常に何かしらの意思決定を行わなければいけない。
これがビジネスの現場です。
膨大な量の選択肢がある中で、どのようにすれば正しい意思決定ができるでしょうか?
ここでは、意思決定の正しいプロセスについて、科学的な側面から解説していきます。
膨大な量の選択肢は意思決定の質を落とす
意思決定を行う上で、選択肢が多いことは良いことではあるのですが、多すぎる選択肢は悪影響をおよぼすことがあります。
多すぎる選択肢は迷いを生み、ストレスの原因となり、場合によっては合意の妨げになるのです。
スーパーマーケットでの場面を例にあげてみましょう。
北カリフォルニアのスーパーマーケット、ドレーガーズで行われた有名な実験です。
このマーケットでは、膨大な種類のオリーブ油や香辛料など、非常に豊富な食材を取り揃えています。
ここで心理学者たちが実験をしました。
具体的には、ある週では24種類のジャムを、別の週では6種類のジャムを並べて買い物客の反応を調べ、購買行動にどのような差がでるのかを実験したのです。
結果、24種類のジャムが並べられていたときは、60%の客が試食をしたけれども、6種類のときには40%しか試食しなかったそうです。
しかしながら、実際の購買行動においては逆の反応をしめしており、24種類のジャムのパターンでは3%の客が、6種類のパターンでは30%の客が購買した、という結果になりました。
つまり、あまりにも多い選択肢は、そもそも意思決定ができない、ということになりかねないのです。
この結果は他の場面にもみられており、証券会社や保険・年金での商品選択において、選択肢を多く提案することは、かえって購買意欲を減らしてしまうことにつながる例など、選択肢の多さは意思決定の質を落としてしまうことは、ほぼ間違いないであろうと言われています。
なぜ選択肢が多いと意思決定の質が下がるのか?
答えはシンプルで、単純に人の知的能力の限界を超えてしまうと、判断ができなくなるからです。
ようは、頭がオーバーロードし、働かなくなってしまうのですね。
アメリカの心理学者、ジョージ・ミラー博士の実験では、人は新しく与えられた情報については1度に7個(7個プラスマイナス2個)の情報しか覚えておけない、という結果示されています。
この7個というのは、意味をもった情報のかたまり(チャンクと言う)のことで、例えば、単純な数字情報から、何かの出来事のような情報量が多いものも、この7個の範囲でしか脳に一時ストックできないそうです。
これをもって、現代では「マジカルナンバー7」という言葉が使われています。
(なお、当然にこの話には諸説があるのですが、概ね人がぱっと覚えられる限界量としては、感覚値的にもそう外れてはいないかと思います。)
この話から、あまりにも選択肢が多いと、検討するにしても脳のワーキングメモリーが働くなってしまうことが推測されます。
別の心理学的な意見としては、選択肢が多い中で1つを選択した結果として、それ以外の方が正しかった場合のことを考えて、委縮して決断できなくなってしまう、ということも指摘されています。
後になって後悔してしまうのではないか?
周囲から、間違った決断をした結果として責められるのではないか?
そういった思考が、心理的に負担になってしまうのです。
また、こちらの記事でも解説していますが、雑事に対しても一つ一つ意思決定を行っていると、IQが低下し、生産性も大幅に低下することが示されています。
そのため、一部の一流経営者は毎日同じ服をきるなど、極力意思決定を行う数を減らしているのです。
(一説では、人が一日に行える意思決定の数には限りがあるようです。)
では、正しい意思決定プロセスは何か?
それでは、ここからは正しい意思決定のプロセスについて、科学的知見も交えて解説していきます。
① 幅広く選択肢を用意する
これまでの話とは逆行するようですが、まずは幅広く選択肢を用意しましょう。
人は与えられた数少ない情報から、偏見でもって意思決定をしたり、逆に情報を収集しようとしても「自分が欲しい情報を積極的に集める」習性があります。
偏りなく、幅広く情報を収集し、多くの選択肢をまずは取り揃えることが必要です。
② 選択肢の評価を行う~メリット・デメリット~
次に、出そろった選択肢のメリット・デメリットの評価を行います。
この際も、偏りなく評価を行うことが重要です。
できれば多くの人の意見を聞きながら、公平に実施するのが良いです。
あわせて、選択肢の前提となる情報の質に関しても評価を行うのが良いでしょう。
こちらの記事でも解説しましが、情報にはレベルがあり、純粋に「事実」なのか、推測や意見・感想が混じった「主観」なのか、それとも誰かが言っていることの「伝聞」なのかがあります。
情報の質の評価が漏れてしまうと、当然に選択肢の質も落ち、意思決定の質も落ちてしまいます。
なお、この評価の段階で重要なのが、「検討しすぎない」ことです。
ようは、ざっくりと手っ取り早く、大雑把に検討していきましょう、ということです。
といのも膨大な量の選択肢を検討していくことは、同様に膨大な時間と費用がかかってしまいます。
メリット・デメリットの評価を行いたいのではなく、意思決定を行いたいのですから、ここにリソースを割きすぎるのは、あまり健全とは言えません。
③ 選択肢の絞り込み
ざっくりとしたメリット・デメリットの評価を終えたら、その次が選択肢の絞り込みです。
この段階でいきなり「これだ!」と意思決定をするのではなく、「これは無いよね」というものをどんどん削っていくのです。
ようやく、選択肢の数が多いと意思決定の質が下がるの話とリンクしてきました。
この段階で重要なのが「自分自身にとって譲れないこと」「優先しなければいけない事項」「そもそもの目標」などを明確化することです。
何かの意思決定を行う、ということは、なにかしらのゴールがあるはずです。
そのゴールに沿った、重要な軸に沿って、「これは無いよね」というものを削っていくのです。
この絞り込みの段階では、3個程度に選択肢を絞るのがよいでしょう。
いくつかの研究では、二者択一や、選択肢が4つ以上よりも、選択肢3個程度の時が、その後の成果調査ともあわせ、もっとも質の高い意思決定ができるという結果がでています。
④ そして意思決定
3個程度に選択肢が絞られれば、メリット・デメリットの解像度の高い再評価が行えるでしょう。
すでに、今回の意思決定にあたっての重要な軸も明確になっています。
十分な調査の時間と費用も投入し、頭の中にはたくさんの情報も入っています。
あとは、これまでのビジネス経験と目指すべきゴールに沿って、勇気をもって決断するだけです。
(参考)評価にあたって点数をつけることの是非
よく、メリット・デメリットの評価にあたって、比較検討表に点数をつけることが多くあります。
これは、趣味やポリシーの世界にも突入してしまうので何とも言えないのですが、あまりおすすめできないです。
というのも、非常に恣意性が高いからです。
点数をつけるにあたっての項目の数や、抽出の方法によって、いくらでも操作ができてしまうため、結局のところ、評価者の偏りに沿った結果になってしまいがちです。
決して、絶対ダメだとは思いませんが、必ずしも良いものでは無い、という点は抑えておくべきでしょう。
(参考)メリット・デメリットについて~プロコン~
これまで、メリット・デメリットという言葉を使ってきましたが、コンサルや経営企画の世界ではあまり使いません。
では、どういう言葉を使うかというと「プロコン」という言葉を使います。
Pros & Consの略で、良い点(Pros)と悪い点(Cons)という意味です。
ようはメリット・デメリットと同じことではあるのですが、相手によっては「わかっていないな」「プロフェッショナル感に欠けるな」という風に捉えられてしまうので、一定の使い分けを行うか、そういうったことがあると素直に割り切ってどちらかを使うのかを決めてしまうのかをするのが良いでしょう。
(参考)交渉におけるテクニック
上記で自分にとって譲れない重要な軸を明確にすることの大切さを説きましたが、これは交渉にも使えます。
どういうことかと言うと、交渉における交換条件において、優先度・重要度の低いことに関して、交渉の対価として譲れることができるからです。
ここは譲れない、ここは譲って良い、を明確にしておくと、交渉はスムーズになります。
また、提案においては、言葉の使い方にも注意は必要です。
具体的にはポジティブに言うか、ネガティブに言うか、です。
①「どちらを選択すべきか?」
②「どちらを選択すべきでないか?」
この2つの問いかけ方をした場合、①の言い方ではポジティブ要素を大きく評価する傾向があり、②の言い方ではネガティブ要素を大きく評価する傾向があるのです。
ようは、「どちらを選択すべきか?」と問いかけると、ある選択肢のメリット、そのことの強み、得られる利益などを高く評価するのですが、
「どちらを選択すべきではないか?」と問いかけると、デメリット、それにより負担しなければいけないマイナスのリスク、失敗した場合の損失などを高く評価してしまいがちなのです。
それが人間心理なのです。
これは交渉時においても重要で、ポジティブ要素、ネガティブ要素のどちらを高く評価して欲しいのか?でもって、問いかけ方を変えるのは、一定考慮に値します。
ただ、最終的にこういうテクニックを使うのが良いのか、というと、個人的な意見としては微妙だと思っています。
というのも、私自身の立場からすると、相手が小賢しいテクニックを弄してきたら不快だと感じるからです。
相手が自分のことを操作しようとしている、というのは、上記のことがわかっている人にとってみれば、まあまあ不快なものです。
最終的には人と人とのぶつかりあいなのですから、正直まっすぐ正々堂々が一番なのでは?と考えています。
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