前回は、㈱オリエンタルランドを例に、財務3表から管理会計上の接続について簡単に見てみました。
今回から個別のテーマに入っていきます。
最初は、ここ近年で話題にあがっているサブスクリプション・モデルの管理会計について考えていきます。
サブスクリプション・モデルの管理会計については、大枠として下記の構成で予定しています。
- サブスクリプションとは?
- 「ザ・モデル」について
- サブスクリプションの管理会計指標解説
- 具体例
- 他各論
なお、本稿自体は話をわかりやすくするため、主に「toC」をベースに話をしますが、「ザ・モデル」について、以降は「toB」をベースに話をします。
「toB」ベースの話で、管理会計のベーシックな部分は「toC」もカバーできるからです。
前回以前の会計基礎講座については、下記にまとめています。
サブスクリプション・モデルとは
サブスクリプションとは、本来は雑誌や新聞などを予約購読、つまり定期購読するという意味の言葉です。
それが転じて、サービスの利用に当たって毎月一定額を払えば、支払プランの範囲内で使い放題となるサービスのことをサブスクリプション・モデルと呼ぶようになりました。
ここで重要なのが、従来のビジネスにおいては、価値提供の軸が提供する商品やサービスそのものに焦点があてられていましたが(所有)、商品やサービスの量や期間、もっというと”利用”に焦点があてられている、という点です。
月額料金制度や定額利用サービス、と解説をされたりしますが、サブスクリプションはもっと奥の深い概念で、製品中心から顧客中心へと考え方が変わったビジネス・モデルと言えます。
以下、サブスクリプション・モデルのことを「サブスク」と略します。
なぜ、サブスクが近年話題となっているのか?
サブスクは、継続的に価値を提供し、収益化するビジネス・モデルです。
上述の通り、製品中心から顧客中心へと考え方が変わった、とある通り、重要な事は顧客を正しく理解して、固定的なサービスではなく、価値を継続的に提供し続ける事にあります。
ようは「長期的リレーションシップ」を構築する事が重要と言えます。
(繰り返しますが、サブスクリプションは課金形態の変更、ではなくて、新しいビジネス・モデルです。)
それでは、なぜ、サブスクが近年話題となり、急速に拡大しているのでしょうか?
顧客ニーズの変化
その大きな理由としては、顧客のニーズの変化にあります。
戦前から続いてきたプロタクト販売モデルは限界を迎えている、と言われて久しい通り、現代は「物が売れない時代」です。
必要な物は身の回りにあふれており、「モノ消費ではなく、コト消費」とも言われて久しいです。
つまり、顧客のニーズは、所有から利用へと変化しているのです。
このような背景があり、製品中心から顧客中心へと考え方を変えたサブスクが顧客のニーズとマッチし、近年台頭する形となりました。
企業のメリット
これは、顧客のメリットだけでなく、企業にとってもメリットがあります。
まず、顧客との関係性です。
サブスクは「売ってお終い」というビジネス・モデルでは無いため、顧客とダイレクトにつながり、また「長期的リレーションシップ」の構築を図る事が可能です。
次に、収益性の問題です。
「長期的リレーションシップ」を構築するが故に、長きにわたって収益・売上が約束された状態でビジネスを進められる事ができます。
このメリットを端的に表現すると本節冒頭の「サブスクは、継続的に価値を提供し、収益化するビジネス・モデル」となります。
サブスクの事例と考え方
さて、サブスクですが、ありとあらゆる領域で登場するようになってきました。
BtoCもそうですし、
BtoBもです。
いくつか具体の事例と共に、サブスクの考え方を深めてみます。
車の例から見る顧客ニーズの変化
従来ですと、車を運転する、という行為を考えた時に「買う」か「借りる(レンタル)」の2つの方法しか存在しませんでした。
サブスクのモデルでは、契約の期間中、契約プランの範囲内で様々な車種に自由に乗り換える事が可能です。
保険の手続もメンテナンスも不要で、利用者は面倒な雑事を気にする必要はありません。
さて、今までのプロダクト中心の時代では、ただ、より良い製品を効率的に生産すれば良く、顧客の事を深く知る必要はありませんでした。
しかし、これからの顧客の時代では、顧客は必要な時に、必要な情報やサービスを、状況に応じて適した形で提供されることを期待しています。
今の若い消費者世代は、「車への消費」に関して、あくまでも乗りたいのであって(移動手段や、場合によっては様々な車に乗ってみたいという体験)、所有をしたい(車の所有がステータス)、とは考えていないのです。
これから技術が更に発展し、自動運転の時代も到来するでしょう。
顧客のニーズは、まだ変化していく事が予想され、その時の勝者は変化し続ける顧客のニーズを捉えた企業になると考えられます。
Amazonの例から見る顧客との関係性、マーケティングの考え方の変化
Amazonは、顧客との継続的な関係性を構築した物販の会社としては代表的と言えるでしょう。
従前のECは、物を販売して終わり、でしたがAmazonは違います。
高度なロジックにより、顧客毎に異なるトップ画面が自動的に構成されます。
Amazonは顧客を、例えば30代独身女性というようなメッシュ感の荒い集団で傾向を分析するのではなく、一人一人、唯一の顧客としてリレーションを構築しようとしています。
例えばAmazonプライムは、単純に便利だから伸びている、という側面も前提としてありますが、それだけではありません。
顧客一人一人のことを詳しく知っている事によって、利用者に対して継続的な価値を提供でき、そしてそれがサブスクの収益の元となっているのです。
adobeから見る管理指標の変化
illustratorやPhotoshopで有名なadobeは、これまでパッケージ販売を行っていたデザイナー向けソフトについて、定額課金方式(サブスク)に移行しました。
2011年のことです。
数十万円をする高額商品を、定額課金方式に切り替える、という事は大きな挑戦です。
切替時の投資や、採算性があうまでの顧客数(ID数)。
初期には莫大な赤字を出します(必要な投資が大きい一方、収益が悪化する状態が続くため「フィッシュ」と呼ばれる成長曲線を描く事になる)。
ビジネスを成功させるには、顧客のニーズを捉えるだけでなく、投資家の理解も必要です。
adobeは年間経常収益(ARR:Annual Recurring Revenue)という考え方を取り入れ、投資家を説得しました。
結果、adobeの挑戦は成功し、株価はサブスク切り替え前の7倍になり、低迷していた売上の伸びも再度の成長曲線を描けるようになりました。
adobeの成功は、ソフトウェア業界における象徴的成功事例となり、近年はソフトウェア業界全体で一気にサブスクリプション化が進んでいます。
また、顧客も、クラウド、サブスクリプションじゃないと選ばない、という位の状況になっています。
サブスクは更に拡大していく
過去にも電車の定期券や新聞・雑誌、賃貸住宅など、サブスクのビジネス自体は存在していました。
ようは、インフラやライフラインの領域です。
しかし、近年はITの発展を背景に、様々な領域でサブスクが拡大しています。
ITは、IoTやAIなどの領域はまだまだ未成熟であり、更なる技術革新が期待されています。
そのため、ありとあらゆるビジネスは、サブスク化が行える、とされています。
中長期的に安定した売上を得られるサブスクに何とか移行し、顧客の支持を得ようと、各社が必死に競争を繰り広げています。
今後も、サブスクは更に拡大していく事でしょう。
(参考書籍)
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