと、現実世界における暴力行為には因果関係がない、科学的な証拠は不十分、としています。

英ヨーク大学の研究においても、ゲームで遊ぶことが、暴力的になることに関して、つながりはない、と明確に否定しています。

これらも多くの研究の、ほんの一部ですが、非常に多くの研究が、ゲームと人の狂暴性に関して、明確に否定する立場をとっています。

カテゴリー
IPO・バリュエーション

適正なバリュエーションを考える上で重要なこと

スタートアップ/ベンチャー企業が資金調達を行う上で避けて通れないのが「バリュエーション」です。
「高いバリュエーション」には分かりやすいメリットがある一方、デメリットもあり、このデメリットは顕在化した時に、想像以上に企業と経営者を苦しめます。
ここでは、適正なバリュエーションを考える上で重要なことを、多くの経営者が狙う「高いバリュエーション」の功罪の観点で解説していきます。

バリュエーションを高くすることのメリット

わかりやすいメリットの1つが「ダイリューション」を抑えられること、併せて相対的に多くの資金を調達できることにあります。

ダイリューションとは、「希薄化」という意味で、新株を発行するなどして、発行済み株式総数が増加すると、相対的に一株当たりの価値が低下します。
スタートアップ/ベンチャーにおいて気にしなくてはいけないのが、外部からの出資が大きいと、創業者の持株比率が少なくなってしまう点です。
持株比率が減ってしまうと、株主総会における議決権の割合が低下するため、経営をコントロールできなくなる可能性があります。

(ただし、こちらの記事でも触れましたが、経営のコントロール権は、あくまでも実績で得るのが本質なはず、という点は留意していただきたいです。本稿では、あくまでも純粋なメリット・デメリットとしてダイリューションに関して話をしています。)

また、ダイリューションが過度におきると他にもいくつか障害が起きえます。
創業経営者の心理的なもの(モチベーション)に影響が出る場合もありますし、その点を懸念して新規の資金調達のハードルが上がる場合もあります。
(スタートアップ/ベンチャーが成功する要因の一つに、創業経営者の「やる気」もあるため、そこが削がれることを投資家は気にする。)
また、スタートアップ/ベンチャーの大きな登竜門である「IPO」への障害になる場合もあります。
資本政策の段階ですでにIPOが失敗していた、という話は決して珍しくはありません。

つまり、このダイリューションを抑えられることは、バリュエーションを高くすることのわかりやすいメリットと言えるのです。

他には、バリュエーションがあがっていくことは、その時のモメンタム(速度感、勢い感などをボヤっと表現した用語)があるため、周囲から「イケてる感」を受けやすくなり、それによって資金や人が集まりやすくなる傾向もあります。
つまり、モメンタムがあることで、事業が成功しやすくなる場合もあります。

バリュエーションを高くすることのデメリット

デメリットとしては資本政策の硬直性が増すことにより、次の選択肢を狭めてしまう、もしくはハードルをあげてしまうことがあげられます。

まず、純粋に次の資金調達、「ラウンド」が難しくなります。
会社が常に右肩あがりに伸び続けているのならば良いのですが、そうそう都合よくは推移しないものです。
仮に事業そのものは順調に推移し、投資家の期待値を上回る、つまりバリュエーションを行う際においたマイルスストンをクリアし続けていったとしても、市況の変化、何かしらの不況によって自分たちのコントロール外の所でハードルがあがってしまうことも十分に考えられます。
そしてこれは、今現在のウイルス騒動により、多くのスタートアップ/ベンチャーが直面していることと思います。

資金が厳しい状況下においては、場合によってはフラットラウンドやダウンラウンドでもありがたい場合はありますが、既存の投資家がOKとしない場合や、新規の投資家が躊躇(遠慮とか諸々)して、そもそもラウンドに乗ってこない場合などは、決して珍しい話ではありません。
(議決権を3分の2以上グリップしていても、これまでリードインベスターを張ってくれた投資家が「ここで強硬するなら、二度と自分達はリードはやらない」なんて言われたら、現実的に強硬することを躊躇するのは創業経営者の立場として、おかしくない話です。「それなら新しいリードを探すだけ」というマッチョイムズも悪くはないですが。)

次にモメンタムの維持、より適切に表現すると期待値コントロールが難しくなります。
仮にバリュエーションがフラットラウンドやダウンラウンドとなった場合、これはわかりやすく周囲に対して「失速した」と受け止められます。
上述の通り、わかりやすく資金調達の難易度が高まるため、資金の面だけでも経営の局面は厳しくなります。
期待値を過度に高めることによって、様々な意思決定に現実的な制約や、心理的な制約がかかり、身動きがしづらくなってしまうこともあります。
また、これが資金調達などの話だけならば、まだ良いのですが(良くはない)、「失速」つまりモメンタムの毀損は、あらゆる所で負のスパイラルを生みます。

スタートアップ/ベンチャーは勢いがあるからこそ、ヒトモノカネが集まりやすいことは忘れてはいけないでしょう。
負のスパイラルに巻き込まれたスタートアップ/ベンチャーの惨状は、想像以上に厳しいものです。
落ち目の状況で待ち受けるのは、倒産か、最悪「リビングデッド」化することです。
なぜ、「リビングデッド」を最悪と表現したのか?

こちらの記事でも書きましたが、会社は、創業者と創業メンバーが「世の中に変革を起こしたい」からこそ創業したもので、つまりミッション・ビジョンが存在します。
「生存のため」だけに、経営の舵を切った結果として、これまで積み上げてきたものを失っては何が残るのでしょうか?
リビングデッド」と化した企業は、もはやスタートアップ/ベンチャーではなく、ただの中小企業です。
そのスタートアップ/ベンチャーとしての存在意義は失われたと考えた方が良いでしょう。
つまり、様々なネガティブサイクルに巻き込まれた場合、想像以上の悪影響をまき散らすのです。

最後に、イグジットへの悪影響にも触れておきます。
この場合のイグジットは株式を手放すこと(売却)による、会社の売却のことです。
高いバリュエーションは、上述の通り、投資家たちの期待値を高めてしまうため、創業経営者が、もういい加減会社を手放したい、と思っても都合よくことが運ばない状況が考えられるのです。

バリュエーションに関してのバランス感覚

ここで改めてそもそもの話をしてしまうと、バリュエーションが高かった、低かった、という話は将来、蓋をあけてみてようやくわかるものです。
しかし、実際のバリュエーションの場面では、高いよね、低いよね、という感覚値的な話で語られます。
ですので絶対的な話では無いのは確かなのですが、このバリュエーションの話をする場面においては、最終的な決断をどうするかはともかく、「バランス感覚」は持った方が良いと考えます。

上述の通り、バリュエーションを高める事は、資本政策の硬直性を生み、次の選択肢を狭めるか、ハードルをあげてしまいます。
言い換えると、将来の自由と引き換えに、資金を得る、という意思決定で良いのか?(別に間違ってはいない)という話です。

フラットラウンドやダウンラウンドにより起きる負のスパイラルの影響は想像以上に厳しく、それが起きた場合に、これを乗り切る経営の胆力は相当なものになってしまいます(別の側面で言うと、これは一つのプラス効果とも言えるが)。
長期的な視点で考える上で、モメンタムの維持の重要性は考慮すべきでしょう。

スタートアップ/ベンチャー業界は、一見既成概念に囚われない世界と思いがちですが、保守的でセオリーに厳しいです。
バリュエーションを適正に保つことは、資本効率を高め、トラフィックを良くします。
無茶な調達にもならないので、ラウンドもスケジュール通りに運びやすく、社内がバタつくことも抑えられます。
マネジメントコストも低く保てます。
トータルとしてのバランス感覚を持ち合わせておくことは、長期的な成功確率を高めていくと考えます。

とは言え

ただ、これまでの話は、ラチェットなどの既存投資家を保護する条項をいれた優先株の契約でカバーができます。
一方、ダイリューションしてしまった場合、現実的にカバーすることは不可能です。
経営の意思決定は、ようはどんなリスクをとって、逆にどんなリスクをとらないのか?という話に落ち着きます。

ダウンラウンドによって発生する負のスパイラルは、極論、経営の胆力でなんとでもなります。
バリュエーションが高い低いの話は、つまるところ事業計画のおき方と、計画の達成度合いの話です。
これまでにない新しい何かを生み出そうとしているスタートアップ/ベンチャーが、常識的で蓋然性の高い考え方だけで、そのミッション・ビジョンを達成できるのでしょうか?

上述した通り、スタートアップ/ベンチャーが最も恐れるべきことは「リビングデッド」化(のはず)です。
(そしてこれは、「高いバリュエーション」によって起きやすくなるが、繰り返すが、極論、経営の胆力でなんとでもなる。)
バランス感覚は持ちつつも、やはり「高いバリュエーションを狙っていくこと」それ自体は一つの正義と言えるでしょう。

カテゴリー
生産性・業務効率化

睡眠の質を改善する入浴の温度とタイミング

忙しい働く人にとって、睡眠は貴重な時間です。
しかしながら、日中の慌ただしさや日々のストレスで中々寝付けない、という人も珍しくはありません。
ここでは、睡眠の質を改善する方法について、「入浴」の観点で解説します。

先に結論

就寝前に次の条件で入浴をすると、睡眠の質が改善するそうです。

  • 就寝時刻の1~2時間前
  • 約40~42.5度

具体的な効果としては、実際に眠りに入るまでの時間(入眠までの時間)が約36%(約10分間)早くなる、つまり寝付きの改善効果があるとのことです。
これは、お風呂につかるのでもシャワーでもよく、身体を十分に温めることが重要とのこと。

具体的な研究内容

今回の研究はかなり精度が高いものです。
米テキサス大学が行ったメタアナリシスで、先行研究5,000件超の研究を再検討、分析が行われました。

メタアナリシスとは、複数の研究結果を統合的に検討、分析を行う研究方法で、その証拠(科学的根拠、エビデンス)としての強さは、非常に高い方法に分類されます。
当サイトの記事についても、このメタアナリシスの手法を参考に、複数の研究や報告を横断的にレビューした上で執筆し、極力質の高い情報となるように努めています。
なお、メタアナリシスはあくまでも過去の複数の研究を統合的に分析する手法なので、新たな技術や観点でもって行われた最新の研究を組み込めば、異なる結論となることは多々ありえます。
つまり、メタアナリシスだからと言って、必ずしも科学的に「完全に」証明されたとは言い切れないことは留意ください。

さて、今回の研究は、5,322件の研究(入眠、目覚め、睡眠時間、睡眠の質など)について検討が行われました。
その結果、就寝1~2時間前、約40~42.5度の入浴(PBH)により、入眠までの時間が10分間改善される、という報告が示されました。
これはあくまでも統計的な分析によるものであり、より最適なタイミングや時間、効果のメカニズムなどは、追加の調査が必要とのことです。

これまでの知見からは、身体をあたため、血行を良くすることにより血液が循環し、皮膚から熱が放出される、つまり結論として体温が低下することにより、身体が「眠るモード」に移行しやすくなるのでは、と推測されます。

寝る前の具体的な行動

こちらの記事では、ブルーライト、より正確に言うと就寝前の強い光そのものが睡眠の質を下げる点について記載しています。

こちらの記事では、「皿洗い」にリラックス効果がある点について記載しています。

こういった知見を踏まえると、夕食後、「皿洗い」などの家事を終え、睡眠前の1~2時間前に「入浴」し、その後寝るまでは輝度(光の強さ)を落とした照明環境でリラックス(読書など)をするのが、睡眠の質を改善する方法と言えるでしょう。

カテゴリー
マネジメント・リーダーシップ

経営危機のリーダー~非常時・緊急時のリーダーシップのあり方~

今回の新型ウイルスが引き起こしたパニックは、実際の科学的な脅威度を超えて、世界中で猛威を振るっています。
景気停滞による経済危機です。
すでに倒産の報をいくつもきくこの状況、リーダーはどのように振る舞うべきでしょうか?

リーダーシップとは

書店のビジネス書コーナーをのぞけば、必ず陳列されているテーマがあります。
それは「リーダーシップ」です。

リーダーシップ論は古代ギリシャの時代から語られている歴史の長いテーマです。
ビジネスの現場に限らず、人間が2人以上集まって何かをしようと思ったとき、自覚・無自覚関わらず、リーダーシップは避けて通れない話だからです。
また、時代やその時々の状況によっても捉え方やその姿が変わるものです。
孫子はリーダーシップを「智信仁勇厳をそなえること」、「戦争論」のクラウゼヴィッツは「知性と情熱を兼ねる高度な精神を持つこと」と、ドラッカーは「組織の使命を考え抜き、それを目に見える形で明確に確立すること」と定義づけました。
このように、歴史や人のうつろいと共に、言葉やあり方を変えながら様々に議論されてきました。

現代のリーダーシップ論では、具体的なビジネスの現場や環境変化に対応する「適材適所」という観点でのリーダーシップが研究されています。
ようは「時代や状況の変化への対応力」としてのリーダーシップです。

そしてその「状況の変化」の一つが非常時に会社が経営危機に陥った時のリーダーシップで、今回はこの「経営危機のリーダー」がテーマです。

コロナ関連の倒産が急増している、今は平時ではなく戦時である

TDBが公表している下記の資料の通り、すでに倒産の報を出している企業が多数でています(3月11日現在)。

2020年3月11日13時現在で判明している新型コロナウイルスの影響を受けた倒産(法的整理または事業停止)は、全国に8件あることが判明。法的整理が5件、事業停止が3件
エリア別に見ると「近畿」が3件で最多。「北海道」「東北」「北陸」「中部」「中国」がそれぞれ1件
どのケースももともと経営難、厳しい経営環境に置かれていた共通点があり、新型コロナウイルスが追い打ちをかけ法的整理・事業停止に踏み切っている。今後は、エリア拡大や新型コロナウイルスが主要因となる倒産、連鎖倒産の発生が懸念される

TDBリリースより

これは、一部であると思われ実際はもっと多く、そして参照記事にもある通り、これからも発生していくものと思われます。
すぐには倒産とまではいかなくとも、すでに実態として経営に影響が出ている企業も多いでしょう。
私が関与する企業においても、影響がではじめており、事業計画の修正対応を検討しています。

つまり、今現在は平時ではなく戦時、非常時であり緊急時です。
リーダーシップのあり方も、これに対応して変化をつけなければいけません。

経営危機のリーダー

特に日本においてそうなのですが、組織のトップは、大勢の意思を尊重し、異なる意見を調整するやくわり、いわゆる「調整型」のリーダーが多いという印象をうけます。
もしくは、とくに公的機関で多いお飾りとしてのトップであったり、伸びない中小企業における極端なワンマン。
こういったリーダーでも通常時、平時には問題が起きません(より正確にいうと問題が顕在化しません)。

しかしながら戦時、非常時はそうはいきません。
リアルに経営危機に陥っているか、陥るリスクがある状況では、判断を誤ればすぐに倒産してしまうからです。
経営危機の状況では、多少の摩擦も恐れず、思い切った決断と行動ができるリーダーが必要です。
自分自身の保身や既得権益の保護のためではない、危機を乗り切るための、会社にとっての「安全第一」を真にやり切れるリーダーが必要なのです。

そのようなリーダーがもつべき指針は次の5つであると考えます。

  • ミッション,ビジョンをぶらさない
  • メンバーを安心させ鼓舞する
  • 危機の最前線に立つ
  • 限られたチャンスに喰らいつく
  • 未来に向けてやれることをやる

¶ ミッション,ビジョンをぶらさない

会社は、創業者と創業メンバーが「世の中に変革を起こしたい」からこそ創業したもので、つまりミッション・ビジョンが存在します。
どのような危機にあたってもこのミッション・ビジョンはぶらしてはいけません。

「生存のため」だけに、経営の舵を切った結果として、これまで事業を支えてくれた顧客・取引先が離れてしまっては、後に何が残るでしょうか?
ミッション・ビジョンに共感をしてジョインしてくれたメンバーたちが去ってしまっては、どのようにミッション・ビジョンを達成していくのでしょうか?

ミッション・ビジョンは、会社経営における中心軸であり、同時に絶対軸です。
そもそもとして、ここをぶらしてしまっては、会社自体が存続する意義が無い、つまり危機を乗り越える必要性が無い、と考えましょう。

¶ メンバーを安心させ鼓舞する

ヤバイ、大変だ、危機だ、倒産する、そう喚くのは簡単なことです。
ただ、それではメンバーたちは不安に思わせるだけです。
リーダーはメンバーを安心させ、鼓舞するものです。

この時に必要なことは、

  • 何が起きているのかという客観的な事実の説明
  • これからどうしていくのかという明確な方針の説明
  • そしてみんなの力が必要だという真摯な助力の要請

この3つです。
何が起きているかを知れれば、メンバーは自分達で何ができるかを考えるでしょう。
会社の方針を明確に知れれば、メンバーは自分達でできることやるべきことを実行に移せるでしょう。
リーダーから誠実に助けを求められれば、一人一人が協力しあい、組織のために尽くせるでしょう。

「自分についてこい」というマッチョイムズも時には有効ですが、それ以上に、果敢にかつ誠実に、真摯に物事に向き合う姿勢が重要です。

¶ 危機の最前線に立つ

口だけ達者な、表面的に誠実なだけの人を、誰が信じるでしょうか?
経営の危機にあっては、リーダー自らが最前線に立ち、共に戦う同士であると、そうメンバーに思わせることが必要です。

人がリーダーに従う要件として、2つのことがあります。
それは、正当性と信頼感です。
この内、正当性は多くの場合与えられるものですが、信頼感は自ら勝ち得るものです。
そして危機時においては行動によってしか示せません。

ある食品メーカー、誰しもが知っているインスタント焼きそばの会社において、異物混入騒動がおきました。
初期対応のまずさもあって、商品回収、販売自粛、工場停止が何か月にも渡り続きました。
その際、社長は自らが現場に立ち、商品を回収し、取引先と顧客に謝り、メンバーたちと共に戦い続けました。
この結果として、騒動以前より信頼を得て、業績も大幅に回復する状況になりました。
これはほんの一例ですが、危機時におけるリーダーがとるべき行動の参考になるはずです。

¶ 限られたチャンスに喰らいつく

危機時は、顧客も、取引先も、メンバーたちも離れていってしまうものです。
今までできていたことができなくなり、リソースも減っていく。
絶望的な状況、とそう見えるはずです。

しかし、それだけではなく、光明がどこかにあるはずです。
経済社会において、いままで流れていたお金がとまった場合、必ずどこか別の場所に流れているか、単純に滞留しているだけのはずです。
視点を変えて、柔軟に取り組みを変える必要があります。

例えば、今回の騒動ですと、人々は外出を控え、自宅やオフィスの中での生活の比率が増えました。
そうなると、確かに今までオフラインでお店に来ていてくれた顧客は来てくれなくなります。
しかし、飲食店ならば宅配ができるはずです。
アパレルならばECの強化ができるはずです。
元々Webサービスを提供していた会社ならば急拡大のチャンスです。

社会全体を見れば、へこんだ所もあるならば、必ず伸びている所もあるはずで、そのようなチャンスがある場所を鋭敏に嗅ぎ分けるのもリーダーにとって必要なことでしょう。

¶ 未来に向けてやれることをやる

上述「限られたチャンスに喰らいつく」ともかぶりますが、危機時にはできることが限られるのが通常です。
今まで取り組めていたはずのことが、予算カットによりできなくなってしまうのです。
しかし、本当に何もできないのでしょうか?
そんなことは無いはずで、今までできていたことができなくなった分、逆にできていなかったことができるようになる可能性があります。

マーケティング部門を例に考えてみます。
マーケティング部門は予算があってなんぼの部門です。
現代社会における主流な手法であるWebマーケティング、これにはまあまあ多額な予算が必要です。
これがカットされては、地道なPR的な手法に限定されていて、そしてこれは大体のマーケッターは苦手としているものです。

では、何ができるでしょうか?
それは「過去のノウハウの再整理」です。
PDCAサイクル、というものがビジネスの現場ではよく使われますが、日々の忙しさを背景に、現実的にはPDPDサイクルになっている場合が多いでしょう。
活動が制限されるという状況は、この観点で見るとチャンスです。
今までのマーケティング活動の総整理を行い、これまでできていなかった分析に一気に取り組むのです。
そして、危機を乗り切った後のマーケティング活動に活かすのです。

このように、一度「しゃがむ」ことによって、次の「ジャンプ」への力を溜めるのです。
これは、今までできていたことができなくなったからこそ生まれた、新しい今できることです。
あくまでも未来を見据えて、今できることに取り組んで行きましょう。

まとめ

これまでのことを一言でまとめると「未来に向かって今できることを全力でやる」になります。
これが経営危機におけるリーダーシップです。

なお、本文では主に「経営者」やそれに準ずる幹部に向かって書いてきましたが、リーダーとは必ずしも「社長」や「部課長」しかなれないものではありません。
なぜならば、「役職は人から与えられるもの」ですが、「リーダーは自らなるもの」だからです。
つまり、一人一人が、誰しもがリーダーになれるのです。
(もっと言うと、人生においては「自分自身」こそが「経営者」であり「リーダー」であり、「主人公」のはず。)

状況に悲観せず冷静に捉え、行動は楽観的に果敢に。
一人一人がリーダーである組織が作れれば、必ず経営危機は乗り越えられるはずです。
そして、一人一人がリーダーである組織になるためには、やはり「経営者」自身が真のリーダーになる必要があります。

これまでも、今日も、そして明日からも、ミッション・ビジョンの達成のために、未来に向かってチャレンジしていきましょう。

モバイルバージョンを終了