今回は、株式会社における「監査役」に関して、基礎的な部分を解説していきます。
法律云々や委員会制度に関しては触れず、別の機会に書きます。
今回も監査役の起源に関して、わりかし面白おかしく役に立たない雑学を盛り込んでいます。
監査役とは?そもそも監査って?
「監査」と聞くと、なんとなくはどんなことをするのかはわかりますが、明確なイメージはなかなか掴めないです。
とりあえず、辞書を開いてみます。
委託者(たとえば投資家,株主総会,経営幹部,国会など)から財産の運用権限を委託されている受託者の会計責任が正しく果たされているか,信頼性の程度を確かめるために,申し開きをする受託者と,第三者 (たとえば公認会計士,監査役,内部監査人,会計検査院など) が,事後的に会計をはじめ各種業務の実情を検討し,立証基礎に対する証拠づけの正当性を確認し,その結果を委託者に伝達すること。
ブリタニカ国際大百科事典
うん、よくわからないですね。
もう少し、別の解説も見てみます。
(業務の執行や会計・経営などを)監督し検査すること。また、その人。
大辞林
いきなり、解像度が粗くなりました。
とりあえず、「経営を監督し検査すること」というのはわかりました。
監査役とは、名前の通りで、「経営を監督し検査することを役割とした人」のことをいいます。
具体何をするのかというと、経営の活動、つまりは「取締役が適正にかつ適法に活動をおこなっているか」を監査します。
では、より具体的に、どのようなことを「監督し検査」するのでしょうか?
監査役の権限は次のようになります。
- 取締役や従業員へ報告を要求し、独自に調査ができる
- 会計監査を実施できる
- 取締役会に参加し、発言ができる
- 株主総会に参加し、報告ができる
- 取締役の違法行為の阻止するための訴訟ができる
- 会社-取締役間の訴訟を取り持てる
経営の会議の場、つまりは「取締役会」において、取締役同士が、それぞれの職務遂行状況をチェックし、相互に切磋琢磨しまう関係であるならば良いのですが、やはり人間同士の付き合いです。
どうしてもなれ合いというものが発生してしまいがちです。
そこで、監査役という人たちが、取締役の活動を監査し、「適正かつ適法」に経営を行っているのかを監査することになります。
企業は、自分たちが監査役にどのような役割を期待するか?にあわせて、監査役の権限を定款という、会社にとっての憲法のようなものに記載することができます。
ここであわせて「監査役会」と「会計監査人」に関して簡単に触れます。
監査役会とは、監査役で構成する会社の職務執行を監査する機関のことです。
民主主義の構造である3権分立に例えれば、 国会(立法)が株主総会、政府(行政)が取締役会、裁判所(司法)が監査役会に該当します。
会計監査人とは、同じく会社の機関の一つで、会計監査が主な職務であり権限となります。
これは公認会計士、または監査法人のみが就任することができます。
監査役の一般的な大枠の話は以上で、お堅い法的な話は別の所で触れるかします。
会社法で、設置の要件などなどが詳細に定められているのですが、ここでは踏み込みません。
委員会の話も、ここでは触れません。
会社の成長にあわせて、経営の機関設計も変わってくる
ここからは、ベンチャー企業の視点で監査役について考えていきます。
会社は、創業者が想いを込めて事業を立ち上げ、つまりは起業をします。
ここにスタートアップ・ベンチャー起業が誕生しました。
どんどん成長していくスタートアップは、会社の成長ステージにあわせて、経営のあり方を変えていく必要があります。
ここでする話は、取締役会などの構成についての話で、この種の話を「機関設計」と呼びます。
取締役というものは、株式会社を運営して行く上で必須で設置をしなければなりません。
会社法という法律で、そのように定められているのです。
ですので、スタートアップの場合、創業者が「社長」であり「(代表)取締役」であり「メンバー」でもある、一人会社である場合が往々にしてあるわけです。
このステージの機関設計は、「取締役のみ」という状況です。
ここから会社が成長していき、世間的には「アーリー」というステージに入ってくると、事業運営や投資のために、まあまあ多額のお金を調達するようになります。
ベンチャーキャピタル(VC)というような人たちからお金を調達、借りるのではなく出資していただくようになると、今までは取締役のみであった機関設計に変化が出てきます。
具体的には、「取締役会」の設置と、「監査役」の選任です。
このステージの機関設計は、「取締役会 + 監査役」という状況です。
この時期になると、一定、IPOが視野に入ってきて、組織としてコンプライアンスを重視しなければいけないようになります。
ようは、組織としてしっかりとやっていきましょう、というステージです。
ここからもっと成長し、IPOがリアルに射程範囲に入ってくると、ここからさらに期間設計の変化がおきます。
具体的には、「監査役会」の設置、ないしは「会計監査人」の選任、あるいはその両方です。
このステージの機関設計は、「取締役会 + 監査役会」もしくは「取締役会 + 監査役 + 会計監査人」、場合によっては「取締役会 + 監査役会 + 会計監査人」という状況です。
最終的に上場する段階では最後の、「取締役会 + 監査役会 + 会計監査人」という状態になっている必要があります。
多くの株主からお金を預かり、会社を経営していくためには、経営の体制を厳密に整えないといけない、という至極当たり前な理由からです。
ようは、株主に対しても、従業員に対しても、社会に対しても、与える影響が大きくなり責任が重くなる、加えて更に会社を成長させていくために、会社の成長ステージにあわせて、会社の機関設計もグレードアップしていかないといけない、ということですね。
監査役をどう活用するか?
監査役という立場は微妙に難しく、なかなか、その重大な機能を有効活用できている会社は少ないです。
創業者というものは大なり小なり、エゴが強いもので、今まで自分の力で会社を大きくしてきた、という自負もあるため、たとえ年上の経験豊富な方からであっても、なかなかその助言を受け入れるのは難しいものです。
また、急激に成長している企業が、同じく急激に変化していく機関設計を、適切に御することも、まあまあ難しいものです。
必要だから、という理由で、形式的に、数合わせとして友人や知人などに就任してもらうパターンも多く、そうなると当然にその本質的な役割を期待することは難しくなってきます。
形式的に機関を整えることが決して悪いとは思いませんが、それで全く外部の株主やお金を貸してくれる銀行が、どこまで納得するでしょうか?
また、これから会社をどんどん成長させて行こうとする組織が、管理サイドの重大な機能をぞんざいに扱って、本当にどこまで会社を成長させられるでしょうか?
経営者に立場からすると、とやかく言われるのは嫌なものですが、外部の異なる立場・専門性を活かして、監査役を自社の成長をドライブさせるために、大いに活用すべきでしょう。
自社の事業領域に関連のある企業のOBOGに、監査役として就任してもらうパターンが多いのも、こういった点を期待していることがあげられます。
その際、一定の財産を保有しているか、別に収入源があって、あくまでも企業のミッションやビジョンに共感してくれたからこそ協力してくれる、という方を選任するのが一番幸せな結果を生みやすいです。
というのも、監査役とはいえ、企業から報酬をもらう以上、なかなか経営者に対して厳しいことを言うのが憚られる、というのは決しておかしな話ではないからです。
最悪なパターンとしてあげられるのが、報酬をもらっている以上、仕事をしている体を装うため、経営者には厳しいことは言わないが、現場や外部に厳しいことを言う、という状況です。
現場や外部のコンサルが、様々な提案をしても、監査役がそれっぽい助言でもって実行を阻み、結果論として会社の成長を阻害している、その先の運命としてリビングデッドになってしまった、という会社は現実に存在します。
(そのような害はなくても、成果を出さないおじいちゃん監査役で、ただの懇親会要員としてしか機能しない、しかしながら影響力はあるため誘いは断れず、みんなの貴重な時間と体力とお金を浪費する、という光景も珍しくない。)
あくまでも、あくまでも、監査役を企業価値を高めるための重要な存在として活用できるか?
この観点で選任し、(良い意味で)存分に使い倒すのが、結論、みんなにとって幸せな結果につながるでしょう。
(おまけ)監査役の起源
東インド会社というものをご存じでしょうか?
近代株式会社の起源といわれる、歴史上、最初の株式会社です。
監査役の起源もこのあたりにさかのぼり、ロンドン東インド会社が設立された1600年からプラス21年が経過したのち、監査に関する体系的なルールが定められました。
当時は、一航海ごとに決算を締める慣習があり、そのためPL(損益計算書)という概念がなく、BS(貸借対照表)ベースでの決算報告が行われていました。
しかも単式簿記です。
その決算報告に対して、「会計担当役が会社の諸勘定を取り扱い収集するに際して、遵守して処理しなければならない指示と方法」と呼ばれるルールがあり、その中で、会計担当役、監査担当役、理事会監査役、と呼ばれる職務と監査の方法が示されていました。
なお、複式簿記の導入と、資本評価が行われたのは、そこから更に年月がたった1664年です。
加えて、大きく監査担当役職務が改訂されたのが1666年です。
こんな話をしているのは、ここら辺の変化が現代社会の監査のあり方と似ていて面白いと感じているからです。
というのも、1621年に制定された監査のルールと、1666年に改訂された監査のルールを比較すると、後者の監査役の業務は増えているにも関わらず、権限は一切増えていない、ようは負担だけが増えた状態だからで、これは現代社会の無駄に監査の工数が増え、現場負担が積み上げっている現状とかぶって見えるのです。
航海のノウハウが発展し、一航海で取り扱うビジネス規模が大きくなり、監査の重要性が増した、という点と、現代社会の取り扱うお金の規模が大きくなり社会に与えるインパクトも大きくなり、云々、という点ともかぶっており、陳腐な言葉ではあるのですが、歴史は繰り返すものだなぁ、としみじみと思う次第です。
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