経理の仕事がAIに奪われる、と言われて久しいですね。
現実はどうか、と言うと別にそんなことは無いのですが、それはそれとして、将来どうしていけば良いのだろうか?という悩みを持っている経理実務者は多いのではないでしょうか。
ここでは一流の経理の先、経理のキャリアについて考えてみます。
経理以外の人にとっても、経理の人がどういうキャリアに至るのか、参考になるかもしれません。
経理にはどのようなキャリアがあるか?
ここでは、少なくとも経理と言う仕事に関しては一通り理解している前提で話を進めます。
ある経理実務者がキャリアを積んだ先に行きつくのが、次の5つのパターンです。
- 専門性の追求
- オールラウンダー化
- CFOルート
- SEシフト(業務改善主体)
- M&Aプロフェッショナル
なお、この5つのパターンに上下はあまり無く、複数の領域に対応可能な方もいらっしゃいますし、会社の状況や個人の指向にあわせて横の移動を行う方も大勢いらっしゃいます。
ですので、どこかのパターンで着地してキャリアとしては終了、ということは無いことは認識ください。
それでは、各パターンについて解説していきます。
なお、本テキストは私個人の実務経験から語るもので、偏見も混じっているであろうことはご了承ください。
その意味で、転職系サイトとかに記載されている仕事の解説とは趣きが異なるものになるかと思います。
専門性の追求
まずはじめは専門性の追求です。
経理のキャリアのそのまま延長線上にある、深堀したルートです。
上場会社における経理部長がこのパターンで、会社規模によっては投資家コミュニケーションの責任者として役員になっている場合もあります。
経理実務を一通りマスターしているだけでなく、連結決算や適時開示等の実務に精通しています。
場合によっては外資系で海外経理にも対応できる方もいらっしゃいます。
定期的にデスマーチが到来し、長時間労働状態になります(決算対応)。
単純に実務を遂行するだけでなく、銀行や税務署、監査法人、東証、そして株主といった社外とのコミュニケーションが多く発生するポジションです。
相手の立場(要望)にあわせて、態度を適切に変えていく必要があり、その意味で高い社外コミュニケーション・スキルが要求されます。
もちろん、部長クラスにまであがるなら、他部署との折衝も必要なので、社内調整能力も必要です。
部下が数十人におよぶ場合も珍しくないので、高いマネジメント・スキルも必要です。
最新の会計制度や税制は、新人の方が詳しい場合も珍しくないので、継続して勉強するか、勢いのある若い方を御せるだけの人間力が求められます。
必要な能力
- 銀行折衝経験(銀行からの資金調達経験)
- 税務署との折衝経験(税務調査対応)
- 会社法、金融商品取引法の知識
- 連結決算(CF、セグメント、注記等含む)の実務経験
- 招集通知、決算短信、有価証券報告書等の作成経験
- 監査法人との折衝経験
- 東証との折衝経験
- 株式実務(印刷所対応含む)の経験
- 金融知識、機関投資家という存在への理解、個人の投資経験
- 部署としてのマネジメント・スキル
- 長時間労働耐性
オールラウンダー化
何でも屋ルートです。
経理を一定おさめると、数字の流れがわかってきます。
また、経理は全部署の会計データが集約されるが故に、会社全体のことにも詳しくなります。
加えて、経理は会社法や金融商品取引法といった、法律知識も要求されることから、レベルがあがればあがるほど、オールラウンダー化が自然と進んでいきます。
このオールラウンダー化を極めると、法務、人事、総務、IR、ITといった幅広い領域をカバーする、何でも屋が出来上がります。
表面的には何でもできるスーパーマンで、しかし個々の専門家には及ばない器用貧乏人材です。
大概のことには対応ができるので、出世が早かったりします。
上場企業における管理系役員がこのパターンですね。
変化対応力が高いが故に、ベンチャー企業でコーポレート系の部長クラスについている光景も見受けます。
実務には携わらず、しかし全体をコントロールするだけのマネジメント・スキルが要求されます。
Google検索能力を向上させる必要もあります。
まれにMBAをとっている人も、チラホラ見かけます。
必要な能力
- 弁護士と議論ができる水準での法律知識
- 社会保険、労働基準法、労務管理、人事面談コミュニケーションスキル
- 人事制度(人事制度、評価制度、報酬制度)の構築経験
- 採用オペレーション、採用面談コミュニケーション
- 金融知識、機関投資家という存在への理解、個人の投資経験
- 高いITリテラシー
- 部署としてのマネジメントスキル
- 板挟みになっても平気な精神力
CFOルート
次が、いわゆる“CFO”ルートです。
上記、オールラウンダー化から派生して、もっと小さいサイズでガリガリやりたくなった人が辿ります。
事業計画の策定やエクイティでの資金調達、IPOの推進で活躍します。
つまり、ここで言っている“CFO”とはベンチャー企業における管理系役員のことを指しています。
ベンチャー企業やマザーズの管理系役員ですね。
一方、ドベンチャー(スタートアップやシードステージ)には、あまりいない印象です(報酬水準的にも大体雇えない)。
企業価値評価(バリュエーション)や資本政策、VCコミュニケーション、証券会社との折衝などのハードな仕事が多いです。
ジョインするのがレイターステージの場合が珍しくなく、もらえるストック・オプションの価値が大したことが無い場合も珍しくありません。
そのため、仮に上場が成功しても、大して資産形成につながらない微妙に不遇なポジションです。
その影響か、世の中のお金には非常に詳しい癖に、自分自身の財産については無頓着な人間が意外に多いです。
加えて、転職が多く、渡り鳥気質がある方が珍しくありません。
IPOが成功して疲れると、オールラウンダー化にシフトすることが良くあります。
IPO成功までは、折れない精神力が求められます。
必要な能力
- 予算策定の実行経験
- ベンチャー・エクイティの知識と経験(VCコミュニケーション)
- IPO進行の知識と経験
- 社内調整力と計画推進力
- 折れない精神力
SEシフト(業務改善主体)
元々、事業系の方で、何かのきっかけで経理に携わることになった方で、このパターンを辿る場合があります。
経理という仕事は、多くの部署から情報を収集して業務を行います。
そして、その情報が出るスピードが遅い場合、現場に入って改善に手をつけなければいけない場面が珍しくありません。
つまり、経理を長くやっていると、業務改善が得意になる場合が珍しくないのです。
また、会計システムのメンテナンス対応を行ったり、業務改善にあわせて各種業務システムの導入を手伝う機会が多い関係上、自然とITリテラシーが高くなります。
こういった仕事と相性が良い場合に、SE領域にシフトする方が出てきます。
元々の出身が経理でない場合が多いからか、独立したり転職したりする人が多いです。
中小企業診断士の資格を持っている方もいらっしゃいます(なぜかMBAでは無い)。
転職の場合は、その転職先で経理や経営企画などをやりながら改善実務を主体に取り組んでいる場合が多いです。
必要な能力
- QC7つ道具(例)のような品質管理、業務改善手法の知識と実行経験
- 極めて高いITリテラシーを持っている場合がある
- プロジェクトマネジメント能力
- 「中」に入っていくコミュニケーションスキル
- 板挟みになっても平気な精神力
M&Aプロフェッショナル
最後がM&A戦士のルートです。
M&Aという専門性が高く、かつ幅広い領域のプロフェッショナルです。
M&Aは、会計や税務の知識のみならず、人事や法務、IT、そしてビジネスの中身のことなど、本当に全社的に知識を持っていないと対応ができません。
(デューデリジェンスというプロセスがあり、そこで必要なため。)
また、候補先の選定においても、自社とのシナジー検討ができないといけないため、ビジネス・センスも一定程度必要です。
これに関連して、アライアンスを得意としている方もいらっしゃいます。
投資会社やM&A専門のコンサルから引っ張られて転職した上司の元、修行した会計担当者がこのキャリアを歩む場合が多いです。
上場企業における専門部署でスペシャリストとして勤務しているパターンがほとんどです。
コンサルとかへの転職は、絶対的経験値が少くならざるをえない関係で成功確率が低い印象です。
一方、事業会社に転職して、執行役員あたりでべらぼうな報酬をもらっている光景も見受けます。
M&Aでは、PMIというガツガツしたプロセスが存在し、そのため状況によっては非常に戦闘力が高い人材になる場合があります。
かなり過激な改革を断行しないといけない場面もあり、嫌われる勇気(それも、とある書籍的なというより、若干サイコ気味なという意味の)が必要です。
さらに、M&Aのクローズ間近では、超長時間労働が発生するため、超人的な生命力が必要です。
必要な能力
- M&Aの経験(セルサイド、バイサイド両方)
- アライアンスの経験
- 幅広い法律知識
- 超人的な生命力
- PMIができるガツガツした能力
- 嫌われる勇気
以上、一流の経理の先、経理のキャリア5パターンについて解説していきました。
統計的にデータを取得したわけではなく、筆者個人の印象なのですが、概ねこの5パターンに分類されると考えています。
(中には稀にCOO適正が高く、自分で事業推進したり、起業したりする人もいらっしゃるのですが。)
キャリアの転換に年齢の制約は無い、というのがポジティブシンキング的には建前ですが、現実問題として、若ければ若いほど有利なのには変わりません。
自分自身のキャリアをどうしていきたいか、早い内に決めて、研鑽に励み、そして実際の業務で成果を出して行くのが良いでしょう。
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